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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
⑧大都会編
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【第八章】序幕

 本当に、娘にはすまないと思っている。

 こんな世界の中で生まれさせてしまったこと。こんな過酷な世界の中で、戦いを強いられる状況を生み出してしまったことを。


 だから、俺は残された時間を、娘が強く生き抜くことが出来るように、成長できる為だけに使おう。

 それが、世界において四天王として割り振られた赤のドローン——俺の使命だ。


 ……だけど、そううまくはいかないものだな。


「……おい。蘭、勉強はしたのか」

「固いことは言わないのっ。何事も遊びがあってこそだよ?わかる?パパ」

「あのな……少しはnoiseさんを見習ったらどうだ」

 必死になって教えた戦闘の知識も、今や娘は我が道楽の為に用いている。

 魔物の巣窟と化したダンジョンの中に嬉々として潜り込んでは、ゲームや化粧品、アクセサリーなどを持って帰ってくる日々。

 運営権限を用いて、ホログラムの実体化により生み出した世界は今となっては彼女の娯楽部屋と化していた。

「……はあ」

 思わず、頭も抱えたくなる。

 こうも、娘を育てるとは難しいものなのか。

 力ずくで子供に勉強を教える気にはならないが、それはそれとして自分で生き抜く力は覚えて欲しいものだ。

「パパ、あのゲーム欲しい!行こ、ダンジョン!」

 ……いや、生き抜く力自体は持っていた。

 もう何度目になるか分からないため息を吐きながら、俺は娘の言いなりとなる。


 俺の役目は、最終到達目標のその時までSympassを存続させること。管理者が居るとはいえ、システムのサーバー維持にはとてつもない労力を要する。

 そのため、業務委託という形で四天王に割り振られたのが俺——荒川 東二という訳だ。


 一度、同じ配信者としての力を持つ者同士で顔合わせをしたことはある。しかし、俺以外は娘とそう年の変わらない子供だった。特に、雨天という女の子は、姿だけで言えば娘と同い年だ。

 だが、どうも彼女達にとっては俺の存在は威圧的に感じるらしい。あからさまに怯えた顔をされた後、逃げるように消えてしまった。


 ——本当に、思春期の子供とはどう接するのが正解なのか分からない。


 そんな、過去の話を思い出し、げんなりとしながらも俺は娘に連れられて企業ビルの外に出た。

 相も変わらず、等間隔に並ぶ商業ビルを挟むようにして魔物の群れが闊歩している。かつての日本では、多種多様な人々がその都心の光景に様々な思いを馳せながら歩いていたものだ。

 しかし、今となってはそんな景色など見る影もない。村八分にされたような孤独感が、今日も襲い掛かる。

 俺は、目の前を呑気にスキップしながら歩く娘に声を掛けた。

「蘭。無理はするなよ?」

「パパは心配性だなー?ほら、早く配信準備するっ。早く、早く!」

「……分かった」

 そう愛娘にせがまれては従うより他ない。俺はポケットに潜ませていたスマートフォンを取り出し、Sympassを起動。運営アカウントにログインし、素早く配信を起動させる。

 自らの存在が希薄になるような感覚と共に、ふわりと重力を失ったように身体が浮かび上がった。客観的に見ると俺の姿は赤色のドローンになっているのだろう。

 眼前には、愛娘の体力ゲージと、俺自身の貯金残高が表示された。今となってはもはや使うことのないお金だが、配信となれば話は別だ。

 モニターの上部には”Drive”の文字が生み出される。

『良いか?無駄遣いは厳禁だからな?1回の配信につき30000円の約束は守るんだぞ』

「ぶー、ケチ」

 娘は口を尖らせて不貞腐れた様子を見せる。これでもかなりの大盤振る舞いだと思うのだが。

 不満を漏らすように大きなため息を吐いた後、娘は右手に力を籠め始める。徐々に光の粒子が彼女の右手に集まり、いつしかそれは長く、鋭い槍を生み出していた。

「パパは口うるさいなーっ。可愛い可愛い娘の為にお金いっぱい使ってもいいよー、とかないの?けちけちけち」

『もっと有意義なスキルなら許可したけどな』

「ぶー!」

 娘は大きく頬を膨らませて、不服の訴えを全力でアピールする。その姿すら愛おしいが、出来ることなら戦闘に集中して欲しいものだ。

 渋々と言った様子で、娘はその小柄な体格に似合わぬ長い槍を振り回す。

 セミロングに整えられた、赤みがかった黒髪を揺らした娘は、挑発的な笑みを魔物に向ける。

「あはっ、こーんな可愛らしい女の子ひとりに勝てない魔物さん達、なっさけなーいっ♡ほらほら、悔しかったらおいでっ?」

『どこで覚えたんだそんな言葉づかい。今すぐ忘れなさい』

「やーだっ!スパチャブースト”青”っ!」

『あっ!?』

 言ってる傍からスパチャブーストの宣告(コール)をする娘。俺が制止する間もなく、モニター上にシステムメッセージが表示される。

[アラン:紙吹雪]

 それと同時に、彼女を祝うかのように紙吹雪が舞い上がる。床に散らばる紙屑が、どこか哀愁を醸し出した。

 紙吹雪の一片を手に乗せながら、娘——アランはつまらなさそうに口を尖らせる。

「面白くなぁーいっ。ねー、パパ。運営さんの力でスキル変えてよ?勇者様みたいにばーんってジャンプしたい!」

『無理を言うな。俺にも出来ないことがある』

「ちぇー」

 本当に、一体どうすれば娘はいい子に育つのだろうか。

 同年代の子供とでも関われば、何か変わるのだろうか?


 ----


「あはっ、なっさけなぁいっ♡ざぁこっ、ざぁこっ♡」

『だからやめなさいって』

 挑発するような口ぶりと共に、アランは容易く魔物の攻撃を潜り抜ける。それから薙ぎ払う槍の一撃によって、魔物の群れを悉く打ち倒した。

 舞い散る灰燼の中を楽しそうに走り抜け、次から次に襲い掛かる魔物に怯むことなく打ち倒していく。

 眼前のモニターに映る”Body Count(撃破数)”の文字数が瞬く間に増加する。今やその撃破数は100を超えようとしていた。

 家電量販店内を楽しそうに走り抜けるアラン。まるで敵を敵とも思わずに、次から次に襲い掛かる魔物を打ち倒す。


 やがて、アランはほくほく顔で、ゲームソフトなどを抱きかかえていた。

 そんな中、彼女はあるものを発見する。

「……ねえ、パパ?あれ……人が倒れてるのかな?」

『……ん?』

 ぴたりと足を止めたアラン。彼女の視線の先を追えば、確かに人が倒れているのが視界に映った。

 金髪の髪をした、娘とそう年の変わらない少年の姿。

 なぜか、彼の姿には心当たりがある……というか、彼は——。


「……み、んな……」

 少年は悪い夢でも見ているかのように、苦悶の表情を浮かべながらぽつりと呟いた。


 To Be Continued……

新しい作品として出すつもりだったんですけど、やっぱりこっちに移しました。すみません方向性があやふやで……。

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