【第百五話(2)】虚像との戦い(中編)
【登場人物一覧】
・瀬川 怜輝
配信名:セイレイ
役職:勇者
世界に影響を及ぼすインフルエンサー。
他人を理解することを諦めない、希望の種。
・前園 穂澄
配信名:ホズミ
役職:魔法使い
瀬川 怜輝の幼馴染として、強い恋情を抱く。
秋狐の熱心なファンでもある。
・一ノ瀬 有紀
配信名:noise
役職:盗賊
男性だった頃の記憶を胸に、女性として生きている。
完璧そうに見えて、結構ボロが多い。
・青菜 空莉
配信名:クウリ
役職:戦士
心穏やかな少年。あまり目立たないが、様々な面から味方のサポートという役割を担っている。
・雨天 水萌
元四天王の少女。健気な部分を持ち、ひたむきに他人と向き合い続ける。
案外撫でられることに弱い。
・another
金色のカブトムシの中に男性の頃の一ノ瀬 有紀のデータがバックアップされた存在。
毅然とした性格で、他人に怖い印象を与えがち。
・ディル
役職:僧侶
瀬川 沙羅の情報をベースに、ホログラムの実体化実験によって生み出された作られた命。詭弁塗れの言葉の中に、どこに真実が紛れているのだろうか。
・船出 道音
元Relive配信を謳っていた少女。過去に執着していたが、セイレイに希望を見出したことにより味方となる。やや気が強い。
・秋城 紺
配信名:秋狐
セイレイ達より前にLive配信を歌っていた少女。運営権限を持ち、世界の真相に近い存在でもあるようだ。
・須藤 來夢
配信名:ストー
船出 道音より運営権限を引き継いだ、漆黒のパワードスーツに身を包む青年。今回の配信相手でもある。
[ストー:千紫万紅]
俺に並ぶように浮かぶドローンから表示されるシステムメッセ―ジ。
それと同時に、コメント欄が加速していく。
[当たらない、は憶測に過ぎない。必要に応じて回避行動を 10000円]
[雷纏の準備はしておけ!打開の一打となるはず 10000円]
[近接攻撃にも警戒しろよ。前よりも防御力は上がってると思うが…… 10000円]
[ごめん。もう貯金ない…… 1000円]
[大丈夫、俺もだわ 3000円]
[私はまだ貯金があるので送ります!希望を見せてくださいっ!! 10000円]
[俺は気づいた情報から支援します。スパチャは皆に任せます]
度重なる応援の言葉が、スパチャに重なり様々な色へと彩られる。
黄、緑、青と金額に応じたコメントフレームが配信画面を鮮やかに飾る。
「ありがと、なっ!」
ストーが咄嗟に放った無数の熱光線。それは空中に赤紫色の軌跡を描きながら、一同に俺の方向へと襲い掛かる。
上屋の鉄骨から飛び降りた俺は、着地の寸前ですかさず宣告を放った。
「スパチャブースト”青”っ」
[セイレイ:五秒間跳躍力倍加]
スキルの仕様を活用し、着地ダメージを無効化しつつ素早くストーの方向目掛けて駆け抜ける。眼前へと迫る熱光線に対処するべく次の宣告を放つ。
「スパチャブースト”黄”っ!」
[セイレイ:雷纏]
次の瞬間、俺の見る世界が瞬く間にスローモーションへと移り変わった。視界に映る景色全てが減速していく。
冷静に熱光線の届く先を分析するが、それらはまるで俺を避けるようにして地面に着弾する。破裂したアスファルトの地面がめくれあがり、飛散した瓦礫が俺のパーカーを叩く瞬間すら鮮明に把握できる。
やはり、ホズミの予想通り。ストーのスキルは俺達に直撃することはないようだ。
分かってはいるが、どうしても眼前に迫る脅威に、恐怖が襲い掛かる。
「……けど、怯むわけには行かないんだ!」
己の中に沸き起こる恐怖を押し殺し、大地を蹴り上げる。稲妻が、俺自身の残像として世界に残っていく。
ふと線路を挟むように向かいのホームを見れば、仲間達がいつでも迎撃に迎えるように並走している姿が見えた。
それを確認した俺は、ストー目掛けて再度跳躍。上屋を支える柱を駆使して、次から次へと飛び移る。
”千紫万紅”に伴って焼け焦げた地面が、俺の周囲を囲い込んでいた。駅のホームを覆う形で存在する上屋に、いくつもの大きな穴が開く。
「……ストー。降りて来いよ」
上屋へと飛び移った俺は、稲妻を纏った身体でストーを見上げる。相対するストーは”Core Jet”のスキルに伴って悠然と空を舞っていた。
俺の言葉に対して、ストーは紫色のアイシールドで見えない表情のまま、俺を見下ろす。
「降ロシテ見セロ」
「はっ、お望み通りっ!スパチャブースト”青”!」
[セイレイ:五秒間跳躍力倍加]
稲妻を纏った身体に、更に両脚に淡く、青い光が纏い始める。それと同時に、真っすぐにストー目掛けて跳躍。
配信をサポートするホズミが、重ねるように宣告を放つ。
『セイレイ君っ!支援します!サポートスキル”支援射撃”!』
俺の脇から抜けるようにして、銃弾がストーへと襲い掛かる。遠距離攻撃が通じないという仕様を持つストーにとっては、ほとんど意味のない行動に見えた。
しかし、ホズミの狙いは別にあった。
「邪魔ダッ……!」
いくらダメージを無効化できると言っても、眼前に攻撃を仕向けられて驚かない人間などいない。思わず銃弾に怯んだストーが、空中でよろけるのが見えた。
『今だっ!』
「ナイスだホズミっ!」
俺は空中に浮かぶストーにしがみつく。自身の体重がのしかかったことにより、ストーの身体が空中で大きく揺れる。
「ッガ……!クソッ!離セッ!」
「離すもんかよ!」
更に、俺の全身を纏う稲妻が、瞬く間にストーを蝕む。パワードスーツに覆われた、機械のような肉体には一段と俺の”雷纏”は効くことだろう。
そのまま俺は、右手に顕現させたファルシオンをストーの身体を支えている両翼目掛けて振り下ろす。
「叩きつけてやるっ!」
「ッ……!」
放つ一撃に伴い、ストーの身体を支えていた扁平状の翼に大きな傷が生み出された。それと同時に、両翼にラグが生じた次の瞬間、それは大気の中へと溶けて消えた。
揚力を失ったストーは、重力に伴って勢い俺と共によく落下。地面に衝突する寸前で俺はすたりとストーの身体から飛び降りる。
アスファルトを抉る鈍い音が響く。
ストーを中心として、土煙が舞い上がる。
俺は大気へと稲妻を散らしつつも大きく距離をとった。
『……油断しないで、セイレイ君。ストーさんがこんなにあっけなく終わるとは思えない』
「ああ」
次の行動にいつでも対応できるように、俺は土煙の中を見据える。やがて、線路をまたいで仲間達が俺の元へと合流した。
「ストー君。本当に君は見せかけでしかなかったんだね。それに気づけなかったなんて、僕は本当に人を見る目が無いよ」
俺の隣に並んだディルは自虐的な笑みを浮かべる。いつものようにふざけた雰囲気こそ醸し出しているが、どこか後悔が言葉の端々に滲んでいるように見えた。
「——っ!スパチャブースト”緑”」
[noise:金色の盾]
次の瞬間、noiseはなんの予兆もなく、宣告。それから、俺の前に立ちはだかり、左腕に顕現した金色の盾を構えた。
「……スパチャブースト”黄”」
[ストー:Mode Change]
そのシステムメッセージが表示されると同時に、土煙の中から勢いよく腕が伸びる。
「くっ!?盾が……!」
しなるように伸びた一撃は、瞬く間にnoiseが身構えた盾を勢いのままに弾き飛ばした。防御することすら叶わず、noiseの盾は地面に叩きつけられて光の粒子となって消えた。
徐々に土煙が晴れていくにつれて、ストーの姿が露わとなる。全身を駆け巡る稲妻を気にもせず、ゆっくりとストーは伸ばした腕を降ろしながら体を起こす。
しかし、その姿形は先ほどとは大きく変化していた……というよりは、変化している最中だった。
「コノスキルハ、オ前達ニ初メテ見セルナ……」
ストーを纏うパワードスーツから、徐々に部品がパージしていく。剥がれ落ちた鉄の如き鎧が、アスファルトに叩きつけられるたびに鈍い音を奏でる。
徐々に、重厚感を纏っていたそのシルエットが、細くなっていく。
「サテ、セイレイ。ROUND2……ダ」
ストーはそう言って、低く構える。そして——。
その姿が、世界から消えた。
「セーちゃんっ!僕が!」
その消えたシルエットの意味を瞬時に悟ったクウリが、すかさず俺達を庇うように大鎌を構えて前に出る。
「邪魔ダ」
「うわっ!?」
クウリが防御態勢をとって身構える。しかし、ストーはそんなことお構いなしと言った様子でクウリを大鎌ごと殴りつけた。
それも、一発ではない。装甲をパージしたことによって身軽になっているのだろう。流星の如き連撃に伴い、徐々にクウリの防御体制が崩れていく。
「退ケ」
防御態勢を崩されたクウリの腹部ががら空きになったのを良いことに、ストーは鋭い蹴りを叩き込む。
「かはっ……!」
「クウリっ!」
か細い悲鳴を上げながら、クウリは勢い良く吹き飛ばされ駅のホームを支える支柱に衝突。アスファルトで構成された支柱に衝突すると共に、クウリは激痛に悶えるようにして倒れ伏す。
『戦士、体力6割減!早急に回復を!』
「分かった!」
俺はすかさず腹部を抑えて苦悶の表情を浮かべるクウリへと駆け寄ろうとした。しかし、ストーはそれを許さない。
「頭数ヲ減ラスノハ鉄則ダロ」
「ぐっ!?くそっ、どけよ……!」
素早く回り込んだストーは、次に俺の邪魔をするべく立ちはだかる。すぐさま迎撃の構えをとり、ストーを退かそうとした。
だが、ストーはそのいずれをもひらりと容易く躱して見せる。
「俺ダッテ、元武闘家ダ。何度モオ前ノ動キヲ見テキタ」
「ちっ……!くそっ!」
仲間を助けたいのに助けることの出来ない焦燥感が募り、思わず悪態が零れる。
そんな中、ドローンの中から突如として光の粒子が生み出された。それは徐々に少女の人物の姿へと生まれ変わっていく。
「セイレイ!私とゆきっちで対処する!クウリ君をお願い!」
「道音!?」
ドローンから躍り出た道音は、躊躇することもなくアカウント権限の貸与を行った。
[information
Relive配信にアカウント権限が貸与されました。スパチャブーストは使用できません]
そのシステムメッセージが表示されると同時に、noiseは素早く俺目掛けて魔素吸入薬を放り投げる。
「私ならスキルが無くても対応できる!それにみーちゃんもいるんだ、頼む!」
「——任せた!」
俺がそう返事すると同時に、いつの間にか真紅のコートを羽織っていた道音が割って入る。
「チッ、オ前トマサカ相対スルトハナ……!」
「また一緒に配信しよっ!ね、ストー!」
「不本意ダ!」
顕現された湾曲刀を右手に構え、道音はストーと対峙する。その表情からは、純粋に楽しそうな想いが垣間見えた。
苛立った様子を見せるストー目掛けて、ディルは素早くチャクラムを投擲する。
「あはっ、スキルが使えなくたって邪魔くらい、お茶の子さいさいさ」
「……ディル、オ前マデ……」
「ボクだってリベンジ戦に混ぜて欲しいんだよ。キミ達には随分と色々気づかされたからねー」
「……ッ」
呑気にそう語るディルを他所に、俺はぐったりと力なく蹲るクウリの元へと駆け寄る。
「……大丈夫か?」
「う、うん……何、あの姿……」
魔素吸入薬の粉末を吸い込みながら、クウリはそう尋ねた。俺もその姿の全容を把握していない為、改めてストーの姿を確認する。
noise、道音、ディルの入れ替わるように繰り出される連撃を、ストーはその身1つで躱している姿が視界に映った。先ほどまで戦っていたストーは、頑強なパワードスーツに身を包んでいた。しかし”Mode Change”を発揮した今の彼は、ほとんど軽装と言っても遜色ない。
「俺も初めて見た。恐らく、防御力を捨てた捨て身のスタイルへと変化したんだろうな」
俺自身も、正確な答えを理解していない為おおよその見解を話す。
魔素吸入薬により傷の癒えたクウリは、ゆっくりと身体を起こした。
「僕達も合流しよう。船出ちゃんが時間を稼いでくれてるんだ、負けちゃいられない」
「……ああ」
クウリは癒えた身体の感覚を確かめるように軽く身体を動かした後、低い姿勢から駆け出した。
俺も同様に彼女達の元へと合流するべく駆け出す。
「いつかのホブゴブリン戦を思い出すな、なあストー?」
「イツノ話ヲ、スルンダッ!」
「お前がまだ、武闘家だった時の話だよ!」
noiseは、ストーを説得するように連撃の合間を縫って語り掛けていた。
幾たびの攻防のやり取りの中、彼等は切っ先を介して言葉を交わす。
To Be Continued……
得たスパチャを1話で全部使いきってる……。
総支援額:9000円
[スパチャブースト消費額]
青:500円
緑:3000円
黄:20000円
【ダンジョン配信メンバー一覧】
①セイレイ
青:五秒間跳躍力倍加
両脚に淡く、青い光を纏い高く跳躍する。一度に距離を縮めることに活用する他、蹴り技に転用することも可能。また、着地時のダメージを無効化する。
緑:自動回復
全身を緑色の光が覆う。死亡状態からの復活が可能である他、その手に触れたものにも同様の効果を付与する。
黄:雷纏
全身を青白い雷が纏う。攻撃力・移動速度が大幅に向上する他、攻撃に雷属性を付与する。
②クウリ
青:浮遊
特定のアイテム等を空中に留めることができる。人間は対象外。
緑:衝風
クウリを中心に、大きく風を舞い上げる。相手を吹き飛ばしたり、浮遊と合わせて広範囲攻撃に転用することも出来る。
黄:風纏
クウリの全身を吹き荒ぶ風が纏う。そのまま敵を攻撃すると、大きく吹き飛ばすことが可能。
③noise
青:影移動
影に潜り込み、敵の背後に回り込むことが出来る。また、地中に隠れた敵への攻撃も可能。
(”光纏”を使用中のみ)
:光速
自身を光の螺旋へと姿を変え、素早く敵の元へと駆け抜ける。
緑:金色の盾
左手に金色の盾を生み出す。その盾で直接攻撃を受け止めた際、光の蔦が相手をすかさず拘束する。
黄:光纏
noiseの全身を光の粒子が纏う。それと同時に、彼女の姿が魔災前の女子高生の姿へと変わる。
受けるダメージを、光の粒子が肩代わりする。
④ディル
青:呪縛
指先から漆黒の鎖を放つ。鎖が直撃した相手の動きを拘束する。
緑:闇の衣
ディルを纏う形で、漆黒のマントが生み出される。受けるダメージを肩代わりする効果を持つ。
黄:闇纏
背中から漆黒の翼を生やす。飛翔能力を有し、翼から羽の弾丸を放つことが出来る。
漆黒の羽には治癒能力が備わっている。
ドローン操作:前園 穂澄
[サポートスキル一覧]
・支援射撃
弾数:2
クールタイム:15sec
ホーミング機能あり。
・熱源探知
隠れた敵を索敵する。
一部敵に対しスタン効果付与。
[アカウント権限貸与]
①雨天 水萌
・消費額:20000円
・純水の障壁
・クラーケンによる触手攻撃
②船出︎︎ 道音
・消費額:20000円
・ワイヤーフックを駆使した立体的な軌道から繰り広げられる斬撃
・ノアの箱舟