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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
⑦ターミナル・ステーション・ダンジョン編
214/322

【第百三話】バイバイ、過去の世界

【登場人物一覧】

瀬川(せがわ) 怜輝(れいき)

配信名:セイレイ

役職:勇者

世界に影響を及ぼすインフルエンサー。

他人を理解することを諦めない、希望の種。

前園(まえぞの) 穂澄(ほずみ)

配信名:ホズミ

役職:魔法使い

瀬川 怜輝の幼馴染として、強い恋情を抱く。

秋狐の熱心なファンでもある。

一ノ瀬 有紀(いちのせ ゆき)

配信名:noise

役職:盗賊

男性だった頃の記憶を胸に、女性として生きている。

完璧そうに見えて、結構ボロが多い。

青菜 空莉(あおな くうり)

配信名:クウリ

役職:戦士

心穏やかな少年。あまり目立たないが、様々な面から味方のサポートという役割を担っている。

雨天 水萌(うてん みなも)

元四天王の少女。健気な部分を持ち、ひたむきに他人と向き合い続ける。

案外撫でられることに弱い。

・another

金色のカブトムシの中に男性の頃の一ノ瀬 有紀のデータがバックアップされた存在。

毅然とした性格で、他人に怖い印象を与えがち。

・ディル

役職:僧侶

瀬川 沙羅の情報をベースに、ホログラムの実体化実験によって生み出された作られた命。詭弁塗れの言葉の中に、どこに真実が紛れているのだろうか。

船出 道音(ふなで みちね)

元Relive配信を謳っていた少女。過去に執着していたが、セイレイに希望を見出したことにより味方となる。やや気が強い。

秋城(あきしろ) (こん)

配信名:秋狐

セイレイ達より前にLive配信を歌っていた少女。運営権限を持ち、世界の真相に近い存在でもあるようだ。

須藤(すとう) 來夢(らいむ)

配信名:ストー

船出 道音より運営権限を引き継いだ、漆黒のパワードスーツに身を包む青年。今回の配信相手でもある。

『通じるとは思わないが……サポートスキル”影縫い”!』

 配信ナビゲーターを務めるnoiseの凛とした声が、ドローンのスピーカーから響く。それと同時に、どこからともなく一振りのナイフがスケルトンの影目掛けて、空気を切り裂く音とともに降り注いだ。

「……」

 だが、スケルトンは本棚の影に隠れるようにしてそれを回避。

 容易く回避して見せたその動きを見たディルは、困ったように笑う。

「あー……あんな感じじゃあボクの”呪縛”もそう簡単には当たらないだろうねー……」

「……!」

「……えっ?」

 余裕ぶった口ぶりのディルの表情が、突如として強張る。

 後衛に立つスケルトンの杖の照準が俺達の方を向いていたからだ。

「嘘でしょ!?……スパチャブースト”緑”っ!」

[ディル:闇の衣]

 次の瞬間、よれよれのスウェットを身に纏うディルの姿が、漆黒のマントに隠れる。

 それと同時に、俺達を庇うように素早く前に躍り出た。

「……」

[スケルトン:炎弾]

「はああああ!?」

 驚愕の声を上げながら、ディルは自身の体を隠すようにマントを翻す。

 次の瞬間。ディルを中心として赤熱が図書館内を覆いつくした。

 飛び散る火の粉が、本棚に並ぶ本へと降り掛かる。爆心地付近に並べられていた本が燃え上がり、紙くずと化す。

「ディルっ!」

「あつっ、あっつー!」

 慌てた様子でディルが炎の中から抜け出す。火の粉と共に、燃え上がったマントが虚空に溶けて消えていく。

 念の為に配信画面を介してディルの体力ゲージを確認するが、ほとんどダメージは受けていないようだ。

 体に残った火の粉をパタパタと払いながら、ディルは困ったように笑う。

「……ホズミちゃんのスキルは今使えないのに、あんな馬鹿げた火力を連発されたらどうしようもないよ。敵に回すとえげつないねー、あははっ」

 やつれた表情を浮かべるディル。その瞳からは、焦燥の色が滲みに出ていた。

 近づこうにも、片手剣の一撃が。逃げれば、魔法に伴う強力な一撃が。

 打開策が思い浮かばず、俺は縋るようにコメント欄へと視線を向けた。


[セイレイ、焦るなよ 10000円]

[なんかセイレイとホズミちゃんを見てるみたいな役割分担だな。商店街ダンジョンを思い出すよ 5000円]

[ホズミちゃんが魔法を構えていて参戦できない以上、後衛のフォローは厳しいよな。問題はスキルでの打開か]

[私達が戦いに出ると、ほずっちが構えてる魔法も消えるかも知れない。アカウント権限の貸与は駄目だよ]

[2体のスケルトンを一緒くたにして行動不能にしちゃえば実質勝利ですっ]

[それが出来ればなあ。相手を吹っ飛ばすしか方法がないだろ]

[クウリの風纏があるじゃん 10000円]

[ほんとだ]


「なるほどな、やっぱり頼るべきは皆の知恵だな」

 戦略のヒントをコメント欄から得た俺は、思わず笑みを零していた。

 それから、ちらりと戦況を窺うようにじっとスケルトンを観察しているクウリへと視線を向ける。

「クウリ。”風纏”を使って、スケルトンを吹き飛ばせ」

「……!そっか、その手があった!2つのスケルトンをぶつけて、行動不能にすれば……!」

「ああ。そういうことだ」

 おおよそ自身の役割を理解したであろうクウリ。彼はディルへと語りかけた。

「ディル君。君には後衛の魔法を防いで欲しい。身体を張って貰って悪いけどね」

「げ。またあの魔法を受けろっての?怖いんだけど」

「君にしか出来ない役割なんだよ。お願い」

 クウリは深々とディルに頭を下げる。まさか頭まで下げられると思わなかったのか、ディルは一瞬呆気にとられた表情を浮かべた。

 それから、観念したように大きなため息を付く。

「……はー……分かったよ……給料は高く付くよ?」

窮地(きゅうち)を打開できるなら安いものだっ!スパチャブースト”黄”!」

[クウリ:風纏]

 そのシステムメッセージが流れると同時に、クウリを中心として風が吹き荒ぶ。それと同時に、彼は本棚の影から躍り出た。

 それが戦闘開始の合図となり、俺とディルも同様にスケルトンに向けて駆け抜ける。

 焼け焦げたフローリングを踏みしめる度、焦げた木材の擦れるような不快な音が響く。

 大地を蹴り上げるにつれて、砂埃が舞い上がる。アスファルトで出来た床が、めくれ上がったフローリングからその姿を現す。

 かつての光景を奪われた図書館を、俺達は走り抜けた。

「人様の肉体で、遊んでんじゃねえよっ!」

 怒りに身を任せ、俺は迎撃の構えをとっているスケルトンへとファルシオンを振るう。

 スケルトンはすかさず防御の構えをとる。

「っらあああっ!」

「……!」

 スケルトンの片手剣と、俺のファルシオン。

 衝突する火花が、2つの切っ先を介して弾ける。飛び散る光が、周囲を橙色に照らしていく。

 拮抗する鍔迫り合いの中、俺は届かないと知りながらもスケルトンへ怒りの声をぶつける。

「穂澄のことが大切だったんだろ!?こんなことすんのが本当にお前らの望むことだってのかよ!?」

「……」

 勿論スケルトンは何も答えない。

 しかし、そんな拮抗する状況の中。俺の脳裏へ、誰かの思考が介入する感覚を抱く。

(——穂澄を、任せても良いかな。瀬川君)

「……え?」

 塔出高校で、鶴山の亡骸へ触れた時に起きた現象と同じ感覚だ。誰かの思考が、俺自身の思考へと入り込む感覚。

 だが、その感覚の正体を掴もうとしたのも束の間のことだった。

「セーちゃんっ!」

 すかさず俺を庇うべく躍り出たクウリが振るう大鎌の一撃が、スケルトンを弾き飛ばす。

 地面に倒れ伏したスケルトンを迎撃しようと、クウリは更に大鎌を振り下ろした。

「ごめんっ……傷つけたくない、けど……僕達だって、生きたいんだっ!」

 己の内に抱いた葛藤を押し殺すように、クウリは何度も大鎌を振るう。

 吹き荒ぶ一撃が直撃する度に、大きくスケルトンがはじけ飛ぶ。

「……!」

 そして、そんなクウリの猛攻を咎めるように、後衛に立っていた杖を持つスケルトンがゆっくりと動き始めた。

 杖の照準が映す先は、クウリだ。

「ディル君っ!」

「はいはい、結構怖いんだからね?これ……スパチャブースト”緑”」

[ディル:闇の衣]

 クウリに呼ばれて、文句を垂らしながらもディルは宣告(コール)する。再び漆黒のマントが彼を覆う。

「……!」

[スケルトン:炎弾]

 再び、鋭い矢の如く襲い掛かる炎の弾丸が、クウリを庇う形で躍り出たディルへと襲い掛かる。

 ディルは不敵な笑みを浮かべながら、手に持ったチャクラムで炎弾を迎撃するべく投擲。

「あはっ、死体は死体らしくしてなよ!もうキミ達の時代は終わったんだ、今生きる人達の脚を引っ張ってどうするのさ!」

 チャクラムが炎弾と衝突した瞬間。大きく爆風が巻き起こる。

 轟音が、再び図書館内に地響きを起こす。ひび割れたアスファルトから、欠けた瓦礫が降り掛かる。

 ディルはそんな中、爆風から身を護るべくマントで自身の身体を巻いていた。

「終わらせるよ、戦士クン」

 爆風を防ぎきり、役割を終えた漆黒のマントがディルの身体から離れ、虚空へ溶けて消える。漆黒の欠片が取り巻く中、ディルはにやりと期待するような笑みをクウリへと向けていた。

「うんっ、こんな戦い……終わらせるっ!」

 その期待に応えるように、クウリは大鎌を横薙ぎに振るい、片手剣を持ったスケルトンを吹き飛ばす。

 狙う先は、杖を持ったスケルトンだ。

「……!」

 2体のスケルトンは激しく衝突し、大きく態勢を崩す。

 それを見届けたディルは、右手で銃の形を作り宣告(コール)した。

「はいっ、これで仕上げだよっ。スパチャブースト”青”」

[ディル:呪縛]

 システムメッセージが流れると同時に、ディルの指先から漆黒の鎖が伸びていく。

 それは瞬く暇もなく2体のスケルトンを縛り上げ、身動きひとつさえとることが出来ないようにした。

「じゃ、あとは頼んだよ。ホズミちゃん」

 もう決着と言わんばかりに、呑気に欠伸をしながらディルは遠ざかる。

 それと同時に、いつの間にか本棚の上に登っていたホズミは光の弓矢を構えていた。

「パパ、ママ……ごめん。私、先に進まなきゃ」

 弓矢が放つ光が、ホズミの頬に伝う涙を鮮やかに照らす。

 ホズミが強く弓柄(ゆづか)を握るのに伴い、弓が徐々に七色に光を放ち始めた。

 まるで、それは追憶のホログラムを彷彿とさせる色の——。


「バイバイ、過去の世界」

 最後にポツリと呟くと共に、ホズミは矢を解き放った。

 虹の如く光輝く矢が、辺りを照らす。漆黒の鎖に巻かれて身動きの出来ないスケルトンは、全くと言っていいほどに、抵抗するそぶりさえ見せなかった。まるで、その光を受け入れるかのように。

 弾けた光が、衝撃波となって図書館内を覆いつくす。

 暗雲とした世界を照らす、一筋の光。その光景に、どこか心すら洗われる気持ちになる。

「……綺麗だ」

 普段はそんな感想を漏らすことのないディルでさえ、ぽつりとそのような言葉を漏らした。


 スケルトンが、ホズミが放った”極大消滅魔法”に伴いその姿を消していく。

 そんな中、どこからともなく声が響いた。

(あなた、見て。穂澄がこんなに立派に成長したの。ワガママばっかり言ってたあの子が)

(本当だね、母さん。ずっとパパと一緒に居るんだ、って言ってたあの頃が懐かしいよ)

(……本当にね。お友達にも囲まれて、幸せそう)

(ああ。瀬川君、かな。彼になら穂澄を任せられるよ)

(ふふ、あなたってば昔から心配性だったもんね。プロポーズするって日も、そわそわとして落ち着きが無かったし)

(おい、よせよ過去の話は……っと。そろそろ、時間か)

「……パパ?ママ?ねえ、私……成長できたかな?」

 その声はホズミ——いや、俺達全員に聞こえていたのだろう。ホズミは、どこからともなく聞こえる声に向けて、語り掛けた。

 しばらくして、問いかけに対し彼女の両親と思われる声が響く。

(穂澄。どれだけ、時間が経とうとも、お前は……俺達の子供だ——)

(お友達と、仲良くしてね——バイバイ)

 

 その声を最後として、穂澄の両親の声は聞こえなくなった。

「……」

 ホズミは本棚から飛び降りた後、名残を追い求めるようにスケルトンが居た場所に歩み寄る。

 当然、スケルトンは既にその場から姿を消していた。

 代わりに、残されていたのは。

「……あ、ああ……」

 3枚の——遊園地のチケットだった。

 魔災当日に、ホズミが両親と行こうとしていた場所だ。


「やだ、やだ……」

 ホズミは、そのチケットを握りしめて、膝から崩れ落ちた。

「あっ、ああああ!!パパ、ママ……やだ、やだっ!私、いい子でいるから、いい子でいるから……戻って来てよ。戻って来て……」

 配信中という事も忘れ、大声で泣き崩れる。(うずくま)って嗚咽を漏らす。

 何度も縋るように、そこに居た両親の姿を追い求めるようにフローリングを撫でる。

 

 そこにいたのは、配信ナビゲーターでも、魔法使いとしての彼女ではない。

 前園 穂澄という、たった一人のか弱い少女の姿だった。


[information

 ホズミがスパチャブースト”赤”の鍵を手に入れました。

 条件が揃い次第、発動が可能となります]

 

To Be Continued……

総支援額:9500円

[スパチャブースト消費額]

 青:500円

 緑:3000円

 黄:20000円

【ダンジョン配信メンバー一覧】

①セイレイ

 青:五秒間跳躍力倍加

 両脚に淡く、青い光を纏い高く跳躍する。一度に距離を縮めることに活用する他、蹴り技に転用することも可能。

 緑:自動回復

 全身を緑色の光が覆う。死亡状態からの復活が可能である他、その手に触れたものにも同様の効果を付与する。

 黄:雷纏

 全身を青白い雷が纏う。攻撃力・移動速度が大幅に向上する他、攻撃に雷属性を付与する。

 また、思考能力が加速する。

②クウリ

 青:浮遊

 特定のアイテム等を空中に留めることができる。人間は対象外。

 緑:衝風

クウリを中心に、大きく風を舞い上げる。相手を吹き飛ばしたり、浮遊と合わせて広範囲攻撃に転用することも出来る。

 黄:風纏

クウリの全身を吹き荒ぶ風が纏う。そのまま敵を攻撃すると、大きく吹き飛ばすことが可能。

③ディル

 青:呪縛

 指先から漆黒の鎖を放つ。鎖が直撃した相手の動きを拘束する。

 緑:闇の衣

 ディルを纏う形で、漆黒のマントが生み出される。受けるダメージを肩代わりする効果を持つ。

 黄:闇纏

 背中から漆黒の翼を生やす。飛翔能力を有し、翼から羽の弾丸を放つことが出来る。

 漆黒の羽には治癒能力が備わっている。

④ホズミ

 青:煙幕

 ホズミを中心に、灰色の煙幕を張る。相手の視界を奪うことが出来るが、味方の視界をも奪うというデメリットを持つ。

 緑:障壁展開

 ホズミを中心に、緑色の障壁を張る。強固なバリアであるが、近くに味方がいる時にしか恩恵にあやかることが出来ない為、使用には注意が必要。

 黄:身体能力強化

 一時的にホズミの身体能力が強化される。攻撃力・移動能力・防御力が大幅に上昇する他、魔法も変化する。

魔法

 :炎弾

 ホズミの持つ両手杖から鋭い矢の如き炎を打ち出す。

 一度の炎弾で3000円と魔石一つを使用する。火力は高いが、無駄遣いは出来ない。

 :マグマの杖(身体能力強化時のみ使用可)

 地面に突き立てた杖から、マグマの奔流が襲いかかる。ホズミの意思で操作可能。

 一度の使用で10000円と魔石一つを使用する。高火力であるが、スパチャブーストの使用が前提であり、コストが高い。

 :氷弾

 青色の杖に持ち替えた際に使用可能。氷の礫を射出し、直撃した部分から相手を凍らせることが出来る。

 炎弾と同様に、3000円と魔石一つを使用。

 :氷壁

 氷塊を射出し、直撃した部分に巨大な氷の壁を生み出す。死角を作り出す効果がある他、地面を凍らせることにより足場を奪うことも出来る。

 魔石(大)一つと、10000円を消費する。

 :極大消滅魔法

 2つの杖を組み合わせることにより、光を纏った弓が生み出される。

 放つ矢は、七色の光と共に絶大な火力を併せ持つ。50000円消費する。

ドローン操作:一ノ瀬 有紀

[サポートスキル一覧]

・斬撃

・影縫い

・光源解放

[アカウント権限貸与]

①雨天︎︎ 水萌

 ・消費額;20000円

 ・純水の障壁

 ・クラーケンによる触手攻撃

②船出︎︎ 道音

 ・消費額:20000円

 ・ワイヤーフックを駆使した立体的な軌道から繰り広げられる斬撃

 ・ノアの箱舟

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