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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
⑦ターミナル・ステーション・ダンジョン編
207/322

【第九十九話】嫌われ役として

【登場人物一覧】

瀬川(せがわ) 怜輝(れいき)

配信名:セイレイ

役職:勇者

世界に影響を及ぼすインフルエンサー。

他人を理解することを諦めない、希望の種。

前園(まえぞの) 穂澄(ほずみ)

配信名:ホズミ

役職:魔法使い

瀬川 怜輝の幼馴染として、強い恋情を抱く。

秋狐の熱心なファンでもある。

一ノ瀬 有紀(いちのせ ゆき)

配信名:noise

役職:盗賊

男性だった頃の記憶を胸に、女性として生きている。

完璧そうに見えて、結構ボロが多い。

青菜 空莉(あおな くうり)

配信名:クウリ

役職:戦士

心穏やかな少年。あまり目立たないが、様々な面から味方のサポートという役割を担っている。

雨天 水萌(うてん みなも)

元四天王の少女。健気な部分を持ち、ひたむきに他人と向き合い続ける。

案外撫でられることに弱い。

・another

金色のカブトムシの中に男性の頃の一ノ瀬 有紀のデータがバックアップされた存在。

毅然とした性格で、他人に怖い印象を与えがち。

・ディル

役職:僧侶

瀬川 沙羅の情報をベースに、ホログラムの実体化実験によって生み出された作られた命。詭弁塗れの言葉の中に、どこに真実が紛れているのだろうか。

船出 道音(ふなで みちね)

元Relive配信を謳っていた少女。過去に執着していたが、セイレイに希望を見出したことにより味方となる。やや気が強い。

秋城(あきしろ) (こん)

配信名:秋狐

セイレイ達より前にLive配信を歌っていた少女。運営権限を持ち、世界の真相に近い存在でもあるようだ。

須藤(すとう) 來夢(らいむ)

配信名:ストー

船出 道音より運営権限を引き継いだ、漆黒のパワードスーツに身を包む青年。今回の配信相手でもある。

 踏みつけたアスファルトの欠片が擦れ、響くのは不快な音。

 倒壊した家屋やビルが、区画整理されていたはずの通路を大きくかき乱していた。

 混ざり合ったコンクリートと木材の欠片が雨に濡れ、どこか鼻の奥にツンと来るような匂いを放つ。

 ひび割れたガラス片と、雑に放り投げられ、散乱したバットや木刀。いくつもの暴動の痕跡が、そこには残っていた。

 更にそれらを覆うのは、無数に伸びた桜の木々と、地を這う樹根。

 ぐちゃぐちゃに塗り重ねられたようなキャンパスのような世界が、辺り一面に広がっている。

「……何度見ても、慣れない光景、です。本当に……見たくない世界ばっかりです」

 雨天は表情を曇らせ、震えた唇でそう呟いた。

 彼女の言葉に否定する者は、誰も居ない。

「……行こう」

 積み重ねた負の遺産が作る道を、俺達は通り抜けていく。


——本当は、皆時運の生活の為に貯めていたお金だった。大切な家庭を守る為、大切な皆と過ごす為のお金だったの。


 ふと俺は、道音の発した言葉を思い出す。

 こんな生活を大切な人の誰にもさせない為、皆お金を貯めていたのだろう。

「……セイレイ君。あんまり、考え込まないようにね」

「ああ。分かってる」

 そんな俺を気遣ってか、穂澄はやんわりと忠告する。

(……視聴者の皆も、こんな世界を生き延びていた。俺達は、恵まれているだけだ)

 ……よそう。

 恵まれた俺達が成すべきことは、皆から与えられた期待に応えることだけだ。


 やがて、俺達を迎え入れるのは通路シェルターの下に並ぶバス停。二度と稼働することのない大型バスが、倉庫の中でひっそりとその役割を失ったまま佇んでいる。

 広々と確保された駅前広場に敷き詰められた純白のタイルは、今や土埃が被って汚れた色で埋め尽くされていた。

 並ぶ商業施設に挟まれる形で存在するのは、黒を基調とした洗練されたデザインで建築されたターミナル・ステーションだ。

「……ストー兄ちゃん、来たよ。決着を付けよう」

 俺がそう駅に向けて語り掛けると、待っていたかのようにジェットエンジンの音が辺り一帯に鳴り響く。

「……ッ!!」

 それと同時に、激しく砂煙が舞い上がる。口の中に入り込んだ砂が、ざらついたような感覚と苦みを残す。

「……待ッテイタ。セイレイ」

 そのノイズがかったような声が空から降り注ぐ。

 見上げた俺達の視界の先に居たのは、空に浮かぶ漆黒のパワードスーツ。

 ——須藤 來夢。俺が「ストー兄ちゃん」と呼ぶ青年だ。

 そんな彼の背中から伸びるは扁平状の翼。そのエンジンの先からは青色の炎が吹き出していた。空中に停滞する彼は、表情の読めないフルフェイスで俺達を見下ろす。

 道音は軽くワンピースの裾を叩き、毅然とした立ち振る舞いでストー兄ちゃんを睨む。

「ストー、随分と演出じみたことをやるようになったね。配信者としての立ち振る舞いが分かってきたのかな?」

「……カモナ。ダトシタラ、オ前ラノ影響ダ」

「あはっ。そりゃ光栄だね」

 冗談めかした笑いを零した道音。ひとしきり笑った後、途端に真剣な表情をストー兄ちゃんへと向ける。

「……でも、もう分かってると思うけど……ストーは勇者一行には勝てはしない。やられ役だよ」

「ヤッテ見ナケレバ分カラナイダロウ。俺ナリノケジメ……デモアルカラナ」

「そっか。じゃあ私からはもう何も言わないよ」

 満足したように、道音はそう言って後ろへと下がった。代わりに、ディルは不敵な笑みを浮かべながらのんびりとした口調で語り掛ける。

「あははっ、なーーーーーーんのチカラも持たない武闘家のストー君。随分と借り物のチカラで偉そうにすることを覚えたんだね?虎の威を借る狐って言葉、知ってる?」

「ディル……オ前ノコトハ、最初カラ嫌イダッタ」

「知ってるよ?別に好きとか嫌いとか、そんな枠組みで考えることが間違ってるよ。そもそもキミ達の指図に従う義理なんて無いし。他人に媚び(へつら)うことでしか存在価値を見出すことが出来ない武闘家クンとは違うの。分かる?」

「相モ変ワラズ屁理屈ヲ語ルンダナ。ヤハリオ前ハ毒ノヨウナ存在ダ」

「皆が皆、気持ち悪いくらいに正義を語る方がボクにとっては毒だと思うけどね。多様性だよ多様性。分かる?」

 ストー兄ちゃんを挑発するようにほくそ笑むディル。こいつとしても、ストー兄ちゃんのことはどうやら好いていないようだ。

 ディルは最後に「はっ」と鼻で笑うように一瞥し、退屈そうに駅前広場の敷地内を落ち着きもなくウロウロとし始めた。


 ——そして俺が、ストー兄ちゃんに向けるべき感情は何なのだろうか。

 胸の奥に秘めた、初めての配信で行動を共にした時の温かな感情だろうか。

 それとも、敵として生まれ変わってしまった彼と再会した時の、絶望が滲んだ冷ややかな感情だろうか。

 答えは、出ない。

「……ストー兄ちゃん……。俺、兄ちゃんにどんな感情を向けるべきなのか分からないよ」

 俺は、馬鹿正直に思いの丈をぶつけることしかできなかった。

 そんな不器用な言葉で、ストー兄ちゃんの心を揺るがすことが出来るとは思ってはいない。だけど、何か伝えないと——そう思った。

「セイレイ。最初ニ出会ッタ頃ノオ前ノ姿、今デモ思イ出スヨ」

「……兄ちゃん」

 過去を懐かしむようなストーの言葉に、思わず胸の奥がきゅっと締め付けられる。

 しかし。

「本当ニ、馬鹿デ愚カナ子供ダッタ……トナ」

「……!!」

 ストー兄ちゃん……いや、ストーが発した言葉に手の先が冷え切るような感覚を抱く。

 そんなことを思っていたのか、と裏切られたような気持ちさえ抱いた。

「ストーさんっっ!!そんな言い方しなくたって良いでしょ!?」

 穂澄は俺を庇うように、前に立って大声で怒鳴り上げた。

 しかし、ストーはそんな穂澄さえも馬鹿にしたように「フッ」と声を漏らす。

「何モ持チ合ワセテイナイ癖ニ。口ダケハ偉ソウナコトヲ言ッテイタノハ事実ダロウ?」

「謝って!!今すぐ、セイレイ君に謝って!!最初に困難を一緒に乗り越えた仲間でしょ!?ふざけないでよ!!」

「嘘カラ出タ(マコト)。秋狐ヨリモ、俺カラスレバセイレイノ方ガ相応シイ呼ビ名ダト思ウガナ。偽物ノ勇者ヨ」

「降りてきて!!今すぐそのヘルメットかち割ってやるっっ!!」

 ついに激昂した穂澄。

「わっ!?」

 近くにいた有紀が持つ”ふくろ”から取り出した棍を振り回し、仰々しくストーを威嚇する。

 だが、当然穂澄の要望にストーは答えようとしない。ふわりと更にその身体を高く浮かび上がらせ、そのシルエットを小さくしていく。

「最深部デオ前達ヲ待ツ。コレデ、俺達ノ因縁モ終ワリダ……スパチャブースト”青”」

 ストーがそう宣告(コール)すると共に、再びジェットエンジンは大きく唸り声を上げた。

 同時に、再び彼を中心として衝撃波が巻き起こる。質量を持ったそれは、俺達の衣服を大きくはためかせた。

 青空を貫く流星となったストーのシルエットは、瞬く間に駅構内へと消えていく。


 そのシルエットを見送った有紀は、ぽつりと呟いた。

「……不器用だよ。ストー。自ら、嫌われ役になろうとするなんて」

「……」

 有紀の言葉には、同情の念が籠っていた。低く、静かなトーンで彼女は言葉を続ける。

「わざとセイレイが傷つく言葉選びをすれば、敵だって認識するだろうって思ったんだろうけどね。浅はかだよ、本当に浅はか」

「……そう、かもな」

 出会ってから今日に至るまでの全てが嘘だなんて、どうしても信じることが出来なかった。

 しかし、どれだけ彼の言葉を信じようとしても。脳裏を過ぎるのはストーに馬鹿にするように言い放たれた言葉だった。


(……確かに。俺は考えなしに言葉を発するような愚かな子供だったよ)

 それ自体は否定するつもりもない。あの時だって何か打算があった訳ではなく、ただ己のわがままに皆を巻き込んだだけだからだ。

 ——やはり、それでどうにかなっていたこと自体が、俺が恵まれている証明なのだろう。

「……それでも、人を傷つける言葉を選ぶのは違う。それを発してしまったら、悪だよ。悪」

 穂澄は苛立ったように、低く、鋭い声音でそう呟いた。棍を持つ手に力が籠り、徐々に手のひらが赤くなっていくのが見える。

 そんな仲間達の言葉を胸に、俺はじっとターミナル・ステーションへと視線を送った。

 もう、そこにストーの姿は見えない。


「……終わらせよう、ストー……。俺達の、門出の時だ」

 楽しかった過去というホームから。

 俺達は未来という駅へと進む為の一歩を踏み出す。


To Be Continued……

【開放スキル一覧】

・セイレイ:

 青:五秒間跳躍力倍加

 緑:自動回復

 黄:雷纏

・ホズミ

 青:煙幕

 緑:障壁展開

 黄:身体能力強化

・noise

 青:影移動

 緑:金色の盾

 黄:光纏

 赤:????

・クウリ

 青:浮遊

 緑:衝風

 黄:風纏

・ディル

 青:呪縛

 緑:闇の衣

 黄:闇纏

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