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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
⑦ターミナル・ステーション・ダンジョン編
205/322

【第九十八話(1)】乙女心(前編)

【登場人物一覧】

瀬川(せがわ) 怜輝(れいき)

配信名:セイレイ

役職:勇者

世界に影響を及ぼすインフルエンサー。

他人を理解することを諦めない、希望の種。

前園(まえぞの) 穂澄(ほずみ)

配信名:ホズミ

役職:魔法使い

瀬川 怜輝の幼馴染として、強い恋情を抱く。

秋狐の熱心なファンでもある。

一ノ瀬 有紀(いちのせ ゆき)

配信名:noise

役職:盗賊

男性だった頃の記憶を胸に、女性として生きている。

完璧そうに見えて、結構ボロが多い。

青菜 空莉(あおな くうり)

配信名:クウリ

役職:戦士

心穏やかな少年。あまり目立たないが、様々な面から味方のサポートという役割を担っている。

雨天 水萌(うてん みなも)

元四天王の少女。健気な部分を持ち、ひたむきに他人と向き合い続ける。

案外撫でられることに弱い。

・another

金色のカブトムシの中に男性の頃の一ノ瀬 有紀のデータがバックアップされた存在。

毅然とした性格で、他人に怖い印象を与えがち。

・ディル

役職:僧侶

瀬川 沙羅の情報をベースに、ホログラムの実体化実験によって生み出された作られた命。詭弁塗れの言葉の中に、どこに真実が紛れているのだろうか。

船出 道音(ふなで みちね)

元Relive配信を謳っていた少女。過去に執着していたが、セイレイに希望を見出したことにより味方となる。やや気が強い。

・秋城 紺

配信名:秋狐

セイレイ達より前にLive配信を歌っていた少女。運営権限を持ち、世界の真相に近い存在でもあるようだ。

「なあ、有紀。鉛筆のストックってある?」

 日課となっているスケッチをしようと思い、画材一式を入れているペンケースを覗き込む。しかしそこにはもう、ほぼ親指サイズの長さまで削れた鉛筆しか残っていなかった。

 これでも使う事は出来るのだが、正直心許ない。

 配信でも出番があるのだから尚更の問題だ。



 もそもそとカゴの中のお菓子を漁っている有紀はその手を止め、問いかけた俺を見る。

「ふも?」

「……太るぞ」

「ひどっ。長らく食べてなかったから、つい」

「没収だ、没収。有紀が動けなくなったら困るんだぞ。視聴者のこと意識しろ」

 そう言って俺は有紀からお菓子の入ったカゴを取り上げた。

 案の定、有紀は「あー!」と悲痛の声を漏らしていたが無視することにした。

 そして、まるでリスのように手に残ったお菓子を囓る有紀。彼女は申し訳なさそうに首を横に振る。

「鉛筆はこの家にはないかも。だって基本パソコンかスマホだったし。あ、シャーペンならあるよ」

「シャーペンだと嫌なんだよ。直ぐ折れるし、そもそも線が細すぎる」

「うーん……とは言ってもなあ。攻略済みのダンジョンから持ってくるしかないんじゃないかな」

 やはりその手しかないか。

 ただ今回は別に配信をするわけではない。なので、そこまで念入りな準備も必要ないだろう。

 簡単に普段から着ているパーカーを羽織り、俺は家を出ようと身支度を始める。


「セイレイ、出かけるなら私も連れて行ってよ」

 そんな時、俺に声を掛けてきた人物がいた。

「あ?道音かよ、お前も何か取りに行きたいものあるのか?」

 道音は肩まで掛かった長い黒髪を弄りながら、照れくさそうに語りかけてきた。

「んー。そゆのじゃないけどねー……たまには私にも構って欲しいなーって」

「構って欲しいって……」

 こいつとは味方になってから行動を共にしてきたが、未だに道音のことは完全に理解できないままだ。

 彼女のリクエストに応えるべきか迷っていると、有紀は俺の肩を叩いた。

「セイレイ、みーちゃんを連れて行ってあげて?」

「有紀まで、一体どう言う風の吹き回しだよ」

「穂澄ちゃんには私から上手く言っておくからさ。あんまり二人で話したことって無いでしょ?」

「まあ……確かに」

 時々仲間達とは二人で話す時間を取るように心がけては居るが、確かに道音と二人だけで会話をしたことはない。

 ……というよりも、かつて長らく敵対していたこいつと会話をするような機会を取ろうとも考えなかっただけだが。

 しかし、丁度良い機会であるのは確かだ。

「じゃあ、行くか。少し前に攻略した書店があったな。そこなら文具も取り扱ってただろ」

「え。やだ、服見ようよ。この間攻略したスーパーが良い」

「は?遠いだろ、何言ってんだお前」

「女の子連れて書店って。センスなさ過ぎ」

「なんで主導権をお前が握ってんだ。用事済ますだけなら書店で十分だろうが」

「はー分かってない。勇者様は女心を分かってないね。0点、出直してきて」

 前言撤回。

 やっぱこいつ無理かも知れない。

「二人とも仲良くしなよ……」

 顔を合わせれば口喧嘩する俺達に、ついに有紀は頭を抱えた。

 文句なら直ぐに愚痴をこぼすこいつに言ってくれ。


★★★☆


 結局、道音がうるさいので希望通り前回攻略を終えたスーパーへと向かうことにした。

 しかし、未だ不満が収まらないのかこいつは延々と文句を垂れていた。

「第一ね、セイレイ。分かってないよ、君は本当に乙女心を分かってない」

「へいへい悪うござんした。すーぐ文句言うなお前は」

「は!?私が悪いって言うの!?セイレイも一ノ瀬先輩を見習ってよ、余裕たっぷりの振る舞い。あれこそ理想の男って感じ」

「じゃあanotherのとこに行けば良いじゃねえか。俺である必要ねーだろ」

「セイレイじゃないと駄目なんだけど。ゆきっちから聞かなかった?恋愛の基本は”比較”だって。セイレイは私が出会ってきた誰よりも魅力的だもん」

「……唐突にそんなこと言うなよ」

「あっ、照れたー」

 俺の反応が面白いのか、くすくすと楽しそうに笑う道音。

 そんな彼女を見ていると、思わず俺までどこかおかしく感じてくる。

 ……しかし、乙女心、か。

「なあ道音」

「ん、何さセイレイ。急に改まって」

「俺、乙女心って正直理解してないからさ、この期に色々と教えてくれないか?」

 さて、道音はどんな反応をするかと思い、様子を窺う。

 すると彼女はぽかんと目を丸くして、呆けた表情を浮かべていた。

 道音、と彼女の名前を呼ぶと、急にパタパタと慌てた様子で飛び跳ねる。

「はっ、あ……っ。う、うん、いいよ、私に任せて。恋愛のイロハを叩き込んであげる」

「お、おう。頼りにしてるが……ちなみに、道音……お前は恋愛経験はあるのか?」

「え?無いけど」

「……」

 途端に不安になってきた。

 一体彼女の自信はどこから来るのだろう。

 ……というか、anotherとも恋愛は成就しなかったんだな。まあ、あんまり恋愛に関心がなさそうだし、あいつ。


----


「セイレイの良いところはね、ちゃんと相手の行動を見てるところかな」

「相手の行動を見てる……?当たり前じゃないのか?」

「案外そうでもないんだよね……あ、着いた」

 前回配信を介して攻略を終えたスーパーマーケットに到着した俺と道音。魔物は姿を消したため、もう警戒をする必要は無い。

 よって、堂々と正面玄関のガラスドアを開けて、俺達は中へと進む。

「あちゃー……ほずっち結構やらかしたなあ」

 そして、どうやら”光源解放”のスキル効果は永続のようだ。爛々と照らされた蛍光灯によって、崩落した天井があちらこちらに散乱した光景が散見する。

 一部店舗は戦闘の被害を受けていない。その為俺達は戦闘の痕跡が残る場所を避けて移動することにした。

 静寂漂う空間の中、かつての光景の面影を残した呉服店などが視界に映る。

 寝具店などはもはや見る影もなく荒らされていたが、呉服店はほとんどありのままの姿を残していた。

 まず、道音はそこに目を付ける。

「ちょっと服見ていっても良い?」

「ん?ああ、別に良いけど」

 俺は軽い気持ちでそう返事した。

 しかし、その選択が間違いだったことを知るのに、そう時間はかからなかった。


「ねえ、セイレイ。どっちの方が似合うと思う?」

「……どっちも同じだろ」

 何度、このやり取りを繰り返したのか分からない。俺はやや投げやりに言葉を返す。

 道音が見せつけてきた二つのワンピース。……だが、あまりファッションに詳しくない俺はそんな返事しか返すことが出来なかった。

 どこか俺の返事が気に入らなかったのか、道音は大きくため息を付く。

「全然違う。見てよ、装飾がこっちの方が派手でしょ。でも、反対にこっちは装飾がない。些細な着こなしで結構変わるんだから」

「……そう言うものなのか?」

「男ってそういうのホント興味ないよねー。目的重視しすぎ、もう少し身だしなみに気を遣った方が良いよ」

「って言われてもなあ。見た目ってそこまで重要じゃないだろ」

 俺としては、思っていることを返したつもりだった。

 しかし、道音にとってはその言葉は地雷だったようで表情が固まっていくのを感じる。

「……それ、私の前で言う?」

「え?」

 何が彼女の地雷を踏んでいるのか分からず、思考を巡らせる。

 だが、そんな俺を許すまいと、道音はずいと整った顔を近づけてきて言葉をまくし立てた。

「見た目って本当に与える印象大きいからね?分かる?メラビアンの法則って言うのがあってね、第一印象で見た目が占める割合は半分以上なの」

「あ?何の話だよ」

「女の子になったゆきっちのこと、最初気づけなかったんだよ?それだけ見た目の影響って大きいんだよ?」

「……あー……」

 正直、俺としては女性になった後の有紀しか知らない為相槌を打つことしか出来ないが。

 しかし、道音としてはやはり納得が行っていないようだ。俺が着ているパーカーを掴んで、むすっと拗ねたような表情で睨む。

「だから見た目に対していい加減なこと言わないでね?女の子って、結構見た目に敏感なんだよ」

「……善処する」

「じゃあこのパーカーほつれてるのどうにかして。みっともないよ」

「……」

 道音が指摘したのは、パーカーの裾から覗かせているほつれた糸。

 俺は言葉も返すことが出来ず、店舗の中にあったハサミを拝借して糸を切った。


(もしかしたら、穂澄も口に出さないだけで色々思っているのか?)

 ふと、そんな考えが脳裏を過る。

 男女の視点が、明らかに異なることを実感した。


To Be Continued……



[information

”メラビアンの法則”とは、第一印象で他者に影響を及ぼすと考えられている要素を割合として表示したものです。

見た目:約55% 声:38% 言葉の内容:7%——と言われています。]


【開放スキル一覧】

・セイレイ:

 青:五秒間跳躍力倍加

 緑:自動回復

 黄:雷纏

・ホズミ

 青:煙幕

 緑:障壁展開

 黄:身体能力強化

・noise

 青:影移動

 緑:金色の盾

 黄:光纏

 赤:????

・クウリ

 青:浮遊

 緑:衝風

 黄:風纏

・ディル

 青:呪縛

 緑:闇の衣

 黄:闇纏

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