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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
⑦ターミナル・ステーション・ダンジョン編
203/322

【第九十七話(1)】馬鹿と天才は(前編)

【登場人物一覧】

瀬川(せがわ) 怜輝(れいき)

配信名:セイレイ

役職:勇者

世界に影響を及ぼすインフルエンサー。

他人を理解することを諦めない、希望の種。

前園(まえぞの) 穂澄(ほずみ)

配信名:ホズミ

役職:魔法使い

瀬川 怜輝の幼馴染として、強い恋情を抱く。

秋狐の熱心なファンでもある。

一ノ瀬 有紀(いちのせ ゆき)

配信名:noise

役職:盗賊

男性だった頃の記憶を胸に、女性として生きている。

完璧そうに見えて、結構ボロが多い。

青菜 空莉(あおな くうり)

配信名:クウリ

役職:戦士

心穏やかな少年。あまり目立たないが、様々な面から味方のサポートという役割を担っている。

雨天 水萌(うてん みなも)

元四天王の少女。健気な部分を持ち、ひたむきに他人と向き合い続ける。

案外撫でられることに弱い。

・another

金色のカブトムシの中に男性の頃の一ノ瀬 有紀のデータがバックアップされた存在。

毅然とした性格で、他人に怖い印象を与えがち。

・ディル

役職:僧侶

瀬川 沙羅の情報をベースに、ホログラムの実体化実験によって生み出された作られた命。詭弁塗れの言葉の中に、どこに真実が紛れているのだろうか。

船出 道音(ふなで みちね)

元Relive配信を謳っていた少女。過去に執着していたが、セイレイに希望を見出したことにより味方となる。やや気が強い。

・秋城 紺

配信名:秋狐

セイレイ達より前にLive配信を歌っていた少女。運営権限を持ち、世界の真相に近い存在でもあるようだ。

 ダンジョンボスを攻略した俺達が、勇者一行としてやることは一つだ。

「追憶のホログラムを起動するぞ」

 そう、追憶のホログラムの起動だ。魔災によって失われる前のかつての光景を映しだすそれは、俺達”勇者パーティ”の配信におけるメインコンテンツといっても遜色ない。

 過去の光景に思いを馳せる人々の姿は、魔災前の生活をほとんど知らない俺達にとっても大きな刺激となる。

(……俺も、ホログラムの中の一人でいたかったな)

 心の奥底に願うことのない想いを抱きながら、俺は追憶のホログラムへと手を伸ばす。

 例にも漏れず、その追憶のホログラムに手が触れた瞬間に迸る光。大地を駆け巡るプログラミング言語が、世界を構築していく。

 過去を、描き始める。

「……ホズミ」

「分かってるよ」

 俺はホズミからスケッチブックと鉛筆を受取り、追憶のホログラムの光景を描く準備を始めた。

 徐々に構築されていくのは、スーパーの中を散策する人々の姿。

 他愛ない日常を描く人々の姿を描き留めようと、様々な想いを抱いたかつての人々を目で追い始める。


 ——しかし、そんな俺達の配信における日課を邪魔する乱入者が突如として現れた。


「ほーたるの、ひーかぁりっ、まーどーのゆーきー……」

 追憶のホログラムが描くかつての光景に重なるようにして、透き通るような声音が響く。

 ホズミの表情が、明らかに輝きを帯び始める。その彼女の反応から、歌声の正体が誰なのかを悟る。

 かつて、俺達より前に”Live配信”を”歌っていた”——。

「……よっと。紺ちゃん、今日はどうしたの?」

 答え合わせをするかのように。

 いつの間にかドローンから抜け出した道音が、首を傾げて歌声が響く空を見上げた。

 道音が見上げるのを待っていたかのように、彼女の動きをトリガーとして空中に突如として歪みが生まれる。徐々に歪みは、橙色のウェーブがかった髪をした、和服を身に纏った少女の姿を描き出す。

「当店をご利用いただきまして、誠にありがとうございます。間もなく、営業終了の時刻となります。ご利用のお客様においては、速やかに退店いただきますようご協力をお願いいたします。本日は、誠にご利用ありがとうございましたー」

「……何の真似だ?」

 比喩ではなく、本当に何の真似か分からない。

 ネタが通じなかったことにショックを受けたのか、突如として俺達の前に現れた少女——秋狐こと秋城 紺は引きつったような笑みを浮かべる。

「あー……これがジェネレーションギャップ……私もそんなことを実感する番かー……」

「何しに来たんだよ秋城?」

「私だって配信者なんだから秋狐って呼んで欲しいな?ネットリテラシー。ネットリテラシーだよ」

 本名で呼ばれたことが不服らしい。秋狐はふわりとタイルの上に着地して、うんと大きく背伸びした。

 相も変わらず中身の見えない少女だ。

「いや、ちょっと暇だったから顔出しただけ」

「道音が前にお前は忙しいから……みたいなこと言ってたけど」

「そうなの?」

 はて、と言った仕草で腕を組んで首を傾げる秋狐。彼女の視線が向かう先は、ばつが悪そうに目を逸らす道音だ。

「……自由奔放で目を離したらどっかに消えてるとか言えないでしょ」

「あー!私の事そんな風に思ってたの!?傷つくなあ……がっくし」

「そんな話は良いから。コラボ配信の予定じゃなかったよね、今日は」

 露骨に項垂れた態度を作る秋狐を、呆れた様子で睨む道音。やがて彼女の視線に怯えるようにして、秋狐はひょこっと身体を起こした。

「う、あー……。うん、確かストー君?さん?ちゃん?」

「ちゃんは絶対違うでしょ」

「まあどれでもいいか。あの武闘家のブの字もない機械人間との決戦を控えてるでしょ?」

「間違ってはないけどもう少し言い方考えなよ」

 デリカシーのない物言いをさすがに看過できなかったようで道音は呆れた声で咎める。

 俺やホズミ、noiseにとっても過去に関わったことのあるストー兄ちゃんに対し、そんな物言いをされてはいい気はしない。

 だが、秋狐はあまり反省する気はないようだ。小さく舌を出した後、足を投げ出すような歩き方でスーパーの中を闊歩する。

「ストー君と、秋狐こと私。二つの配信を終えた時、君達は次のステージに進むことが出来る」

「次の?」

「そ、もう残っているのは答え合わせだけだよ。ね、勇者パーティのリーダー、セイレイ君」

「……なんだよ?」

 くるりと飛び跳ねるように秋狐は俺の方を見る。覗く表情が真剣なものだから、思わず俺は身じろぎしてしまった。

「瀬川 沙羅……君のお姉さんの話をしよっか。有紀ちゃんとは違う、本物のお姉ちゃんのことね?」

「念押ししなくても分かってるよ……」

 今は有紀のことは”姉ちゃん”と呼んでいない。なので今更意識する理由もないのだが、わざとらしく秋狐はその話に触れた。

 多分からかいたいだけだと思う。

「というか、ディルと言い何でお前ら運営サイドは姉貴の名前を知ってるんだよ。俺、配信内で言ったっけか?」

 次の瞬間、秋狐はさらりと言い放った。


「や、そりゃSympassの管理者だもんっ」

「Sympassの……は?今なんて言った?」

 あまりにもあっさりと、何のためらいもなく放った事実に目を丸くする。

 俺の反応に、逆に秋狐はきょとんとした表情を浮かべた。

「えっ、利用規約に書いてるよね」

『……ちょっと待って』

 話に割って入るようにして、ドローンのスピーカーからnoiseがパソコンを操作する音が響く。それからしばらくして、ドローンのホログラム内にSympassの利用規約が映し出された。

 そんな機能があったのも初耳だが、今回は都合が良い。

 明らかに難しい単語がつらつらと並んでいるが、その中の”本サービスの提供者”という欄に注目する。

 ”本サービスは、瀬川 沙羅を代表として提供しております。”——との文面が、明確に記されていた。

『ほんとだ……』

「まあ見ない人の方が多いよね。私はたまたま運営権限に関与してるから目を通しただけだし」

 気付こうと思えばいつでも気付くことの出来た真実。間違いなく、核心に近づくための大切な情報なのだが今は気づくことの出来なかった虚しさの方が大きい。

「……」

「……」

 ちらりと視線を送れば、同様に運営権限を持っていたディルと道音はバツが悪そうに秋狐から目を逸らしていた。おい。

 そこで、ホズミは恐る恐ると言った様子で秋狐に尋ねる。

「……あの、秋狐さん」

「ん?どうしたのホズさん?」

「あ、サインくださ……じゃなくて。ええと、Sympassの管理者がセイレイ君のお姉さんってことについて聞きたいんですけど」

 さらりと場違いな発言を零しそうになっていたが、とりあえず聞かないことにした。

 今までの情報を統合してみる。

 まず、Sympassをリリースするタイミングは、魔王セージこと千戸に託されていた。ということは、魔災前に既にそのSympassのプログラムは完成していたということだ。

「あの。瀬川 沙羅さんって、結局どんな人か知っていますか?会ったこともないからイメージがつかなくて……」

「んー。私も数えるほどしか話したことないからあんまり確かなことは言えないよ?」

「それでもいいです」

 ホズミがそう言って深々と頭を下げる。

 秋狐はどこか躊躇いを見せるように顎に手を当てた後、どこか納得したように両手を叩いた。

「まあ、簡潔に言うと”天才”かなっ。幼くして”ホログラムの実体化”技術を完成させた人物だし」

「姉貴が?」

「うん。それに引き換え、肝心の弟はどうしてこんなに馬鹿なのか……」

「思っても本人を目の前にして言うなよ」

 憐れむような視線を受けて、思わずそう突っ込まざるを得なかった。


 しかし、実の姉貴のことだというのに俺は何も知らないのか。

 血が繋がっているはずなのに、どこか遠い人物のことを聞いているような気分だった。


 馬鹿と天才は紙一重だというが、こうもその紙一重が遠い存在のように感じるとは思わなかった。

 ホログラムの実体化が、魔災の原因の一環になっていると知った姉貴は、一体何を思っているのか。

 どうして、俺の前から姿をくらませたのか。

 また、進まなければならない理由が一つ増えたように感じた。


To Be Continued……

【開放スキル一覧】

・セイレイ:

 青:五秒間跳躍力倍加

 緑:自動回復

 黄:雷纏

・ホズミ

 青:煙幕

 緑:障壁展開

 黄:身体能力強化

・noise

 青:影移動

 緑:金色の盾

 黄:光纏

 赤:????

・クウリ

 青:浮遊

 緑:衝風

 黄:風纏

・ディル

 青:呪縛

 緑:闇の衣

 黄:闇纏

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