【第九十五話(1)】一つ上へ(前編)
【登場人物一覧】
・瀬川 怜輝
配信名:セイレイ
役職:勇者
世界に影響を及ぼすインフルエンサー。
他人を理解することを諦めない、希望の種。
・前園 穂澄
配信名:ホズミ
役職:魔法使い
瀬川 怜輝の幼馴染として、強い恋情を抱く。
秋狐の熱心なファンでもある。
・一ノ瀬 有紀
配信名:noise
役職:盗賊
男性だった頃の記憶を胸に、女性として生きている。
完璧そうに見えて、結構ボロが多い。
・青菜 空莉
配信名:クウリ
役職:戦士
心穏やかな少年。あまり目立たないが、様々な面から味方のサポートという役割を担っている。
・雨天 水萌
元四天王の少女。健気な部分を持ち、ひたむきに他人と向き合い続ける。
案外撫でられることに弱い。
・another
金色のカブトムシの中に男性の頃の一ノ瀬 有紀のデータがバックアップされた存在。
毅然とした性格で、他人に怖い印象を与えがち。
・ディル
役職:僧侶
瀬川 沙羅の情報をベースに、ホログラムの実体化実験によって生み出された作られた命。詭弁塗れの言葉の中に、どこに真実が紛れているのだろうか。
・船出 道音
元Relive配信を謳っていた少女。過去に執着していたが、セイレイに希望を見出したことにより味方となる。やや気が強い。
・秋城 紺
配信名:秋狐
セイレイ達より前にLive配信を歌っていた少女。運営権限を持ち、世界の真相に近い存在でもあるようだ。
スパチャ支援額の上限の解放。
前回は魔王セージこと千戸 誠司が魔災の真相を告げる際に行った”全世界生中継”の後に表示されたシステムメッセージ。
つまり、世界が真実に近づけば近づくのに連なってスパチャの支援額も同様に増加するようだ。
それと同時にセイレイ達”勇者一行”に求められるのは、世界を救うに相応しい英雄の姿だった。
[お前らだけが、世界を取り戻せるんだろ。だったら託すよ 10000円]
[絶対負けるなよ 10000円]
[ごめん。応援したいのはやまやまだけどもう貯金が厳しい 3000円]
[いえ、気にしないでくださいっ。コメントをくれるだけでも私達の希望ですっ]
[雨天ちゃんの言うとおりだね。私達は情報支援の役割を徹底しよう]
[ありがとう]
『準備は良いか?……サポートスキル”光源開放”』
配信ナビゲーターの役割を担うnoiseがそう宣告するのに連なって、二度と電灯が付くはずのなかったスーパーマーケットの蛍光灯に電気が通る。
白いライトに照らされて、徐々に土埃に覆われてかつての姿を失った店舗の姿が露わとなった。
二度と動くことのない、そこに佇むだけのエスカレーター。
ゲームセンターに配置された機械のモニターは大きくひび割れ、二度と稼働することはない。逃げ込んだ人々により荒らされたのか、クレーンゲーム等の景品のあった機体は特に大きく破壊されていた。
荒らされているのは生活用品店も例外ではない。乱雑に転がったキッチン用具などが派手に地面に撒き散らかされていた。
そんな瓦礫と、残骸に満ちた通路の中を俺達は慎重に進む。
「支援額の上限が増えた……ってことは、それだけ私達の戦いに求められるものも高水準になるってことだよね」
「……ああ」
ドローンの隣を歩くホズミはそう釘を刺す。
言われなくても理解している。だが、ホズミが改めてそう言うことで、俺達の気はより一層引き締まった。
「あはっ。ビビりすぎ―。大丈夫だって、セイレイ君が死ななければ何度でも蘇るからさっ、あははっ」
ディルは何の緊張感もなく大きな欠伸をした。クウリはそんなディルに対し、冷ややかに咎めるように語り掛ける。
「そんな死ぬ、なんて簡単に言わないでよ。誰も目の前で誰も死んでほしくないよ」
「相変わらず戦士クンはチキンだねー。コケコーっ!あははっ。ま、安心しなよ。最低限空気は読むからさ、要は窮地にさえ陥らなければいいんでしょー?ほら、今なら進めるよ」
そう言って呑気にディルが指差した場所は、瓦礫の中に囲まれた一点だった。だが、その周囲にはオーガ……とでも言うのだろうか。筋骨隆々の体躯をした一本角の生えた鬼がウロウロとしている。その手に持っているのは、蛍光灯の光に照らされた棘の付いた棍棒だ。
どうやら、突然ついた電灯に対し驚きを隠すことが出来ていないようで念入りに周囲を警戒している。
「いや、魔物いるじゃん。見えないの?」
「いるねー?でも行けるよ、ほら」
ディルは何の躊躇もなくオーガがうろつく空間の中に身を低くして踊り出す。
「あっ」とクウリは思わず声を上げ、それから魔物にみつかることを恐れて慌てて両手で自身の口を覆う。
しかし、幸いにもディルはオーガにバレなかったようだ。
——ように見えただけ、だが。
「よっ……と」
オーガはその体格が故に視点が高い。その足元を潜り抜けるようにディルは早々に敵の死角である瓦礫へと隠れた。
ディルはニヤニヤと挑発するような笑みを浮かべながら、俺達を手招きする。
ホズミは呆れたようにため息を吐く。
「……無茶苦茶だよ。ディルは……」
「だな。俺達は慎重に行こう」
「うん」
俺達はディル程命知らずではない。念には念を重ね、慎重に死角を縫うように移動することにした。
そんな最中、一体のオーガが不審な動きをしているのが目に留まる。
ディルが隠れている瓦礫の方をしきりに気にしているような、そんな気が——。
次の瞬間、俺は思わず叫んでいた。
「おい、ディル!!避けろ!!」
「は?……あっ、スパチャブースト”緑”っ」
[ディル:闇の衣]
俺の言葉の意図を瞬時に悟ったディルは間一髪で宣告。瞬く間に、ディルを覆うように漆黒のマントが顕現する。
それと同時に、オーガが振るう棍棒の一撃がディルを瓦礫ごと大きく薙ぎ払った。
気づかないふりをしているだけだった。
あまりにも単純明快なトラップに、見事に俺達は引っかかったのだ。
「……っとと……さすがにそこまで馬鹿じゃないか」
ダメージは全てディルが放った”闇の衣”により吸収。大きく吹き飛んだディルは空中で体勢を立て直し、すたりと着地した。
ディルの靴底が地面についた瞬間を以て、役割を終えた漆黒のマントはぼろきれのように虚空へと溶けていく。
困ったようにため息を零し、それからディルは右手に力を籠める。すると彼の右手へと集うように光の粒子が集まっていき、やがてそれはチャクラムを生み出した。
「……相手の方が一枚上手だったな」
「だね。正直舐めてた」
人差し指で遊ぶようにチャクラムを振り回すディルの隣に並ぶ。ディルはどこか恥ずかしそうに苦笑いを零しながら、しかし低く姿勢を取って戦闘態勢を作る。
そんな彼を真似るように、俺は右手に力を籠める。
徐々にむず痒い感覚と共に、光の粒子が俺の右手に集まっていく。それは徐々に剣の形を作り上げ、気付いた時には白銀の刀身を持つファルシオンが顕現していた。
ファルシオンの切っ先を、オーガのシルエットに重ねる。正中線に沿うように、どの方向に重心が傾いているのかを把握するように。
俺達と対峙するように、オーガの群れが徐々に集まってくる。その体躯はゆうに3mは超えるだろう。スーパーの天井を擦りそうなほど大きな図体が、俺達を見降ろす。
『観測できる範囲で5体。恐らく、力で押してくるタイプだろう。主に魔法使い・僧侶のスキルで敵の攻撃を阻止。隙を伺って勇者・戦士は攻撃に移行するんだ』
後方に浮かび上がるドローンのスピーカーを介して、noiseはそう指示した。
気づけばクウリとホズミも俺達の元へ合流し、各々の得物を手に取っている。
刹那の膠着の後、俺は先陣を切るように宣告。
「スパチャブースト”青”っ!!」
[セイレイ:五秒間跳躍力倍加]
次の瞬間、淡く、青い光が俺の両足を纏う。それを確認した後、オーガが完全に迎撃体制に移行する前にオーガの足元の間を潜り抜ける。
『ちょっとセイレイ!?先走っちゃだめだよ!?』
noiseが困惑する声がドローンから響くが、無視して敵を攪乱させることに専念する。
「はあああっ!!」
敵の間を潜り抜けながら、隙を縫ってファルシオンを振り抜く。
「ゴアアアアッ!!」
「……っと!」
足元に傷をつけられたオーガは苛立った様子で、俺を叩き潰そうと棍棒を振り下ろす。一発でも直撃すれば死に至らしめるであろうその一撃。
——だが、もう何度も見てきた。
無茶をするのは勇者の務めだ。
「当ててみろよっ!!」
『あああああああもう……!!』
無数に襲い掛かる棍棒の連撃を、俺は反射神経に身を任せて回避する。右から左、上から下。
崩落する瓦礫が攻撃の余波となって襲い掛かる。
そして、そんな無謀を繰り返す俺の隣に立つのは魔法使いであるホズミだ。両手を前に突き出しながら、彼女は甲高い声で宣告する。
「任せて!!スパチャブースト”緑”っ!!」
[ホズミ:障壁展開]
次の瞬間、ホズミを中心として淡い緑色の障壁が、俺達を覆っていく。覆った障壁が、オーガの振るう一撃を受け止める。
「今だっ!!」
動きに隙が出来たオーガへと、大鎌を構えたクウリが斬りかかる。
「ホズちゃんナイスっ」
大降りに薙ぐ一撃がオーガの下腿を大きく抉る。
「グガッ……!!」
苦悶の声を漏らしながら、けれども即座に対応することが出来ずにオーガはされるがままとなる。
そんなクウリを叩き潰そうと、違うオーガが彼へと襲い掛かっていた。
「クウリ君!!」
「見えてるよっ。スパチャブースト”青”」
[クウリ:浮遊]
クウリはその振り下ろし攻撃を回避しつつ、素早く宣告。それと同時に、隠し持っていた砂袋を撒き散らす。
「ガッ……」
ものの見事に空中に停滞した砂が目に入ったオーガは、苦悶の声と共に顔を覆った。
悶え苦しむオーガへと視線を送りながら、クウリはにこりと微笑む。
「スキルはどんな機能があるか、じゃなくてどう使えるかだよ、ねっ」
「さすがだよ、クウリ」
異なる視点を持ったクウリは改めて大鎌を構え直す。
度重なる連携の伴った連撃に、徐々にオーガは警戒の色を見せる。
ホズミはすぐに大きく後退し、杖のくぼみの中に大きな魔石をセット。
杖の照準をオーガの群れへと向けて、彼女は叫ぶ。
「今だ、放てっ!!!!」
[ホズミ:炎爆]
その叫び声と共にホズミの杖先から放たれるのは巨大な炎の弾。それが、オーガの群れの中心へと入り込む。
次の瞬間。
赤熱の爆風が、世界を覆いつくした。
舞い上がる土煙が、ダンジョン内を覆いつくす。
音が聞こえるのか、聞こえていないのか分からない。ただ甲高い耳鳴りの音が、俺を取り巻く世界を覆いつくした。
視界の端ではクウリとディルが間一髪で瓦礫の影に隠れる姿が映る。
爆炎の中心付近にいたオーガの身体が、瞬く間に灰燼となっていく。
吹き飛ばされたオーガは、啞然とした表情でホズミを見ている。
「……すごっ」
ホズミもホズミで、自身が放った魔法の威力が信じられなかったようで茫然と持った杖を見降ろしていた。
炎爆に消費した使用額は、10000円。
To Be Continued……
前書きも後書きも情報量がえぐい。
総支援額:51500円
[スパチャブースト消費額]
青:500円
緑:3000円
黄:20000円
【ダンジョン配信メンバー一覧】
①セイレイ
青:五秒間跳躍力倍加
両脚に淡く、青い光を纏い高く跳躍する。一度に距離を縮めることに活用する他、蹴り技に転用することも可能。
緑:自動回復
全身を緑色の光が覆う。死亡状態からの復活が可能である他、その手に触れたものにも同様の効果を付与する。
黄:雷纏
全身を青白い雷が纏う。攻撃力・移動速度が大幅に向上する他、攻撃に雷属性を付与する。
②クウリ
青:浮遊
特定のアイテム等を空中に留めることができる。人間は対象外。
緑:衝風
クウリを中心に、大きく風を舞い上げる。相手を吹き飛ばしたり、浮遊と合わせて広範囲攻撃に転用することも出来る。
黄:風纏
クウリの全身を吹き荒ぶ風が纏う。そのまま敵を攻撃すると、大きく吹き飛ばすことが可能。
③ディル
青:呪縛
指先から漆黒の鎖を放つ。鎖が直撃した相手の動きを拘束する。
緑:闇の衣
ディルを纏う形で、漆黒のマントが生み出される。受けるダメージを肩代わりする効果を持つ。
黄:闇纏
背中から漆黒の翼を生やす。飛翔能力を有し、翼から羽の弾丸を放つことが出来る。
④ホズミ
青:煙幕
ホズミを中心に、灰色の煙幕を張る。相手の視界を奪うことが出来るが、味方の視界をも奪うというデメリットを持つ。
緑:障壁展開
ホズミを中心に、緑色の障壁を張る。強固なバリアであるが、近くに味方がいる時にしか恩恵にあやかることが出来ない為、使用には注意が必要。
黄:身体能力強化
一時的にホズミの身体能力が強化される。攻撃力・移動能力・防御力が大幅に上昇する他、魔法も変化する。
魔法
:炎弾
ホズミの持つ両手杖から鋭い矢の如き炎を打ち出す。
一度の炎弾で3000円と魔石一つを使用する。火力は高いが、無駄遣いは出来ない。
:炎爆
杖先から放たれた炎弾が、激しい爆風を生み出す。
炎弾の純粋な強化版。魔石(大)1つと10000円を消費する。
:マグマの杖(身体能力強化時のみ使用可)
地面に突き立てた杖から、マグマの奔流が襲いかかる。ホズミの意思で操作可能。
一度の使用で10000円と魔石一つを使用する。高火力であるが、スパチャブーストの使用が前提であり、コストが高い。
:氷弾
青色の杖に持ち替えた際に使用可能。氷の礫を射出し、直撃した部分から相手を凍らせることが出来る。
炎弾と同様に、3000円と魔石一つを使用。
:氷壁
氷塊を射出し、直撃した部分に巨大な氷の壁を生み出す。死角を作り出す効果がある他、地面を凍らせることにより足場を奪うことも出来る。
魔石(大)一つと、10000円を消費する。
ドローン操作:一ノ瀬 有紀
[サポートスキル一覧]
・斬撃
・影縫い
・光源解放
[アカウント権限貸与]
①雨天︎︎ 水萌
・消費額20000円
・純水の障壁
・クラーケンによる触手攻撃
②船出 道音
・ワイヤーフックを駆使した立体的な軌道から繰り広げられる斬撃