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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
⑦ターミナル・ステーション・ダンジョン編
199/322

【第九十四話(2)】隠し仕様(後編)

【登場人物一覧】

瀬川(せがわ) 怜輝(れいき)

配信名:セイレイ

役職:勇者

世界に影響を及ぼすインフルエンサー。

他人を理解することを諦めない、希望の種。

前園(まえぞの) 穂澄(ほずみ)

配信名:ホズミ

役職:魔法使い

瀬川 怜輝の幼馴染として、強い恋情を抱く。

秋狐の熱心なファンでもある。

一ノ瀬 有紀(いちのせ ゆき)

配信名:noise

役職:盗賊

男性だった頃の記憶を胸に、女性として生きている。

完璧そうに見えて、結構ボロが多い。

青菜 空莉(あおな くうり)

配信名:クウリ

役職:戦士

心穏やかな少年。あまり目立たないが、様々な面から味方のサポートという役割を担っている。

雨天 水萌(うてん みなも)

元四天王の少女。健気な部分を持ち、ひたむきに他人と向き合い続ける。

案外撫でられることに弱い。

・another

金色のカブトムシの中に男性の頃の一ノ瀬 有紀のデータがバックアップされた存在。

毅然とした性格で、他人に怖い印象を与えがち。

・ディル

役職:僧侶

瀬川 沙羅の情報をベースに、ホログラムの実体化実験によって生み出された作られた命。詭弁塗れの言葉の中に、どこに真実が紛れているのだろうか。

船出 道音(ふなで みちね)

元Relive配信を謳っていた少女。過去に執着していたが、セイレイに希望を見出したことにより味方となる。やや気が強い。

・秋城 紺

配信名:秋狐

セイレイ達より前にLive配信を歌っていた少女。運営権限を持ち、世界の真相に近い存在でもあるようだ。

「なぁにー。もー、せっかく良い所まで読んだのにさあ……空気読んでよ。そんな何度も話すことなんてないでしょ」

 ぶつくさと不貞腐れた様子で文句を言っているディル。彼が協調性を乱すのはいつものことなので、もはや全員ディルの言葉は無視するのがお決まりとなっていた。

 無視されたことに更にディルは不満そうに口を尖らせたが、今は正直どっちでも良いことだ。

 全員集まったことを確認し、穂澄は場を取り仕切るように辺りを見渡す。

「ごめんね。また集まって貰って」

「ほずっち、何か気付いたんだね?」

「うん、道音ちゃんも来てくれてありがと」

 道音はじっと穂澄の目を見てそう確かめる。いつの間にか二人は親しくなったようで、お互いに親しみを込めた呼び名になっていた。

 ノートパソコンを開き、流れるようなタイピングで操作。忙しなく移り変わるモニターの画面に、俺達は着いていくことが出来ない。

 やがてそのモニター画面が最終的に映し出したのは、過去に俺達勇者一行がRelive配信を謳っていた船出 道音と初めて対峙した時のアーカイブだった。


 シークバーを操作し、映し出されたのはディルが放った無数の”浄化の光”を受けても傷一つ追わなかった二人の姿だ。

『あは♪死ぬわけないじゃんこんなのでーっ、私達を舐めてんの?』


 明らかに道音が「うわ」とか引きつった笑いを浮かべた。どうやら、キャラ作りをしていたことを黒歴史と捉えているようだ。

「あ、このシーンね。ストーの身体はね、遠距離攻撃に強いんだよ。だからまがい物君のスキルは通用しなかった」

 さらりと重要な情報を話す道音。それもそれで大切な情報だが、穂澄が気にしているのはそこではないようだ。


 ”自動回復”で蘇生した俺がディルと合流するシーンで、穂澄は停止ボタンを操作する。

「ここの次のシーンで、ストーさんは”CORE GUN”ってスキルを放つの」

 そう言って、再び動画再生をする。ストーが放った銃弾が俺の足元を掠める映像を映し出す。

 映像の中には、生前のライト先生も映し出されており複雑な心境になる。有紀も同じ事を考えているのか、何度も場違いな感情を押し殺すように首を横に振っていた。

 ……まあ、簡単に割り切れる問題じゃないよな。

 だが、話の中心はそこではないと思い直し、穂澄の続く言葉を待つ。

「ね。セイレイ君……ストーさんのスキルは、セイレイ君に当たらなかったよね」

「ん、ああ……でも、それが?」

「この次のシーンでストーさんは”千紫万紅”を放つ」

 穂澄は再びシークバーを操作。画面内の俺達の姿が早送りで流れていく。

 そして、ストー兄ちゃんがスキルを放つところで再度動画を再生。


 映し出されるのは、固まった俺達に向けて放たれる無数の熱光線。

 夥しく襲いかかる熱光線から抉れた瓦礫が襲いかかり、ディルが懸命に俺達を守る図が映し出される。

「あー、懐かしいね。柄にもなく必死になった時のだね」

 ディルとしては、あまり本心をひけらかしたくないのだろう。気まずそうに頬を掻いて、画面から目を逸らしていた。

 それでも何か一つ文句でも言わないと気が済まないのか、ぽつりとディルは小言を漏らす。

「にしてもストー君もノーコンだね。あんだけ僕達が固まってるのに一発も当てられないのダサすぎでしょ」

「そこ。そこだよディル」

 穂澄が返した言葉に、ディルは明らかに目を丸くした。姿勢を正して、まっすぐに穂澄の目を見る。

「ん?え、まさかそれが仕様だとでも言う気?あまりにも欠陥過ぎない?」

「でも。そうじゃないと割に合わないよね?ディルのスキルと、ストーさんのスキル。あまりにも差がありすぎる」

「いや、確かにそうか……確かに、スキルでのダメージは一つも無かった。瓦礫は飛んできたけどね」

 自分に言い聞かせるように、ぶつぶつとディルは言葉を繰り返す。

 穂澄の言わんとしていることは何となく理解できた。

「でも、その一回しか俺らはストー兄ちゃんのスキルを見ていないから決めつけるのは早計だと思うが」

「分かってる。だから、あくまでも可能性の一つとして留めておいて欲しい」

 もしその憶測通りならかなり優位に立てるだろう。

 だが、そう簡単にはいかない気もしていた。


★★★☆


 今日も今日とて、ほぼ日課となっていたダンジョン配信を開始する。

 今回の配信で攻略を目指すのは、二階構造となっている大型スーパーマーケットである。

 と言っても、二階はほとんど駐車場としての役割のみ。食品、日用品、衣服などを取り扱う店舗がそれぞれ一階に集約している形となっている。

 作戦会議の末、ダンジョン化したスーパーマーケットの潜入経路は従業員出入口から開始する方向で決まった。正面の自動ドアを開けた先は吹き抜けになっているため、四方八方から敵が襲いかかる可能性が高い。

 よって、ルートが絞られる従業員出入口から攻略するのが賢明だと判断した。

 ただ、今回のダンジョン配信には今までと異なる目的も兼ね備えている。

「……さて。しばらく、配信を介して新たなスキルの使い方を開拓していこうと思う。特に……セイレイ君」

 場を取り仕切るように、穂澄はそう語る。俺の方をじっと見ながら問いかけた。

「セイレイ君の”雷纏(らいてん)”……私達でさえも気付いていない仕様があるはず。だから、積極的に使ってみて欲しい」

「分かった」

 と言っても、使用者本人である俺が理解できていないのだから正直自信は無い。

 いつでもスキルが使える仕様だったら良いのだが、配信中にしかスキルを使う事が出来ないのはどうも勝手が悪い。


 今回の配信は有紀が控えとなり、ドローン操作の役割を担うことになった。

「現状未開拓のスキルで言えば、穂澄ちゃんの魔法スキルも不鮮明な部分が多いよ。あまり無駄遣いは出来ないけど、隙を窺って試していこっか」

「うーん。まだ完全に私達、スキル把握すらちゃんと出来てないんだなあ……」

 数多もの配信を繰り返し、幾度となく数少ないスキルでやりくりしてきたにも関わらず未だに分からないことの多いスパチャブースト。

 とりあえず、今は出来ることからやっていくしかない。

 道音と雨天はドローンの前でじっと待機しつつ、有紀の方へと視線を送る。

「ゆきっちー。また私にも出番頂戴ね?広いところなら私の力が役立つと思うよ」

「そうしたいのはやまやまだけど……セイレイ、穂澄ちゃん、みーちゃんで少なくとも6万以上飛ぶからなあ……」

「出費やば。ゲーム機買えるじゃん」

 魔災前の金銭感覚の残っている道音は引きつったような笑みを零す。指を折って何度もそのスパチャブーストで予想される出費を数えては、げんなりと項垂れる。

 確かに、ダンジョン内で時々残っていた値札では”298円”だか”1098円”だかという表記をよく見た。

 そんな値段をゆうに超える使用額のスキルを多用している俺達の合計出費額というのは、かなり恐ろしいことになっているのだろう。

「だからあんまり無駄遣いできないのよね。大切に使っていこう」

「ちぇー……ま、仕方ないか」

 口を尖らせながらも道音はうんと大きく身体を伸ばしてストレッチを始めた。

 彼女の動きを真似るように、雨天も大きく身体を伸ばす。雨天に関しては戦闘中にそれほど大きく動くこともない分、不必要なんだけどな。

 配信前の軽い作戦会議も終えた俺達は、改めて駐車場出入り口のガラスドアへと手を伸ばす。もう二度と自動ドアとして機能することのない、その扉を。

 俺達の後ろに、有紀――noiseが操作するドローンがフワリと浮かび上がる。

「さて。セイレイ……始めるぞ」

 既に配信者モードとなったnoiseは低い声音でそう告げた。


 何度配信を繰り返しても慣れることのないこの緊張感。

 だが、この心の底に渦巻く緊張感が、俺に勇気をくれる。

「さあ。始めるぞ――Live配信の時間だ」

 今日も、配信者ランキング一位の”勇者パーティ”はダンジョン配信を始める。


 noiseがドローンを操作するのに連なって、道音と雨天の姿が光の粒子となり、ドローンの中に吸い込まれていく。

 流れるようにホログラムとして刻まれるコメント欄が、ドローンのモニターを介して表示。コメント欄下部には、”45500円”の文字が表示されていた。

[information

スパチャ支援額上限が解放されました。

3000円 → 10000円]

 また、戦いのステージが一つ上がる。


To Be Continued……

総支援額:45500円

[スパチャブースト消費額]

 青:500円

 緑:3000円

 黄:20000円

【ダンジョン配信メンバー一覧】

①セイレイ

 青:五秒間跳躍力倍加

 両脚に淡く、青い光を纏い高く跳躍する。一度に距離を縮めることに活用する他、蹴り技に転用することも可能。

 緑:自動回復

 全身を緑色の光が覆う。死亡状態からの復活が可能である他、その手に触れたものにも同様の効果を付与する。

 黄:雷纏

 全身を青白い雷が纏う。攻撃力・移動速度が大幅に向上する他、攻撃に雷属性を付与する。

②クウリ

 青:浮遊

 特定のアイテム等を空中に留めることができる。人間は対象外。

 緑:衝風

クウリを中心に、大きく風を舞い上げる。相手を吹き飛ばしたり、浮遊と合わせて広範囲攻撃に転用することも出来る。

 黄:風纏

クウリの全身を吹き荒ぶ風が纏う。そのまま敵を攻撃すると、大きく吹き飛ばすことが可能。

③ホズミ

 青:煙幕

 ホズミを中心に、灰色の煙幕を張る。相手の視界を奪うことが出来るが、味方の視界をも奪うというデメリットを持つ。

 緑:障壁展開

 ホズミを中心に、緑色の障壁を張る。強固なバリアであるが、近くに味方がいる時にしか恩恵にあやかることが出来ない為、使用には注意が必要。

 黄:身体能力強化

 一時的にホズミの身体能力が強化される。攻撃力・移動能力・防御力が大幅に上昇する他、魔法も変化する。

魔法

 :炎弾

 ホズミの持つ両手杖から鋭い矢の如き炎を打ち出す。

 一度の炎弾で3000円と魔石一つを使用する。火力は高いが、無駄遣いは出来ない。

 :マグマの杖(身体能力強化時のみ使用可)

 地面に突き立てた杖から、マグマの奔流が襲いかかる。ホズミの意思で操作可能。

 一度の使用で10000円と魔石一つを使用する。高火力であるが、スパチャブーストの使用が前提であり、コストが高い。

 :氷弾

 青色の杖に持ち替えた際に使用可能。氷の礫を射出し、直撃した部分から相手を凍らせることが出来る。

 炎弾と同様に、3000円と魔石一つを使用。

 :氷壁

 氷塊を射出し、直撃した部分に巨大な氷の壁を生み出す。死角を作り出す効果がある他、地面を凍らせることにより足場を奪うことも出来る。

 魔石(大)一つと、10000円を消費する。

④ディル

 青:呪縛

 指先から漆黒の鎖を放つ。鎖が直撃した相手の動きを拘束する。

 緑:闇の衣

 ディルを纏う形で、漆黒のマントが生み出される。受けるダメージを肩代わりする効果を持つ。

 黄:闇纏

 背中から漆黒の翼を生やす。飛翔能力を有し、翼から羽の弾丸を放つことが出来る。

ドローン操作:一ノ瀬 有紀

[サポートスキル一覧]

・斬撃

・影縫い

・光源解放

[アカウント権限貸与]

:雨天︎︎水萌

・消費額20000円

・純水の障壁

・クラーケンによる触手攻撃

:船出︎︎道音

・ワイヤーフックを駆使した立体的な軌道から繰り広げられる斬撃

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