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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
⑦ターミナル・ステーション・ダンジョン編
196/322

【第七章】序幕

  小さい頃の思い出だ。

 格闘家の家系に生まれた俺は、物心ついた時から格闘技術を叩き込まれていた。

 殴られれば痛いし、「こんなことが何の役に立つんだろう」って何度も思った。

 沢山試合にも出た。沢山技術を学んだ。

 技術が身に付く度、徐々に自分には自信がついて行くことは嬉しかった。


 けれど、それと反対にこうも思っていた。


「自分は、周りの同級生とは対等になることが出来ない」と。


 ジムに行けば、自分と同年代の子供と関わることが出来る。

 だけど、学校だとそうはいかない。

 喧嘩はご法度だし、どこか皆からも距離を置かれているような気さえした。

 力を持つものの宿命だ。

 常に他者に対して優位を取ることが出来る力を持っているからこそ、誰も自分に逆らえない。対等になることが出来ない。

 言わば無防備な相手に対し、俺だけが銃を持っているような状態だ。

 「いつ、どんなことで相手に撃たれるか分からない」という恐怖があるのだろう。皆、自分に怯えていた。あるいは、俺をはやし立てて取り入ろうとする輩さえいた。


 そんな良いも悪いも、何もかもを魔災は飲み込んだ。

 何もかも、”なかったこと”にしていった。


 俺が散々、使い方に迷っていた格闘技術など、何の意味も持ち合わせていなかったんだ。

 ……けれど。そんな技術に、使い方を見出した人が居た。

「あと、須藤。私としてはお前も推奨したいんだが」

 そう、一ノ瀬 有紀は提案した。

 ダンジョン攻略に俺の技術が役立つなど、微塵にも考えたことが無かったから正直嬉しかった。


 認められた気さえした。

 自分の存在、自分の価値を見出してくれる人がいることがこれほどまでに嬉しいことだとは思わなかった。


——そんな、俺を認めてくれた人達を、俺は裏切ったんだ。

 ”それが皆の為になる”……そう思い込んで。


----


「……正しい、って何だろうな」

 船出も居なくなり、俺の周りからは皆離れていった。皆、未来を描くことを選んだ。

 なのに、俺は進めないまま。


 そんな答えのない葛藤に心を蝕まれている最中、俺の前に一人の少女が降り立った。

「……ずいぶんと、悩んでるみたいだね。武闘家ストー君」

「君は……秋狐さん、か。最初の頃に出ただけなのによく覚えてるね」

「古参ファンですからっ」

 セイレイ君達より前に希望を歌っていた、Live配信の秋狐は得意げに胸を反らす。

 何の接点もないはずの俺に何の用なのだろうか。訳も分からず彼女の続く言葉を待つ。

 だが秋狐も何から話せばいいのか分かっていないのか、「あー」とか「ん-」とか首を傾げて何度も唸っていた。

 やがて話す内容が纏まったのだろう。ずいと俺へと顔を近づけて話し始める。

「えっとっ。ストー君は道音ちゃんから運営権限を貰ったって聞いたよっ」

「まあ。貰ったけどさ……それが?」

「運営権限を持つものは、世界の前提を書き換える力を持つことが出来るって……聞いた?」

 前提。

 セイレイ君の配信で幾度となく聞いたその言葉だ。だけど、未だにそれに関する話は完全に理解できていない。

 船出から受け取った運営権限も、使い方が分からなければ宝の持ち腐れだ。

 戸惑っているのを見抜かれたのだろう。秋狐は困ったように苦笑を漏らした。

「あちゃー……道音ちゃん、そこを伝えるの忘れてたな―?あのメンヘラ君に次いで運営権限を使ってたんだから、そこちゃんと伝えていかないと駄目なのに―っ」

「なあ、秋狐さん。運営権限は、一体何の為に存在する?というか、Sympassって何だ?」

「ん?あー……そうだね。ストー君に教えておこっか」

「……?」

 秋狐は大きな欠伸をして、気の抜けた口調のままとんでもない事実を発した。


「Sympassはね?セイレイ君の為に生まれたサイトだよ。たった一人の我が儘から、生まれたものなんだ。私達運営は、その我が儘の為にセイレイ君に協力しているだけなの」

「……え?」

「馬鹿と天才は紙一重……ってね?ある天才の我が儘が、世界を大きく壊しただけ。ヒューマンエラーじゃないよ、紛れもない人災だよ」

 馬鹿げた話を淡々とする秋狐。

 本当に、全てがセイレイ君の為……?魔災により世界が崩壊したことも、魔王が発動させた桜の木々を使った世界の侵食も。全ては、セイレイ君の為に?

 意味が分からない話だ。セイレイ君は、きっとそんなことを望まない。

「全ては、たった一つのプロローグの為……確か、ディル君はそう言っていたな」

「うん。プロローグというのは、全ての始まりの存在であるセイレイ君のことだね」

「……そんな、馬鹿な話があるのか」

「道音ちゃん、本当に何も教えてなかったんだなー……。まあ、『どうでもいい』って配信で言ってたし、興味なかったのかもね」

 秋狐は自己完結したようにうんうんと頷く。

 この少女の言うことについていく事が出来ない。

 そんな俺を余所に、秋狐は話を続けた。

「セイレイ君の力になるようにサポートすること。それがSympass運営としての役割だよ。それを可能にするのが運営権限」

「……なあ。そのSympassを生み出したきっかけの、一人の天才って……何者なんだ?」

「あー。そうだね、もう知っちゃっても良いけど、セイレイ君には内緒だよ?目的が達成されなくなるかも知れないから」

「……」

 秋狐の口ぶりから推測できる人物には、おおよそ心当たりがある。

 答え合わせをするかのように、秋狐はその人物の名を告げた。


「セイレイ君のお姉さん……瀬川 沙羅。彼女が、Sympassの管理者なの。セイレイ君に対する我が儘の為だけに、世界を大きく書き換えた張本人なの」


 また、正しさで悩む日々が始まる。


To Be Continued……

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