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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
⑥思い出の学び舎編
192/322

【第九十一話(2)】書き換えの先に(後編)

【登場人物一覧】

瀬川(せがわ) 怜輝(れいき)

配信名:セイレイ

役職:勇者

世界に影響を及ぼすインフルエンサー。

他人を理解することを諦めない、希望の種。

前園(まえぞの) 穂澄(ほずみ)

配信名:ホズミ

役職:魔法使い

瀬川 怜輝の幼馴染として、強い恋情を抱く。

秋狐の熱心なファンでもある。

一ノ瀬 有紀(いちのせ ゆき)

配信名:noise

役職:盗賊

男性だった頃の記憶を胸に、女性として生きている。

完璧そうに見えて、結構ボロが多い。

青菜 空莉(あおな くうり)

配信名:クウリ

役職:戦士

心穏やかな少年。あまり目立たないが、様々な面から味方のサポートという役割を担っている。

雨天 水萌(うてん みなも)

元四天王の少女。健気な部分を持ち、ひたむきに他人と向き合い続ける。

案外撫でられることに弱い。

・another

金色のカブトムシの中に男性の頃の一ノ瀬 有紀のデータがバックアップされた存在。

毅然とした性格で、他人に怖い印象を与えがち。

・ディル

役職:僧侶

瀬川 沙羅の情報をベースに、ホログラムの実体化実験によって生み出された作られた命。詭弁塗れの言葉の中に、どこに真実が紛れているのだろうか。

船出 道音(ふなで みちね)

Relive配信として勇者一行と敵対する四天王。魔災以前は何の変哲もない女子高生として生きていた。

鶴山 真水(つるやま まみず)

船出が生み出した世界の中で、バックアップされたデータから復元した存在。元は魔災によって命を奪われた身である。

秋城 紺(あきしろ こん)

配信名:秋狐(しゅうこ)

勇者パーティの古参ファンにして、Live配信を歌っていた少女。

船出に殺されたとの事だが……。

 常軌を逸した、この世を大きく乱した書き換えの力。

 有紀が持つ仮説である、”魔災を無かったことにすることが出来る”という話はあまりにも荒唐無稽だ。

 だが、散々この世の常識など書き換えられてきた今、それを否定する根拠も俺は持ち合わせていなかった。

「もし。その仮説が正しければ。魔王……センセーがやろうとしているのは……」

「あんまり可能性だけで語らない方が良いけどね。世界をまっさらな状態にして、元の世界へと書き換え直そうとしているのかも」

「……そっか」

 世界を壊すことが、世界を救うことに繋がる。

 あまりにも馬鹿げた可能性の話だが、道理にかなっていた。

 世界を救う為とは言え、全人類を消し去ろうとすることが正しいこととは思えないが……。

「……まあ、あくまでも憶測の話、だよな」

「うん。その前提で皆が話をし始めたら困るから、言わなかっただけ」

「聡明な判断だよ」

 ありがと、と有紀は柔らかな笑みを零す。

 それから、「話は変わるけど」と前置きした有紀は校舎を貫く岩壁の槍に手を添えた。

「……ちょっとさ。校舎を出る前に、皆を弔いたい。真水の亡骸も、ここに残っているはずなんだ」

「分かった。皆を呼ぼう」


 それから、俺達は元の痕跡など何も残っていない塔出高校の校舎へと入ることとなった。

 死臭すらもう残っていない、薄汚れた血と、白骨化した遺体の散乱した校舎の中へと。

「うぇー……なんで、ボクまで手伝わないといけないのさ。放っておこうよ、微生物が食べてくれるはずだよ。そしたら、また世界はありのままの姿に戻るんだよ」

「つべこべ言わずに手を動かそうぜ。ほったらかしに出来ねえだろ」

「はー……ほんっとうにお利口さんだね」

 渋々といった様子で、床に散乱したガラス片やアスファルトの欠片などを纏めるディル。

 俺は同じく片づけをしている仲間達に声を掛けながら、校舎内を散策していく。


 そんな中、とある岩壁の槍にぶら下がる亡骸の前で立ち尽くす有紀と船出の姿が目に映った。

「おい、二人とも……どうした……あ」

 ぶらりと力なく垂れる白骨化した亡骸の足元には、一本の杖が転がっていた。

 その杖には、見覚えがある。と、言うか配信前に見た。

「……鶴山、か」

「真水……」

 有紀は、俺に気づくことなくぽつりと呟いた。

 船出は悲痛に顔を歪ませて、俯いたまま俺の方を向く。

「……私が、魔災に巻き込まれた時に見かけた亡骸だよ。復元データも消去されて……もう二度と、真水先輩は帰ってこない」

「……」

 何かを選ぶことは、何かを切り捨てること。

 散々配信の中で聞いてきたはずの言葉だ。だが、俺の選択によって、真水は二度と俺達の前に現れなくなった。

 改めて、自身の選択による末路を意識せざるを得なくなる。


 ——頼んだよ、瀬川君。未来を有紀に、皆に見せて欲しい。


 最後に鶴山が俺に向けて語った言葉を、きっと忘れはしない。

 俺を”勇者セイレイ”としてではなく、”瀬川 怜輝”一個人として認めた彼のことを。

 そう、弔うように俺は鶴山の亡骸へと手を伸ばす。

 俺の手が、鶴山に触れた途端。


「……っ!?」

 突然、鶴山の亡骸が光を帯び始めた。

 光の粒子が、瞬く間に白骨化した亡骸を中心に纏い始める。

「……セイレイ、何をしたの?」

 有紀は俯いていた顔を上げ、呆けた顔を俺に向けた。

 分からない。

 俺自身にも、突然起きたこの現象を理解することが出来ない。

 有紀の質問に答えることが出来ず、俺はじっとその光の粒子を見上げる。

「追憶の力……過去を呼び戻す力だ……」

 船出は、ぽつりとその言葉を呟く。

 一体、それが何を意味しているのか、俺は理解が出来ない。

 すると突然、俺の頭の中に声が響き始めた。


『瀬川 怜輝君。本当に、ありがとう。僕に未来を見せてくれて。僕達が見ることの出来なかった未来を描いてくれて』

「……俺だけの功績じゃない。仲間達の、視聴者の、皆の力だ」

 脳裏に響く声に俺は答えるが、有紀や船出にはどうやら聞こえていないようだ。

 二人はおずおずと伺うように、俺へと不安げな視線を向けている。

 だが、俺はそんな二人を無視して、じっと光の粒子を纏う亡骸を見上げた。

『そうだね。君は、誰も彼もの希望を背負って、戦いに臨んでいる。配信を介して、世界に希望を伝える存在なんだよ』

「分かってる。だからこそ、俺は勇者セイレイとして……世界に存在する」

『……本当に、責任感が強いね。でも、君は道音が描いた世界の中で望んだんじゃないかな』

「……?」

 一体、鶴山は俺に何を伝えようとしているのだろうか。

 続く言葉を待っていると、鶴山の小さく息を吐く音が聞こえた。

『本当は、君は……”勇者セイレイ”としてではなく、”瀬川 怜輝”一個人として、認められたい……って』

「……それは」

 否定できない言葉だ。

 改めて、有紀と船出の方を振り向くが二人は相も変わらず、鶴山の言葉は聞こえていないようだ。

 その反応に心のどこかで安堵する自分を自覚しながら、視線を再び戻す。

『”勇者セイレイ”……誰よりも人間らしい君は、誰よりも人間になれないんだもんね』

「……そうだな。本当に、そう思うよ」

『本当に、惜しいよ。僕が出来ることと言えば、応援くらいだから……あ、そうだ』

 次の瞬間、俺の眼前に突然光の粒子が大きく集まり始めた。

 それは、徐々にふわりと浮かび上がり、有紀の前に留まる。

『有紀。これを受け取って』

「……私に?」

 どうやら、今度は有紀に向けて語り掛けたようだ。先ほどまで話の聞こえていなかった様子の彼女は、ぎょっと目を丸くする。

 突然驚いたように目を丸くした有紀は、恐る恐るといった様子で集う光の粒子に手を伸ばす。

「——っ!?」

 すると、風船に針を刺したかのように光の粒子は大きく弾け、瞬く間に有紀を取り囲み始めた。

 彼女の周りを泳ぐように動く光の粒子は、やがて有紀の腰に携えた短剣に集っていく。

 短剣を鞘から抜くと、銀色だった刀身が徐々に光の粒子がなぞると共に金色に染め上げられていく。

『有紀は、師匠にその短剣を与えられたんだったね』

「……うん」

『僕も、そんな君の支えになりたいんだ。大好きな、一ノ瀬 有紀のね——』


 そう言うと共に、鶴山の亡骸を纏っていた光の粒子は消え去った。

 もう一度俺は亡骸に手を触れてみるが、再度光の粒子は顕現することはなかった。

「……どうしたの、二人とも。一体、何を聞いたの」

 大切そうに短剣をじっと見つめる有紀は、静かに首を横に振る。

 金色の短剣を鞘へと戻した有紀は、改めて鶴山の亡骸を見上げた。


「……ずるい。最後に、それはずるい。言い逃げだ。なんで、最後に、そんな——」

 有紀の声が震える。何度も、鼻をすする音が聞こえる。

 ついには有紀は地面に蹲り、みっともなく声を上げて泣きじゃくり始めた。

「うぁ……あああ……っ!!私も、私も……大好きだよ、大好きだった……!!」

「……ゆきっち……」

「真水……真水っ、真水っ……」

 船出は、有紀に寄り添うように肩を支える。

 きっと、何が起こったのか状況は理解できていないのだろう。何度も俺と有紀を見比べては、それでも心配そうに有紀の傍らにしゃがみこむ。

 俺はどこかその場に居てはいけない気がして、違う所へ移動することにした。


 階段を下りた先の踊り場で、俺はばったりと穂澄と出会う。

「あっ。セイレイ君、有紀さん見なかった?」

 ——セイレイ……か。

 鶴山の残した言葉のせいで、どうにも俺はその呼び方を意識せざるを得ない。


——本当は、君は……”勇者セイレイ”としてではなく、”瀬川 怜輝”一個人として、認められたい……って——。


「……有紀なら、たしか下の階に居たと思うぞ」

「ほんと?ありがとう」

 そう言って、穂澄はパタパタと階段を駆け下りていった。

 何となく、今の有紀はそっとしておいた方が良い気がして、俺は嘘を吐いたのだ。


 ずっと、胸の奥に鶴山が遺した言葉が刺さり続ける。

 今まで全く気にしたことなんて、無かったのに。

「俺が勇者と呼ばれたいって願ったんだ。今更ムシが良い話、だよな」

 思わず自嘲の笑みが零れた。

 発した言葉の重みを考えたことなどなかった。

 ここまで、世界に影響を及ぼす存在になることなど考えたことはなかった。

 でも、もう逃げられはしない。


 俺は、勇者セイレイ。

 全人類の希望を抱えて、これからも戦い抜かなければならない。


To Be Continued……

【開放スキル一覧】

・セイレイ:

 青:五秒間跳躍力倍加

 緑:自動回復

 黄:雷纏

・ホズミ

 青:煙幕

 緑:障壁展開

 黄:身体能力強化

・noise

 青:影移動

 緑:金色の盾

 黄:光纏

 赤:????

・クウリ

 青:浮遊

 緑:衝風

 黄:風纏

・ディル

 青:呪縛

 緑:闇の衣

 黄:闇纏

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