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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
⑥思い出の学び舎編
191/322

【第九十一話(1)】書き換えの先に(前編)

【登場人物一覧】

瀬川(せがわ) 怜輝(れいき)

配信名:セイレイ

役職:勇者

世界に影響を及ぼすインフルエンサー。

他人を理解することを諦めない、希望の種。

前園(まえぞの) 穂澄(ほずみ)

配信名:ホズミ

役職:魔法使い

瀬川 怜輝の幼馴染として、強い恋情を抱く。

秋狐の熱心なファンでもある。

一ノ瀬 有紀(いちのせ ゆき)

配信名:noise

役職:盗賊

男性だった頃の記憶を胸に、女性として生きている。

完璧そうに見えて、結構ボロが多い。

青菜 空莉(あおな くうり)

配信名:クウリ

役職:戦士

心穏やかな少年。あまり目立たないが、様々な面から味方のサポートという役割を担っている。

雨天 水萌(うてん みなも)

元四天王の少女。健気な部分を持ち、ひたむきに他人と向き合い続ける。

案外撫でられることに弱い。

・another

金色のカブトムシの中に男性の頃の一ノ瀬 有紀のデータがバックアップされた存在。

毅然とした性格で、他人に怖い印象を与えがち。

・ディル

役職:僧侶

瀬川 沙羅の情報をベースに、ホログラムの実体化実験によって生み出された作られた命。詭弁塗れの言葉の中に、どこに真実が紛れているのだろうか。

船出 道音(ふなで みちね)

Relive配信として勇者一行と敵対する四天王。魔災以前は何の変哲もない女子高生として生きていた。

鶴山 真水(つるやま まみず)

船出が生み出した世界の中で、バックアップされたデータから復元した存在。元は魔災によって命を奪われた身である。

[information

Relive配信:船出 道音への一時的なアカウント権限の貸与が可能となりました]


「さて、これで船出ちゃんも召喚獣となりました……っと」

[召喚獣って言わないでよ]

 ディルが言い放った言葉に対し、船出の苛立ちの感情が込められたコメント欄が流れる。

 ……正直、俺もアカウント権限の貸与に同じようなことを思っていたのは否定できないが。

 ただ、それ以上に今は気になることがあった。

 俺は感慨深そうに、かつての姿が消え去り、瓦礫と岩壁の槍が埋め尽くす校舎を眺めている秋狐(しゅうこ)へと語り掛ける。

「そう言えば、お前は船出から力を与えてもらって存在してるんだよな?」

「ん?うん、そうだよ」

 何を当然のことを、そう言いたげに秋狐は首を傾げる。

「……船出が配信者の力を失ったのに、お前は力を失わないのか?」

 てっきり、船出と秋狐の存在は一蓮托生なものかと思っていたが。現に秋狐は俺の問いかけにきょとんと首を傾げていた。

 しかし、俺の質問の意図が徐々に読み取れたのだろう。一応、といったように俺に確認する。

「えっと、道音ちゃんから力を与えてもらった私が、道音ちゃんが力を失っても存在してるのは何で?って質問で良いんだよね?」

「まあ、大体聞きたいのはそういうところだ」

「あー……まあ、運営がひと噛みしてるから……だね。うん」

「お前も運営側か」

 思わず発してしまった言葉に対し、秋狐は「そうだよ」と肩を竦めて笑う。

「私としては自由に配信出来れば何でもいいんだけどなあ……だけど、こうしてホログラムの肉体として、スキルを与えてもらってね」

 言われてみれば、船出を助ける為に秋狐は”虚像の盾”というスキルを発動していた。

 秋狐は感心なさげにため息を吐く。

「私はメンヘラホモ君や道音ちゃんみたいに、そんなに配信をかき乱す気はないよ。信条に反するし」

[ねえ紺ちゃん。ディルへのその呼び名やめて。そんな言葉紺ちゃんの口から聞きたくない]

 明らかに抗議のコメントがドローンのホログラムを介して映し出される。俺はその言葉の意味は分からないが、どうやら品のない言い回しをしているようだ。

 秋狐はそれを無視して、ふわりとその身体を浮かび上がらせる。

「視聴者を勇気づけるのが私の役割だからね。例え、世界に勝つことの出来なかったLive配信だとしてもさ」

「……紺ちゃん。随分と成長したんだね」

 有紀は、秋狐に柔らかな笑みを浮かべた。まるで我が子を見るような目で、愛情に満ちた目を浮かべている。

 そんな彼女の表情に、秋狐は苦笑を漏らした。

「そういう訳じゃないけど……成長せざるを得なかった、というのかな。私がしなくちゃいけないことだから」

「……うん。そっか」

「そして今の私は、勝利(Victory)を奪われたLive配信……つまり、”Lie配信”と名乗ろうかな?どう?虚像の私にはぴったりな配信の呼び方だと思うんだけど」

「知らないよ……」

 「うまいこと言った」と言わんばかりにしたり顔の秋狐に、有紀は呆れたように項垂れる。

 思ったようなリアクションが得られなかったことに、秋狐は不服そうに頬を膨らませた。だが、それも束の間のことで改めて俺達勇者一行に激励の言葉を掛ける。

「待ってるね、世界を救う勇者達。とことん書き換えよう、こんな救いのない薄暗い世界なんて」

「もちろん、そのつもりだよ」

 ならよし、と秋狐は右手でvの字を作るようにピースして、それから仰々しく両腕を開く。

「以上、嘘から出た実……Lie配信の秋狐でした!高評価、チャンネル登録よろしくね!」

 そう言うと共に、秋狐は全身に大きくラグが走り、俺達の前から姿を消した。

 視聴者への宣伝を残して。


--当配信は終了しました。アーカイブから動画再生が可能です。--


★★★☆


「よっと」

 ドローンから抜け出した船出は、すたりと華麗に地面に着地した。

 今は学生服ではなく、漆黒のワンピースを身に纏っている。

「あわっ」

 対して、同じくドローンから出てきた雨天はわたわたと慌ただしい様子で、バランスを崩して尻餅をついた。

 スカートについた土埃をぱたぱたと叩きながら、恥ずかしそうに苦笑いを零す。


 そんな中、穂澄は呆然として白のドローンを手に取った。

「……まさか、このドローンの正体が秋狐さんだったなんて……畏れ多い……畏れ多すぎる……」

「さすがに予想が当たっていたのは僕も驚いた」

 空莉も、穂澄が持つドローンを見やりながら困ったように笑う。

 どうやら、彼はドローンの正体が秋狐、かつ秋城 紺ではないかと予想していたようだ。相も変わらず勘が鋭いところは、本当に尊敬できる。


 元のカッターシャツと紺のジーンズを着込んだ、成人女性の姿に戻った有紀。彼女は何も言わずに校庭へと歩みを進めた。

 自身の唇を人差し指でなぞりながら、確かめるように周囲を見渡す。

 俺はどこかそんな有紀を放っておくことが出来ず、仲間達を置いて彼女の後ろをついて行くことにした。

「……なあ、有紀……」

「あ、セイレイ」

 くるりと俺へと振り向いた有紀の表情ににじみ出るのは、安堵と寂しさと、そしてどこか切なさが混ざり合ったものだった。

 そんな彼女の顔を見ていると、俺はどう言葉を掛けるのが正解か分からなくなる。

「……本当に、頑張ったな」

「……うん。セイレイこそね」

 それ以上は、何も言葉を掛けることが出来ず俺達は並んで校庭を進む。

「本当に、長い戦いだった」

 有紀は、静かに空を仰いだ。

 崩落した世界の中でも、空一面を覆いつくす、どこまでも続く青。

 爽やかな雰囲気さえ感じさせる青空。それが、もはやホログラムの映像で見た痕跡など何一つ残っていない校舎のもの寂しさを、かえって引き立たせる気がした。

 有紀はそんな青空に浮かぶ雲を掴もうとするかのように、ゆっくりと手を伸ばす。

「セイレイと出会えたことで、世界を見る目が変わった。こんなに世界に希望はあるんだって、そう思えた」

「大げさだよ」

「大げさなんかじゃないよ」

 どこか照れくさくなり、そう否定した。しかし、歩みを止めた有紀は空に向けていた視線を、俺へと向けた。

 その目線が、あまりにも真摯なものだったから俺は何も言えなくなる。何も、否定させてくれなくなる。

「この世界は、紛れもなくセイレイを中心に回ってる。全てはセイレイの為。全ての人々の行動が、たった一つの希望の種を生み出した」

「全ての人々の行動が、俺へと繋がる……前にも聞いたが、さすがに妄言だろ?」

「いいや、本当だよ。世界中の視聴者が与える希望の光。それら全てはセイレイを終着点としてる」

「……なあ。有紀、お前は、一体何に気づいてるんだよ。ちょっとくらい考えるヒントをくれよ」

 魔王でさえも、四天王でさえも、結局俺の為に行動しているところがあった。

 一体、そこまでの仕込みをして何をしようとしているのだろう。

 俺がそう尋ねると、有紀は少し考えるように腕を組んだ後、静かに言葉を紡ぐ。


「……”前提の書き換え”がこの世界には存在してる。男性だった私を、女性に書き換えたように。世界を覆す力が、存在する」

「……それは、そうだな」

 男性だった一ノ瀬 有紀を女性の姿へと書き換えた”金色のカブトムシ”。

 確かに、それは前提を書き換える力の作用によるものと言って間違いないだろう。

「もし。もしもだよ?前提を書き換える力が、もっと大きなスケールで働くとしたら?あったはずのものを、無かったことにするとしたら……」

「……まさか」

「希望的観測だよ。私も、本当にそうだったらいいな、って想いを抱いているだけ。だからただの与太話として聞いて欲しい」

 有紀は、そう念入りに前置きした。それから、ゆっくりと口を開く。


「”前提の書き換え”の力を使えば、もしかするとさ。魔災が起きたという現実を”無かったことにする”ことが可能なんじゃないかな。そうすれば、全ての人々が戻ってくる。世界が、戻ってくる」

「……!!」

「どうすれば、その力を扱えるのかは分からないし、もしかしたら出来ないかもしれない……けど。信じたい」

 俺は、有紀の仮説を聞いて、自身の配信内で扱うことの出来るスパチャブーストのことを思い出していた。


 跳躍力が倍になる、という”前提に書き換える”力を持った”五秒間跳躍力倍加”。

 傷を癒し、死者を蘇生する能力という”前提に書き換える”力を持った”自動回復”。

 全身に雷を宿すという”前提に書き換える”力を持った”雷纏”。


 全て、この世の理を超えた現象だ。

 特に、有紀の持つ”光纏”に関しては顕著で、その彼女の姿さえも大きく書き換えてしまう。

「……さすがに、冗談だろ……」

 それは、あまりにも仮説というには信憑性がある話だった。

 俺は自身の内側に感じる希望を、信じるべきか否定するべきか、どうすればいいのか分からなくなっていた。


To Be Continued……

【開放スキル一覧】

・セイレイ:

 青:五秒間跳躍力倍加

 緑:自動回復

 黄:雷纏

・ホズミ

 青:煙幕

 緑:障壁展開

 黄:身体能力強化

・noise

 青:影移動

 緑:金色の盾

 黄:光纏

 赤:????

・クウリ

 青:浮遊

 緑:衝風

 黄:風纏

・ディル

 青:呪縛

 緑:闇の衣

 黄:闇纏

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