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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
⑥思い出の学び舎編
190/322

【第九十話(2)】想定外の配信(後編)

【登場人物一覧】

瀬川(せがわ) 怜輝(れいき)

配信名:セイレイ

役職:勇者

世界に影響を及ぼすインフルエンサー。

他人を理解することを諦めない、希望の種。

前園(まえぞの) 穂澄(ほずみ)

配信名:ホズミ

役職:魔法使い

瀬川 怜輝の幼馴染として、強い恋情を抱く。

秋狐の熱心なファンでもある。

一ノ瀬 有紀(いちのせ ゆき)

配信名:noise

役職:盗賊

男性だった頃の記憶を胸に、女性として生きている。

完璧そうに見えて、結構ボロが多い。

青菜 空莉(あおな くうり)

配信名:クウリ

役職:戦士

心穏やかな少年。あまり目立たないが、様々な面から味方のサポートという役割を担っている。

雨天 水萌(うてん みなも)

元四天王の少女。健気な部分を持ち、ひたむきに他人と向き合い続ける。

案外撫でられることに弱い。

・another

金色のカブトムシの中に男性の頃の一ノ瀬 有紀のデータがバックアップされた存在。

毅然とした性格で、他人に怖い印象を与えがち。

・ディル

役職:僧侶

瀬川 沙羅の情報をベースに、ホログラムの実体化実験によって生み出された作られた命。詭弁塗れの言葉の中に、どこに真実が紛れているのだろうか。

船出 道音(ふなで みちね)

Relive配信として勇者一行と敵対する四天王。魔災以前は何の変哲もない女子高生として生きていた。

鶴山 真水(つるやま まみず)

船出が生み出した世界の中で、バックアップされたデータから復元した存在。元は魔災によって命を奪われた身である。

秋城 紺(あきしろ こん)

配信名:秋狐(しゅうこ)

勇者パーティの古参ファンにして、Live配信を歌っていた少女。

船出に殺されたとの事だが……。

「……紺ちゃん?本当に、紺ちゃんなの?」

 有紀は、何度も確認するように、橙色のウェーブがかった髪を揺らす、サイバーチックな雰囲気の和服を身に纏う少女へと尋ねる。

 秋狐(しゅうこ)と名乗るその少女は、見せつけるように全身に大きくラグを走らせながら微笑んだ。

「有紀ちゃん。久しぶり……あっ、今はnoiseちゃんか」

「本当に、先輩を先輩と思わないところ……変わってないね」

「えへへ」

「褒めてないよ」

 じろりと睨みながらそう言い放った後、有紀は途端に寂しそうに顔を曇らせた。

「……でも。紺ちゃんも真水と同じで、もう生きていないんだね」

「うん。私もSympassに生かされている身だもん。ホズさんは私の活動、知ってるんじゃないかな」

 秋狐はそれから、ホズミへと話を投げかけた。

 肝心のホズミはというと、どこか遠い世界に旅立ったかのようにぼーっとしている。

「……ホズさん?」

「あっ、あああっ、な、何ですか!?秋狐さんのすごいところ語ればいいんですよね!?えっと、Sympassリリース当初から音楽活動してて、”嘘から出た実”がキャッチコピー。ゲームを題材とした曲名が多くて、1st albumは”状態異常”。透き通るような声音が特徴的で、それでいてどこか真っすぐな歌なの。歌詞も捻りのある言葉選びじゃなくて、純粋に言葉を届けるんだ、って気持ちが伝わるというかね。もうどれくらいすごいかっていうと、動画配信者ランキングは私達勇者パーティに続いて二位で……」

「あ、うん。もう大丈夫。ありがとうね」

 あまりにもホズミが情熱的に解説をするものだから、秋狐はドン引きした様子で後ろずさる。

 というか、俺達って配信者ランキング一位だったんだな。何気に新事実だった。


「……あの。結局、私の処遇はどうするの?」

 突然蚊帳の外に放り投げられた船出は、おずおずと手を上げて存在感をアピールする。

 俺達勇者一行に敗北し、死すら覚悟していた船出。次から次へと変わる状況に振り回されている彼女は、困惑した表情を浮かべていた。

 本題に戻った秋狐は、ハッとしたように船出の前に立ちはだかる。

「あ。もう分かってると思うけど、私が来たからには殺させないよ?正義のヒーロー、秋狐、見参!!」

 そう言ってどこぞの戦隊ヒーローよろしく決めポーズを披露した。

 ……四天王といい、秋狐といい。ドローンに姿を変える奴って言うのは、変なのしかいないのだろうか。

「いや、シュウコだかショウユだか知らないけどさ。キミだって被害者でしょ?元々、船出ちゃんの暴走で君も死んだんじゃん。いくら船出ちゃんに生き返らせてもらったからって、苦しみを与えたのは彼女自身だよ?」

「ねえディル。名前くらいちゃんと覚えてよ秋狐さんだよ」

 推している配信者の名前を弄られたことに、ホズミは苛立ったように言葉をぶつける。しかし、ディルはまるで聞いていなかった。

 チャクラムを顕現させ、低い姿勢を取る。

「ボクは、誰に何と言われようとさ、セイレイ君の障害になりそうな人は消し去らないといけないの」

「はー……メンヘラホモ君も大変だね」

「メン……っ!?」

 ……?

 秋狐が放った”メンヘラホモ”とはどういう意味だろうか。

 俺は言葉の意味が分からず、仲間達を見渡した。

「……あー……」

 有紀は、バツが悪そうに目を逸らしている。

「……?」

 クウリは、俺と同じく首を傾げていた。

「……ふぅ……っ……ふふ……っ……メンっ、メンヘラホモ……っ、ふふ……」

 ホズミは、笑いを堪えることが出来ずに蹲って身体を震わせている。

「あの。紺ちゃん、どこで覚えたのそんな言葉づかい。やめようよ」

 船出は冷めた表情で、秋狐の肩を優しく叩く。

 とにもかくにも、どうやら秋狐はとんでもない爆弾発言をしたらしい。

 その証拠に、雨天を取り込んだままのドローンから映し出されるコメント欄には様々な意見が飛び交っていた。


[神コラボきたーーーー!! 3000円]

[まさかこの二人が共演するとは。熱い、マジで熱い。神 3000円]

[ねえもっとスパチャ送りたいんだけど。また上限解放されないかな 3000円]

[相変わらず秋狐様の言葉はぶっ飛んでる。お稲荷捧げないと]

[この人の配信知らないんだけどさ。秋狐さんって結構やばいタイプの人?]

[音楽聴いてみ。マジ神だから、お稲荷捧げたくなるから]

[はあ……狐だからお稲荷か]

[秋狐さんの曲しか聴いたことなかったですけど、なかなかすごい言葉選びしますね。皆がお稲荷捧げたくなるのも納得です]


 よく分からないが、秋狐のファンの間では「お稲荷を捧げる」という言葉が共通事項らしい。

 配信者のよく分からない文化を知ってしまった気がする。

 だが、実際に秋狐の言葉はかなりの火力を持っていたようだ。

 ディルは身体をプルプルと振るわせて、引きつった笑みを浮かべていた。

「ふっ、ふふふ……誰がメンヘラホモだい?ボクは、ただ世界の希望の種が花開くのを待って、育てただけさ。その為なら、ボクはどんな障害だって乗り越えられるんだよ」

「だから、それって共依存だよね……?自分のアイデンティティをセイレイ君に丸投げするの止めて。結果的にセイレイ君、あなたに散々振り回されて困ってるよ」

「……ごめん」

 辛辣な秋狐の物言いに、ついにディルは謝った。

 案外、容赦のない正論に弱いのかもしれない。


 話を切り替えるように、秋狐は両手をパンと叩いた。

「うん。とりあえず、四天王の船出 道音ちゃんは配信者の勇者パーティに負けましたっ。それでいいよね」

 場を取り仕切り始めた秋狐。

 人を殺したという事実はあるのだろうが、それに対する制裁はまた後で考えよう。

「まあ。今はそれでいいけどさ。秋狐?は一体何しに来たんだよ」

「えっと……道音ちゃんを助けに来ただけだよ?というか、それ私の身体かあ……大切に使ってくれてありがとうね」

 空に浮かぶ白色のドローンを見上げながら、秋狐は感慨深そうにぽつりと呟いた。

 ドローンの管理者でもあったホズミは恐縮と言わんばかりにすくみ上がり、ぺこりと頭を下げる。

「あっ、はい。このドローンは、秋狐さんの意思の形……なのですか?」

「正解っ。私の意思の欠片がドローンになったみたいだね」

「……いつも、お世話になってます。……あの」

「ん?」

 ホズミは、おずおずとドローンを見上げながら、不安そうに尋ねた。

「……えと。ドローン。秋狐さんに返した方が良いですか?一応、秋狐さんの肉体みたいな存在なんですよね?」

 その問いかけに、秋狐は苦笑いを浮かべながら首を横に振る。

「ううん。大丈夫。それはあなた達が大切に使ってっ。今日はただの初コラボ回ってことで」

「初コラボ回……ですか」

「うんっ。また場を作るから、次は私とコラボ配信しようよ」

 秋狐は踊るようにその場でくるりと回る。緩やかな動きに連なって、和服が波立つようなシワを作り出す。

 ——彼女の言う、コラボ配信。

 それは、きっと。


 俺が何を考えているのか分かったのだろう。

 秋狐はひとつこくりと頷いて、それからふわりとその身体を浮かび上がらせた。

「待ってるね。ショッピングモールダンジョンで。そこで、あなた達が持つ希望を見せて欲しい」

「とんだ一大イベントのお誘いだな」

「二つのLive配信が初めてコラボするもん。どうせならとことん盛り上げようよ、ね?」

 どうやら、秋狐とかいう少女は根っからのエンターテイナーなようだ。

 彼女の言わんとしていることは何となく理解が出来る。

 否定する理由もなかったため、俺は強く頷いた。

「分かった。あくまでも敵ではなく、コラボ相手として……だな?」

「当然だよ。視聴者のニーズに応えるのが配信者ってものでしょ?セイレイ君の配信に求められるニーズはあくまでも”希望”。その前提を崩しちゃだめだよ」

「……ハードルの高い、ニーズだな」

「そんな無茶に、セイレイ君達は答えてきた。だからこそ、私はあなた達の古参ファンでいられたんだよ」

「そりゃどうも」

 俺がそうぶっきらぼうに返すが、秋狐はそれでも満足したようだ。

 彼女は改めてホログラムが映し出す校舎を懐かしそうに見渡して、くすりと微笑む。

「道音ちゃん。本当にこの景色を生み出してくれてありがとう……だけど、楽しい時間もいつか、終わりが来る。私は、その最後を見届けてから行くよ」

「……そうだね。紺ちゃんの言う通りだ」

 そう言って、船出は白のドローンを手招きした。

 何をしようとしているのか、もうホズミは悟っているのだろう。船出の目の前に、ゆっくりとドローンを降下させた。

「これからは、雨天ちゃんの方が先輩だよ。しっかり、ろくでもない私の手綱を握ってね」

[え、あ、はい]

 雨天の戸惑った様子のコメントが流れる。理解が追い付いていないのだろう、という事は容易に察することが出来た。

 苦笑を漏らしながら、船出はゆっくりとドローンに手を伸ばす。

「”過”ぎ”去”ったから、過去。もう、どれだけ追憶に姿を追い求めても、戻ることはない。いつかは、見たくない現実が帰ってくる」

 そう呟き、船出はその手のひらをドローンへと押し当てた。

 

 次の瞬間、瞬く間にドローンを中心として光が迸る。

 大地を駆け巡るプログラミング言語が、校舎を取り巻いていく。追憶を追い求めた船出が作り出した世界が、ついに消えていく。

 それと同時に俺達の姿を書き換えていた学生服が、まるで花吹雪のように剥がれて空へ舞い上がる。

「……卒業生代表。船出 道音……本日をもって、塔出高校を、卒業します」

 寂しげにそう呟くと共に、ついに世界は瞬く間に光の中に溶けて消えた。


----


 気づいた時には、賑やかな校舎など、どこにも無かった。

 存在するのは、風化して古ぼけた校舎。そのシルエットを、大きな岩壁の槍が無数に貫いていた。

 校舎の窓ガラスは大きくひび割れ、ところどころを酸化して黒ずんだ血液が汚している。

 大地を撫でる風の音が、より空虚な雰囲気を生み出していた。

 アスファルトは大きくひび割れ、足場すらまともに取ることが出来ない。

 船出がスキルを使って書き換えた体育館だけが、船の形としてそこに残っていた。

「……終わった、か」

 ドローンの中に溶けて消えた船出。

 彼女は、雨天と同様にコメント欄から己の意見を主張する。

[これからは、私も雨天ちゃんと同じく傍観者だよ。死ぬことすら許されない、哀れで愚かな私でさえも救ったんだ。期待してるよ、勇者様]

「分かってる。任せろよ。船出」

[任せろ、か。ずいぶんと大きく出たね?]

「秋狐の言うとおりだ。俺達の配信には”希望”が求められているからな」

[うん。分かってるなら大丈夫。罰の代わりと言ってはなんだけど、いくらでもこき使って。私も、君達の力になるよ]

 船出なりの贖罪(しょくざい)のつもりなのだろうとは思う。

 散々、俺達と敵対してきたRelive配信。船出 道音との決着は、目まぐるしく変わる環境の中での終幕となった。


To Be Continued……


【開放スキル一覧】

・セイレイ:

 青:五秒間跳躍力倍加

 緑:自動回復

 黄:雷纏

・ホズミ

 青:煙幕

 緑:障壁展開

 黄:身体能力強化

・noise

 青:影移動

 緑:金色の盾

 黄:光纏

 赤:????

・クウリ

 青:浮遊

 緑:衝風

 黄:風纏

・ディル

 青:呪縛

 緑:闇の衣

 黄:闇纏

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