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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
⑥思い出の学び舎編
189/322

【第九十話(1)】想定外の配信(前編)

【登場人物一覧】

瀬川(せがわ) 怜輝(れいき)

配信名:セイレイ

役職:勇者

世界に影響を及ぼすインフルエンサー。

他人を理解することを諦めない、希望の種。

前園(まえぞの) 穂澄(ほずみ)

配信名:ホズミ

役職:魔法使い

瀬川 怜輝の幼馴染として、強い恋情を抱く。

秋狐の熱心なファンでもある。

一ノ瀬 有紀(いちのせ ゆき)

配信名:noise

役職:盗賊

男性だった頃の記憶を胸に、女性として生きている。

完璧そうに見えて、結構ボロが多い。

青菜 空莉(あおな くうり)

配信名:クウリ

役職:戦士

心穏やかな少年。あまり目立たないが、様々な面から味方のサポートという役割を担っている。

雨天 水萌(うてん みなも)

元四天王の少女。健気な部分を持ち、ひたむきに他人と向き合い続ける。

案外撫でられることに弱い。

・another

金色のカブトムシの中に男性の頃の一ノ瀬 有紀のデータがバックアップされた存在。

毅然とした性格で、他人に怖い印象を与えがち。

・ディル

役職:僧侶

瀬川 沙羅の情報をベースに、ホログラムの実体化実験によって生み出された作られた命。詭弁塗れの言葉の中に、どこに真実が紛れているのだろうか。

船出 道音(ふなで みちね)

Relive配信として勇者一行と敵対する四天王。魔災以前は何の変哲もない女子高生として生きていた。

鶴山 真水(つるやま まみず)

船出が生み出した世界の中で、バックアップされたデータから復元した存在。元は魔災によって命を奪われた身である。

「……こんなスキルの使い方、運営は想定していない。常識外れも良いところだよ……キミは、どこまでボク達の予想を超えていくんだい?」

 船から降り立ったディルは、開口一番にそう言い放った。

 あくまでも”着地ダメージの無効化”は安全にスキルを発動するための付属効果だったのだろう。

 ディルは苛立つ感情を押し殺すように頭を掻きむしり、それから責め立てるように俺を睨む。

 静かに、冷たく、鋭い視線が俺を突き刺す。

「……あのね。セイレイ君。船出ちゃんが一体何をしたか聞いたでしょ。どれだけの人を殺したか、分かってるの。雨天ちゃんとはまた違うケースだ。明確に、自分の意図で、自分のわがままで人を殺したの」

「……それは」

「ねえ、セイレイ君。どうして人を殺してはいけないのかわかるかい?出来る限り、ちゃんとした理由を示して」

 唐突に、ディルはそう質問を投げかけた。

 きっと、こいつのことだから”自分も殺されたくはないから”とか、”そう世界でルールづけられているから”とか、そんな答えを求めているのではないのだろう。

「……人が死ぬことが、不利益になるかもしれないから……か?」

 なるべく、俺はディルの思考を想像して答えてみる。だが、ディルは静かに首を横に振った。

 それから、ディルは自身の考えを発する。

「……人を殺すことが”手段の一つ”になるからだよ」

「手段の一つ?」

「そう。考えて見てよ。キミ達は人を殺した経験が無いから、殺さないだけ。じゃ、人を殺したことのある人は?殺すことが二回目、三回目かも知れない人達は?その時点で、明らかに価値基準が違うんだよ。ズレてるの。船出ちゃんの中には、既に行動選択の中の一つに”殺す”が生まれちゃってるの、分かる?」

「……っ」

 反論が出来ない。

 詭弁だと思いたい。思い込みたい。

 だが、ディルの語る論理はどこか否定できない気がした。俺は考える自分から逃げるように、俺の傍らで体育座りしている船出へと視線を送る。

「……」

 既に船出の纏う衣服は、元の学生服のそれへと戻っていた。


 遠くから、ブォオーン……だとか、なんだかよく分からない低く、情けない音が響く。

 野太い男達の重なる掛け声が、どこからともなく響く。

 俺達が描けなかった青春の音をBGMとして、俺は彼女に対する選択を迫られていた。

 現実とは、いかなる時も残酷だ。


「……いいよ。殺して」

 船出はゆっくりと立ち上がり、俺へとどこからともなく取り出した一振りのナイフを手渡した。

 そのナイフは何度も研がれたのか、刃こぼれが目立つ。よく見れば、ところどころに血が付着した痕跡が見える。

「……船出……」

「嬉しかった。こんな過去に縋るしか出来ない私に、未来を見せてくれた。本当に世界に希望はあるんだって」

 それから、自身がホログラムの力を使って生み出した校舎を見やる。そこには学生達が、楽しそうに各々の生活を送っている姿が映し出されていた。

「君になら、紺ちゃんもきっと力になってくれる」

「……そう言えば、このダンジョンの中には秋城はいなかったな?どこにいるんだ?」

「彼女は、暇な私と違って忙しいの。色んな人に歌を届けないといけないから。希望を振りまかないといけないから」

「……そっか」

「あ。そうだ、ゆきっちにも挨拶しないとね。久しぶりに会った時、嫌な思いさせてごめんなさい」

 船出は、静かに俺達のやり取りを見守っていた有紀へと頭を下げる。

 有紀は、涙を隠すことも出来ずに頬を濡らし、けれども強かに船出を見据えていた。

「……ううん。それがみーちゃんが、やるべきことだって思ったんでしょ?私や、皆がどんな目で見るか分かった上で、自分の正しさを貫いたんでしょ?」

「まあ、ね。私はそれを最善だって信じてやまなかったから……止めてくれてありがとう。ゆきっちは、ちゃんと皆のことを大切にしてあげてね」

「……分かった」

 きっと、有紀もこうするしかないと分かっているんだ。

 終わらせないことが、呪いになると知っているから。

 いつの間にかドローンの中から抜け出した雨天は、突然船出へと飛びついた。

「……私は嫌ですっ!!どうしてっ、船出先輩だけが殺されなきゃいけないんですか!船出先輩がダメなら、私もダメですっ!!l殺されないといけないのは、私だっておんなじですっっ!!」

「雨天ちゃん。どいて。私は明確な殺意で人を殺してきたから。雨天ちゃんとは話が違うよ」

「やだ!!やだっっ!!どかない!!どきませんっ!!」

 何度もしがみつき、首を横に振る雨天。そんな彼女へと視線を落とし、船出は彼女の頭を撫でた。

 そのまま、視線だけをパソコンを膝の上に置いて腰掛けるホズミへと向ける。

「……ホズミちゃん。雨天ちゃんを」

「……いいの?」

「うん。生きたくなっちゃうから……いいよ」

「ごめんね」

 ホズミは、雨天か船出。どっちに謝ったのだろう。

 ドローンを黙って操作し、雨天へとくっつける。瞬く間に、雨天の姿が光の粒子となり、ドローンへと溶け込んでいく。

「……どうして——」

 涙を零しながら、雨天はドローンの中へと姿を消した。

 コメント欄に幾度となくコメントが連投されていくが、ホズミは黙ってドローンを空高く浮上させる。

 もちろん、雨天がドローンから再び抜け出すことを予防するためだ。


「……そして、最後に……空莉君」

「……うん?」

 まさか自分が呼ばれると思っていなかったのか、クウリはきょとんと呆けた表情を浮かべた。

 もっとも接点が少ない為、仕方ないと言えば仕方ないのだが。

「空莉君の失った……いや、消した記憶と言った方が正しいか。いつか、配信を続ければ君が求める答えにたどり着けるはずだよ」

「……なんで、消したって分かるの……?」

「あは、なんで……だろうね。運営、だからかな」

 まるで答えになっていない言葉。だが、クウリもそれ以上尋ねる気はなかったようで「分かった」と静かに頷いた。


 一通り、俺達への手向けの言葉を終えた船出。

 彼女は、それ以上は何も言わずにじっと俺を見つめた。


 ——きっと、俺にとどめを刺せと言っているのだろう。

 人を殺したことのない、俺へと。

「……本当に、最悪な選択を最後まで迫るんだな」

「四天王らしい、でしょ」

「……全くだ」

 その言葉を最後に、俺は船出から距離を取った。

 十分に助走できる距離を確保した上で、俺は船出から与えられたナイフを強く握る。

「スパチャブースト”青”」


[セイレイ:五秒間跳躍力倍加]

 俺がそう宣告(コール)するのに連なって、淡く、青い光が俺の両足を纏う。

 船出を助けたスキルで、船出を殺そうとしているんだ。

 ——この世界は、残酷だ。

 ナイフを握る右手に力を込めて、俺は低い姿勢から跳躍。

 せめて彼女を苦しめるわけには行くまいと、磨いた技術を振るう。


「——魔災のない世界で出会いたかった」

「そうだね」

 その切っ先が、船出の喉元を貫かんとするその刹那。


「——道音ちゃん!!駄目っっ!!!!」

[秋狐:虚像の盾]

 あどけない少女の叫び声。

 船出を覆う、無数の六角形が生み出す防壁。

 目を大きく見開いた船出。

 全てがスローモーションになった世界の中で、俺が船出に向けて放った一撃。それは、突然顕現した謎のスキルに伴い弾かれた。

 大きく砕け散ったガラス片のようなエフェクトに包まれた船出は、ぽつりと言葉を漏らす。

「……紺ちゃん。何してるの」

 船出は、何もない空間へと恨めしげな視線を送る。

 その何もなかったはずの空間が、大きく歪み始めた。

「……さすがに見過ごせないよ」

「インタビュー受けるって言ってたじゃん。仕事はどうしたの」

「道音ちゃんを放置できるわけないもん!私が誰のおかげで今こうして、皆に向けて歌えると思ってるの!道音ちゃんのおかげだもん!!」

 やがて、歪んだ空間の中から現れた一人の少女。

 橙色のウェーブがかった髪から覗く、どこか穏やかな雰囲気を纏った顔立ち。

 和服をモチーフとした、けれどどこかサイバーチックな雰囲気を模した衣装。そんな彼女はじっと俺を睨む。

「……あの。私、いつもセイレイ君の配信見させてもらっています。貴方の配信を観ていると、勇気が湧いてくるんです。インスピレーションが湧いてくるんです」

「あ?ああ……ありがとう」

「私、こう見えても勇者一行の古参のファンなんです。こういうのは、解釈違いですよ。道音ちゃんを殺そうとするセイレイ君は、解釈違いです」

「……お、おう?」

 突然現れた、和服の少女が語る言葉の一つ一つ。

 だがそれは、どこか湿った雰囲気を纏っていて、反応に困る。

 戸惑いを隠すことが出来ず、助けを求めるように俺は周りを見渡す。


「……あ、貴方様は……まさか。まさか」

 ホズミは、まるで目の前の現象が信じられないと言わんばかりに口をパクパクとさせている。

 まるで餌を待つ鯉みたいだな、と思ってしまった。

 その反応の意味が分かったのだろう。和服の少女は困ったように笑う。

「……あ。もしかして、”ホズ”さん、かな。いつもコメントくれるよね」

「はっ……はあああああああ……認知されてる……やば……」

 ホズミは、その少女の反応に大きく息を吐いて恍惚の表情を浮かべる。

 というか、いつの間にアカウント作ったんだ。おい。

「……なあ。ホズミ、こいつは何なんだ」

「こいつ!?こいつじゃないよ。この人は秋狐(しゅうこ)様だよ!!いつも神曲提供してくれる!!」

「……お、おー……?」

 ここまでハイテンションなホズミは初めて見たが。

 どうやら、彼女はこの”秋狐”とかいう少女の虜になっているようだ。


「……あっ、話が早くって助かります。私のアカウント名は秋狐。セイレイ君達の前からLive配信を歌ってた者で、かつ勇者パーティの古参ファンです」

「最後の絶対要らねえだろ」

「要るよ?」

「……」

 俺からすれば、得体の知れない配信者だ。

 秋狐と名乗るその少女は、早々に俺達の配信をかき乱したのだった。


To Be Continued……

秋狐さんのインタビューシーンは”ep9”にちょっとだけ描写しています。

覚えている人とか、ほとんどいなさそうなので一応。


あ、あとアニセカ落ちたんで、今後どこかで自分でアニメーション描こうと思います。アニメーションの勉強頑張ります。

棒人間バトル製作者上がりのアニメーターの方って割といて、棒人間バトルをモチーフの一つとして取り入れてる本作をアニメ化まで持っていけたら伝説になれるだろうな……とか思ってました。現実は儚い。仕方ありません。


【開放スキル一覧】

・セイレイ:

 青:五秒間跳躍力倍加

 緑:自動回復

 黄:雷纏

・ホズミ

 青:煙幕

 緑:障壁展開

 黄:身体能力強化

・noise

 青:影移動

 緑:金色の盾

 黄:光纏

 赤:????

・クウリ

 青:浮遊

 緑:衝風

 黄:風纏

・ディル

 青:呪縛

 緑:闇の衣

 黄:闇纏

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