【第八十九話(2)】Relive配信:船出 道音(中編)
【登場人物一覧】
・瀬川 怜輝
配信名:セイレイ
役職:勇者
世界に影響を及ぼすインフルエンサー。
他人を理解することを諦めない、希望の種。
・前園 穂澄
配信名:ホズミ
役職:魔法使い
瀬川 怜輝の幼馴染として、強い恋情を抱く。
秋狐の熱心なファンでもある。
・一ノ瀬 有紀
配信名:noise
役職:盗賊
男性だった頃の記憶を胸に、女性として生きている。
完璧そうに見えて、結構ボロが多い。
・青菜 空莉
配信名:クウリ
役職:戦士
心穏やかな少年。あまり目立たないが、様々な面から味方のサポートという役割を担っている。
・雨天 水萌
元四天王の少女。健気な部分を持ち、ひたむきに他人と向き合い続ける。
案外撫でられることに弱い。
・another
金色のカブトムシの中に男性の頃の一ノ瀬 有紀のデータがバックアップされた存在。
毅然とした性格で、他人に怖い印象を与えがち。
・ディル
役職:僧侶
瀬川 沙羅の情報をベースに、ホログラムの実体化実験によって生み出された作られた命。詭弁塗れの言葉の中に、どこに真実が紛れているのだろうか。
・船出 道音
Relive配信として勇者一行と敵対する四天王。魔災以前は何の変哲もない女子高生として生きていた。
・鶴山 真水
船出が生み出した世界の中で、バックアップされたデータから復元した存在。元は魔災によって命を奪われた身である。
俺と、俺以外との境界が希薄になっていく。
俺の全身が、ふわりと空に舞う感覚を覚える。
——セイレイ!!
——セーちゃん……!
——セイレイ君……。
皆が俺を呼ぶ声が、残響となる。
皆が俺を”セイレイ”と呼ぶたびに、俺は勇者なのだと自覚する。
……勇者って、なんだろう。
勇気のある者は、みな等しく勇者じゃないのかな。
俺だけが勇者じゃなくてさ。日々誰かのことを思って行動してるだけで、誰も彼もが勇者になれるはずなんだ。
ただその日を生きているだけで。
ただ他人と関わり続けているだけで。
ただ当たり前の日常を当たり前のように過ごしているだけで。
たったそれだけで、みんな勇者の素質を持つはずなのに。
そんなことを思っている内に、遠くから声が響いてきた。
前にも聞いた、男だか女だか分からない声だ。
『おお、勇者セイレイよ。死んでしまうとは情けない』
うるせえよ。それ前にも聞いたぞ。
テンプレート染みたセリフしか言えないのかお前は。
『二回目は草』
おい。
”情けない”の方にピントを絞った言葉選びをするな。俺だって死にたくて死んでるんじゃねえよ。
つーか、ちょうどいい機会だから聞きたいんだがよ。お前は一体何だよ。
『……それ、必要な情報?』
大事だろ。雨天も、anotherも、”謎の声”を聞いたって言っていたぞ。
伝えたい想いのある者に配信者としての力を付与しているのは、お前か?
そもそも、配信って何なんだ。俺達を配信者にして……何が目的なんだ、お前は。
『質問が多い。要は、”この世界の謎”についてのヒントを知りたいんだな』
まあ。概ねそんなところだ。確認だが、Tenmeiって企業が”Sympass”を生み出した……ってことであってるよな。
その開発者は……俺の親父か?
『……くくっ。合っているよ。そうさ、セイレイの父親……瀬川 政重が、魔災に対抗する術としてSympassを生み出した。トリガーを放つタイミングを千戸 誠司に預けてな』
……全部、俺はこの世界の”勇者”として存在する為に仕向けられていた。
ただの、出来レースだったのか。俺の意思も、俺の判断も、全て大人達に決定づけられたものだった。
『教育とは、そう言うものだと思うけど。というか最終的に”そうなりたい”と願ったのはセイレイだろ?自分の判断を他人のせいにするなよ』
それも、そうだな。悪かった。
『うん。素直なのは良いことだよ。じゃ、もう一つだけヒントをあげる』
随分と大盤振る舞いだな。
一体どんなヒントをくれるというんだ?
『——瀬川 沙羅は、生きている。くくっ』
——!!
その笑い声……!!待て、やっぱりまだ聞きたいことがある!!お前は——!!
『さ、お仕事お仕事。……えーっと、そなたにもう一度機会を与えよう。さあ、行け!!勇者セイレイよ!!……またな、怜輝』
待て、姉貴——!!
そこで、謎の声は完全に聞こえなくなった。
★★★☆
「……っ」
頭痛がする。耳鳴りがする。
舞い上がった砂埃が口の中に溜まっていたのだろう。咽頭の奥に残った砂を吐き出そうとして、大きくむせ込んだ。
「かはっ……ごほっ!!」
「セイレイ。大丈夫?」
「あ……有紀」
「ほら、これを吸って」
さすがに、”自動回復”に伴う蘇生も三度目となるとある程度勝手が分かってくるのだろう。
——正直、慣れたくはないが。
有紀から差し出された魔素吸入薬を吸い込むにつれて、徐々に全身を蝕む不快感が癒えていくのを感じる。
相変わらず、この世の理を超えた力だ。
有紀が作った”魔素吸入薬”が無ければ、今頃俺はとっくにこの世に居ないだろう。
「いつもありがとうな」
「どういたしまして……正直、そんな簡単に死ぬって選択肢を選んで欲しくないけどね。生き返るって分かっていても嫌だ」
そう言って有紀は曇った表情を浮かべ、震えた手で俺の両肩を掴む。
「……悪い」
ただ謝ることしかできなかった。
目の前にいる俺とそう年の変わらない見た目の少女に対し、俺はそんな言葉を告げることしかできない。本音を言えば「有紀もな」とは付け加えたかったが。
だが、有紀はそれどころではないと思い直したのだろう。
不安定な足場の中、ゆっくりとある方向へと視線を向けた。
「……君が死ぬことを最も恐れているのは、私だけじゃない」
「……?」
「君が死んだのを見たディル。彼はそれをきっかけとして、スパチャブースト”黄”を発動した」
有紀の視線を追うと、そこには背中から漆黒の翼を生やしたディルが居た。
「……あはっ。あははっ……もう、どうだっていいよ。ボクが力を発揮すればいいんだろう?ボクが力を持っていれば、セイレイ君は死なずに済むんだ」
船出が浮かび上がらせた体育館の中、ディルは冷酷な表情をして地面を見下ろす。
「……っ」
彼と対峙する船出は、大きくホログラムの欠片をまき散らしながら苦悶の表情を浮かべていた。
嫌な予感を感じ取り、セイレイはすぐさまホズミが操作するドローンへと視線を向ける。
「ホズミ!!ディルのスキルは!?」
『——待って。……えっと。闇纏です!』
「ありがとう」
ホズミが遡ったログには、次のような表示が残されていた。
[information
ディル:スパチャブースト”黄”を獲得しました
黄:闇纏 ※初回のみ無料で使用することが出来ます]
「anotherと同じスキルか……」
過去に俺達と対峙したanotherも、同様のスキルを発現していた。
そんなanotherに対し、ディルの放つスキルはそれと大きく様相が異なっていた。少なくとも、anotherには漆黒の翼など生えなかったはずだ。
だが現に、ディルの背中には巨大な漆黒の翼が存在感をアピールするように生えている。
俺が情報を確認している間にも、ディルの狂気は止まらない。
「二度も!!二度も!!僕の目の前でセイレイ君は死んだ!!何度も繰り返すんだ、ボクはっっ!!船出ちゃんのせいじゃない!!無力なボクが悪いんだ!!だから、誓う!!だから、壊してやるんだよ!!常識も、現実も、何もかもっっ!!これはボクにしかできない、ボクにしか伝えられないことだっ!!あはははははっ!!」
狂気に満ちた笑い声を上げながら、ディルはより一層高く空へと舞う。
翼を畳んだかと思えば、大きく空中で身体を捻る。
「……あはっ。こんな言葉、聞いたことないかな。”他人の不幸は蜜の味”……ってね」
「っ!!」
その言葉と共に、ディルは大きく翼を開く。
突然スコールの如く降り注いだ羽の弾丸が、船出へと襲い掛かる。
「くっ……!!まがい物君……君は、本当にセイレイ君が好きだね……っ!!」
全身にラグが生み出された船出。彼女は忌々しげに口を歪ませた。
「当然さ!!セイレイ君はこの世の希望!!彼が死ねばこの世は正しく終わりなんだ!!だからボクがいる!!だから、死を司るDead配信として、僧侶ディルは存在した!!セイレイ君を生かす為!!これは、瀬川 沙羅の意向なんだ!!彼女はボクにとっては神にも等しい存在さ!!つまり神のお告げなんだよ!!!!あははははっ!!!!」
「……狂ってる。君に”僧侶”の二つ名は似合わないよ」
「はっ。君達が勝手につけた物差しにボクを重ねないで欲しいね。好き勝手やって何が悪いのさ?そもそもみんな固定概念に縛られすぎさ、もう少し柔軟に行こうよ。あはっ、常識なんてぶっ壊すものでしょ?」
「常識を知らない君に常識を語られたくないね……っ!?」
ついにディルの猛攻に耐え切れず片膝をついた船出へと、ディルは再び漆黒の羽の弾丸を浴びせた。
「あはっ。もう終わりだよ。終わらせるよ。セイレイ君の障害になるものは全て取り払わないといけないんだ」
四天王とはいえ、あまりにも一方的な蹂躙だ。
俺は十分に言う事の聞かない身体を無理矢理動かして、ディルの元へと駆け寄る。
「もうやめろディル!!決着はついてるだろ!?」
「あっ、セイレイ君。おはよう。これはね、君の為じゃない。ボクの為なんだ。ボクが、ボクが、もっと強ければ船出ちゃんに君を殺させなかった。だから、強くあるように誓ったの。これはボクが望んだ姿だよ」
「過保護だ!!俺には”自動回復”がある!!ディル、お前が無茶をする必要なんてねえっ!!」
「……はっ。お利口さんだね、セイレイ君は。君がそんなんだから、付け込まれる。誰かが君を守らなければいけないんだよ。そして、その役割を担うのは……ボクさ」
そう言って、ついに倒れ込んだ船出の胸倉を掴み上げる。
引きつった笑顔を浮かべつつも、船出は忌々しげにディルを睨む。
「……はは。本当に、君は皆にとって毒のような存在だよ」
「毒も使いようによっては薬でしょ?おねーさんの魔素吸入薬と同じだよ」
「……屁理屈め」
吐き捨てるようにそう呟いた船出を、まるでゴミでも扱うみたいにディルは空から放り捨てた。
「……っ!?みーちゃん!!」
有紀が悲痛の叫び声を上げた。
「あはっ、あはははははははは!!!!」
ついに四天王に打ち勝ったディルは、ゲタゲタと楽しそうに狂った笑い声を上げる。
「……ディル君。君は……」
クウリは、静かにディルを睨んでいた。
そんな中。
俺は——。
『バカ!?セイレイ君!!!!』
ホズミが驚愕の声を上げる。
青空に投げ出された船出の元へ駆け寄るべく、自らの危険も厭わずに空へと身を投げ出した。
空中で船出を抱き寄せた俺は、彼女と共にきりもみ回転しつつ落ちていく。
「……本当に、馬鹿だよ。勇者様は。支援額は3000円切ってるのに……もう、助からないよ?」
確かに、船出の言うとおりだ。
総支援額を最後に確認した時には”2500円”の表記が見えていた。
つまり、頼みの綱であるスパチャブースト”緑”は使うことが出来ない。
だが、俺には一つの可能性が見えていた。
「いや、助かる方法ならある……例え四天王だろうと、俺はお前を死なせはしない」
「はっ、雨天ちゃんを口説いて次は私?ずいぶんと女好きなんだね」
「言ってろ!!」
冷たい風が突風となり、俺の肌を突き刺す。
真っ向から襲い掛かる風の中、俺は船出を離すまいとしっかりと抱き寄せた。
本当は、船出も不安なのだろう。
しっかりと俺に掴まって、不安そうな表情を向けていた。
大丈夫だ。
希望は、まだある。
To Be Continued……
総支援額:2500円
[スパチャブースト消費額]
青:500円
緑:3000円
黄:20000円
【ダンジョン配信メンバー一覧】
①セイレイ
青:五秒間跳躍力倍加
両脚に淡く、青い光を纏い高く跳躍する。一度に距離を縮めることに活用する他、蹴り技に転用することも可能。
緑:自動回復
全身を緑色の光が覆う。死亡状態からの復活が可能である他、その手に触れたものにも同様の効果を付与する。
黄:雷纏
全身を青白い雷が纏う。攻撃力・移動速度が大幅に向上する他、攻撃に雷属性を付与する。
②クウリ
青:浮遊
特定のアイテム等を空中に留めることができる。人間は対象外。
緑:衝風
クウリを中心に、大きく風を舞い上げる。相手を吹き飛ばしたり、浮遊と合わせて広範囲攻撃に転用することも出来る。
黄:風纏
クウリの全身を吹き荒ぶ風が纏う。そのまま敵を攻撃すると、大きく吹き飛ばすことが可能。
③noise
青:影移動
影に潜り込み、敵の背後に回り込むことが出来る。また、地中に隠れた敵への攻撃も可能。
(”光纏”を使用中のみ)
:光速
自身を光の螺旋へと姿を変え、素早く敵の元へと駆け抜ける。
緑:金色の盾
左手に金色の盾を生み出す。その盾で直接攻撃を受け止めた際、光の蔦が相手をすかさず拘束する。
黄:光纏
noiseの全身を光の粒子が纏う。それと同時に、彼女の姿が魔災前の女子高生の姿へと変わる。
受けるダメージを、光の粒子が肩代わりする。
④ディル
青:呪縛
指先から漆黒の鎖を放つ。鎖が直撃した相手の動きを拘束する。
緑:闇の衣
ディルを纏う形で、漆黒のマントが生み出される。受けるダメージを肩代わりする効果を持つ。
黄:闇纏
背中から漆黒の翼を生やす。飛翔能力を有し、翼から羽の弾丸を放つことが出来る。
ドローン操作:前園 穂澄
[サポートスキル一覧]
・支援射撃
弾数:2
クールタイム:15sec
ホーミング機能あり。
・熱源探知
隠れた敵を索敵する。
一部敵に対しスタン効果付与。
[アカウント権限貸与]
・消費額20000円
・純水の障壁
・クラーケンによる触手攻撃




