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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
⑥思い出の学び舎編
186/322

【第八十九話(1)】Relive配信:船出 道音(前編)

【登場人物一覧】

瀬川(せがわ) 怜輝(れいき)

配信名:セイレイ

役職:勇者

世界に影響を及ぼすインフルエンサー。

他人を理解することを諦めない、希望の種。

前園(まえぞの) 穂澄(ほずみ)

配信名:ホズミ

役職:魔法使い

瀬川 怜輝の幼馴染として、強い恋情を抱く。

秋狐の熱心なファンでもある。

一ノ瀬 有紀(いちのせ ゆき)

配信名:noise

役職:盗賊

男性だった頃の記憶を胸に、女性として生きている。

完璧そうに見えて、結構ボロが多い。

青菜 空莉(あおな くうり)

配信名:クウリ

役職:戦士

心穏やかな少年。あまり目立たないが、様々な面から味方のサポートという役割を担っている。

雨天 水萌(うてん みなも)

元四天王の少女。健気な部分を持ち、ひたむきに他人と向き合い続ける。

案外撫でられることに弱い。

・another

金色のカブトムシの中に男性の頃の一ノ瀬 有紀のデータがバックアップされた存在。

毅然とした性格で、他人に怖い印象を与えがち。

・ディル

役職:僧侶

瀬川 沙羅の情報をベースに、ホログラムの実体化実験によって生み出された作られた命。詭弁塗れの言葉の中に、どこに真実が紛れているのだろうか。

船出 道音(ふなで みちね)

Relive配信として勇者一行と敵対する四天王。魔災以前は何の変哲もない女子高生として生きていた。

鶴山 真水(つるやま まみず)

船出が生み出した世界の中で、バックアップされたデータから復元した存在。元は魔災によって命を奪われた身である。

 大きく地面がめくれ上がる音が聞こえる。

 吹き抜ける風が、窓から入り込む。

 寒く、凍えるような冷たさが、肌を撫でる。

『——っ、皆!大丈夫!?……きゃっ!!』

 ドローンのスピーカーから、取り残されたホズミの声が聞こえる。

 控えとして待機していた彼女は、もはや完全に戦いに参加することが出来ない状態となった。

 浮かび上がる体育館。そこから削れていく外壁が、次々に地面に叩きつけられる。

「穂澄!大丈夫か!?」

『こっちは避難したから大丈夫です!……なにこれ……?』

 外部からその体育館の姿を見ることが出来るホズミは、茫然とした声を漏らす。

『聞いてくださいっ。徐々に体育館が、船の形に変わっていっています……!!』

「なっ……」

 徐々に外壁が崩れ去ったそれは、どうやら巨大な船の形を作り上げているようだ。

 きれいさっぱり外壁を取っ払われたそこからは、外の景色が綺麗に見えるようになる。その方向へと視線を向ければ、青々とした空から突き抜ける日差しが俺達を照り付けていた。

 見下ろした世界には、崩壊した街並みと、埋め尽くす桜の木々が一面に広がっている。

 まるでスポットライトのように陽光に照らされた船出が、恍惚とした笑みを浮かべていた。

「魔災でさ、良いも悪いもめちゃくちゃになった。だから、私が選択するの。私が、Sympassの運営としてさっ」

 いつの間にか吹き抜けになった天井から差し込む日差し。

 船の形へと書き換えられた体育館の中、フック船長を名乗る船出はワイヤーフックの先端を俺へと向ける。

「さて。ラウンド2だよ。勇者一行様」

 そう言って船出は、体育館の二階に当てはまる部分に該当する場所に作られた通路(キャットウォークと言うらしい)の柵に向けてフックを放った。

 引っ掛けたワイヤーを軸として、船出は大きく跳躍。立体的な動きで、俺達を次から次へと翻弄していく。

「君達に出来る!?善と悪の選別がさ。私は選別した!私に害をなす、下衆共を何度も殺してきた!!」

「みーちゃん……!!」

「ゆきっちもそうでしょ!?自分を守るために人を殺した!!綺麗ごとばかり吐くのを止めなよ!人殺しは良くない、だけで世界が成立すると思うなっ!!」

 船出は更に、ワイヤーフックを駆使して縦横無尽に移動。隙を見ては湾曲刀で俺達へと斬りかかる。

「っ、くそっ。迂闊にスキルを使えやしないっ!!」

「落ちるかもしれないもんね?ね?ね!!」

「——っ」

 宙に浮かび上がった体育館は、想像以上に不安定だ。幾度となく揺れる船の上では、思う様に移動できない。

 万が一、足場から落ちてしまったら——そう思うと、迂闊にスパチャブーストを使うことが出来なかった。

 懸命に船出の攻撃を躱すが、思う様にこちらから仕掛けることが出来ない。

『サポートスキル”支援射撃”!!放てっ!!』

 唯一の遠距離攻撃手段である、ホズミが操作するドローンのスピーカーから響く宣告(コール)。それと同時に、銃弾から連続して火を噴く。

 船出には効き目が薄いと知りつつも、彼女のスキルに頼るほかない。

「ホズミちゃんも分かってて使ってるよね。これしかないもんね、君が参加してたらもう少し手段はあったのにねー?」

『……全く、ですね』

 容易く銃弾を剣先で弾きながら、船出は同情するように苦笑を漏らす。

 空高く浮かび上がった足場。

 大きく揺れる地面。

 そこから地面に落ちようものなら、命など一瞬で奪われてしまうだろう。

「……わわっ」

 幾度となく揺れる足場に、クウリは戦いに集中できていないようだ。

 壁際に備え付けられた肋木にしがみつき、落とされまいと必死になっている。

「……っ」

 有紀も低くしゃがみ込み、じっと船出の動きを警戒しているようだ。不必要な動きを避けて、落下するリスクを警戒しているようにも見える。

「あはっ、なんていうのかなこれ!見て見てやじろべえー!!あははっ……おっとと」

 ディルは怖くないのだろうか。空に浮かび上がり、不安定に揺れる体育館を楽しんでいるようにも見える。

 器用に身体を動かし、体勢を維持しては調子に乗っている。こいつに関しては心配しなくて大丈夫そうだ。

 現状、動くことが出来るのは主に俺かディルのみだ。

 しかし、二人とも船出の立体的な動きへの対抗手段を持たない。

「……無茶するしか、無いよな」

 散々無茶を咎められてきた俺だが、今は話が別だ。

 恐怖に竦む心を押さえつけ、ゆっくりとファルシオンの切っ先を船出へと向ける。

 大きく深呼吸して、それから宣告(コール)を放つ。

「——スパチャブースト”青”!!」

[セイレイ:五秒間跳躍力倍加]

 その宣告(コール)と共に、俺の両脚に青く、淡い光が纏い始めた。

 幾度となく助けられてきたスキルに、俺は全てを掛ける。

 船出へと向けて、馬鹿正直に低く身構えた。それから、何の捻りもなく勢いのままに跳躍。

「ぜああああああああっ!!」

「もう少し捻りのある動きは出せないの?」

 俺の行動をほくそ笑みながら、船出は身体をくるりと(ひね)る。

 先刻まで船出が居た空間を切り裂きながら、俺は幾度となくファルシオンを振るう。

「っ、くそっ!!当たれ、当たれよっ!!」

「どこに当たってやる馬鹿が居るもんかっ」


「いや、当てるよ。スパチャブースト”青”」

[ディル:呪縛]

 次の瞬間。船出の死角から勢い良く伸びた漆黒の鎖が、船出を縛り付ける。

「まがい物君……!?してやられた……っ」

「油断したね?ボクに常識が通用すると思わないでよ。そこの戦士クンは使い物にならないみたいだけどさ、あははっ」

 引き合いに出されたクウリは、肋木に掴まりながら申し訳なさそうに苦笑を漏らした。

 まるで戦力になっていない自覚はあるのだろうが、落ちる恐怖を考えると仕方ないことではある。

 しかし、ディルが与えてくれたチャンスを無駄にするわけには行かない。

「ここで決める……!!スパチャブースト”黄”!!」

[セイレイ:雷纏]

 この機を逃すと、次にいつチャンスが訪れるか分からない。

 俺は躊躇(ちゅうちょ)することなく、スパチャブースト”黄”を発動。瞬く間に、全身を青白い稲妻が纏い始める。

 どこか心地良さすら感じるその稲妻に包まれながら、俺は大きく跳躍。

「船出っ!!俺は……お前を打ち倒すっ!!」

「……やるじゃん」

 賞賛(しょうさん)するような笑みを浮かべる船出。そんな彼女へと向けて、俺は躊躇(ためら)う気持ちを押し殺し、稲妻を纏ったファルシオンを落下の勢いを重ねて振り下ろす。

「はあああああっ!!」

 俺の一撃に伴い、船出を縛り上げていた漆黒の鎖が大きくはじけ飛ぶ。

 稲妻が、天を貫くように大きく迸る。

 船出へともしかするとトドメとなったかもしれない一撃を食らわせたという事実に、どこか心が痛む。


——見た目で判断するんだね、君も。


 戦いの前に発した船出の言葉が、今になって突き刺さる。

 過去にクラーケンの姿となった雨天へと、躊躇うことなく斬りかかった俺への当てつけだろう。

 船出が居た場所に舞い上がる土煙を見上げながら、俺は複雑な胸中を隠すことが出来なかった。

 だが。

「くっ!?」

 土煙の中から伸びたワイヤーフックの一撃が、瞬時に伸ばした俺の左腕へと深々と突き刺さる。

 そこから突然現れた船出が、すぐさま湾曲刀を俺の喉元へと振り抜く。

——躱すことが出来ない。

「迷ったね。分かるよ、君の動きを見れば……だから、甘いんだ」

「セイレイ!!逃げてっ!!」

 有紀が叫ぶ声が聞こえる。だが、ワイヤーフックで行動を制限された俺には、その一撃を回避する術はない。

 だとしたら、出来ることは一つだけだ。


「——スパチャブースト”緑”」

 その宣告(コール)を発すると同時に、船出が振るう一閃が俺の胴元を切り裂く。

 痛みは、思いの他なかった。


 スキルは上手く発動したのだろうか。

 もし、発動していなかったら、俺は——。


 いつか味わった、体の芯から冷えていく不快感が襲い掛かる。

 明確な”死”の感覚が、全身を蝕んでいく。


 そこで、俺の意識は途絶えた。


To Be Continued……

総支援額:2500円

[スパチャブースト消費額]

 青:500円

 緑:3000円

 黄:20000円

【ダンジョン配信メンバー一覧】

①セイレイ

 青:五秒間跳躍力倍加

 両脚に淡く、青い光を纏い高く跳躍する。一度に距離を縮めることに活用する他、蹴り技に転用することも可能。

 緑:自動回復

 全身を緑色の光が覆う。死亡状態からの復活が可能である他、その手に触れたものにも同様の効果を付与する。

 黄:雷纏

 全身を青白い雷が纏う。攻撃力・移動速度が大幅に向上する他、攻撃に雷属性を付与する。

②クウリ

 青:浮遊

 特定のアイテム等を空中に留めることができる。人間は対象外。

 緑:衝風

クウリを中心に、大きく風を舞い上げる。相手を吹き飛ばしたり、浮遊と合わせて広範囲攻撃に転用することも出来る。

 黄:風纏

クウリの全身を吹き荒ぶ風が纏う。そのまま敵を攻撃すると、大きく吹き飛ばすことが可能。

③noise

 青:影移動

 影に潜り込み、敵の背後に回り込むことが出来る。また、地中に隠れた敵への攻撃も可能。

 (”光纏”を使用中のみ)

  :光速

 自身を光の螺旋へと姿を変え、素早く敵の元へと駆け抜ける。

 緑:金色の盾

 左手に金色の盾を生み出す。その盾で直接攻撃を受け止めた際、光の蔦が相手をすかさず拘束する。

 黄:光纏

 noiseの全身を光の粒子が纏う。それと同時に、彼女の姿が魔災前の女子高生の姿へと変わる。

 受けるダメージを、光の粒子が肩代わりする。

④ディル

 青:呪縛

 指先から漆黒の鎖を放つ。鎖が直撃した相手の動きを拘束する。

 緑:闇の衣

 ディルを纏う形で、漆黒のマントが生み出される。受けるダメージを肩代わりする効果を持つ。

ドローン操作:前園 穂澄

[サポートスキル一覧]

・支援射撃

 弾数:2

 クールタイム:15sec

 ホーミング機能あり。

・熱源探知

 隠れた敵を索敵する。

 一部敵に対しスタン効果付与。

[アカウント権限貸与]

・消費額20000円

・純水の障壁

・クラーケンによる触手攻撃

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