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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
⑥思い出の学び舎編
184/322

【第八十八話(1)】存在証明(前編)

【登場人物一覧】

瀬川(せがわ) 怜輝(れいき)

配信名:セイレイ

役職:勇者

世界に影響を及ぼすインフルエンサー。

他人を理解することを諦めない、希望の種。

前園(まえぞの) 穂澄(ほずみ)

配信名:ホズミ

役職:魔法使い

瀬川 怜輝の幼馴染として、強い恋情を抱く。

秋狐の熱心なファンでもある。

一ノ瀬 有紀(いちのせ ゆき)

配信名:noise

役職:盗賊

男性だった頃の記憶を胸に、女性として生きている。

完璧そうに見えて、結構ボロが多い。

青菜 空莉(あおな くうり)

配信名:クウリ

役職:戦士

心穏やかな少年。あまり目立たないが、様々な面から味方のサポートという役割を担っている。

雨天 水萌(うてん みなも)

元四天王の少女。健気な部分を持ち、ひたむきに他人と向き合い続ける。

案外撫でられることに弱い。

・another

金色のカブトムシの中に男性の頃の一ノ瀬 有紀のデータがバックアップされた存在。

毅然とした性格で、他人に怖い印象を与えがち。

・ディル

役職:僧侶

瀬川 沙羅の情報をベースに、ホログラムの実体化実験によって生み出された作られた命。詭弁塗れの言葉の中に、どこに真実が紛れているのだろうか。

船出 道音(ふなで みちね)

Relive配信として勇者一行と敵対する四天王。魔災以前は何の変哲もない女子高生として生きていた。

鶴山 真水(つるやま まみず)

船出が生み出した世界の中で、バックアップされたデータから復元した存在。元は魔災によって命を奪われた身である。

 何度も、私は生きる為に人を殺した。

 昔、信頼していたはずの先輩が私を付け回していたストーカーだと知った時。人は、誰しも裏を持つものだと理解した。

 ただの善意で近づく人間なんて、いない。皆、何かしらの見返りを求めているのだ。

 一度その悪意を知ってしまえば、なんてことはない。男性は行動の裏に隠された本心を隠すのがヘタクソだから、ちょっと突けば簡単にボロを出す。

 善意のふりして、私と紺ちゃんを手籠めにしようとする男をどれくらい見てきたのか。もう数えてすらいない。

「……道音ちゃん、どうしたの?ケガしてるよ」

「あっ、ほんとだ。消毒液も今や貴重だから気を付けないとね」

 本当に、紺ちゃんが鈍くて良かったと思ってる。

 この純粋さを(けが)してはいけない。守らなきゃ。守り抜いて、紺ちゃんには希望を歌ってもらわないと。


 だから、紺ちゃんが居なくなった後に勇者として、名が知れ渡ったセイレイ。

 きっと彼も、本性はろくでもない男だと、そう思っていたんだ。


★★★☆


 船出はワイヤーフックの感覚を確かめるように左腕を振る。

 過去に四天王として対峙した雨天は、完全にその姿をクラーケンへと書き換えていた。しかし、船出は衣装が変わったのみで、姿形は少女としての彼女のままだ。

 どうしたものかと様子を伺っていると、船出は呆れたようにため息を吐いた。

「魔物の姿じゃないと、戦えない?見た目で判断するんだね、君も」

「……人間を斬る為に俺は勇者になった訳じゃねえからな」

「そう。何でもいいけど、そんな甘っちょろい考えしてると死ぬよ」


 途端に真剣な表情を作った船出は、そのままワイヤーフックの付いた左手を俺の方向へと突き出した。

「っ!?」

 嫌な予感を瞬時に感じ取り、すぐさま船出の視界から逸れるように横っ飛びに回避。

 結果から言えばその行動は正解だった。

 船出の左手から伸びたワイヤーフックが、俺がいた空間を貫く。

 間一髪で、船出の攻撃を回避することに成功する。

 不正解だったのは、その後の彼女の行動を読めなかったことだ。


「私がただ安直な攻撃すると思う?」

 船出は俺の背後にあったはしごみたいなもの——肋木(ろくぼく)というらしいが——に、フックを引っ掛ける。それを支えとして、ワイヤーを縮小。

 一気に俺との距離を縮めた船出は、握った湾曲刀で斬りかかった。

「……っ、くそ!?」

「セイレイっ!!……スパチャブースト”緑”!!」

 俺を庇う形で、有紀が素早く躍り出る。左手を突き出したまま宣告(コール)

[noise:金色の盾]

 ドローンのホログラムを介して映し出されるコメント欄に、そうシステムメッセージが流れる。

 それと同時に有紀の左手に金色の盾が顕現。船出の攻撃を受け止め、カウンターとして行動を阻止するつもりだった。

 だが、それを理解していない船出ではない。

「ゆきっちのそのスキル、結構欠点あるよね。ほら」

 見せつけるように船出は、右手に持った湾曲刀を盾に当てると同時に手放す。

 金色の盾から生み出された光の蔓は、瞬く間に湾曲刀を縛り付けていく。だが、船出は既に距離を取っており、拘束の対象から逃れていた。

 ゴブリンロードとの戦いでも同様の対策を取られたことを思い出す。

「知ったもんかっ!解除!!」

 有紀はすかさず金色の盾を解除し、地面に湾曲刀を放り投げる。

 がしゃりと軽い金属音と共に、湾曲刀が体育館のフローリングへと転がった。

「ゆきっちは躊躇しないんだね」

「追憶のホログラムと同じだって分かってても、本当は傷つけたくないよ、でも!!」

 有紀は、流星の如き速度で船出に斬りかかる。洗練された技量から放たれるその無数の斬撃は、まるで一つの芸術のようにも見える。

「証明してよ。勇者様達の行動が正しいって」

「正しいとか間違いとかじゃないよ……!!」

 卓越した有紀の技術に対し、船出は反射神経に身を任せて攻撃を回避。

 身体能力の勝負に持ち込まれると、有紀の方が不利だ。

 そして、そんな二人の間に割って入る者が一人。

「あはっ。女の子二人の間に挟まる男……ってね。怒られるかなー?これ、あははっ、はあー……」

 ディルは場の空気を乱すようにいい加減な言葉を発しながら、呑気に船出へと歩みを進める。

 その右手に持ったチャクラムを何度も宙へ放り投げてはキャッチ、を繰り返して。

 船出の注意を引く狙いがあるのか、ディルは演説を彷彿とさせるように大声で語り出した。

「はいはーい!!みなさんちゅうもーく!!今から天才ディル君がスパチャブーストを使いまあーすっ!!あははっ」

「……何、まがい物君は空気読んでよ」

 ディルの言葉に、船出は苛立ったように睨む。

 だが、敵意に満ちた視線を受けても、ディルは不気味な笑みを絶やさなかった。

 それどころか、徐々にディルを纏う空気が冷ややかになっていく。

「は?誰が空気なんて読むかよ。ボクが好きなようにして何が悪いの」

『……ディル?』

[information

ディル:スパチャブースト”青”を獲得しました

青:呪縛]

 ホズミの困惑の声が漏れるのと、そのシステムメッセージが流れると同時だった。

 ディルは大きく肩を震わせ、狂ったように笑い始める。

「あっはっはっは!!どうして僕が他人に合わせないといけないんだっっっ!!高尚な考えを持たないといけないなんて誰が決めたんだ!!ゴミ共の意見なんてどうだっていいだろう!?ボクがボクの好きなようにして何が悪いってんだ!!あっはっはっはっは!!」

 ゆらりと、ディルを纏う雰囲気が変わり始めた。

 そのままディルは船出を指差す。

「……今更、”人を指差すな”とか言うなよな。スパチャブースト”青”」

[ディル:呪縛]

 その宣告(コール)と共に、ディルの人差し指から伸びるように漆黒の鎖が伸びていく。

「”拘束”じゃないのっ!?」

 船出は困惑の声を上げながら、大きく身を翻す。

 弾速の如く一気に襲い掛かる鎖の呪縛を、船出は間一髪で回避。彼女が先刻までいた空間を、鎖の束が埋め尽くす。

 しかし、その鎖の束は徐々に地面に溶け込んで消えていった。

「あははっ、そう簡単にはいかないか、残念っ。はー……馬鹿らしくなってきちゃうね。お行儀よくしてたのが馬鹿みたい。最初から好きにすればよかったんだ」

 笑い疲れたのか、何度も「あー」と声を出し続ける。

 ディルを纏う闇が、徐々に強くなっていく。

「まがい物、か。そうだね。そうだ……あははっ。本物でなくて何が悪いっていうのさ。ボクの存在証明は、本物とか偽物とか、敵とか味方とか、一切関係ない。ボクがボクだって認めるだけで、ボクは存在してるって証明できる。他人に自分のアイデンティティを擦り付けていたのが間違いだったんだ、あははっ。そうだよ、誓えばいいんだ。まがい物の存在証明さ、簡単な話だよ」

 詭弁染みた言葉をブツブツと呟きながら、ディルはゆらりと脱力した身体を揺らす。

 まるで仮にも僧侶を名乗る者とは思えないその立ち振る舞い。徐々に、その状況に皆困惑し始める。


[怖いんだけど]

[おい、ディルって僧侶を名乗ってたのよな。いいのか、色々と]

[誓う、って言ったよな。これがディルの覚醒なのか?本心が、これか]

[ディルさんは、私達の味方なのは間違いないです。ですけど……ですけど]

 遂に本性をむき出しにしたディルの姿に、視聴者から困惑のコメントが寄せられる。


 それもそのはず、彼の姿を誰も”勇者一行の僧侶”とは思えなかったからだ。

 ちらりとディルはそのコメント欄が表示されたドローンへと視線を送りながら、歪な笑みを浮かべる。

「だぁからさぁ……味方とか敵とか。そんな大まかなくくりで判断するのを止めろよ。ずっと同じ方向ばかり、同じ考えしか抱いてない連中ばっかりだと虫唾(むしず)が走るでしょ。たまには間違えなよ。正しいとか間違ってるとか、そんな簡単なくくりでしか考えないから、失敗するの。行動もロクに起こせない連中が偉そうにボクに指図するなよ。あはっ」

 そのまま、ディルはゆっくりとチャクラムを持った右手を高く掲げた。

 おぼつかない足取りで、ディルは覚醒の宣告(コール)を発する。

「はっ、誓ってやるよ。ボクをボクだと認めようとしないゴミ共にさ。存在証明さ、これは。恨んでるんだ、こんなナリでボクを世界に生んだクソ共をさ。産み落として、面倒な仕事だけ押し付けてどっかに消えやがって。ふざけるなよ、ボクを一体何だと思ってるんだ。誰も認めやしないくせに、無責任な形で責任を押し付けるなよ。ほら、見てみなよ。これがそんなボクの成れの果てさ。誓ってやるさ。誓うさ」

[information

ディル:スパチャブースト”緑”を獲得しました

緑:闇の衣]

 次の瞬間。

 ディルを覆う形で、漆黒のマントが顕現した。

「……まがい物君。それが君の本性かな。まがい物として作られた自分を呪って、他人も呪うんだね」

「そうだよ?綺麗ごとばかりで世界を描けると思うなよ。何事も釣り合いが大事なんだよ。セイレイ君達が希望を描くなら、ボクはこうあっても許されるべきさ」

「本当に、君はゆきっちにとって毒みたいな存在だよ。私は君を認めない」

「そのおねーさんはボクの存在を認めてくれたけどねっ!!あははっ、いつかのリベンジマッチ、始めようかっ!!」

「——っ」

 漆黒の影を身に纏ったディルは、そう言って身体を低く屈める。

 二つの黒が、衝突する。


To Be Continued……



総支援額:17500円

[スパチャブースト消費額]

 青:500円

 緑:3000円

 黄:20000円

【ダンジョン配信メンバー一覧】

①セイレイ

 青:五秒間跳躍力倍加

 両脚に淡く、青い光を纏い高く跳躍する。一度に距離を縮めることに活用する他、蹴り技に転用することも可能。

 緑:自動回復

 全身を緑色の光が覆う。死亡状態からの復活が可能である他、その手に触れたものにも同様の効果を付与する。

 黄:雷纏

 全身を青白い雷が纏う。攻撃力・移動速度が大幅に向上する他、攻撃に雷属性を付与する。

②クウリ

 青:浮遊

 特定のアイテム等を空中に留めることができる。人間は対象外。

 緑:衝風

クウリを中心に、大きく風を舞い上げる。相手を吹き飛ばしたり、浮遊と合わせて広範囲攻撃に転用することも出来る。

 黄:風纏

クウリの全身を吹き荒ぶ風が纏う。そのまま敵を攻撃すると、大きく吹き飛ばすことが可能。

③noise

 青:影移動

 影に潜り込み、敵の背後に回り込むことが出来る。また、地中に隠れた敵への攻撃も可能。

 (”光纏”を使用中のみ)

  :光速

 自身を光の螺旋へと姿を変え、素早く敵の元へと駆け抜ける。

 緑:金色の盾

 左手に金色の盾を生み出す。その盾で直接攻撃を受け止めた際、光の蔦が相手をすかさず拘束する。

 黄:光纏

 noiseの全身を光の粒子が纏う。それと同時に、彼女の姿が魔災前の女子高生の姿へと変わる。

 受けるダメージを、光の粒子が肩代わりする。

④ディル

 青:呪縛

 指先から漆黒の鎖を放つ。相手を拘束する能力がありそうだが……。

 緑:闇の衣

 ディルを纏う形で、漆黒のマントが生み出される。詳細不明。

ドローン操作:前園 穂澄

[サポートスキル一覧]

・支援射撃

 弾数:2

 クールタイム:15sec

 ホーミング機能あり。

・熱源探知

 隠れた敵を索敵する。

 一部敵に対しスタン効果付与。

[アカウント権限貸与]

雨天 水萌

・消費額20000円

・純水の障壁

・クラーケンによる触手攻撃

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