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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
⑥思い出の学び舎編
182/322

【第八十七話(1)】大人になれない少女(前編)

【登場人物一覧】

瀬川(せがわ) 怜輝(れいき)

配信名:セイレイ

役職:勇者

世界に影響を及ぼすインフルエンサー。

他人を理解することを諦めない、希望の種。

前園(まえぞの) 穂澄(ほずみ)

配信名:ホズミ

役職:魔法使い

瀬川 怜輝の幼馴染として、強い恋情を抱く。

秋狐の熱心なファンでもある。

一ノ瀬 有紀(いちのせ ゆき)

配信名:noise

役職:盗賊

男性だった頃の記憶を胸に、女性として生きている。

完璧そうに見えて、結構ボロが多い。

青菜 空莉(あおな くうり)

配信名:クウリ

役職:戦士

心穏やかな少年。あまり目立たないが、様々な面から味方のサポートという役割を担っている。

雨天 水萌(うてん みなも)

元四天王の少女。健気な部分を持ち、ひたむきに他人と向き合い続ける。

案外撫でられることに弱い。

・another

金色のカブトムシの中に男性の頃の一ノ瀬 有紀のデータがバックアップされた存在。

毅然とした性格で、他人に怖い印象を与えがち。

・ディル

役職:僧侶

瀬川 沙羅の情報をベースに、ホログラムの実体化実験によって生み出された作られた命。詭弁塗れの言葉の中に、どこに真実が紛れているのだろうか。

船出 道音(ふなで みちね)

Relive配信として勇者一行と敵対する四天王。魔災以前は何の変哲もない女子高生として生きていた。

鶴山 真水(つるやま まみず)

船出が生み出した世界の中で、バックアップされたデータから復元した存在。元は魔災によって命を奪われた身である。

「有紀っていつも突拍子もないことするよな」

 ふと、先導する形で歩く有紀にそう語り掛けた。

 まさか、かつて恋した少年に——ホログラムで生み出された存在とはいえ——突拍子もなくキスをするとは思わなかった。

 隣では未だに興奮鳴りやまないと言わんばかりに、雨天がわたわたと落ち着かない様子を見せている。

 そんな俺達の問いかけに、有紀はいたずら染みた笑みを浮かべながら振り返った。

「可愛い女の子からのキスを嫌がる男の子なんていないでしょ?」

「それ自分で言うかよ」

 自分の唇を人差し指で撫でながら、有紀はいたずら染みた笑みを浮かべた。

 ”可愛い女の子”というのは事実なのだが、それを自分で言うとは思わず俺は引きつった笑みを作る。

 めちゃくちゃなことを言っている自覚はあるのだろう。照れ笑いを浮かべながら有紀は話を続けた。

「元は男性だからね。自分の見た目に関しては私自身が一番自信を持ってるよ」

「なるほどな、ちょっと納得したよ」

「セイレイも、穂澄ちゃんからの好意を無下にしちゃだめだよ。いつまでも一緒に居てくれる保証なんてどこにも無いんだから」

「……何だか、怖い話をするんだな」

 唐突に振られた不穏な話題に、知らず知らずのうちに低い声になっていた。

 ふと、脳裏を過ぎるのは穂澄が魔王セージの放った蔦に締め付けられ、危うく命を奪われるところだった記憶。

 もし森本先生の助けが間に合っていなかったら、今頃——。

 うすら寒いものを感じ、表情が硬くなる。俺の胸中を感じ取ったのか、有紀は慌てて首を横に振った。

「い、いや。ごめん、そんなことを思い出させるつもりじゃなかったよ。ただ、セイレイがいつまでも煮え切らない態度を取ってたら駄目だよって話」

「……ただの恋愛アドバイザーか?」

 急にスケールが小さくなった気がして、拍子抜けする。

 だが、有紀にとっては大事な話のつもりなのだろう。真剣な表情を崩すことなく話を続けた。

「セイレイにとっては、今は恋愛に(うつつ)を抜かしてる場合じゃないってのは分かってるけどね。好意から目を逸らし続けるのは違うと思うよ」

「って言っても、恋愛なんか分かんねえよ」

「まあそれもそっか……私が思うのはね、恋愛は“比較”から始まるの」

「比較?」

 今は関係ないはずの有紀の恋愛観に関する話。しかし、どこか大事な話である気がして遮ることが出来なかった。

 有紀はグラウンドで練習をしている野球部へと視線を送りながら話を続ける。

「あの人は、私に振り向いてくれなかったけどこの人は振り向いてくれた……とかね。人によって、何を比較してるかは変わってくるけど」

「参考までに、有紀は何を比較して、鶴山を好きになったんだ?」

 そう問いかけると、有紀は「うーん」と考えるように腕を組む。

 しばらくして、自分の中で納得の行く答えが出たのだろう。一つ頷いてから自分なりの答えを返した。

「……軸、かな。うん、軸だ。他の誰よりも真水にはブレない軸があった、だから私は真水を好きでいることが出来たんだ」

「軸……」

「きっと、穂澄ちゃんがセイレイを好きになった理由と同じだと思うよ。誰よりも”他人の為に一生懸命、命を懸けることを厭わないセイレイ”のことが好きなんだと思う」

「あんまり考えたことないな、それは」

「少なくとも私はそう思うよ」

 有紀は小さく苦笑を零し、それから真剣な表情を作った。

「……っと。無駄話もそろそろ終わりかな。体育館が見えてきた」

 彼女の言葉に改めて正面を見れば、確かに純白の壁に薄緑のドーム状の屋根で構成された体育館が見えていた。

 話に夢中になって、いつの間にか船出が待っているという体育館が近づいていることに気づかなかった。

 そんな自分に思わず恥ずかしさが込み上げる。

「あ、セイレイ君。船出さんに呼ばれてきたんだけど……」

「……ああ」

「どうしたの?」

 船出に同じように呼び出されたのだろう。穂澄はきょとんとした表情で問いかけるが、先ほどの有紀の話もあり俺はまともに彼女の顔を見ることが出来ない。

 機嫌を伺うように、彼女の顔へと視線を送る。しかし、何故か分からないが穂澄の唇が視界に移った瞬間に思わず目を逸らしてしまった。

「……っ!?」

「え、なに?セイレイ君、本当にどうしちゃったの!?」

「お、俺にも分かんねえ……」

 穂澄は慌てて駆け寄り、まじまじと俺の顔を覗き込む。

 やめろ、その行動が俺を狂わせる。

 思わず胸の鼓動が高まるのを自覚しながら、懸命に穂澄から離れようとした。

 徐々に、拒まれたことに穂澄の表情が曇っていく。

「……なんで離れるの、セイレイ君……」

「……あ」

 そんな彼女の表情を見た瞬間、先ほどとは異なる胸の鼓動を感じた。

 胸の奥に氷の刃を突き立てられたような心苦しさが襲い掛かる。

「セーちゃん、どうしたの?」

 俺達のやり取りを理解できない空莉は、訳も分からないといった様子で首を傾げた。

 そんな彼の元へと有紀は駆け寄り、すかさず耳打ちする。

 一体何を話しているのか分からないが、青菜の表情が驚愕から徐々に納得、温かい表情へと変わっていく。

 おい、一体何を話したんだ。

 すかさずツッコミを入れたかったが、穂澄の誤解を解く方が先な気がした。

「いや、何と言うかな。穂澄が近づくのと比例して、こう、胸がキュっとな……」

「ぶっ」

「有紀は黙ってろ!?」

 上手く言語化が出来ず、たどたどしい言葉で返したのが悪かったのだろう。遠巻きに見ていた有紀が噴き出した声にすかさずそんなツッコミを入れてしまった。

 そして、そんな俺の言葉に穂澄は安堵したような笑みを一瞬漏らした。

「……えへへ」

「な、なんだよ」

「ううん、何でもないよ」

 穂澄はそれ以上何も言わず、俺に真正面から抱き着いた。

「っ!?」

 より一層強くなった胸の鼓動が聞こえていないだろうか。

 そんなことを感じる俺を他所に、穂澄は強く抱きついたまま話しかける。

「セイレイ君はにぶちんのままでいいよ。全てが終わった後に気付いてくれればいいの」

「……いや、そんな訳には行かないだろ……」

「大丈夫、今はまだこの距離感で良いの。どこにも行かないよ、私は」

「穂澄……」

 一体穂澄は何を考えているのだろうか。

 知らなければいけない。知りたい。

 十年も過ごしていたというのに、俺はまだ穂澄の何も知らないのではないか。

 ふと、そんな考えが脳裏を過ぎる。


「あは、青春だねー。学生服って言うのは思考さえも書き換えてしまうのかな?あははっ」

 いつの間にか現れていたディルは、冷やかすように俺達にそんな言葉を浴びせた。

 どこか気まずくなった俺は穂澄から離れ、ディルを睨む。

「……別にいいだろーが。今までなら見ることの出来なかった世界なんだ」

「ま、確かにね。この高校はダンジョンと言うにはあまりにも危険が無さすぎる。あちこち見て来たけど、本当に危険の”き”の字一つさえもないよ」

「いつの間にそんなこと調べてたんだ……」

「あははっ、僕がニートやってると思った?こう見えて仕事はちゃんとするタイプなんですぅ―。天才ディル君を舐めないでもらえるかな」

 ディルはどうやら、ダンジョンの構造を確かめていたようだ。

 ただのらりくらりとしているだけではなく、必要な情報はきちんと仕入れてくる。だからこそこいつは本当に思考を読むことが出来ない。

 かといって、俺は先へと進むために歩みを止める訳には行かない。

 有紀も、前を向くのだと船出に対して誓っていたのだ。それほどの覚悟を見せた彼女にも応えなければ。

「みーちゃん……確かに、みーちゃんの行動は間違ってない。私が望んだ世界を見せてくれて、嬉しかった」

 改めてぐるりと校内を見渡す有紀。哀愁漂う声音に、思わず俺も心打たれる。

 きっと、戻りたかっただろう。例えホログラムが生み出した偽物の世界だとしても、映し出す光景の一つ一つが生み出す感情は本物だった。

「……けど。ここに居たら私はいつまでも大人になれない……戻りたくなってしまうよ、やっぱり」

 そんな想いを乗り越えてまで、有紀は俺達と行動を共にすることを誓ったのだ。

 有紀の想いを受け取って、俺は強く頷く。

「本当にありがとう、有紀。描くぞ……未来を」

「うん。みーちゃんもきっと分かってくれるはず」

 戻りたい過去を乗り越えて、俺達は船出に挑むべく誓いを立てた。


To Be Continued……

遅れてすいません。

アニメーション描いてました。

【開放スキル一覧】

・セイレイ:

 青:五秒間跳躍力倍加

 緑:自動回復

 黄:雷纏

・ホズミ

 青:煙幕

 緑:障壁展開

 黄:身体能力強化

・noise

 青:影移動

 緑:金色の盾

 黄:光纏

 赤:????

・クウリ

 青:浮遊

 緑:衝風

 黄:風纏

・ディル

 青:????

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