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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
⑥思い出の学び舎編
181/322

【第八十六話(2)】関連付けた理解(後編)

【登場人物一覧】

瀬川(せがわ) 怜輝(れいき)

配信名:セイレイ

役職:勇者

世界に影響を及ぼすインフルエンサー。

他人を理解することを諦めない、希望の種。

前園(まえぞの) 穂澄(ほずみ)

配信名:ホズミ

役職:魔法使い

瀬川 怜輝の幼馴染として、強い恋情を抱く。

秋狐の熱心なファンでもある。

一ノ瀬 有紀(いちのせ ゆき)

配信名:noise

役職:盗賊

男性だった頃の記憶を胸に、女性として生きている。

完璧そうに見えて、結構ボロが多い。

青菜 空莉(あおな くうり)

配信名:クウリ

役職:戦士

心穏やかな少年。あまり目立たないが、様々な面から味方のサポートという役割を担っている。

雨天 水萌(うてん みなも)

元四天王の少女。健気な部分を持ち、ひたむきに他人と向き合い続ける。

案外撫でられることに弱い。

・another

金色のカブトムシの中に男性の頃の一ノ瀬 有紀のデータがバックアップされた存在。

毅然とした性格で、他人に怖い印象を与えがち。

・ディル

役職:僧侶

瀬川 沙羅の情報をベースに、ホログラムの実体化実験によって生み出された作られた命。詭弁塗れの言葉の中に、どこに真実が紛れているのだろうか。

船出 道音(ふなで みちね)

Relive配信として勇者一行と敵対する四天王。魔災以前は何の変哲もない女子高生として生きていた。

鶴山 真水(つるやま まみず)

船出が生み出した世界の中で、バックアップされたデータから復元した存在。元は魔災によって命を奪われた身である。

「他人を理解するならまず自分から、だよ。自分が他人からどう見えるのか考えてみて」

「……難しいな」

 船出の指導の下、俺は自分に関連した物事を書きまとめていく。

 最初こそ「こんなことが一体何のために」と思っていたが、徐々に広がる図を見ているうちにあることに気付き始めた。

「まるで、樹木みたいだな」

「やっぱりそう見える?」

 俺がぽつりと漏らした感想に、船出は苦笑いした。

 ”セイレイ”という軸を取り巻く環境について纏めている内に気づく。

 想像以上に俺に関連した事柄が世界の真相と繋がっていることに。

 瀬川 沙羅の意思を宿したディル。

 Sympassを開発した企業であるTenmeiの社長である、俺の父親……瀬川 政重。

「……ん?セイレイ、どうしたの?」

 そして、この世界において重要な情報源である一ノ瀬 有紀。彼女は俺の視線に気づき、不思議そうに首を傾げた。

 全ての情報が、俺を中心として取り巻いている。

「希望の種……か」

 スペースがなくなるまで書いたマインドマップを見返すと、本当に大きく育った樹木のようにも見える。

 船出は俺が書いたものを覗き込み、中心に描かれた円を指差した。

「マインドマップはね、中心を幹。そこから関連付けたものを葉として捉えるの。希望の種のさ、セイレイにぴったりだと思わない?」

「まさかそれを俺に伝える為に?」

「ただの偶然だけどね。知っておいて損はないし」

 そう言って船出は肩を竦めた。本当に、中身の見えない女だ。


 話がひと段落し、船出はうんと肩を伸ばす。

「さ。ある程度話もまとまったし……そろそろ始める?」

「あ?何を?」

 唐突に切り出した話に、訳も分からず首を傾げると船出は呆れたようにため息を吐いた。

「あのね。何のためにここまで来たの、勇者ご一行様さあ……」

 帰ってきた言葉に、どうやら”決戦”のことを差しているのだと気づく。

「いや、この空気感で気付けるかよ」

「あっ、それもそっか。まあ急がないからさ、ジュース飲み切っちゃいなよ」

 そう言って、船出は俺のところへ置いたコーラを指差した。

 雨天はじっと空になったペットボトルに視線を落としながら、ぽつりと呟く。いつの間に飲み切ったんだ。

「……船出先輩。あの、本当に戦わないと駄目なんですか……?私達、敵じゃないですよね……?」

「敵とか、敵じゃないとか関係ないよ。私は四天王。セイレイ達は勇者一行。これは、クラス対抗の勝負なの」

 学校になぞらえた言い回しをしながら、船出は一足先に食堂に出る。

 突き刺すような陽光の下、彼女は念入りに準備運動を始めた。

「戦わずに済むのならそれでいいよ。でも、それで視聴者は納得する?」

「……いや、しないな」

「でしょ。その為にも、白黒はっきりつけないと。私は過去を、君達は未来を描く存在だから」

 そう言うと同時に、彼女の全身に大きくラグが生じ始める。

 気づいた時には、船出は漆黒のドローンへと姿を変えていた。

『ホログラムを消されるわけには行かないし。それでもセイレイが進むのなら、やっぱり私達は戦う運命なんだよ』

「……みーちゃん」

 俺の隣に有紀が並ぶ。彼女は不安そうな表情で空に浮かび上がったドローンを見上げていた。

 きゅっと胸元で握りこぶしを作ってから、真っすぐな目で語り掛ける。

「私はみーちゃんと戦うことになっても、進まないと駄目なの。どれだけ辛い現実が待っていようと、進まないと……!」

『……ゆきっちは強いね……でも、私は強くなれない。どれだけピーターパン症候群と言われようが、この学校に浸っていたい』

「確かに、私は久々に真水とも会えた。懐かしい時間が帰ってきた……けど、それは現実じゃない。本物じゃない」

『……じゃあ、説得して見せてよ。勇者一行お得意のね』

 まるで聴く耳を持たないと言わんばかりに、ドローンは俺達の視界から遠ざかっていく。

 徐々に、学校内を取り巻いていた空気感が変わっていく。

『とりあえず、前園ちゃんと青菜君を呼んでくるね』

 そう言って、ドローンは俺達の視界から姿を消した。

 やがて、取り残された俺達が最も気になっていたのは、鶴山のことだ。

「……鶴山。お前は良いのか?」

「だから初対面だよね?僕達」

 無礼な物言いなのは事実なのだが、口調を気にするよりも今は彼のことの方が気になっていた。

 船出を倒した時、ホログラムの消滅に伴って鶴山自身も消滅するかもしれないのだ。

 だが、俺の心配をよそに鶴山は声を上げて笑う。

「あははっ、心配性だな。セイレイ君は」

「そりゃ気にするだろ。だって、消えるかもしれないんだぞ?」

「むしろここまで生かしてもらったんだ。道音には感謝してる」

 そこで、鶴山は真剣な表情を作る。杖を両手で支えながら、真剣な眼差しで俺を見据えた。

「僕のことなら気にしないで良いよ。過去と未来、どっちの方を優先すべきかなんて一目瞭然だよね」

「……ありがとう」

 鶴山は次に、有紀へと視線を送った。先ほどまでは気丈に振る舞っていたが、それでもやはり考えずにはいられないのだろう。

 涙目で、鶴山をじっと見つめていた。

「……真水。ごめん」

「良いんだよ。僕の方こそごめんね、君と未来を歩めなかった」

「……ううん」

 ふるふると有紀は首を横に振る。それに伴って、栗色のおさげが大きく左右に揺れた。

 そんな涙に滲む有紀の頬を、鶴山は優しくなでる。

「ずいぶんと、弱くなったね……いや、強さの種類が変わったのかな」

「分かんない。分かんないよ。皆と進まなきゃ、それしか考えられなくて……」

「……楽しかった。十年ぶりの同窓会は、すごく楽しかったよ」

「……私も」

 突き刺すような日差しが、まるでスポットライトのように二人を照らす。

 有紀の滲む涙が、陽光に照らされて一層強く光り輝く。

 鶴山は、そんな有紀の姿にくすりと笑みを零した。

「本当に、眩しいね。ずっと光だったよ。僕にとっては男の頃からずっと……」

「うん……うん……!!」

 鶴山の言葉に、有紀の瞳からより一層涙が零れていく。

 そんな彼女を鶴山は優しく抱き寄せた。

「——!!」

「あわ、あわわ」

 雨天は両手で口を覆って、目を丸くしていた。どこかいけないものを見てしまったように、俺と有紀を交互に見やる。

 俺も二人の空気を邪魔してはいけない気がして、少しだけ空を仰ぐ。

「有紀の想いに応えられなくてごめんね。どうしても男の頃の有紀が居なくなっちゃう気がしたからさ」

「……私は、ここにいる。いるの」

 有紀は鶴山の背中に腕を回し、強く抱きつく。二度と、感触を忘れないように、と言わんばかりに。

「うん。知ってる。君の心の奥底にいるのはいつだって見せかけの有紀だもんね」

「本当は、強くない。怖い。失いたくない、でも……」

「分かってるよ。自分を押し殺そうとするのは有紀の悪いところなのも」

「……行かなきゃ」

 ゆっくりと、有紀は鶴山を突き放すように身体を離す。

 ブレザーの袖で涙を拭い、じっと鶴山と視線を交わした。

 次の瞬間。


「最後にプレゼントね」

 不意打ちと言わんばかりに、有紀は鶴山に口づけした。

「っ……!?」

 瞬く間に、鶴山の顔が紅潮していく。

 同じく頬を赤く染めて、照れ笑いを浮かべた有紀。それでも、はっきりと笑顔で言葉を続ける。

「忘れないよ。真水と過ごした思い出を抱えて、私は前に進むよ」

「……分かった。行っておいで」

「うん!行こう、セイレイ」

 突然声を掛けられて、思考の整理が追い付かない。

 「あ、ああ」とぎこちない返事しか出来ないままに、俺は有紀について行く。

 ちらりと鶴山の方を振り返れば、彼は柔らかな笑みと共に俺に頭を下げていた。

「頼んだよ、瀬川君。未来を有紀に、皆に見せて欲しい」

「……久々にセイレイ以外の呼び方をされたよ」

 思い返せば、皆決まって俺を”セイレイ”と呼んでいた。

 本名で呼ばれたのはいつ以来だろうか。

 ”勇者セイレイ”。かつての俺が、そう呼ばれることを望んだ。

 まだ何も知らず、ただ思い付きで付けたはずのその名前は、いつしか大きな意味を持つようになっていた。

 この世界の中で最も人々に認められた存在なのは、今更否定のしようがないだろう。

 だが、ふと思う。


 ただ、俺を”瀬川 怜輝”一個人として認められる日はいつか来るのだろうか、と。


To Be Continued……

【開放スキル一覧】

・セイレイ:

 青:五秒間跳躍力倍加

 緑:自動回復

 黄:雷纏

・ホズミ

 青:煙幕

 緑:障壁展開

 黄:身体能力強化

・noise

 青:影移動

 緑:金色の盾

 黄:光纏

 赤:????

・クウリ

 青:浮遊

 緑:衝風

 黄:風纏

・ディル

 青:????

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