表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
⑥思い出の学び舎編
180/322

【第八十六話(1)】関連付けた理解(前編)

【登場人物一覧】

瀬川(せがわ) 怜輝(れいき)

配信名:セイレイ

役職:勇者

世界に影響を及ぼすインフルエンサー。

他人を理解することを諦めない、希望の種。

前園(まえぞの) 穂澄(ほずみ)

配信名:ホズミ

役職:魔法使い

瀬川 怜輝の幼馴染として、強い恋情を抱く。

秋狐の熱心なファンでもある。

一ノ瀬 有紀(いちのせ ゆき)

配信名:noise

役職:盗賊

男性だった頃の記憶を胸に、女性として生きている。

完璧そうに見えて、結構ボロが多い。

青菜 空莉(あおな くうり)

配信名:クウリ

役職:戦士

心穏やかな少年。あまり目立たないが、様々な面から味方のサポートという役割を担っている。

雨天 水萌(うてん みなも)

元四天王の少女。健気な部分を持ち、ひたむきに他人と向き合い続ける。

案外撫でられることに弱い。

・another

金色のカブトムシの中に男性の頃の一ノ瀬 有紀のデータがバックアップされた存在。

毅然とした性格で、他人に怖い印象を与えがち。

・ディル

役職:僧侶

瀬川 沙羅の情報をベースに、ホログラムの実体化実験によって生み出された作られた命。詭弁塗れの言葉の中に、どこに真実が紛れているのだろうか。

船出 道音(ふなで みちね)

Relive配信として勇者一行と敵対する四天王。魔災以前は何の変哲もない女子高生として生きていた。

鶴山 真水(つるやま まみず)

船出が生み出した世界の中で、バックアップされたデータから復元した存在。元は魔災によって命を奪われた身である。

 魔災前は中学生だったこともあり、授業にはそれなりについて行ける自信があったのだろう。

 雨天は最初こそ授業を真剣に聞いていた。

「……むむむ」

 しかし、途中から理解が追い付かなくなったのか、そのあどけない顔つきが険しくなり始める。

 明らかに飽きてきたのだろう。途中で何度も座り直したり、背筋を伸ばしては戻し……を繰り返し始めた。

「雨天。疲れたんだったら他の皆のとこへ行ってこいよ」

「やだ!」

 ……あっさりと断られてしまった。

 しかし、俺がそう言ったことでかえって雨天の心に火が付いたのか、今度こそ真剣な表情で正面を向いた。

 コロコロと表情の変わる彼女を眺めているのも面白いが、今は授業風景のデッサンにも集中したい。

 教師が平坦な声音で、淡々と教科書の中身を読み上げていく。黒板に走らせたチョークの跡が、文字として刻み込まれていく。

 揺れるカーテンが布の擦れる音を生み出す。そして、そんな環境の中で学生たちは各々にノートを取る為にペンを走らせる。

 どこか静かで、纏まりのある空間。

 俺が見ることのなかった世界を、忘れまいと鉛筆に走らせている中。

 はらりと、スケッチブックの中から一枚のメモが落ちた。

「……?」

 一枚のメモ用紙には、綺麗に整った有紀の字でこう書かれていた。


 ”理解は関連付けを意識してみるといいよ!fight!”……と。

「……つくづくお節介な姉ちゃんだな」

「ん、一ノ瀬さんのメモです?」

「ああ。あいつなりの助言だろうな」

 恐らく、俺が授業を聞きに残ると知った時に残したメモか。

 元々高校どころか小学校すらまともに通うことの出来なかった俺への、彼女なりの応援なのだろう。


 ……関連付け、か。

 つくづく妙な縁で出来た世界だとは思う。魔災が無ければ、俺はきっと幼馴染として共に生きてきた穂澄とさえ出会っていない。

 有紀も、船出や鶴山と散り散りになることは無かったのだろう。

 最初は全く俺達に理解を示そうとせず、敵として立ちはだかった船出。だが、今は俺達に自身の世界を理解してもらおうと、懸命に寄り添おうとしている。

 この授業と同じだ。

 分からないから、知ろうとする。

 知って欲しいから、伝えようとする。

「俺達は、知らないだけなんだよな」

「正直、先生が何言ってるか分かりません……」

「まあ、出来る限り有紀の助言通りにやってみるか」

 このままだと雨天が一部の学生と同じように寝てしまいそうだ。

 俺はスケッチブックの空いたスペースを使って授業のメモを取ることにした。ただ書いてあることをそのままメモしても記憶できる自信が無かったため、ある程度自身の言葉に置き換えてまとめ直す。

 センセーの授業で行っていた方法を、自分の中に落とし込む。

 ただ、結論から言えば付け焼き刃の方法では、完全に授業の内容を理解するには至らなかった。


「……何やってるの二人とも。うわっ、スケッチブックの使い方じゃないでしょそれ」

 俺達の様子が気になって戻ってきたのだろう。船出は俺のスケッチブックを覗き込んでぎょっとした様子を浮かべる。

 びっしりと板書を書き直したそれは、もはや何を書いているのか理解することが出来なかった。

「……すぅ……すぅ……」

 ちなみに、雨天は結局理解が追い付かなかったのだろう、完全に舟をこいでいた。

 俺はどこか照れくさくなり、目を逸らしながら言い訳がましく答える。

「あー……難しいな。授業を理解するって」

「頭硬いね、勇者様って。もう少し柔軟に考えなよ」

「それが出来りゃな……」

「はぁー……」

 船出は呆れたようにため息を吐いた。それから、俺からスケッチブックを奪い取る。

「あのね。ゆきっちのメモ読んだよね?関連付けとは言ったけど、軸の中心が分かってないとそりゃ覚えらんないでしょ」

「軸の中心?」

「マインドマップって聞いたことない?ちょっとゆきっち、ノートある?」

 突然話を振られた有紀は苦笑を漏らしながら、”ふくろ”から一冊のまっさらなノートを取り出した。

「ここじゃ書きづらいから、食堂に行くよ。ほら、付いてきて」

 主導権を握った船出は、そう言ってさっさと俺の手を引く。

 俺は慌てて隣で舟をこいでいる雨天を起こして、彼女も連れていくことにした。


★★★☆


 時間で言えば、まだ午前10時を過ぎたところだ。ホログラムが映し出す世界と言うのをふと忘れそうになるが、静寂漂う食堂へと俺と雨天は連れられた。

 食堂ホール一面に並べられたテーブルと、パイプ椅子。外壁の方へと視線を送れば、自動販売機がいくつも並んでいる。

 船出はちらりと有紀へと視線を送り、手を差しだした。

「ゆきっち。魔石持ってるよね」

「ん?あ、どうぞ」

「ありがと」

 船出は有紀から魔石を二つ受け取り、そのまま自動販売機へと向かう。

 慣れた動作で自動販売機のボタンを操作したかと思えば、そのまま魔石を自動販売機へと近づけた。

 どうやら”ホログラムの実体化”を活用しているようだ。自動販売機が大きくガタンと揺れたかと思うと、取り出し口から引き抜いた2本のジュースを俺達へと差し出す。

「セイレイ何となく子供舌っぽいし、こっちの方が好きでしょ」

「おいもう少し言い方あるだろ」

「おこちゃま舌め」

「……はあ」

 これ以上のやり取りは不毛に感じて、俺は船出からコーラを受け取った。同じ流れで、雨天にもオレンジジュースを手渡す。

 それから、彼女が先導する形で食堂の一角にあるテーブルへと招かれた。

 俺達のやり取りを、鶴山は楽しそうに微笑みながら見ていたが気にしないことにする。

「私もゆきっちから教わったんだけどさ。勉強するための勉強、ってのが大事なんだって」

 船出はパイプ椅子に腰かけ、ノートを軽く指で叩きながらそう切り出した。

「勉強するための勉強……って、どういうことだ?」

「そのままの意味だよ。ただ同じ内容を書き殴るだけが勉強じゃないの。やり方だって色々ある」

 そう言いながら、船出はノートにペンを走らせる。女性らしい、丸みのある文字が刻まれていく。

「ゲームや漫画の人物は簡単に覚えられるのに、歴史上の人物や単語は簡単に覚えられないの。その違いは何かわかる?」

「……関心?」

「それも間違いじゃないけどね。ゆきっちは『使う知識かどうか』が大事なんだって言ってた」

「使う知識?」

 鸚鵡返(おうむがえ)しばかりで申し訳なくなるが、本当に言葉の意味が理解できないのだ。申し訳なさそうな表情を察されたのだろう。船出は苦笑を漏らしながら、丁寧に解説を始めた。

「例えばさ。ゲームのキャラクターは強いとか、弱いとか。攻略に関係した情報が並んでる。でも、現実はそうじゃない。何に使えるか分からない知識がいっぱいある」

「そう、だな。でも覚えておいて腐らない知識もあるんだよな?」

「うん、セイレイはそこを理解してるから助かるよ。ただ実用的な知識以外って、正直どうでもいいじゃん?生活に何一つ役に立たないし。だから、頭に入らない。覚えられない」

「……否定できないな。魔王と出会う前まで、俺も勉強をしようと思わなくてさ。全部穂澄や有紀に丸投げしてたよ」

 正直に白状したのを聞いた有紀が、思わず「ふふっ」と笑う声が聞こえた。思わず恥ずかしくなり、彼女の顔を見ることが出来なくなる。

 それに対して、船出は真剣な表情を浮かべていた。

「ま。それは私が最初セイレイを嫌っていた理由の一つでもあるかな。勉強もロクにしないくせに綺麗ごとだけは重ねるのが胸糞悪かった」

「それは……すまん」

「もしまだ理解を拒んだまま正義を語ってたら、今頃私はセイレイをぶっ殺してるよ」

 淡々とそう語る船出。彼女のはっきりとした物言いには、嘘など何一つ籠っていないのだと如実に伝わる。

 有紀と鶴山は彼女の言葉を神妙な表情で聞いていた。内心、今からでも衝突してもおかしくないとひやひやしているだろう。

 しかし、話が逸れていることに気づいたのだろう。船出は取り直すように首を横に振り、それからノートに絵を描き出した。

 中心に丸を描き、そこから髭のような形に根っこを伸ばしていく。

「さっき”マインドマップ”って触れたよね。これね、中心にメインとなるものがあって、そこから関連したものを書いていく手法なんだけどね」

「なるほど、これが関連付けって言う……」

「うん。例としてセイレイを挙げてみるよ」

 そう言って、船出はノートの円の中に”セイレイ”と丸文字で書く。そこから、髭の形のように伸ばした根っこを指差した。

「じゃ、ここから関係していくものを書いてみよっか。君に近しい人物とか、君の開花したスパチャブーストとか、色々とね」

「……分かった。やるだけやってみるよ」


 俺は、唐突に始まった船出の授業を受けることになった。


To Be Continued……


挿絵(By みてみん)

 マインドマップとはこういう図のことです。

 一時間くらいでさくっと書いてみました。余白足りなくて途中で切り上げました。

【開放スキル一覧】

・セイレイ:

 青:五秒間跳躍力倍加

 緑:自動回復

 黄:雷纏

・ホズミ

 青:煙幕

 緑:障壁展開

 黄:身体能力強化

・noise

 青:影移動

 緑:金色の盾

 黄:光纏

 赤:????

・クウリ

 青:浮遊

 緑:衝風

 黄:風纏

・ディル

 青:????

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ