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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
⑥思い出の学び舎編
179/322

【第八十五話(2)】追憶と現在の狭間(後編)

【登場人物一覧】

瀬川(せがわ) 怜輝(れいき)

配信名:セイレイ

役職:勇者

世界に影響を及ぼすインフルエンサー。

他人を理解することを諦めない、希望の種。

前園(まえぞの) 穂澄(ほずみ)

配信名:ホズミ

役職:魔法使い

瀬川 怜輝の幼馴染として、強い恋情を抱く。

秋狐の熱心なファンでもある。

一ノ瀬 有紀(いちのせ ゆき)

配信名:noise

役職:盗賊

男性だった頃の記憶を胸に、女性として生きている。

完璧そうに見えて、結構ボロが多い。

青菜 空莉(あおな くうり)

配信名:クウリ

役職:戦士

心穏やかな少年。あまり目立たないが、様々な面から味方のサポートという役割を担っている。

雨天 水萌(うてん みなも)

元四天王の少女。健気な部分を持ち、ひたむきに他人と向き合い続ける。

案外撫でられることに弱い。

・another

金色のカブトムシの中に男性の頃の一ノ瀬 有紀のデータがバックアップされた存在。

毅然とした性格で、他人に怖い印象を与えがち。

・ディル

役職:僧侶

瀬川 沙羅の情報をベースに、ホログラムの実体化実験によって生み出された作られた命。詭弁塗れの言葉の中に、どこに真実が紛れているのだろうか。

船出 道音(ふなで みちね)

Relive配信として勇者一行と敵対する四天王。魔災以前は何の変哲もない女子高生として生きていた。

鶴山 真水(つるやま まみず)

船出が生み出した世界の中で、バックアップされたデータから復元した存在。元は魔災によって命を奪われた身である。

 ホログラムが映し出すセンセーは、”経済”と書かれた教科書を取り出しながら教室内を見渡す。

『あー。前回の授業で、”失われた十年”について説明したと思うが、皆覚えてるか?』

 その問いかけに対し、どうやら目立ちたくないと言わんばかりに皆等しく目を逸らした。当然ともいえる反応に苦笑を漏らしたセンセーはそのまま話を続ける。

『細かいことを言うと違うんだがな。要はバブル崩壊の時に起こった一連の流れによって起きた現象のことだ。まずバブル経済についての話から始めるが……簡単に話すとな。『皆が、日本の土地に価値があると思ってこぞって買おうとした結果、経済が潤った状態』のこと……と言えるだろうな』

「失われた十年……」

 ()しくも魔災に伴って同じくインフラが崩壊し、現在進行形で失われた十年を経験している俺達は真剣にセンセーの授業を聞いていた。

 その様子を横目に見た船出は困ったように笑う。

「うわ、みんな真面目だねー。そこまで真剣に聞かなくても良いんだよ?」

「なんだか他人事とは思えない話だからな」

「まあ、それもそっか」

 真剣に授業を聞いてくれていること自体は嬉しいのか、船出はそれ以上何も言わなかった。彼女も黙って続く授業に集中することにしたようで、黒板の方へと視線を向ける。

 センセーは淡々と、”失われた十年”についての概要を話していた。

『——そうだな。日本の土地に需要があると思って、皆買うだろ。そしたらな、俺達消費者も”もしかしたら今後高くなるかもしれないんだったら買わなきゃ”って買いに走り、その結果経済が回った。でも、結局それも終わりを迎える』

 そこで話を切り、生徒の理解が追い付いているかを確認するようにぐるりと教室内を見渡す。

「千戸先生は、高校の先生やってる時は他人の理解を置き去りにしない人だったよ。なるべく自分の解釈を交えながら話をしてくれた」

 有紀は昔を懐かしむように授業を聞いていた。

 俺は横目で有紀を見やるが、センセーが再び口を開いたため意識をそちらへと向ける。

『あまりにも、日本の価値が大きく見えすぎてたんだろうな。”総量規制”と書いていると思うが、要は『これ以上地価を高めないようにする方針』のことだった。それによって何が起きたかと言うとな……逆に、皆『もしかしたらもっと安くなるかも』と思って買わなくなったんだよ』

 授業を聞いていた傍ら、ディルは「言ったでしょ」と授業中にもかかわらず話に割って入る。

「おい授業中だぞ」

「お堅いなあセイレイ君は。ほら、僕さ、前に言わなかった?『行き過ぎた生は行き過ぎた死を生み出す』ってさ。いつの時代もみんな同じ、『今の世界が続く』って信じてやまないんだろうね。勝手に基準が出来ちゃってるんだよ基準が」

「それは当然じゃないのか?いつ現実が崩れるかなんて怯えてたら生活できないだろ」

「はっ。僕は正直、魔王の授業内容は知ったこっちゃないし、そもそも興味ないけどさ。皆現実見なさすぎ。”UNIVERSE 25”の実験知らないの?」

 ディルの話を真剣に聞いていると、関係ない方向に話が飛躍しそうな気がした為にこれ以上は無視することにした。

 スルーされたことにディルはブツブツと文句を言っていたが、仕方ないことだ。

 俺は再びセンセーの授業に意識を向ける。

『皆が買わなければ、当然お金も回らない。だから不況に陥った……と言う話だ。かいつまんで説明したが、もしかすると違う所もあるかもしれない。興味がある人は各自調べてくれ』

 独自の解釈でそう話を終え、最後にそう釘を刺した。

 他人事とは思えない話だ。

 常にこの平和が続くと信じてやまなかった俺達。だが、非現実的な現象である魔災が、平穏や安寧、常識でさえも瞬く間に奪っていった。

 まさか、ディルの詭弁が今になって意味を持つとは。

「ねえ今失礼なこと考えてない?僕は意味を持つ言葉しか基本的には言わないよ。君達がちゃんと僕の言葉の意味を考えてないだけでしょ?」

 視線の意味に気づいたのか、ディルはやれやれと首を横に振る。

「じゃあもう少しわかりやすく言ってくれよ……」

「無理だねそりゃ。僕には僕のやり方があるんだ。そのやり方が根幹から否定されない限りは止める気はないよ」

 確かに、分かりやすい言い回しで相手の言葉を伺うような会話をするディルはイメージがつかないが。

 そんな俺達のやり取りを聞いていた鶴山は、くすりと笑う。

「ディル君は面白い考え方をするね。聞いていて飽きないよ」

「だからそう評価されるのはなんか違うというかさあ。解釈違いなんだよ」

 どうやら好意的な評価をされるのが苦手らしいディルは、むず痒そうに身体を捩らせる。

 だが、そんなディルの反応を見ても鶴山の意見は変わらない。

「君達勇者一行は、お金がどれだけ生きることに関係してるのかを身を以て体験してるよね。お金がなくちゃ生きていけないんだよ」

「まあ、そうだな……」

 ”スパチャブースト”が力を与える配信の世界に身を置く俺達は、その鶴山の言葉を否定することが出来ない。

 真剣な表情で聞いてくれることが嬉しいのか、鶴山はにこりと笑って杖の柄を触りながら話を続けた。

「うん、魔災前の世界と、今の世界じゃお金が持つ意味は大きく違うよね。でも生きる為に必要なもの、という意味では同じなんだ」

 そこで言葉を切り、鶴山はブレザーのポケットに潜ませていた千円札を取り出す。

 肖像画の描かれたそれをひらひらと揺らしながら、言葉を続けた。

「僕はね、お金は”期待”と同じだと思ってる」

「期待……」

「”この人はこれだけのことをやってくれる”と期待するから、人はお金を払う。逆に、そう思えなかったら人はお金を出し渋る。簡単なことなんだけど、どうもみんな忘れちゃうんだよね」

「……それは、俺達にも関係する話だよな」

 確認するようにそう尋ねると、鶴山は「うん」と強く頷いた。

「勇者達に期待してるから、皆スパチャを送ってるってこと、忘れちゃ駄目だよ」

「……ああ」

 過去に、空莉と話した時の内容を思い出す。

 俺自身が持つ考え方である”スパチャは他者から与えられる期待の形”と今鶴山が語る内容は、ほとんど似たような話だった。

 だが、改めて他人から聞かされた言葉。例えそれが同じ内容であろうと、お金が持つ意味を考え直す必要がある。

 どこか、心の奥でそう感じていた。


 そんな話をしている間に、黒板上に備え付けられたスピーカーからチャイムの音が鳴り響く。

「……っと。授業も終わりか。どうする?しばらく授業を聞いて行っても良いけど」

 船出の提案に、俺は強く頷いた。

「俺はこのまま授業を受けてみたいと思う。他の皆はどうする?」

「私もここに居ますっ」

 雨天は健気に俺の意見に賛同する。それから、ずるずると空いていた椅子を二つ引っ張り出して、俺に「座って」と促す。


 俺達の様子を他所に、穂澄と空莉は教室の扉に手を掛けていた。

「僕とホズちゃんは、ちょっと学校内の情報収集に行ってくるよ。何か発見があるかもしれないし」

「あっ君達はいかないで欲しいなあ……」

 船出はどこか冷や汗をかきながら、それでも二人を止めることが出来ずに見送った。


 げんなりとした様子の船出へと、有紀は柔らかな笑みを向ける。

「……久しぶりにさ、私。みーちゃんと真水と、一緒に居ていいかな?」

「あっ。ゆきっち」

「今は四天王とか勇者一行とか、お互いの立場を忘れたい。昔のように、一緒に過ごしたいよ」

「……うん」

 有紀にそう真正面から提案され、珍しく船出はしおらしくなってしまった。

 それから、鶴山の手を引いて無理矢理立ち上がらせる。

「わっ、無理に起こさないでよ」

「う、うるさいっ。ゆきっち、行こう。十年間会えなかったんだから、満喫するよっ」

「あははっ、十年経ったのにみーちゃんも真水も見た目変わってないの、面白いね」

「理由は人それぞれだけどね……」

 そう言って、有紀達も教室も後にしようとする。

 俺は慌てて有紀を引き留めた。

「あ、待て有紀。スケッチブックと鉛筆だけもらっておいても良いか」

「ん?あ、描くんだね。いいよ」

「ありがとう」

 おおよその事情を察したらしい有紀から、”ふくろ”から取り出した鉛筆とスケッチブックを受け取る。

 「どういたしまして」と微笑んだ後、有紀達は今度こそ教室から姿を消した。


 ちなみにディルはいつの間にかいなくなっていた。けど、あいつが神出鬼没なのはいつものことだから気にしていない。

 今頃一人で好きなようにやっているのだろう。


 ——本当に、過去も今も、様々な時間軸の混ざりあった世界だと思う。

 俺は膝を土台代わりにスケッチブックを置き、鉛筆を走らせ始めた。

 魔災に墜ちた世界だという事を今は忘れ、今この瞬間だけは。

 ただの学生、瀬川 怜輝として……授業の光景をスケッチブックに描き留めることに専念しよう。

 そう誓った。


To Be Continued……

【開放スキル一覧】

・セイレイ:

 青:五秒間跳躍力倍加

 緑:自動回復

 黄:雷纏

・ホズミ

 青:煙幕

 緑:障壁展開

 黄:身体能力強化

・noise

 青:影移動

 緑:金色の盾

 黄:光纏

 赤:????

・クウリ

 青:浮遊

 緑:衝風

 黄:風纏

・ディル

 青:????

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