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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
⑥思い出の学び舎編
178/322

【第八十五話(1)】追憶と現在の狭間(前編)

【登場人物一覧】

瀬川(せがわ) 怜輝(れいき)

配信名:セイレイ

役職:勇者

世界に影響を及ぼすインフルエンサー。

他人を理解することを諦めない、希望の種。

前園(まえぞの) 穂澄(ほずみ)

配信名:ホズミ

役職:魔法使い

瀬川 怜輝の幼馴染として、強い恋情を抱く。

秋狐の熱心なファンでもある。

一ノ瀬 有紀(いちのせ ゆき)

配信名:noise

役職:盗賊

男性だった頃の記憶を胸に、女性として生きている。

完璧そうに見えて、結構ボロが多い。

青菜 空莉(あおな くうり)

配信名:クウリ

役職:戦士

心穏やかな少年。あまり目立たないが、様々な面から味方のサポートという役割を担っている。

雨天 水萌(うてん みなも)

元四天王の少女。健気な部分を持ち、ひたむきに他人と向き合い続ける。

案外撫でられることに弱い。

・another

金色のカブトムシの中に男性の頃の一ノ瀬 有紀のデータがバックアップされた存在。

毅然とした性格で、他人に怖い印象を与えがち。

・ディル

役職:僧侶

瀬川 沙羅の情報をベースに、ホログラムの実体化実験によって生み出された作られた命。詭弁塗れの言葉の中に、どこに真実が紛れているのだろうか。

船出 道音(ふなで みちね)

Relive配信として勇者一行と敵対する四天王。魔災以前は何の変哲もない女子高生として生きていた。

「お兄さんが一ノ瀬さんの恋人なんですね?初めまして、雨天 水萌と申しますっ。よろしくお願いします」

 雨天がぴょこりと大きく頭を下げながら自己紹介した。鶴山は笑いながら会釈したものの、ふとその表情が硬くなる。

「雨天ちゃん、か。話は道音から聞いたけど……有紀?」

 彼はちらりとへたり込んだままの有紀の方へと訝しげな視線を向ける。冤罪(えんざい)をふっかけられた彼女は慌てて首を横に振った。

 慌てて立ち上がり、雨天へと突っかかる。

「言っていない言ってない!!雨天ちゃん、何言ってるの!?」

「えっ、恋人と違うんですか?」

「違うよ!?片思いだよ、片思い!!」

「堂々と言い切らないでくださいよ……」

 懸命に言い分を重ねる有紀に、苦笑を漏らしながら雨天は視線を逸らす。

 しかし、どうも目の前に立つ鶴山 真水とか言う少年は生きているとしか思えない。自然に会話し、自然に反応する。

 作り物とは思えない存在に、どうにも疑問を拭うことが出来なかった。

 どう話を切り出したものかと悩んでいる俺を余所に、ディルは無遠慮に鶴山へと話し掛ける。

「まあキミがどんな存在だろうとどうでも良いけどさ。作り物ってところに親近感を覚えるよ」

「あっ、おいっ」

 あまりにもずけずけと踏み込んだ話の切り込み方をするディル。しかし、堂々と”作り物”認定をされても鶴山は笑っていた。

「作り物、か。確かにディル君の言う通りかもね。僕のこの返答だって、所詮プログラミングされた思考に過ぎない訳だし」

「……肯定されると困るんだけど」

「僕の返す言葉が、神が設計した思考によるものから、人間が設計した思考に変わっただけでしょ?会話できてるという結果が同じなら良いと思うよ」

「…………はあ。もう少し動揺してよ」

 詭弁で常に相手に対して優位に立とうとしてきたディルが、こうも口で負けるのは初めて見た。

 有紀の周りというのは、どうしてこうも変わり種しかいないのだろうか。

 どう反応したものか困り果て、俺はちらりと有紀へと視線を送る。

「ごめん。真水ってこういとこあるから」

「どういうところだよ……」

「にしても、どう言う経緯で真水がここに居るの?死んだ、というのは嘘だったの?」

 作り物と言うにはあまりにも自然に会話できている鶴山。その存在について遂に疑問を隠せなくなった有紀は、そう問いかけた。

 正直、接点のない俺よりも近しい者から話を振ってくれた方が、気分的にも楽だから助かる。

 その疑問に答えたのは、鶴山ではない。

 四天王であり、塔出高校の管理者でもある船出だった。

「これも、四天王による力の一つだよ」

「ちょっと、余計な話しようとしないでよ」

 何を言おうとしているのか察したらしいディルが、すかさず話に割って入る。

「運営は、世界のストレージに干渉できる」

 しかし、船出はそれを無視して言葉を続けた。

 校舎の中へと徐々に歩みを進める彼女に続く。ビニール材が張り巡らされた廊下が、やがて俺達の視界に広がった。

 ホログラムが映し出す学生達を見やりながら、船出は言葉を続ける。

「いくらホログラムと言っても、映し出せる世界には限界がある。雨天ちゃんが生み出した水族館は大きくラグが走ってたでしょ?」

 船出の言葉に、俺は過去に雨天が生み出したダンジョンである水族館の光景を思い出す。

 確かに、雨天へと続く部屋は大きくラグに歪んでいた。

「てっきり、雨天の情緒不安定な部分が反映されているのかと思ったが」

「情緒不安定なのは否定しませんけど、引き合いに出さないでくださいよっ」

 むくれた雨天が俺の背中をぺしぺしと可愛らしく叩くが、俺はそれを無視して船出の反応を待った。

 船出はそんな雨天の様子に苦笑を漏らしながら、話を続けた。

「追憶のホログラムで映し出す以上の世界を生み出そうと思うと、相応のストレージが必要になる。思い出して?一ノ瀬先輩……anotherが管理する住宅街の追憶のホログラムは、家の中だけに限られてたでしょ。ストレージ容量内でダンジョンを作るって、結構大変なんだよ」

「ゲームみたいな話だな……」

「実際そうかもね。バックアップされた真水先輩のデータを復元するのに、これでも結構なストレージ割いてるんだよ。運営権限でちょっとだけ多めに容量貰ったけど」

「……バックアップ?」

「あっ」

 サラッと語ったその内容を指摘すると、船出はばつが悪そうに目を逸らした。

 どうやら、あまり公にしたくない情報を聞いてしまったようだ。更に問い詰めるべきか、気を遣って聞かなかったことにしておくべきか戸惑っている最中、船出はわざとらしく空咳をした。

「……こほん。とりあえず、もう少ししたら教室に着くよ。どうせだし、セイレイ達も一回授業を受けてみt――」

「道音が言ったバックアップって言うのは、僕達が死ぬ前のデータだよ。ほら、another……男版有紀もバックアップされたデータだったでしょ?」

「ちょっと真水先輩!!黙って!?」

「いや、初めて聞く単語はちゃんと説明しないと。僕がこうして会話してる理由に繋がるんだから、そこは放置するべきじゃないよ」

「そう言う問題じゃないって!ゆきっちはともかく、前園ちゃんとか青菜君とか、皆頭が回るんだから余計な情報を与えないで!!」


 船出の慌てた反応にちらりと穂澄と空莉へと視線を向けると案の定二人は”バックアップ”について議論を交わしていた。

「やっぱり、皆の情報がデータとして保存されて居るんだね。じゃあ、追憶のホログラムは……」

「……多分さ、サーバーから映像として引っ張り出してるのかな」

「だよね。ある程度考えられる仮説は立てておこうよ」

「うん。いつかにさ、セイレイ君が”ゲームの世界に放り出された”って仮説を立てたことがあったんだよ。案外、その考え方もあり得るのかな」

「あるかもしれないね。でも、現時点で持ってる情報って全部伝聞なんだよね、証拠としては弱いなあ」

「どの辺りに情報を絞っていくか、一先ず考えよっか。間違えていたらその都度修正しよう」

「方向性の修正とかは空莉君に任せるよ」

 ”明確な証拠を持っていない”。この理由一つだけで何とかなっているだけで、俺達は知らず知らずのうちに真相に近づきつつあるのかも知れない。

 あまりにも考察能力に長けた穂澄と空莉を見ていると、そう思わざるを得なかった。

「……はは。余計な事ペラペラと喋んないでよ。ね、もう皆気付かないで良いよ。もう少しゆっくりと行こう。時間はまだある、焦らなくて良いよ……まだ四天王も二人居るのにさ、ペラペラと憶測を語り進めるのはどうかと思うんだ。もう分かったから、気付きは成長の糧とか言わないから、黙ろう、ね?」

 ちなみにディルは、胃を痛めたのか引きつった笑いと共にお腹を押さえていた。

 出来るだけ必要なところで必要な情報を与えたいはずの運営側にとって、きっと穂澄や空莉の会話は脅威だっただろう。

 俺はそこまで頭が回るわけではなく、なんとも言えないが気の毒な話ではあった。


 そうこうしている間に、船出はぴたりとある教室の前で立ち止まった。

 がやがやと賑やかな談笑が響く声。今まで集落に居たときのようなどこかまとまりのある雰囲気ではなく、混沌とした賑やかさだ。

 俺達が今までに感じたことのない、和気藹々とした世界に思わず後込みしてしまう。

 身も蓋もないことを言えば、ダンジョン以上に異世界に放り込まれた気分だった。

「あー、そっか。セイレイ達からすればそんなリアクションになるか」

 慣れない雰囲気にビビってしまったのを見透かしたのだろう。

 船出は困ったような苦笑を浮かべるが、そのまま教室のドアに手を掛ける。

「ま、安心してよ。そんなに怖くないよ。ダンジョンの魔物よりは」

「比較対象魔物かよ」

「冗談に決まってるでしょ」

 軽口を叩きながら船出は教室のドアを開ける。

 そこには、俺の知らない世界が広がっていた。


「昨日の番組見た?」「まじ?最高」「ねー、一緒に写真撮ろ!」「先生の課題やった?俺やってない」「課題見せて」「うっそマジかSSR出た」「お前まだそのゲームやってんのかよ」「うるせえな。お前放置してんなよ」「教科書忘れた」「違う教科書出しとけ」


「……想像以上だな」

 まるで纏まりのない世界に、俺は呆然と立ち尽くす。

 無論、俺だけではなかった。空莉も穂澄も、見たことのない世界になんとも言えない表情を浮かべていた。

 しかし、有紀だけは懐かしそうに笑みを零す。

「やっぱり、昨日のように思い出せる。懐かしいな……この景色」

「学校って、こんな色んな人が居る空間だったんだな」

「セイレイ達は初めてだもんね。私達の言う”居場所”とでも言うのかな。それが、昔はこの教室だった」

「……やっぱり、配信で皆にも見せてあげたいな。俺達だけで共有するのも勿体ない気もするよ」

「視聴者想いだね、セイレイは」

 俺がポツリと漏らした感想に、有紀は柔らかな笑みを浮かべた。

 船出はポケットから取り出したスマホを触りながら、教室の中へと入っていく。

 教室後ろのロッカーの方へと俺達を招き、それから口を開いた。

「ま、どうせだし授業でも受けてみよっか。分からないところがあれば私やゆきっち、真水先輩の学生組が教えるから」

「学生組……」

 突然学生組扱いされた有紀は困惑の声を漏らす。

「僕も正直教えることできる自信ないよ?」

 鶴山は杖をロッカーへと立てかけて、船出が持ってきた椅子へと腰掛ける。

 そうこうしていると、教室へと一人の教師が入ってきた。

 奇遇にも、俺達が知っている教師だった。

「はい、皆遅刻せずに集まっているな、偉いぞ。あーうん。授業を始めようか」

「……センセー……」

 そこには、魔王となる前の高校教師である千戸 誠司の姿がホログラムとして映し出されていた。


To Be Continued……

【開放スキル一覧】

・セイレイ:

 青:五秒間跳躍力倍加

 緑:自動回復

 黄:雷纏

・ホズミ

 青:煙幕

 緑:障壁展開

 黄:身体能力強化

・noise

 青:影移動

 緑:金色の盾

 黄:光纏

 赤:????

・クウリ

 青:浮遊

 緑:衝風

 黄:風纏

・ディル

 青:????

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