【第八十四話】通学路
【登場人物一覧】
・瀬川 怜輝
配信名:セイレイ
役職:勇者
世界に影響を及ぼすインフルエンサー。
他人を理解することを諦めない、希望の種。
・前園 穂澄
配信名:ホズミ
役職:魔法使い
瀬川 怜輝の幼馴染として、強い恋情を抱く。
秋狐の熱心なファンでもある。
・一ノ瀬 有紀
配信名:noise
役職:盗賊
男性だった頃の記憶を胸に、女性として生きている。
完璧そうに見えて、結構ボロが多い。
・青菜 空莉
配信名:クウリ
役職:戦士
心穏やかな少年。あまり目立たないが、様々な面から味方のサポートという役割を担っている。
・雨天 水萌
元四天王の少女。健気な部分を持ち、ひたむきに他人と向き合い続ける。
案外撫でられることに弱い。
・another
金色のカブトムシの中に男性の頃の一ノ瀬 有紀のデータがバックアップされた存在。
毅然とした性格で、他人に怖い印象を与えがち。
・ディル
役職:僧侶
瀬川 沙羅の情報をベースに、ホログラムの実体化実験によって生み出された作られた命。詭弁塗れの言葉の中に、どこに真実が紛れているのだろうか。
・船出 道音
Relive配信として勇者一行と敵対する四天王。魔災以前は何の変哲もない女子高生として生きていた。
「てかさ。お前の最初のキャラ、あれなんだったんだよ」
「今更掘り返さないでよ……」
ずっと気になっていた疑問を、俺は船出へとぶつける。すると彼女は明らかに嫌そうな表情で肩を落とした。
気だるげに向けた視線のまま、船出は大きくため息を吐く。
どこか思い返したくないと言いたげな表情を見たディルは、ニヤニヤと楽しそうに笑っていた。
「あはっ♪私が、Relive配信の船出 道音だっ♪あははっ♪……わあっ!?」
「わああっ、やめてよっ!!恥ずかしいでしょうがっ!?」
「キミが言い出したことでしょー?あははっ、はあー楽しいなあ、四天王からかうの最高っ」
「結構頑張って考えたんだよあのキャラ!悪役らしさ出そうと思って!!」
出会った当初の船出の真似をするディル。彼に対し、船出は耳元を真っ赤にしてディルを追いかけまわす。
まるでSympass運営の二人とは思えないやり取りが繰り広げられ、俺達は困惑を隠すことは出来なかった。
「まあ、実際に有紀は完全に敵意むき出しにしてたし、結果的には成功してると思うがな」
「あはは……何だか、今になってこうやって話すの恥ずかしすぎるんだけど……」
「こんな風に初めて会った時の裏話を話してると、まるで演劇でもやってるみたいに思えてくるよ」
「演劇、かあ……でも全部現実のことだもんね」
俺の言葉に、有紀は複雑な表情を浮かべる。
それもそうだろう。船出が初めて俺達と対峙した時の、怒り、憎しみ、恐怖全ての感情は本物だった。
実際に俺も船出のやった行動により、命を奪われかけた訳だし。目の前のこいつを見ていると、ふと忘れそうにはなるが……。
「命のやり取りした相手とまさかこんな形で話すとはな。と言うか、お前はどうしてドローンの姿に身を移そうと思ったんだ?」
「ん、やっぱり聞く?」
「そりゃな。雨天は他人を蹴落としてまでありのままの水族館を守ろうとした、って理由があっただろ」
雨天を引き合いに出すと、当の本人は神妙な表情で俺の裾を引っ張る。
「うう、今になって後悔するとは思わなかったです」
「これから償っていけよ」
「はい……」
そう言えば、フードを被っていない雨天を見るのは初めてだな。
そんなことを思いつつ。しょんぼりと項垂れてしまった彼女の頭を優しく撫でながら、改めて船出へと視線を送る。
船出はうーん、と困ったように腕を組んでいた。
「正確に言うとさ、学校に執着してたって言うよりは……皆の居場所を作りたかっただけなんだよね」
「皆の居場所?」
「うん。魔災でいっぱい人が死んでさ?散り散りになったから、作らなきゃって思って」
「穂澄と似たようなことを言うんだな」
船出はちらりと、辺りを見渡す。
塔出高校に繋がる通学路は、崩落した瓦礫と地中から伸びた桜の木々によりめちゃくちゃにされた光景が辺り一面に広がっていた。
どこを見渡しても、桜の木々が視界の端々に映る。もう、この世界の何処にもかつての面影はないのだと思わせる。
「真水先輩の亡骸を見つけて。紺ちゃんと二人で、あちこち転々としてた。紺ちゃんは皆に希望を持って貰おうと、あちこちで歌をよく歌ってたんだけどね……けど、上手く行かないことの方が多くて。何度も追い返されたり、暴漢に襲われかけることもあった」
「……真水……」
有紀はさらりと改めて突きつけられた幼馴染の死に、唇を震わせて俯く。だが、頭を強く振って思考を切替えて続く船出の言葉を待った。
本当に、精神面が不安定だった有紀も強くなったのだと実感する。
そんな徐々に過去を語る船出の瞳に、涙が滲んでいくことに気付く。
「船出。語りたくないなら止めても良いんだぞ?」
「いや、言わなきゃ駄目な話だよ。私は、紺ちゃんを守る為に何度も人を殺した。運動神経には自身があったし、皆”若い女の子”ってだけでも簡単に油断してくれたから」
「……殺さなきゃ、いけなかったのか?その……」
船出にも相応の事情があるのは頭では理解できていた。だが、思わずそんな言葉が漏れてしまう。
その言葉を聞いた船出は、馬鹿にするようにほくそ笑んだ。
「本当におめでたい頭してるね、セイレイ」
「……」
「この世界でさ、私は嫌というほど知ったよ。人間なんて、社会性って言う鎖で飼い慣らされてるだけのライオンなんだって。一回その鎖が壊れてしまったら、もう後は食うか食われるか……それだけだった」
「俺は、環境に恵まれているだけだったと?」
「少なくとも、ゆきっち以外の勇者ご一行はね」
想像が出来ない。
一体、船出がどんな壮絶な環境で生きてきたのか理解できなかった。どれだけの過酷な環境が、彼女を変えてしまったのか。
恵まれたものが、恵まれなかったものを理解することの難しさを実感する。
「守りたかったはずの紺ちゃんも、私の身勝手で殺しちゃって……だから使ったの、書き換えの力を。過去に執着する魔物で良い、だから全てをこの手に取り戻すんだって」
「……取り戻せた、のか?」
「見せかけ上は、ね。でもさ……やっぱりホログラムだった。本物には敵わないよ」
寂しげに船出は言葉を返す。
全ての言葉に重みが宿るさまは、いずれも彼女の本音であることを実感させるには十分だった。
「……っと。そろそろ到着か」
高校が近づいてきたことに気付いた船出は、話を切替えるようにわざとらしくそう言う。
彼女の言葉に釣られるように、俺達は塔出高校の校舎を見上げる。
赤茶色のレンガが積み重ねられた校門の先に広がるのは、広大な面積を誇る校地。
純白のコンクリートが特徴的な校舎を彩っていたのは、校地に植えられた樹木。生命力を感じさせるほどに大きくそびえ立った樹木から伸びる青々とした葉が色彩を生み出す。そんな中で俺達と同じ学生服を身に纏った生徒が、各々親しげに話しながら校舎に入っていく姿が映し出される。
「……すげえな。これが、高校か」
どれだけ船出の意思で生み出されたホログラムによって描かれた光景と言えど、視界に広がる景色には圧巻の一言しか思い浮かばない。
魔災がなければ、俺達は今頃毎日ホログラムに映る学生のように校門をくぐっていたのだと考えると、感慨に近いものがこみ上げる。
当然、全てホログラムによる偽物の光景だというのは分かっていた。それなのに、何故か経験していないにも関わらず懐かしさがこみ上げる。
俺でさえそうなのだ。
元々女子高生だった有紀は、視界に広がる景色に涙をこぼしていた。
「……覚えてる。うん、覚えてるよ。ありがとうね、みーちゃん……」
「あんな、めちゃくちゃな校舎なんて見ていられなかったからね」
有紀は、”岩のような槍が校舎を貫いていた”と過去を語る際に話していた。しかし、船出が書き換えた校舎には当然そのような景色は残って居ない。
そんな中。
「有紀、久しぶり。それと、初めましてだね……有紀のお友達さん」
呆然と校舎を眺めている俺達に掛けられた声。俺達はきょとんとしながらもその声の主へと振り返る。
「……えっと、どちら様ですか?」
どこか気の抜けた雰囲気をした少年が立っていた。時々重心がぐらついては、右手に持った杖で辛うじて重心を保っているようにも見える。
俺は思わず突然現れた少年に質問を投げかけるが、彼は答えることなく有紀へと視線を向けた。
「有紀、随分と久しぶりだね。思いつきでめちゃくちゃやってるのは相変わらず?」
「――え、嘘、嘘……」
両手を口へと当てた有紀の、瞳に滲んだ涙がより一層強まっていく。
ついには感極まったのか、アスファルトの地面にぺたりと座り込んで嗚咽を漏らし始めた。
「う……っ、死んだ、って聞いた。なんで、なんで……ここに……」
「道音から聞いたと思うけど。僕も偽物の存在に過ぎないからなあ」
少年は困ったように頬を掻きながら、改めて俺達に視線を向けた。
軽く会釈をしながら、その少年は自己紹介を始める。
「あー。初めまして、有紀がお世話になってます。鶴山 真水です。一応、彼……じゃないや、彼女の幼馴染やってます」
「鶴山 真水……そうか。お前が、有紀の……」
「初対面から”お前”は随分となってない後輩だね……」
鶴山 真水と名乗ったその少年は、げんなりとした様子でため息を付く。
出会うはずの無かった人達と、俺達は思わぬ形で出会ったのだった。
To Be Continued……
【開放スキル一覧】
・セイレイ:
青:五秒間跳躍力倍加
緑:自動回復
黄:雷纏
・ホズミ
青:煙幕
緑:障壁展開
黄:身体能力強化
・noise
青:影移動
緑:金色の盾
黄:光纏
赤:????
・クウリ
青:浮遊
緑:衝風
黄:風纏
・ディル
青:????