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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
⑥思い出の学び舎編
176/322

【第八十三話(2)】因縁(後編)

【登場人物一覧】

瀬川(せがわ) 怜輝(れいき)

配信名:セイレイ

役職:勇者

世界に影響を及ぼすインフルエンサー。

他人を理解することを諦めない、希望の種。

前園(まえぞの) 穂澄(ほずみ)

配信名:ホズミ

役職:魔法使い

瀬川 怜輝の幼馴染として、強い恋情を抱く。

秋狐の熱心なファンでもある。

一ノ瀬 有紀(いちのせ ゆき)

配信名:noise

役職:盗賊

男性だった頃の記憶を胸に、女性として生きている。

完璧そうに見えて、結構ボロが多い。

青菜 空莉(あおな くうり)

配信名:クウリ

役職:戦士

心穏やかな少年。あまり目立たないが、様々な面から味方のサポートという役割を担っている。

雨天 水萌(うてん みなも)

元四天王の少女。健気な部分を持ち、ひたむきに他人と向き合い続ける。

案外撫でられることに弱い。

・another

金色のカブトムシの中に男性の頃の一ノ瀬 有紀のデータがバックアップされた存在。

毅然とした性格で、他人に怖い印象を与えがち。

・ディル

役職:僧侶

瀬川 沙羅の情報をベースに、ホログラムの実体化実験によって生み出された作られた命。詭弁塗れの言葉の中に、どこに真実が紛れているのだろうか。

船出 道音(ふなで みちね)

Relive配信として勇者一行と敵対する四天王。魔災以前は何の変哲もない女子高生として生きていた。

「さ、そろそろ行くよ。授業中は配信禁止だからね」

 うんと大きく背伸びしながら、船出はそう忠告した。

 どうやら、徹底的に学生としての行動を俺達に強いるようだ。俺達は思わず顔を見合わせた。

「……信じていいんだよね」

 穂澄はおずおずと言った様子で、まず俺達にそう確認する。

 元々敵対していた相手だ。騙し討ちを仕掛けてくる可能性がどうしても拭えないのだろう。

 だが、穂澄の言葉に否定したのは空莉だった。

「大丈夫だと思うよ?有紀姉の前でそんなこと出来ないでしょ」

「……確かに」

「万が一の時は僕が時間を稼ぐよ。”ふくろ”の中にパソコンを入れといてね」

 攻撃力増強効果のあるヘアピンを触りながら、空莉はそう提案した。

 どこか釈然としないながらも、穂澄は空莉の提案に従うしかない。

「まあ……分かった。ところで、ディルはどうするの?」

 予め配信の方針を決める上で、穂澄のもう一つの悩みの種となっていたのは新たに加入した僧侶ディルだった。

 ディルは興味なさげに遠巻きに俺達の会議を見ていたが、話を振られて苦笑いを零す。

「僕が律儀に君達の方針に従うと思う?」

「思わないから聞いてるんじゃん」

 挑発するような言葉に、苛立ちが募ったのだろう。低い声で睨みながら、穂澄はディルの意見を促した。

「女の子は怖いねえ、ね、空莉君」

「えっ、え……そんなー……こと、無いと思うけど」

 突然話を振られた空莉は、女性陣の顔色を伺うようにおどおどしながらも場の空気を維持することに努める。

 そんな彼の様子が面白いのか、ディルはにやにやと笑みを零しながら話を続けた。

「ま、安心しなよ。僕は僕の好きなようにさせてもらうよ。ただ今回の船出ちゃんとの戦闘の主役はおねーさんでしょ、最低限しゃしゃり出ないように空気は読むからさ」

「そこまで気を遣わなくていいけど……というか、ディルはスパチャブーストは使えるの?」

「さあ?誓ってないから知らない」

 配信を行う上で最も大切な情報なのだが、ディルはあっけらかんとそう返事した。

「役割に関係するから知っておきたいんだけど……」

「だから分かんないって。というか君達も”このタイミングで覚醒しよう”って思って使ったわけじゃないでしょ?本心から誓ってないのに、そうポンポン使えるわけないじゃん」

「でも、ディルも前はスパチャブースト”赤”まで使えてたじゃないの?」

「あれは運営権限で使えただけ。運営権限を魔王に奪われた今は無理だよ」

 ——今、なんて言った?

 さらりとディルの口から発せられた重要な情報。それを聞き逃すことは出来ず、俺達はディルに突っかかる。

「ちょ、ちょっと待てディル。運営権限を魔王に奪われた、って?」

「あ。言うの忘れてた」

「おい!?」

「ま、その話は急ぎじゃないから後でいい?船出ちゃん怖い。睨んでるよこっち、ほら」

 わざとらしく怯えたように縮こまりながら、ディルは船出を指差す。

 ディルの指先を追うと、確かに冷ややかな表情をして腕を組んで待っている船出がいた。

「ねえ。お話は済んだ?私ずっと待ってるんだけど。まがい物君が言わなかったら私を放ってずっと話してたでしょ」

「……悪い」

「雨天ちゃんも怒ったって聞いたよ?敵だから何しても良い訳じゃないって」

「……すまん」

 ぐうの音も出ない正論に、俺はただ平謝りすることしかできなかった。

 船出はそれで説教は済んだのか、ふっと元の柔らかな表情へと戻る。

 俺達が普段着として着ている衣類を見渡しながら、ゆっくりと右手を自身の顔の近くへと持っていく。

「じゃ。私の書き換えの力を使うよ。私の世界に招待するには必要なことだから」

「え、それってどういう——」

 船出の発した言葉の真意を訪ねようとしたが、それより先に船出はパチンと指を鳴らした。

 瞬く間に彼女を中心として光を帯びたプログラミング言語が迸り、それは俺達の身体を取り囲み始める。

「わっ!?」

「きゃっ!?」

「なにこれっ」

 俺達は各々に自身の身体に起きた現象に困惑の声を上げる。

 全身を纏う光が、俺達の姿を大きく書き換えていく——。


 やがて収束した光に、俺達はゆっくりと目を開ける。

 気づいた時には、俺達の知らない俺達がいた。

「……セイレイ君?その、服は……」

 穂澄がおずおずと問いかける。俺は、何か言葉を返そうと穂澄へと視線を送った。

 だが、俺は開いた口がふさがらず、何も発することが出来ない。


「……どうしたの?」

 目の前にいたのは、魔災以降ずっと一緒に居た穂澄だ。櫛通りの良さそうな長い黒髪を揺らした、お淑やかな雰囲気を持つ幼馴染の穂澄。

 だが、いま彼女が持つ雰囲気は、大きく書き換えられていた。

 灰色のブレザーの隙間から覗く、白色のカッターシャツと、紺色のプリーツスカート。以前、有紀の”光纏”で見た時と同じ服装の彼女がそこにいた。

「……まさか」

 穂澄の姿に、ある可能性に気付き自身が身に纏う衣服に視線を移す。

 そこには雑に着込んだパーカーなどどこにもなく、パリッと硬い感覚の残るブレザーが俺の視界の端に移った。

 どうやら、俺達は船出の力によって学生服の姿に大きく衣服を書き換えられたようだ。

「これが、高校の学生服か……」

 だが、そんな中で俺達とは全く異なる姿をしたものがいた。

「……私だけ、なんで服違うんですかあ!?」

 雨天はひとりムスッとした様子で、純白のセーラー服を身に纏った姿でぴょこぴょこと飛び跳ねる。

 そんな彼女に船出は困ったように笑う。彼女もいつの間にか、漆黒のワンピースの姿から学生服へと変わっていた。

「ごめん、雨天ちゃんは見た目年齢14歳でしょ?だから中学生の制服で用意させてもらったんだけど……」

「うー、なんだかここでも子ども扱いですぅ……」

 不服そうにそうぼやいた後、雨天は何故か俺に隠れるようにしがみつく。

 どこかむず痒い感触を感じながらも、俺は船出に視線を向ける。

「なんだか、変な気分だよ。魔災が無かったら、俺達は今頃この服を着てたんだよな」

「そ。ちなみにゆきっちには一ノ瀬先輩がやったのと同じことをさせてもらったよ」

 ちらりと有紀の方へと視線を向ければ。そこには確かに栗色のおさげを揺らす、女子高生の姿に変化した有紀の姿があった。

 彼女は改めて自身の姿を見回した後、困ったように笑う。

「もう、どうせならずっとこの姿が良いんだけどなあ。何だかこの方が皆と距離感が近くて安心する」

「さすがにゆきっちのお願いでもそれは出来ないかな。良くも悪くも、私達四天王は過去に執着した成れの果ての姿でもあるからさ」

「……それもそっか」

 船出は吐き捨てるように自虐的な言葉を発し、それに対して有紀は神妙な表情で頷いた。

 どうやら、船出は過去に執着することの意味を理解した上で、それでも望んでドローンの姿になったようだ。

 そこには彼女なりの強い信念があったのだろう。

「じゃ。そろそろ行こうかな。私に付いてきて」

「分かった。行ってくるよ、another」

 玄関に立った俺達はちらりとanotherの方を振り返った。

 anotherは、こくりと頷いて俺らを見送る。

「ああ。気を付けて行って来いよ。また帰ってくる時間になったら連絡をよこせ」

「おかんかよ……」

「仮にもお前らの保護者的立ち位置ではあると思ってるがな」

 それから、船出が先導する形で学生服を身に纏った俺達は揃って塔出高校へと向かうことにした。


 塔出高校へと向かう道のりの最中。ふと見やればあちこちに桜の木々が(そび)え立つ。

 魔王が世界中に生み出した桜吹雪が、奇しくも俺達を祝うかのように大きく吹き荒れる。

 俺達の頭上を舞い上がるその桃色の風。いつもなら敵意しか感じなかったはずなのだが、何故か今は桜吹雪から目を離せなかった。

「本来なら、俺達は今頃学生だったんだな」

 ぽつりと漏らした言葉を聞き取ったのだろう。学生服に身を包んだ空莉は俺の隣に並んで頷く。

「そうだね。本当なら、僕とセーちゃんはこうやって通学してたのかな」

「どうだかな?空莉は賢いから、俺よりも良い高校とか行ってそうだけどな」

「そんなことないよ?セーちゃんだって勉強できるじゃん。やらないだけで」

「一言余計だな!?」

「あははっ」

 空莉は俺の反論に対し、楽しげに笑う。

 そんな彼の笑顔を見ていると、思わず俺も楽しくなって釣られて笑ってしまった。

 こんな他愛ない時間は、魔災が無ければ当たり前だったのだろう。

 だが、現実の世界に広がるのは。

 もはや元の家の形など分からないほどに破壊しつくされた瓦礫の山。建物が崩れたことによるものか、ひしゃげた看板が路頭に転がっているさま。

 大きくねじ曲がってしまった鉄筋コンクリートが、崩落した施設の中に無数に散見している。

 そんな、めちゃくちゃになってしまった建物があちこちに続く道のりを超えて、俺達は通学路を進んでいく。

「セイレイ君っ」

 突然、穂澄は隣に並び、俺の手を強く握った。

 逃がさないとばかりに指先を絡ませながら、穂澄はクスリと笑う。

「な、なんだよ穂澄」

 思わず向けられたその表情に、思わずドキリとしてしまった。

 不意打ちだ。

 そんな俺の胸中が見透かされてしまったのか、穂澄は幸せそうに微笑む。

「本当なら、こんな青春を描けてたのかな。私達」

「ずっとこれは無いだろ……」

 困惑しながらも、俺は繋いだままの手を持ち上げる。だが、穂澄は手を放すつもりはないようで更に強く手を握りしめた。

 穂澄が跳ねるように歩くと共に、ブレザーとスカートが大きく揺れる。

「いいのいいのっ。なんとなくね、皆と同じ服を着てるとちょっとだけ安心できるの」

「安心?」

「うんっ。私は一人じゃないんだ―……って感じかな?上手く説明できないけど……」

「多分、この服が拠り所の証明……になるのかもな」

 俺はブレザーを触りながら、穂澄の言葉に賛同する。

 居場所を特に大切にする穂澄の言葉は、どこか理解できた。

 魔災に墜ちた世界で拠り所を失った俺達は、いつも心を落ち着かせることの出来る拠り所を探していたからだろう。

 ここに居ていいんだよ、ここが君の拠り所だよ。

 そう証明してくれる居場所が欲しかった。

 視聴者もきっとそれは同じで、だからこそ一時期配信内で視聴者間で揉めたこともあったのだろう。

「ゆきっちさー、招待したゲームどうだった?面白かった?」

「やりすぎて寝坊するくらいにはね」

「あははっ、やっぱり。紺ちゃんすごく怒ってたからね」

「再会したら、謝らないとなあ……」

 きっと、目の前で有紀と親しげに談笑する船出は、俺達にそう伝えたかったのかもしれない。


To Be Continued……

余談ですが塔出高校の由来はトロデーン城(DQ8より)からです。

【開放スキル一覧】

・セイレイ:

 青:五秒間跳躍力倍加

 緑:自動回復

 黄:雷纏

・ホズミ

 青:煙幕

 緑:障壁展開

 黄:身体能力強化

・noise

 青:影移動

 緑:金色の盾

 黄:光纏

 赤:????

・クウリ

 青:浮遊

 緑:衝風

 黄:風纏

・ディル

 青:????

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