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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
⑥思い出の学び舎編
175/322

【第八十三話(1)】因縁(前編)

【登場人物一覧】

瀬川(せがわ) 怜輝(れいき)

配信名:セイレイ

役職:勇者

世界に影響を及ぼすインフルエンサー。

他人を理解することを諦めない、希望の種。

前園(まえぞの) 穂澄(ほずみ)

配信名:ホズミ

役職:魔法使い

瀬川 怜輝の幼馴染として、強い恋情を抱く。

秋狐の熱心なファンでもある。

一ノ瀬 有紀(いちのせ ゆき)

配信名:noise

役職:盗賊

男性だった頃の記憶を胸に、女性として生きている。

完璧そうに見えて、結構ボロが多い。

青菜 空莉(あおな くうり)

配信名:クウリ

役職:戦士

心穏やかな少年。あまり目立たないが、様々な面から味方のサポートという役割を担っている。

雨天 水萌(うてん みなも)

元四天王の少女。健気な部分を持ち、ひたむきに他人と向き合い続ける。

案外撫でられることに弱い。

・another

金色のカブトムシの中に男性の頃の一ノ瀬 有紀のデータがバックアップされた存在。

毅然とした性格で、他人に怖い印象を与えがち。

・ディル

役職:僧侶

瀬川 沙羅の情報をベースに、ホログラムの実体化実験によって生み出された作られた命。詭弁塗れの言葉の中に、どこに真実が紛れているのだろうか。

船出 道音(ふなで みちね)

Relive配信として勇者一行と敵対する四天王。魔災以前は何の変哲もない女子高生として生きていた。

 昔やっていた、魔王を倒すゲームの話だ。

 世界を滅ぼす悪しき大魔王。やつの元へとたどり着くには、四天王を制さなければならないというのがお決まりのパターンだった。

 いずれも高尚な野望を抱き、傲慢不遜(ごうまんふそん)な態度で人間を見下す。

 人の神経を逆なでするような、極悪人——というのが、俺が持つ四天王のイメージだ。

 だけど、この世界に生まれた四天王は俺が持つそのイメージを大きくぶち壊した。


「……お前なんでいるんだよ」

「おはよう、セイレイ。ゆきっちに入れてもらった」

「お前仮にも四天王だよな?」

「雨天ちゃんという前例があるでしょ」

「……」

 少なくとも……ソファに深く座り、漫画を読んでくつろいでいるこいつを、四天王と言っていいのだろうか。


 船出 道音。

 Relive配信として漆黒のドローンに身を移した、俺達と敵対し続けた四天王。

 正直、良い思い出はない。殺されかけるし、配信はめちゃくちゃにされるし、これで好印象を抱こうというのが無理難題と言うものだろう。

 だが、当の本人である船出はソファの空いたスペースを何度も叩いて俺を招く。

「ほら、ぼーっと突っ立ってないで座りなよ。美少女の隣だよ?光栄に思いなさいっ」

「お前の家じゃねえだろ」

「君の家でもないでしょ」

「お前はもう少し遠慮を覚えろ」

「その言葉そっくり返すよ」

 俺達のいがみ合いを遠巻きに見ていた有紀が、明らかに困ったように笑っていた。

「二人とも、仲良くしなよ……」

「いや無理だろ。敵だぞこいつ」

「それは同意。このクソ勇者と仲良くなんて絶対嫌」

「クソ四天王に言われたくねえよ」

「はぁー??クソって言う方がクソなんですけどー?」

「んだと、お前が言い出した事だろ!?今ここで決着付けても良いんだぞ!?」

「おーおーこっわー!!昨今の勇者様はパワハラ気質ですかあー?」

「蹴り飛ばすぞお前!」

 売り言葉に買い言葉。

 そんな周りの視線など気にすることもなく口論を繰り広げる俺達に対し、背後から近づく人物がいた。

「いい加減にしろ」

 anotherのその呆れた声音と共に、鉄槌の稲妻が俺と船出の頭頂部を中心に迸る。

「ぶっ!?」

「ひあっ!?一ノ瀬先輩、何するんですかあ!!」

 俺は熱を帯びたように痛みが残る頭を押さえ。船出は涙目で蹲りながらanotherを睨んでいた。

 だが、拳骨(げんこつ)を食らわせたanotherは気にした様子もなく「ふん」と鼻を鳴らす。

「決着なら配信内でやれ。視聴者をほっぽり出すな」

「……まあ、それはそうだな……」

 anotherの正論に、途端に思考がクールダウンした。それから、船出に対しても頭を下げる。

「……悪かったよ。ごめん」

 素直に謝ったことが意外だったのか、船出は目をぱちくりとさせて硬直していた。

 それから、ハッとしたように首を慌てて横に振る。

「わ、私こそごめんね。つい感情的になって……」

「……というか、ストー兄ちゃんは一体どうしたんだ?ずっと一緒だったろ」

 船出がここに来てからずっと気になっていたことだった。彼女が改造して人の形を奪ってしまった、元武闘家の須藤 來夢。

 一体何を目的としているのか、未だに理解は出来ていない。

 どんな悪党染みた答えが返ってくるのかと思っていたが、船出は曇った表情で俯くのみだった。

「……ストーは、私の決着には巻き込めない、から……」

 想定外の回答に、俺は思わず黙りこくるしかなかった。

 散々自分の行動にストー兄ちゃんを巻き込んだはずなのに、今更どういう風の吹き回しだというのだろう。

 反応に窮し、黙って船出を見つめていると彼女はポツリと言葉を連ね始めた。

「正しいことと思ってた。私の目的に賛同してくれると思ったから、ストーを誘った。セイレイの配信そのものがゆきっちを傷つけることになると思ったから、配信を終わらせようとした。未来なんて描かなくていいの。これ以上、未来を描いて誰かが苦しむのを見るくらいなら、私はこの生温かい依存の世界に浸っていたい」

「……」

「セイレイ。今でも私は君を殺すことが正解だと思ってるよ。君一人に背負いきれないレベルの真実だから。君が知りたくないことを知って苦しむくらいなら、私は悪にでもなんにでもなるよ」

「また、俺……セイレイの為……か?」

「結果的にはそうなるね」

 つくづく、嫌になる言葉だ。

 何度、聴いてきた言葉だろうか。自分の為を想って行動してくれる、というのは嬉しいことなのだろう。

 だが、本当にありがたいものあるが、中には俺の感情など考慮していないものもある。俺が本当に望むものに見向きもせず、ただ一方的な思い込みだけでこじつけるだけ。

 ——俺が、本当に望むものは——。

 いや、今は考えないようにしよう。

 今は、勇者セイレイとしての役割を遂行するのみだ。

「俺はそれでも知りたい。ただ思い付きで付けられたはずの”勇者”という称号を、本物にしたこの世界の意味を。本当は、世界に勇者がいてはいけないんだ」

「……それは、君が勇者だから言える言葉だってこと、自覚してるかな」

「俺が、勇者だから?」

 世界を救う存在だからこそ存在する勇者。世界がもとより安寧の日々を保たれていれば、必要のないものではないのか?

 そんな俺の言葉を否定するように、船出は俺の目を真っすぐに見つめる。いつものような人を惑わせる妖しさはなく、真っすぐな一人の少女が目の前にはいた。

「ねえ。大切な人が居なくなる気持ちって分かる?自分ではどうしようもなく無力で、助けに行くことさえ出来ないの」

「それは……っ」

 脳裏を過ぎるのは、三年前に集落を襲った魔物達の記憶だ。どこからともなく現れた魔物の群れに、助けに行くことすら出来ないまま集落の人々は瞬く間に蹂躙(じゅうりん)された。

 それが、現在の魔王セージ……千戸 誠司の力によって実行された、俺が勇者を願うきっかけとなった出来事だ。

 Sympassという手段を与えられ、有紀やストー兄ちゃんからの技術伝達と言う知識を与えられ、俺は勇者となった。

 全て魔王に仕組まれていたこととは、つゆ知らず。

「セイレイは手段を持っている……いや、持ったというのが正しいかな。平和を生み出す力がある。でもね、君達以外はそうじゃないの」

「……」

「他人に期待するしかない無力感。ゆきっちが崩落事故に巻き込まれた時さ、私に何が出来たと思う?何もできなかったの、大切な人が居なくなったのに、私には何も」

 そう言って、船出は突然俺の手を強く引く。自身の身体へと近づけながら、彼女は強い口調で語った。

「今のセイレイは、紛れもない世界に干渉する力を持ったインフルエンサーだから……覚えておいて欲しいの。雨天ちゃんも、私も。ただ助けを願うしかできなかった、無力な人間だってこと」

「……分かった」

 言われて初めて気づいた。自分が、力を持つ側だったということを。

 力を持たない側の人間は、ただ期待する、願う、ただそれだけしかできない。力を持つ側の人間の気まぐれに左右されるだけの、無力な一個人に過ぎないということだ。

 もし、俺が世界を滅ぼそうと思ってしまったら、容易にその願いは叶うのだろう。

 もし、俺が誰かを悪だと言えば、容易に世界は俺が示した人間を悪だと認定するのだろう。

 言葉の力とは、それほどに大きくて。

 それほどまでに、恐ろしい武器だった。

 俺の返事を聞いた船出は、瞳に滲む涙を拭う。

 気づいた時には、妖しげに笑う四天王の姿に戻っていた。

 リビングに集う、俺達勇者一行を見渡してクスクスと笑う。

「さ、みんな集まってるね。それじゃあ、そろそろ登校の時間も近いから、準備するよ」

「……船出先輩……」

 雨天が、何か言いたげにおずおずと声を掛けた。ちんまりとした身体で健気に背伸びして、その存在を船出にアピールする。

 そんな彼女のことが愛らしいのだろう。船出はその表情を再び柔らかな笑みへと戻し、雨天の頭を撫でた。

「あうっ」

「雨天ちゃん、気を遣ってくれてありがとう。でも雨天ちゃんは今。勇者一行の味方でしょ?」

「でも……私は船出先輩から、色々教えてもらいましたからっ。敵じゃないですっ。戦う相手だけど、敵じゃないんですっ」

 船出に撫でられながら、懸命に自身の意見をアピールする。

 不器用な言葉選びだからこそ、雨天にしかできない想いの伝え方だ。

「……やっぱり、誰かと一緒に居るのは良いね」

 彼女の言葉に、船出はクスリと微笑んだ。

「だったらさ、証明してよ。過去に執着し続ける四天王、船出 道音に。君達の本心、君達の感情の色を……私だって知りたい」

 船出を理解する為の戦いが、始まる。


To Be Continued……

【開放スキル一覧】

・セイレイ:

 青:五秒間跳躍力倍加

 緑:自動回復

 黄:雷纏

・ホズミ

 青:煙幕

 緑:障壁展開

 黄:身体能力強化

・noise

 青:影移動

 緑:金色の盾

 黄:光纏

 赤:????

・クウリ

 青:浮遊

 緑:衝風

 黄:風纏

・ディル

 青:????

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