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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
⑤高級住宅街ダンジョン編
171/322

【第八十二話(2)】望んだ世界(後編)

【登場人物一覧】

瀬川(せがわ) 怜輝(れいき)

配信名:セイレイ

役職:勇者

勇者としての自覚を胸に、日々困難と立ち向かう少年。

責任感が強く、皆を導く役割を担う。

前園(まえぞの) 穂澄(ほずみ)

配信名:ホズミ

役職:魔法使い

瀬川 怜輝の幼馴染。かつて瀬川に命を救われたことから、強く恋情を抱いている。

気弱だった彼女も、いつしか芯のある女性へと成長していた。

一ノ瀬 有紀(いちのせ ゆき)

配信名:noise

役職:盗賊

元男性としての過去を持つ女性。卓越した洞察力と、経験から勇者一行をサポートする。

今日も彼女は仲間の為にその刃と技術を存分に振るう。

青菜 空莉(あおな くうり)

配信名:クウリ

役職:戦士

心優しき少年。魔災以降、直近までの記憶が無く自分がどのように生き抜いてきたのかを覚えていない。

雨天 水萌(うてん みなも)

元四天王の少女。寂しがりであり、よく瀬川に引っ付いている。

・another

金色のカブトムシの中に、一ノ瀬が男性だった頃の意思を宿された少年。本来であれば、一ノ瀬は彼の姿で生きていたはずだった。

・ディル

役職:僧侶

瀬川 沙羅の情報をベースに、ホログラムの実体化実験によって生み出された作られた命。セイレイの力になるという目的だけで行動してきた。

「……そうか。船出がそんなことを」

 リビングの一角に配置されたダイニングテーブル。そこを中心として、瀬川達は青菜からの情報を受け取っていた。

 聞き取り調査を受けているような張り詰めた雰囲気に、青菜は思わず委縮する。

 特に自分が悪い訳ではないのだが、なんとなく逃げたい気持ちに駆られた。

「うん。”魔災が無ければ僕達が見ていたはずの景色”……って、やっぱり……」

 最初こそ、船出の言っていることの内容が理解できなかった。しかし、時間を置いたことでようやく青菜も理解したようだ。

 そして、彼の視線の先には”光纏”によって、女子高生の頃の姿に形を変えることの出来る一ノ瀬がいた。

 言いたいことはおおよそ理解していたのだろう。一ノ瀬は青菜から言葉のバトンを受け取る形で頷く。

「私以外の皆……ディルは分からないけど……、魔災が無かったら、本来なら高校生として生きていたはずだもんね。きっと、みーちゃんは高校生活をホログラムを介して、追体験させようとしてるんだ」

「僕だって肉体年齢的には君達とそう年の変わらない、ぴちぴちの男子高校生だと思うけどなあー。とれたてぴちぴち、刺身にするなら今だよ」

「はいはい」

 いい加減なことを発するディルを無視して、一ノ瀬は改めて自身より年下の仲間達を見渡した。

 今、この一ノ瀬のかつての実家に集まっているのは、雨天を除いては十も年の異なる子供なのだ。

 だが、船出の行動の真意を読み取ることが出来ない瀬川。彼はダイニングテーブルを叩きながら真剣な表情で一ノ瀬の瞳を覗き込む。

「なあ。船出が俺達にそこまでする理由はなんだ?最初に会った時俺を殺そうとした頃とは大違いじゃねーか」

 そもそも、魔災以前の人物像についてあまり聞かされていなかった瀬川。思い返せばほとんど、魔災以降の、敵意をむき出しにして立ちはだかる彼女の姿しか知らないのだ。

 そう言った理由もあり、強く不信感を抱いていた。

 しかし、他者の理解を最も大切にしている彼としては、行動原理を知らないことには納得が出来ないようで一ノ瀬を問い詰める。

「私としても、みーちゃんに聞かないと分からないことの方が多いかな。どうして、最初からセイレイを敵視していたのか私も知りたい」

「”これ以上何も変えたくない”……船出ちゃんは、そう言ってた。魔災に巻き込まれて、どんな体験をしたんだろう……ディル君は本当に何も知らないの?」

 議論の中心は、退屈そうにソファで横になって本を読んでいたディルへと向けられた。彼はゆっくりと身体を起こして、馬鹿にするように鼻で嗤う。

「はっ、さすがにそこまで管理できないよ。というか僕がそれを知っててはい、こうです、って語ると思う?」

「……それは……確かに」

「でしょ?否定することもなくあっさり認められるとそれはそれで傷つくけどさ、僕に答え合わせを求めるのは止めなよ。何のために君達の成長を願ったと思ってるのさ、君達が力を得る為には自分達で気付かないと駄目って何回言ったと思う?気付きに伴ってより大きな力を得た君達が、答えを持つ僕に(すが)り出したらそれこそ世界の終わりだよ」

 終始一貫(しゅうしいっかん)する意見を持ったディル。彼の言葉をどこか否定できず、青菜は改めて自らの見解を伝えることにした。

「じゃあ、僕達で考えていかなきゃね。今分かってる情報から(まと)めていこっか」

 船出から直接話を聞いた青菜は、主体的にペンとメモ帳を取り出して船出の情報を書き出していく。

 その行動に、雨天はまじまじと興味を持ったようだ。彼が座る椅子の後ろに立ち、のしかかる形で青菜のメモ帳の内容を確認する。

「私との戦いのときもそうでしたけど、青菜君は情報の部分から理解してくれようとするので助かりますっ」

「さすがにセーちゃんのような感覚派には勝てないし、ホズちゃんや有紀姉のような頭の良さはないけどね……」

「青菜君の良いところは水面下で皆を支えてくれるところですっ。もっと自分に自信を持ってくださいっ」

「ありがとう。……さて、とりあえず情報を整理したよ」

 雨天のフォローを受けながら、青菜は現状で把握している船出に関することについて書き出した。


----


・船出 道音 魔災の被災時は16歳。(僕達と同じ)

・一ノ瀬 有紀の後輩に当たる。男性の頃の一ノ瀬(現another)のことが好きだった。

・勇者一行との初対面は総合病院ダンジョン。元セイレイの仲間である武闘家ストーを改造した張本人でもあり、Relive配信として勇者一行と敵対。

・ディルと同じく、Sympass運営を務める。

・自分の発言や行動に圧倒的な自信を持っている。

[疑問点]

①何故船出は勇者一行を敵視しているにも関わらず、自らが管理するダンジョン化させた塔出高校に招待するのか。

 考えられる可能性としては、自分の世界を理解してもらうことでセイレイ達の戦意を奪おうとしている?

②Sympass運営にはどういう経緯で加入したのか。

 当該サイトは、魔災より十年の月日が経過した後にリリースされたものだ。それ以前からSympass自体の計画は水面下で進行していたと考えるのが妥当だが……。

③どのような言葉が、船出の心を動かすきっかけになるか。

 雨天戦では、”現実から目を逸らし続けていた”という方向から、未来へと進む勇者一行を見せつけることで打開の糸口となった。

 しかし、”現実を理解した上で、それでも過去に縋り続ける”という行動原理の船出。彼女に対してはまた異なるアプローチを要するのではないか。


----


「こうして、理路整然(りろせいぜん)と纏めてくれると、凄く助かるよ」

 青菜が纏めた情報に一通り目を通した瀬川は、感心したように頷いた。

 ただ情報を纏めるというのみならず、青菜自身が予想する可能性についても書き記されている。そのことに関しては、前園も一ノ瀬も関心したようだ。

 聡明な知識を持つ女性陣二人は、まじまじと青菜が纏めた情報について目を通していく。

「驚いた……これまでの行動から、しっかりと考えてくれてるんだね」

「私や穂澄ちゃんは、データを纏めるのは得意だけど、データを作る、というのはあんまりやったことないからなあ」

 これは青菜の元勇者パーティの視聴者であったという部分が光る一面だった。勇者一行は、視聴者からのコメントを情報として纏め、新たな攻略の糸口へと繋げていく。

 つまり、情報を集めて処理する能力については長けているのだがデータ生成を視聴者に丸投げしているという側面が存在する。

 そのことから、元々縁の下の力持ちとして、勇者一行の行動を支える青菜の能力はここでも発揮されるのだった。

「あはは、そんなに、かな……?ありがとね」

 青菜は謙遜(けんそん)しながらも、それでも照れくさそうに縮こまった。

 黙って腕を組んで話を聞いていたanotherは、青菜に近づき肩を叩く。

「言っただろ、お前は自分が思っているよりもかなり優秀なんだ。もう少し、他人の評価を信頼してみろ」

「うーん、自惚(うぬぼ)れになるのが怖いからなあ……」

「……まあ。それもお前の良さ……か」

 あまり無理矢理自分の意見を通すつもりはないようで、anotherは一回頷いた後再び元のポジションへと戻った。

 改めて青菜の要約した情報に目を通しながら、一ノ瀬は船出の過去について語っていく。

「空莉君の視点で見るみーちゃんはこうなるのか……えっとね、あの子は元々から芯が真っすぐなの。総合病院の追憶のホログラムで見たと思うけど……女性になりたての私が男の人に掴みかかられた時。みーちゃんは屈することなく立ち向かった」

「覚えてるよ。まだその時は有紀のことを有紀だって認識してなかっただろうにな」

「そう。あの子は本当に強かった……いや、”強くあろうとした”というのが正しいかな。私と、みーちゃんは中学時代からの知り合いなんだ。ね、another」

 話を振られたanotherは、一ノ瀬の言葉に続けるように過去に思いを馳せる。

「船出は……客観的に見ればルックスが良く、男から好かれることも多かったようだ。そういう訳で、一度ストーカー被害に巻き込まれてな」

「そ。そこを一ノ瀬が助けました、ってお話だよ。それからかな、みーちゃんが私にくっつくようになったのは」

「……懐かしい話だな。なんてことのない日々のように感じてはいたが、今はそれすらも(いと)おしいよ」

 過去の話を思い出したのだろう。anotherは気恥ずかしそうに苦笑を漏らした。

 しかし、ふと何か気になったことがあるようでanotherは途端に真剣な表情を作る。

「……いや、待て。船出の行動原理は”これ以上何も変えたくない”……だったよな。おい、ディル」

「ん、何?あんまり突っ込んだ質問なら答えないよ」

 話を振られたディルは気だるげに手をひらひらさせながら返事する。

「これぐらいは教えてくれてもいいだろ。Sympassの運営権限で見ることの出来る情報に、”ダンジョンの攻略情報”は含まれるか?」

「当たり前でしょ。君達がダンジョン配信できるようにサポートするのが運営の役割なのに。だからあの子のやり方はおかしいんだよ、矛盾(むじゅん)してる」

 ダンジョン配信者でもある瀬川の命を奪ったことを未だに根に持つディルは、そう恨めしげに愚痴をこぼす。

 だがanotherの知りたい情報は無論、船出に対する愚痴ではない。「なるほど」とどこか納得したように顎に手を当てた。

 瀬川も同じ予想にたどり着いたのだろう。再び前のめりになって、一ノ瀬へと問いかける。

「多分だけどさ、船出の行動目的の中心は……有紀じゃねえのか?」

「私の……?」

「ああ。元々Sympassリリース前からダンジョン攻略してた有紀。何らかの理由で、船出がそれを認知していたとしてもおかしくない。だとしたら、俺を殺そうとした理由にも説明がつくんじゃないか?」

 瀬川の問いかけに、一ノ瀬は首を傾げた。しばらく瀬川の言いたいことを考えた後、ゆっくり己の見解を述べる。

「……私を、勇者パーティから外そうとした。二度と……世界を救う旅をする……いや、ダンジョン攻略そのものという危険なことをさせない為に」

「俺はそう思う。雨天との戦いに助言したのはさ。俺たちの戦いを支援する方が有紀にとって結果的に安全になると、考え方が変わったからじゃないか?」

「確かに、一理あるね。まあここに来るまでに一回セイレイに蘇らせてもらったし、根拠としては強いかも」

「……もう、誰の死んだ姿も見たくないんだがな」

 一ノ瀬としては、納得の行く根拠の一つとして零した話だ。しかし、瀬川にとってその方面の話は地雷だったようで、悔しそうに歯ぎしりして俯いてしまった。

 散々トラウマを植え付けられてきたことを知っている前園は、瀬川を優しく自身の胸元へと抱き寄せながら話を続ける。

「だとしたら、間違いなく攻略の鍵は有紀さんだね。実際に対面しないと分からないけど、船出さんに言葉の刃を突き立てることが出来るのは有紀さんだけだよ」

「……そう、だね」

「うん。あの子は優しいから、私をあの手この手で生かそうとしてくれてるのかもね。しっかり、向き合ってみるよ」

「任せたよ、船出さんの心を開くことが出来る、唯一の鍵だもん」

 前園の言葉に、一ノ瀬は強く決意を胸に頷いた。


To Be Continued……

風邪引きました。

自動回復スキル僕にも下さい。


【開放スキル一覧】

・セイレイ:

 青:五秒間跳躍力倍加

 緑:自動回復

 黄:雷纏

・ホズミ

 青:煙幕

 緑:障壁展開

 黄:身体能力強化

・noise

 青:影移動

 緑:金色の盾

 黄:光纏

 赤:????

・クウリ

 青:浮遊

 緑:衝風

 黄:風纏

・ディル

 青:????

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