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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
⑤高級住宅街ダンジョン編
169/322

【第八十一話(3)】休み明けの登校準備(後編)

【登場人物一覧】

瀬川(せがわ) 怜輝(れいき)

配信名:セイレイ

役職:勇者

勇者としての自覚を胸に、日々困難と立ち向かう少年。

責任感が強く、皆を導く役割を担う。

前園(まえぞの) 穂澄(ほずみ)

配信名:ホズミ

役職:魔法使い

瀬川 怜輝の幼馴染。かつて瀬川に命を救われたことから、強く恋情を抱いている。

気弱だった彼女も、いつしか芯のある女性へと成長していた。

一ノ瀬 有紀(いちのせ ゆき)

配信名:noise

役職:盗賊

元男性としての過去を持つ女性。卓越した洞察力と、経験から勇者一行をサポートする。

今日も彼女は仲間の為にその刃と技術を存分に振るう。

青菜 空莉(あおな くうり)

配信名:クウリ

役職:戦士

心優しき少年。魔災以降、直近までの記憶が無く自分がどのように生き抜いてきたのかを覚えていない。

雨天 水萌(うてん みなも)

元四天王の少女。寂しがりであり、よく瀬川に引っ付いている。

・another

金色のカブトムシの中に、一ノ瀬が男性だった頃の意思を宿された少年。本来であれば、一ノ瀬は彼の姿で生きていたはずだった。

・ディル

役職:僧侶

瀬川 沙羅の情報をベースに、ホログラムの実体化実験によって生み出された作られた命。セイレイの力になるという目的だけで行動してきた。

「おい雨天、サボるなよ。あ、待て空莉。本とか重い荷物は下の方に置け、万が一落ちたらどうするんだ」

「さ、サボってませんっ!!」

「うん……分かったよー……事細かいなあanotherは……」

「お前らのことを気遣って言ってるんだ。ほら、さっさとやれ」

 てきぱきとanotherの指示に従って、勇者一行は一ノ瀬宅の片づけを行っていく。

 anotherがいつの間にか操作したのか、追憶のホログラムは消え去っていた。

 瀬川は十年間、掃除されることもなく放置されていた家が綺麗になっていく様に感動を覚えていた。

「おお、こんなに綺麗になっていくものなのか……というか、親御さんの荷物も片付けていいのか?」

 片付けた荷物の中には、一ノ瀬の両親の私物も混ざっていた。瀬川はそのことが気になり、一ノ瀬へと問いかける。

 だが、段ボールを抱えていた一ノ瀬は、それを床へと置いて瀬川への方に振り返った。

「優先するのはセイレイ達が安心して過ごせる空間づくりだからね。ようやく私達が落ち着けるところが出来るんだもん」

「確かに、ずっと長いこと集落を転々としていたからな……」

 最後にゆっくりと身体を休めることの出来た場所と言えば、青菜と初めて出会った山奥の集落だった。

 それでも、住処を借りている身分に過ぎない。自分達で自由に管理の出来る拠点、というのは魔災以降初めてのことだった。

 そのことを嬉しく思う前園は、思わずにやけを隠すことが出来ずにいる。

「ふんふ~ん♪ん~♪ん~♪」

 何やら鼻歌を歌っては、上機嫌で積極的に片づけを手伝っていた。

 そんな彼女のことが気になったのか、雨天はひょこっと顔を出してホズミに声を掛ける。

「穂澄ちゃん、その曲って秋狐(しゅうこ)さんの”火傷(やけど)”ですね!?」

「あっ雨天ちゃん、分かってくれる!?秋狐さんの1stアルバムの”状態異常”に収録された曲なの!私この曲好きで好きで!」

「分かりますよー!この間リリースされたところでしたもんねっ。穂澄ちゃんよくヘッドホンして作業してるなーって思ってましたけど、音楽聴いてたんですね」

「好きな音楽聴きながら作業って、すごく集中できるもんっ」

 和気あいあいと談笑を始めた前園と雨天。そんな二人を、anotherはひと睨みする。

「おい、まだ片付け終わってねえぞ。駄弁るのは後だ後」

「うえー……ほんっとうに面倒ですねこの人は……一ノ瀬さんと大違いです」

「その一ノ瀬なんだがな、俺は。今の一ノ瀬は優しすぎるんだ、ちょっとくらい厳しいくらいが丁度いいというのに」

「堅物めー……」

「ぐっ」

 恨み言のような雨天の呟きが、思わずクリティカルヒットしたのかanotherは呻き声のような声を漏らす。それから、ばつが悪そうに目を逸らして黙りこくってしまった。

「私が一番言われて気にしてた事だからね、ほどほどにね……」

 雨天の言葉に同様にダメージを負った一ノ瀬は困り果てて苦笑いを浮かべた。

 だが、一ノ瀬が会話に割って入ったことで、前園はふと思い出したのか真面目な表情を作って問いかける。

「ねえ、有紀さんー……まだ確信が無いから言いたくないってのは分かるけどね、配信外だしちょっとくらい教えてよ?センセーの目的の予想」

 いつ触れられるかと思っていた一ノ瀬の表情がぴたりと固まる。

「う、やっぱり聞きたいよね……」

「もちろん、だって私達の育ての親に関する話だよ?仲間内で隠し事はしないって約束でしょ」

「うぅー……」

 ごもっともな前園の言葉に、一ノ瀬は逡巡したように目を左右に動かす。

 それから大きくため息を吐いて、覚悟を決めたように前園を真っすぐに見た。

「ダメだって、まだ早いって言ってるでしょ?ねえ聞いてる?おねーさん、ボクの話無視しないでよ。段階があるんだよ、こういうのは。今この話を言っちゃっていいの?」

 ついに一ノ瀬は自分の仮説を述べようとすることに対し、ディルは慌てて彼女を止めようとした。

 だが、止めることは出来なかった。

「千戸先生はね、文字通り……世界を書き換えようとしてるんだと思う」

「世界を……書き換える?どういうこと?」

「本当に、文字通りだよ。沢山の人々の死の先にある世界を、魔王……千戸先生は見てる。それが本当に可能だとしたら……確かに、矛盾はしない行動だよ」

「沢山の人々を殺す行動が、世界を救うことに繋がる……?そんなバカげた仮説……」

「だよね。私もそう思う。”たぶんこれが出来る”って前提を踏まえたら全部話すことは出来るけど……作り話の域を超えないよ?」

 釘を刺すような一ノ瀬の言葉。

 まだ現時点では事実とは言えない話ばかりであり、彼女自身としても今の時点で仮説全てを語るのは間違っている気がした。

 一ノ瀬の胸中を何となく悟った前園は、観念したように首を横に振る。

「……分かった。もし核心に迫る情報を得たら、その時改めて教えてね」

「うん、約束する」

 前園との誓いの言葉に、一ノ瀬はこくりと頷いた。


「……本当に、まだ僕達は知らなきゃいけない真実が多すぎるんだ……まだ、これは序の口なんだ」

 内心、一ノ瀬が全てを語ることなく安堵したディル。だが、それとは別に自分が抱えた真実の重さについても考えざるを得なくなっていた。

 唯一の”答えを知る者”としての責任を、改めて自覚する。


----


「まあこんなもんで良いだろ」

 anotherは満足げに頷いた。

 家主の許可が下りたことに、勇者一行は大きく安堵する。

「掃除ってこんなに疲れるんだな……」

「思えばまともに掃除したことないからね」

「お前ら……」

 あっけらかんと話す瀬川と青菜に、anotherは呆れたようにため息を吐いた。

 それから、思い立ったように瀬川はスケッチブックと鉛筆を取り出す。

「なあ、記念にちょっとデッサンしていいか?近くの豪邸も含めてさ」

「ああ、別にいいが……あ。そうだセイレイ」

「どうした?」

 ふと思い立ったanotherは、一ノ瀬の手を突然引いた。

「えっ、anotherどうしたの」

「俺とこいつ、二人の一ノ瀬も一緒に描いて欲しいんだが……出来るか?」

「えっ大変じゃない?大丈夫?」

 豪邸を描くだけでもかなりの労力を要するというのに、その上人物二人まで……と一ノ瀬は思わず懸念の声を上げた。

 だが、セイレイは気にすることなく「良いぜ」と頷く。

「二人の有紀が並ぶ状況なんて、絶対起こりえないもんな。俺も思い出に残しておくのは賛成だ」

「……ありがとう」

 一ノ瀬から感謝の言葉を受けとった瀬川は、フローリングの上に胡坐(あぐら)をかいて座り込む。

 それから、瀬川は自らの想いを筆圧に乗せて、一ノ瀬とanotherの姿をスケッチブックに描いていく。


 毅然と立ち振る舞う、男性としての一ノ瀬 有紀を。

 かつて孤高の存在として、他人を引っ張ってきたリーダー格としての彼を。


 穏やかな心で皆に寄り添う、女性としての一ノ瀬 有紀を。

 女性の姿となり、仲間達を大事にする心を優先することにした彼女を。


 たった一つ、きっかけが違っただけ。

 それでも、”皆を大切にしたい”という想いは、二人に共通していた。


「俺さ、anotherとも出会えてよかったよ。完全に参考には出来やしないけどさ、リーダーの見本だよ、お前は」

「……そうか?冷たい印象を与えたような気がするが……」

 自覚があり、申し訳なさそうに尋ねるanother。だが、瀬川は強く首を横に振った。

「いや、お前は言い方こそ強いけど、見下すようなことは絶対しないだろ。なんかさ、そう言うのって分かるんだよな」

「……そうか、分かってくれるのか」

 瀬川の言葉に、anotherは思わず笑みを零す。

 そして、思い立ったように言葉を続けた。

「セイレイ……お前のその”他人を理解しようとする姿勢”……敵であろうとも、決して忘れるなよ。お前のその武器があれば、船出とも戦えるはずだ」

「……どういうことだ?」

「船出は、自分の行動に自信を持っている。”自分の行動は間違っていない”と言えるだけの、経験と知識を持っているんだ」

「四天王としちゃ、かなりの強敵だな……」

 anotherから与えられた情報に、瀬川は思わず苦笑を漏らす。

「かつてのお前ならば、船出はお前の行動に理解を示そうとしなかっただろうな。だが、これまでの戦いを潜り抜けてきたお前なら、希望はあるはずだ」

「……」

 そう言って、anotherは深々と瀬川に向けて頭を下げた。

「頼む。船出に勝ってくれ。過去に囚われたままのあいつを、現実に引き戻してやってくれないか」

「それは、お前じゃ駄目なのか?」

 男性だった頃の一ノ瀬を、船出は好いていた。その情報を聞いていた瀬川は不思議そうに首を傾げる。

 もっともな質問だと思ったが、anotherは「違う」と言った。

「今のあいつにとって、一ノ瀬 有紀は女性だよ。俺じゃ駄目だ」

「……分かった」

「それから、一ノ瀬」

 anotherは、そこで一ノ瀬に視線を向ける。

 彼女も、覚悟が決まったような表情で強く頷いた。

「うん。言いたいことは何となくわかるよ」

「……久々の登校なんだ。準備はしっかりとしていけよ、あと、寝坊はするなよ」

「なんかお母さんみたいなこと言ってる」

 魔災当日に寝坊をした一ノ瀬は、思わずげんなりした表情を浮かべざるを得なかった。

 因縁を刻んだ相手、Relive配信こと船出 道音との決着は近い。


 ——そして、もう一つ。

 かつてのLive配信、秋城 紺(あきしろ こん)との邂逅(かいこう)の日も、近づいていた。


To Be Continued……

棒バトタッググランプリ、リアタイで追いました。

かなり充足してQOLが上がりました。

↓布教用です。

https://youtu.be/_DMV8E0sT-o?si=BL3UD8tckSsnVOVB


↓以下テンプレート。


【開放スキル一覧】

・セイレイ:

 青:五秒間跳躍力倍加

 緑:自動回復

 黄:雷纏

・ホズミ

 青:煙幕

 緑:障壁展開

 黄:身体能力強化

・noise

 青:影移動

 緑:金色の盾

 黄:光纏

 赤:????

・クウリ

 青:浮遊

 緑:衝風

 黄:風纏

・ディル

 青:????

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