【第八十一話(2)】休み明けの登校準備(中編)
【登場人物一覧】
・瀬川 怜輝
配信名:セイレイ
役職:勇者
勇者としての自覚を胸に、日々困難と立ち向かう少年。
責任感が強く、皆を導く役割を担う。
・前園 穂澄
配信名:ホズミ
役職:魔法使い
瀬川 怜輝の幼馴染。かつて瀬川に命を救われたことから、強く恋情を抱いている。
気弱だった彼女も、いつしか芯のある女性へと成長していた。
・一ノ瀬 有紀
配信名:noise
役職:盗賊
元男性としての過去を持つ女性。卓越した洞察力と、経験から勇者一行をサポートする。
今日も彼女は仲間の為にその刃と技術を存分に振るう。
・青菜 空莉
配信名:クウリ
役職:戦士
心優しき少年。魔災以降、直近までの記憶が無く自分がどのように生き抜いてきたのかを覚えていない。
・雨天 水萌
元四天王の少女。寂しがりであり、よく瀬川に引っ付いている。
・another
金色のカブトムシの中に、一ノ瀬が男性だった頃の意思を宿された少年。本来であれば、一ノ瀬は彼の姿で生きていたはずだった。
・ディル
役職:僧侶
瀬川 沙羅の情報をベースに、ホログラムの実体化実験によって生み出された作られた命。セイレイの力になるという目的だけで行動してきた。
「セイレイ君、ボクのことをおねーちゃんって言っても良いよ、照れちゃうけどねっ。あははっ」
「言わねえよ。ディルはディルだろ」
相も変わらずいい加減なことばかり言うディルにセイレイは辟易として言葉を返す。
ある程度今後の方向性も纏まったところで、anotherが仕切るように両手をぱんと叩いた。
「さて、次の目標は俺達の母校……塔出高校で確定だ。きっと、船出との決着を付けることになるだろう。ストーがそこにいるかは分からないが、気を引き締めろよ」
「なんであなたが仕切ってるの……」
今回の高級住宅街ダンジョンにおいて、ボスを務めていたanotherがまとめ役になるという状況。あまりにもおかしな状況についに一ノ瀬は突っ込まざるを得なくなった。
だが、肝心のanotherはそんなことなど気にもしていないようで、さっさとリビングの荷物を纏めに掛かる。
「別に何でも良いだろ。配信が終わったらこの家の掃除だ、お前らも手伝えよ」
「えーっ」
雨天は不満染みた声を上げる。”面倒くさい”を前面に出した態度で大きくソファに転がった。
だが、anotherはその冷ややかな視線を雨天に向ける。
「今後、お前ら勇者一行の拠点にもなるところなんだぞ。掃除するのは当然のことだろう」
「うぅ……そう言われると否定できません……」
anotherの視線に怯えながら、すごすごと身体を起こす雨天。
そして、さっさと掃除に取りかかりたいと言った雰囲気のanother。
「あ、ちょっと待てanother」
だが、それをセイレイが引き留めた。
「何だ、セイレイ。まだ何かあるのか」
「いや、追憶のホログラムだよ。ダンジョン攻略の証みたいなもんだが、ここには無いのか?」
「……あのな」
至極当然の質問をしただけなのだが、anotherは呆れたようにため息を付く。
その態度の意味を理解できないセイレイは、どこか馬鹿にされたような気がして不貞腐れた顔をした。
「何だよ。俺さ、何か間違ったこと言ってるかよ」
「一ノ瀬も言っていただろ、『追憶のホログラムと同等の存在に過ぎない』と。俺が、その追憶のホログラムの代わりだよ」
「あ、雨天と同じなのか」
セイレイはチラリと雨天とanotherを見比べた後、納得したように頷いた。
そんな会話など余所に、雨天はせっせと掃除道具を探しに部屋の中を彷徨いている。
「まあ、俺はドローンの中に吸収される気は無いがな。その代わりに一ノ瀬」
「ん、何?」
「これを持っておけ」
anotherは、ブレザーのポケットからあるものを取り出す。
それは、金色に光るカブトムシのツノだった。
「……カブトムシの、ツノ……?」
艶やかに陽光に反射して煌めくそのツノを、一ノ瀬は受け取ってマジマジと見つめる。
それは一ノ瀬が金色のカブトムシのツノを折った後、女性の身体として生きることを決意した後に捨てたはずだったものだ。
「……どうして、ここにあるの」
「どれだけ捨てようとしても、決して捨てることの出来なかった想い。これは、お前の過去そのものだよ」
「理由になってないんだけど……」
「お前がいくら捨てたとしても、ここに戻ってくる、と言うことだ。受け取れ。これがお前の鍵となる」
「……鍵?どういうことなの……?」
一ノ瀬は訳も分からずにanotherから金色のカブトムシのツノを握りしめた。
すると、瞬く間に彼女の身体の中に、それが溶け込んでいく。
「――っ!?」
「何、どうなってるの!?」
目の前で起きた現象に、ホズミは驚愕の声を上げる。
よりいっそう、一ノ瀬に纏う光の粒子が強く輝いた。しかし、それもつかの間のことで、徐々に纏う光は収束する。
「……有紀さん、大丈夫?」
「うん……大丈夫。そっか、そうなんだ……」
ゆっくりと一ノ瀬は目を開く。
見た目は、ブレザーを身に纏った一ノ瀬の姿から変わったわけではない。変わったのは、彼女を纏っている雰囲気だった。
「ありがとう、another。もう……迷わないよ。男性としての過去を受け入れて、私は生きる」
[information
noiseがスパチャブースト”赤”の鍵を手に入れました。
条件が揃い次第、発動が可能となります]
「——赤……。そうなんだね、ついに君達はその領域までたどり着いたのか……本当に、君達は僕の想像をどれだけ超えたら気が済むんだよ?気付きなんて、レベルじゃない。本当に、最高だよ」
そのシステムメッセージを見て、驚愕の声を上げたのはSympass運営でもあるディルだった。
初めて見るメッセージに困惑を隠すことの出来ないホズミは、ディルへと質問を投げかける。
「スパチャブースト”赤”って、一体何?他のスキルと違うの?」
だが、やはりディルは答える気はないようで大きくため息を吐いた。
「……だから、言ってるでしょ?自分で気づかなきゃ意味がないんだよ?一ノ瀬 有紀はもう崩れることのない気付きを得た、今語ることが出来るのはそれだけさ。何度転生を繰り返したんだろうね、キミは。何度、死んだんだろうね。生と死を繰り返した答えの先にある強さなんだ、スパチャブースト”赤”は」
「ディル、君は一体何を言っているの……?」
今までの詭弁とは大きく異なる、明確に意味を持った言葉。だが、その真意を理解することは出来ず、ホズミは混乱するさまを隠すことは出来なかった。
だが、当本人である一ノ瀬はなんてことのないように、”ふくろ”にしまっていたパソコンを取り出す。
「本当に、ここに来て良かったよ。そうだね、告知しなきゃ。次の配信は……私の母校だよ……またコミュニティで告知するよ」
配信を終わらせるべく、締めの言葉に入る。
すると、彼女の言葉に連なって徐々にコメント欄は加速していく。
[まだ知りたいことがあるんだけど、noiseさんは何に気づいたのか、ヒントが欲しい]
[魔王の行動の目的について俺達も考えたい。間違ってるか、間違ってないか、俺達も考えたいです]
[一ノ瀬さん、あなたは何に気づいたのでしょうか。この配信と関係あることですか?]
[明らかにただの配信じゃないことはとっくに分かってるよ。俺達も部外者じゃない]
[私達も知りたい、考えたい。だから、お願いします]
真剣さの増したコメント欄と向き合いながら、一ノ瀬はそれでも静かに首を横に振った。
「ディルの言葉じゃないけど、まだ語るには皆が知らないことが多すぎる……ただ、私達の配信は間違った方向には進んでいない。確実に答えに近づいている、それだけは言えるよ」
一ノ瀬は最後にそうコメントを残してパソコンを操作。”配信終了”のボタンをクリックして、配信を終了させた。
その操作と同時に、一ノ瀬が纏っていた光の粒子が舞い上がる。
やがて、気付いた時には。
一ノ瀬の姿は見慣れたカッターシャツと紺のジーンズに身を包んだ、大人の女性の姿に戻っていた。
To Be Continued……
【開放スキル一覧】
・セイレイ:
青:五秒間跳躍力倍加
緑:自動回復
黄:雷纏
・ホズミ
青:煙幕
緑:障壁展開
黄:身体能力強化
・noise
青:影移動
緑:金色の盾
黄:光纏
赤:????
・クウリ
青:浮遊
緑:衝風
黄:風纏
・ディル
青:????




