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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
⑤高級住宅街ダンジョン編
167/322

【第八十一話(1)】休み明けの登校準備(前編)

【登場人物一覧】

瀬川(せがわ) 怜輝(れいき)

配信名:セイレイ

役職:勇者

勇者としての自覚を胸に、日々困難と立ち向かう少年。

責任感が強く、皆を導く役割を担う。

前園(まえぞの) 穂澄(ほずみ)

配信名:ホズミ

役職:魔法使い

瀬川 怜輝の幼馴染。かつて瀬川に命を救われたことから、強く恋情を抱いている。

気弱だった彼女も、いつしか芯のある女性へと成長していた。

一ノ瀬 有紀(いちのせ ゆき)

配信名:noise

役職:盗賊

元男性としての過去を持つ女性。卓越した洞察力と、経験から勇者一行をサポートする。

今日も彼女は仲間の為にその刃と技術を存分に振るう。

青菜 空莉(あおな くうり)

配信名:クウリ

役職:戦士

心優しき少年。魔災以降、直近までの記憶が無く自分がどのように生き抜いてきたのかを覚えていない。

雨天 水萌(うてん みなも)

元四天王の少女。寂しがりであり、よく瀬川に引っ付いている。

・another

金色のカブトムシの中に、一ノ瀬が男性だった頃の意思を宿された少年。本来であれば、一ノ瀬は彼の姿で生きていたはずだった。

・ディル

役職:僧侶

瀬川 沙羅の情報をベースに、ホログラムの実体化実験によって生み出された作られた命。セイレイの力になるという目的だけで行動してきた。

「有紀が通っていた高校か。船出が居るところなら、きっと……」

 なにが言いたいのか分かっていたのだろう。セイレイの視線を真っ直ぐに受けた雨天はこくりと頷いた。

「私がダンジョンとして生み出した水族館みたいに、大きく書き換えられているかも知れないですね?」

「まあ、大体そうだろうな。俺らは学生生活を経験していないから、想像も付かないけどさ」

「ですよねー……学校……うえぇ……」

 どこか気乗りしない表情の雨天。彼女の様子が気になり、一ノ瀬はふと問いかける。

「学校、苦手?」

「あ、はい。どうにも馴染めなかったので……」

「そっか……大丈夫だよ、私達が一緒に居るから」

「うう、助かります」

 再び一ノ瀬はぽんぽんと雨天の頭を叩いた後、ちらりとanotherへと視線を向けた。

「ねえanother」

「どうした?」

「みーちゃんの居るダンジョンが、私達が通っていた塔出高校って言うならさ、この姿のまま行くことは出来ないかな?」

 そう言って、見せつけるように自身が着込んだブレザーをぱたぱたと揺らす。

 魔災以前の姿をした一ノ瀬は、確かに女子高生そのものだ。

 だが、anotherは静かに首を横に振った。

「悪いが俺の持つ、能力の権限はこの住宅街だけだ。塔出高校は能力適応外だ」

「そっか……無理な提案してごめんね」

「気にするな。それよりも、俺がお前の元に戻ると言う話だが……」

 話を切替えるように、anotherはある提案をしようと口を開く。

 だが、それを遮るように「待って」と一ノ瀬も声を出した。

 二人の一ノ瀬は、お互いの意見を主張するように、同時に言葉を発する。

「あなたは、このまま居て欲しい」「俺は、このまま居ては駄目か?」


「……え?」

「……あっ」

 奇跡的に意見の噛み合った二人は、思わず顔を見合わせる。

「あははっ」「ははっ」

 それから、小さく吹き出した後、何がおかしかったのか分からないが同時に声を上げて笑う。

 話についていくことの出来ないセイレイ達は呆然とその二人のやりとりを遠巻きに見ていた。

「え、anotherさんは良いの?生まれたくなかった、ってさっき言ってたのに」

 どう言う心境の変化なのか分からず、ホズミはきょとんとした顔でanotherへと問いかけた。

 その質問をされることは予想が付いていたのか、anotherは真面目な顔を作って回答する。

「最初は、このまま元の身体に戻るか、消えるかの二択だと思っていたがな。俺にはまだ役割が残っていることに気付いたんだ」

「……役割?」

「この家だよ。noiseが世界を救う旅を続けるのなら、いずれ帰るべき場所はあった方が良いだろう?」

「まあ、確かに。家があると安心できるのは、そうだね」

 魔災に伴い、魔王の所業に伴い、幾度となく集落を転々としてきたホズミはその意見には同意だった。

 anotherはそれから、一ノ瀬の方へと視線を向ける。

(おおむ)ね、お前もそういうことが言いたかったんだろ?皆が帰る為の場所を作って欲しい……と」

「さすが、考えることは同じね。拠点があるに越したことは無いから」

「そうだろうとは思っていた。ただ、これ以上は配信外の行動だな……と、その前に聞いておかなければ」

 そこで言葉を切り、anotherはディルの方を向き直る。

「僕?」

「お前はさっき、”魔王の元を離れた”と言っていたな。お前は今は、何をしているんだ?」

「……何も、してないよ」

「何も、していない?」

 言葉の反復に対し、ディルは自嘲(じちょう)の笑みを浮かべた。

 惨めな自分をひけらかすことに対する心苦しさを抱きながら、それでもディルは自身を傷つける呪いの言葉を零す。

「もう、僕は配信者ですら無いよ。セイレイ君へ成長のきっかけを与える役割を終えた僕は、空っぽの器さ」

 へらへら、といつものような中身の見えない表情を浮かべる。しかし、その皮肉ぶったような態度には、いつものような活気を感じ取ることが出来なかった。

 彼の言葉を信じることが出来ないホズミは、疑いの目を向ける。

「あなたが最初に自分からDead配信って言ったんだよ?そんなあなたが配信者でなくなったなんて、口で言っても信用できるわけないでしょ」

「そうだね、言っても分かんないよね……じゃあ、見ててよ」


 唐突に、ディルは掌をホズミへと向けた。

 その明確な攻撃とも取れる行動に、勇者一行は素早く身構える。だが、それよりもディルが宣告(コール)するのが先だった。

「……スパチャブースト”青”」

 ディルのスパチャブースト”青”は、”拘束”。以前noiseやストーを瞬く間に縛り上げた光の帯が現れることが想像された。

 しかし。

[information

現在、このスキルは使用できません]

 簡潔に、はっきりとそのシステムメッセージはクウリが持つドローンから、ホログラムとして映し出された。

 勇者一行は警戒の姿勢を解くと共に、同時にディルへと視線を向ける。

 情けないと言わんばかりにディルは力なく項垂れ、再び自嘲の声を零した。

「あはっ、あはは……これが、僕。瀬川 沙羅の代わりに、セイレイ君を成長へと導いた。でも、その役割を終えた今、僕は一体何?僕に残された意味ってなんだろう?another君みたいに、元々の自我が存在する訳でもない、僕の、僕自身の存在自体が作られたものでしかないのに、僕は……」

「ディル……」

「ねえ、作られた命である僕は、一体何だろうね。ただ目的だけ伝えられて、配信者になった。そんなDead配信を謳っていた僕が、存在意義を見失ったんだよ。笑っちゃうよね。死んだも同然なんだ、死んだも……」

 自分と言う存在意義を見失う。彼の置かれた心境を理解することが出来ず、彼らはどう言葉を掛けるべきかお互いに顔を見合わせる。

 だが、その中でディルの感情を理解できるものがいた。

「自分が何者か分からなくなる、という気持ちは……理解できるよ」

 一ノ瀬は、ディルの目を真っすぐに見て頷いた。

「はは、君に一体何が分かるんだい……?」

「分かるよ、私だってこの世界の被害者だもん。自分の姿を見失って、何者か分からなくなって。たくさん、答えを見失ったよ」

「そっか、総合病院で見た君のホログラム……でも、君には、船出と言うかつて君を理解しようとしてくれる人が居た。だけど僕にはそんな人、誰も……」

「……ディル。君は忘れてるよ」

「何を……?」

 そこで、ディルはゆっくりと顔を上げた。一ノ瀬と目を合わせようとしたが、肝心の彼女の視線はセイレイへと向いている。

「セイレイがさ……君と総合病院ダンジョンで出会った時、一体何を言ってた?」

「……何を、って……」

「セイレイも、忘れちゃ駄目だよ。私含めた皆がディルと行動するのに反対したのに、セイレイは、”行動原理を知りたい”……その理由一つで、ディルを味方に引き入れたんだ」

「……あ」

 一ノ瀬の言葉で、セイレイも思い出したのだろう。

 恥ずかし気に頭を掻いた後、ぽつりと呟いた。

「悪い、言い出しっぺの俺が忘れてちゃだめだよな……お前は、無茶苦茶なことを言って神経を逆なでするようなやつだが、ディル……お前なりの信念を持ってるように見えた」

「そうだよ、全ては、セイレイ君の為に……」

「だろ、お前は俺……いや、俺達の為にたくさん力を貸してくれた。でもさ、俺が勇者としての力を手に入れたからって、お前の力が不要になった訳じゃない」

 そう言って、セイレイはディルに手を差し伸べる。

「行こうぜ、ディル。お前の持つ真実へと、俺達を導いてくれよ」

「ははっ、相変わらずぶっ飛んだことを言うんだね、君は……」

「俺の為、じゃなくてさ。ディル自身が伝えたいこともあるんだろ?」

「……僕が、伝えたい……こと……」

 ディルは、ゆっくりとセイレイの手に自身の手を重ね合わせる。

 生と、死の相反する二人の想いが、重なっていく。


「……あはっ、こういうのは……ボクらしくなかったね」

 突然、ディルは肩を震わせて笑い始めた。それから、閉じていた目をゆっくりと開く。

 その時には既に、見慣れたディルの不敵な笑みが浮かび上がっていた。

「やっぱ、その方がお前らしいよ」

「間違いないね、しおらしくしてるなんてボクらしくなかったよ。アーカイブ見たくないな、これはさ。ザ・黒歴史確定ってね!あははっ」

 いい加減なことばかり言うディル。その何度も振り回されてきた彼の姿に、セイレイは安堵の表情すら浮かべていた。

「作り物上等じゃん。そもそもさ、この世界は作り物だらけなんだ!技術も所詮作り物、ボク達も所詮作り物に育てられた存在!そうさ、本物を探す方が間違ってるんだよ!本物なんてどこにも無い、あるのは本物だと信じたい偽物だけさ!!」

「……セーちゃん達、毎回こういうの聞かされてたの?」

 ディルが詭弁(きべん)(ろう)する姿。それを初めて目の当たりにしたクウリはぽかんとした表情を浮かべた。

 そんなクウリに近づいたディルは、すかさず肩を組んで語りかける。

「こういうの、とはずいぶんな言葉だねー?ね、戦士クン。君だって記憶ないんでしょ、後付けの記憶だけでやりくりしてるくせにさあー。条件だけで言えば似た者同士、仲良くしようよー。ほら、成長は気づきから、だよ。あははっ!!」

「……後付けの記憶と言えばそうなのかな?……というかテンション高いねディル君って」

「あははっ、天才配信者ディル君の言葉にはついて行くことが出来ないかな?ふふふ、安心してよ。君達のような凡人にも理解できるようにボクが噛み砕いて説明してあげるからさ!!気付かなかったボクが死んで、気付いたボクが生まれるって言葉は、ボクのモットーだから覚えてね?ここテストに出るよ、あははっ!!」

 あっという間に場の空気を奪っていったディルの言動に、クウリは呆然とした表情を浮かべる。

 それから、助けを乞うようにセイレイへと視線を投げかけた。

「セーちゃん……対応、よろしく」

「正直俺らもあんまりこいつの言葉は理解できてねえ。そういうもんだと思っておけばいいよ」

「……そういうもの、かあ……」

 複雑な表情を浮かべながらも、クウリはディルへとぺこりと頭を下げながら視線を向ける。

「まあ、よろしくね?確か、役割的には僧侶……だよね」

「あはっ、そうだよっ。神に誓って、なーんてねっ。あ、ちょうど神に誓っていればスパチャブーストも開花するんじゃないかな、ほら、神に誓うから、スパチャブーストよ開花せよ―、ってさ!!」

「やめてよ君が言うとなんとなく冗談に聞こえないから!?」

 再び自己を取り戻したディルは、改めて勇者一行のLive配信へと仲間入りを果たしたのだった。


To Be Continued……

【開放スキル一覧】

・セイレイ:

 青:五秒間跳躍力倍加

 緑:自動回復

 黄:雷纏

・ホズミ

 青:煙幕

 緑:障壁展開

 黄:身体能力強化

・noise

 青:影移動

 緑:金色の盾

 黄:光纏

・クウリ

 青:浮遊

 緑:衝風

 黄:風纏

・ディル

 青:????

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