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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
⑤高級住宅街ダンジョン編
166/322

【第八十話(2)】全てはたった一つの生の為だけに(後編)

【登場人物一覧】

瀬川(せがわ) 怜輝(れいき)

配信名:セイレイ

役職:勇者

勇者としての自覚を胸に、日々困難と立ち向かう少年。

責任感が強く、皆を導く役割を担う。

前園(まえぞの) 穂澄(ほずみ)

配信名:ホズミ

役職:魔法使い

瀬川 怜輝の幼馴染。かつて瀬川に命を救われたことから、強く恋情を抱いている。

気弱だった彼女も、いつしか芯のある女性へと成長していた。

一ノ瀬 有紀(いちのせ ゆき)

配信名:noise

役職:盗賊

元男性としての過去を持つ女性。卓越した洞察力と、経験から勇者一行をサポートする。

今日も彼女は仲間の為にその刃と技術を存分に振るう。

青菜 空莉(あおな くうり)

配信名:クウリ

役職:戦士

心優しき少年。魔災以降、直近までの記憶が無く自分がどのように生き抜いてきたのかを覚えていない。

雨天 水萌(うてん みなも)

元四天王の少女。寂しがりであり、よく瀬川に引っ付いている。

・another

金色のカブトムシの中に、一ノ瀬が男性だった頃の意思を宿された少年。本来であれば、一ノ瀬は彼の姿で生きていたはずだった。

・ディル

役職:僧侶

瀬川 沙羅の情報をベースに、ホログラムの実体化実験によって生み出された作られた命。セイレイの力になるという目的だけで行動してきた。

「……駄目だ、少し情報を整理する時間が欲しい」

 あまりにも、受け止めるには一つ一つの情報が大きすぎる。

 ポスりと力なくソファに腰掛けたセイレイは額を抑えながら、大きく仰け反った。

「クウリ君、持ってて」

「あっ、分かった」

 そんな彼を支えるようにホズミがドローンをクウリへと預けて寄り添う。

「大丈夫?」

「さすがに一気に受け止め切れねえよ……ディルが、姉貴の情報をベースとして生まれた存在?全部、たかだか俺一人の為に差し向けられたもの?なんで、ここに来てそんなこと……」

「……ねえ、ディル。一つ聞かせて」

 頭を抱え、一つ一つの事実を受け止め切れずに力なく項垂れるセイレイを支えながら、ホズミは鋭くディルを睨む。

「なんだい、ホズミちゃん。君もおどおどとした雰囲気が消えたね」

「今はそんなこと関係ないでしょ。あなたがやたらと気にかけていたセンセー……千戸 誠司は、一体どういう人間なの」

「それは、千戸に育てられた君達が一番知ってなきゃおかしい話でしょ」

 ホズミの質問に、まるで取り付く島もないと言わんばかりにディルはおどけた。

 いちいち鼻につく言い回しを繰り返すが、ホズミは挑発に乗ることなく反論する。

「私だってパパやママのことなんて、知ってるようで何も知らない。有紀さんも、実際に追憶のホログラムを見るまでは知らない一面もあった。長く寄り添ってたからこそ、見えない部分があるの」

「開き直るなよ、それは君達が知ろうとしなかっただけだろ?」

「……本当にね」

 皮肉ぶったディルの言葉を、否定することが出来なかったホズミは自嘲の笑みを零す。

 それから、真剣な表情を作って深々と頭を下げた。

「らしくないね、君が頭を下げるなんて」

「教えて欲しい……いや、教えてください。一体、センセーの目的は何なのですか。魔王へと自身の姿を書き換えて、どんな目的を果たそうとしているのですか」

「……うん、そうだな……いいよ、頭を上げて」

 促され、そしてホズミはゆっくりと頭を上げた。

 どこか覇気の消えた視線を受けたディルは、困ったように苦笑を零す。

「視聴者としても知りたいところだよね。この馬鹿げた世界を生み出した理由。桜の木々が(むしば)(ゆが)んだ景色を作った理由」

 彼の視線は、ドローンを介した視聴者へと向けられた。


[俺は許すことが出来ない。魔災の中で共に生きてきた親友を魔王の手によって奪われたんだ。俺に力があれば今すぐにでもぶっ殺してぇよ]

[私は、魔災の中で生まれた娘を亡くしました。今でも、おかあさん、おかあさんって私を呼ぶ声が頭の中を離れないんです]

[集落に戻ってきたら桜の木々に滅茶苦茶にされてて、誰も生きてる人が居なかった時の気持ちが分かるか?どうすれば元に戻せるのか、と取り戻そうと思う気持ちが分かるか?]

[こんな行動に理由があるってんなら教えろよ。何をもって破壊しやがったんだ]


 明らかに視聴者の怒りの籠ったコメントが次から次へと流れていく。

 魔災の後も、沢山の命が生まれ、沢山の人々が懸命に生きようとしていた。そんな命をまるで弄ぶように奪っていった魔王の事を、誰も許すことなど出来ないのだ。

 ディルはまるで自分へ向けて言われているかのように、怯えた表情を浮かべる。しかし、ぐっと生唾を飲み込んで、千戸の目的について語っていく。

「僕も、今は千戸の元を離れたから全ての疑問に答えられないこと、勝手な推測が混じると良くないから聞いた情報だけを伝えるよ」

 そう前置きして、ディルはゆっくりと深呼吸した。

 いつもになく真面目な口調で、かつてDead配信を謳った男は魔王の目的について語っていく。

「『最終的に世界を救う結果となるのなら、どれだけの人が犠牲になろうが関係ない』……魔王は、そう言っていた」

「……は?」

 セイレイは、抑えることの出来ない怒りと共にソファから勢いよく立ち上がった。

 感情の奔流(ほんりゅう)のままに、ディルへと怒りをぶつけていく。

「魔王が、そんなことを言ったのか!?こんな、世界を滅茶苦茶にして、人々の命を弄ぶような……っ!!」

「セーちゃん、相手が違う!」

 ドローンを持ったクウリは、すかさずセイレイの行動を咎めるように鋭く言葉を発した。

 幼馴染の言葉にハッとしたセイレイはクールダウンしたのだろう。「……悪い」とそう頭を下げた後、再びソファに腰掛ける。

 何故かディルは後ろめたさを感じたように力なく項垂れながら、言葉を続けた。

「僕だって、こんな世界を望んでいなかった。セイレイ君が、希望の光となって、魔災から世界を取り戻すこと……それだけで良かったんだ」

「……最初から、お前は俺に気付きを与える為に行動していたのか。より、俺が勇者として成長できるように」

「うん。それが僕が配信者になった理由だよ。セイレイ君には、気付きによって何度も自分を書き換えてもらう必要があったからね」

「書き換え、な……」

 幾度となく配信を介して聞いた”書き換え”という単語をセイレイは思わず復唱した。

 それから、冷静になった思考でセイレイはディルに問いかける。

「なあ。魔王……センセーは、世界を最後にどう書き換えようとしているんだ?」

「最後に、って?」

「世界を救う、ってこととさ。やってることが矛盾してるじゃねえか。救うどころか殺してどうするんだよ」

 もっともな意見に、ディルははぐらかすような困った笑いを浮かべた。

「それは本当にそうだね。だけど、セイレイ君は一つ大きなキーワードを忘れてるよ」

「大きなキーワード?」

 ディルの言っていることの意味が分からず、セイレイは首を傾げる。

 その質問に答えたのは、静かに座って話を聞いていた一ノ瀬だった。

「……全て、セイレイの為……ね」

「さすが聡明な盗賊さん。正解だよ!」

 わざとらしく大きく指を鳴らして、ディルは一ノ瀬の方を向いた。

 クイズの正解者である一ノ瀬は、複雑な表情をしてセイレイへと視線を送る。

「なるほどね……何となく、一つの可能性に気づいたかも。魔王の目的、ディルの倒したい相手……そっか、確かに、これはプロローグに繋がってるんだ……」

「有紀、一体何に気づいたんだ……?気づいたのなら、教えてくれ」

 受け止めることの出来ない責任から逃れるように、縋るような目でセイレイは一ノ瀬に尋ねる。

 だが、一ノ瀬は力なく首を横に振るのみだった。

「……憶測だけで、私は語れない。もう少し、核心に迫る情報が欲しいから、それまで待って欲しい……」

「憶測で良い、何か、真実に繋がりそうな言葉なら言ってくれ」

「出来ないよ。忘れたの?配信中なんだよ、今は」

 そう言って、一ノ瀬はクウリが持つドローンのカメラを指差した。

「憶測でものを語るリスクがどれほど大きいか分かる?しかも、皆が求める真実に関係する内容なんだ。しっかりとこれだって言える情報を判断した上で、私達はそれを伝えなければならないの」

「……真実に関係する……」

「もちろん、セイレイにとって辛いことなのは分かる。私だって今考えている憶測が間違いであって欲しいとは思ってるから、まだ言えない」

「慎重派だな、有紀は」

「まあね」

 セイレイの皮肉ぶった返しに、一ノ瀬は肩を竦めて笑った。

 それから肯定も否定もすることなく、更に言葉を続ける。

「その真偽を確かめる為に、私達がまずしなければならないことは何だと思う?」

「魔王と、戦うことか」

「それよりも前」

「四天王と、決着をつけること……か?」

 おずおずと確認するようなセイレイの回答に、ついに一ノ瀬はこくりと頷く。

 ちらりと雨天へと視線を向けると、彼女は得意げな表情で鼻を鳴らす。

「ふふん、私だって四天王でしたっ」

「えらいえらい」

「わーいっ」

 あやすように雨天の頭を撫でながら、一ノ瀬は自身の見解を話す。

「みーちゃんだって、Relive配信を謳ってる四天王なんだ。そして、今いるのは私の家。私の家から少し歩けば、母校が見える」

 そこで言葉を切り、突然立ち上がったかと思うと、カーテンを開いて窓ガラスの先にある景色を見やる。

 瓦礫の山の先に見えるのは、一ノ瀬のかつての母校だった。

 幸か不幸か、寝坊したことによって岩壁の槍に貫かれずに済んだ、かつて一ノ瀬が通っていた高校。

「みーちゃんは、きっとあそこに居るはず。行かなきゃ、私のかつての母校——塔出高校へと」


To Be Continued……

3DS絶不調なので、当面iPadでアニメーション描きます。ちょっとアニ検の勉強もしようかな〜。

⬇以下テンプレート


【開放スキル一覧】

・セイレイ:

 青:五秒間跳躍力倍加

 緑:自動回復

 黄:雷纏

・ホズミ

 青:煙幕

 緑:障壁展開

 黄:身体能力強化

・noise

 青:影移動

 緑:金色の盾

 黄:光纏

・クウリ

 青:浮遊

 緑:衝風

 黄:風纏

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