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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
⑤高級住宅街ダンジョン編
165/322

【第八十話(1)】全てはたった一つの生の為だけに(前編)

【登場人物一覧】

瀬川(せがわ) 怜輝(れいき)

配信名:セイレイ

役職:勇者

勇者としての自覚を胸に、日々困難と立ち向かう少年。

責任感が強く、皆を導く役割を担う。

前園(まえぞの) 穂澄(ほずみ)

配信名:ホズミ

役職:魔法使い

瀬川 怜輝の幼馴染。かつて瀬川に命を救われたことから、強く恋情を抱いている。

気弱だった彼女も、いつしか芯のある女性へと成長していた。

一ノ瀬 有紀(いちのせ ゆき)

配信名:noise

役職:盗賊

元男性としての過去を持つ女性。卓越した洞察力と、経験から勇者一行をサポートする。

今日も彼女は仲間の為にその刃と技術を存分に振るう。

青菜 空莉(あおな くうり)

配信名:クウリ

役職:戦士

心優しき少年。魔災以降、直近までの記憶が無く自分がどのように生き抜いてきたのかを覚えていない。

雨天 水萌(うてん みなも)

元四天王の少女。寂しがりであり、よく瀬川に引っ付いている。

・another

金色のカブトムシの中に、一ノ瀬が男性だった頃の意思を宿された少年。本来であれば、一ノ瀬は彼の姿で生きていたはずだった。

「ディルが……姉貴の情報から、生まれた存在……?」

 唐突に現れて、唐突にとんでもない情報を与えたディル。

 めまいがする。

 まるで、自分を客観的に見ているかの如く、意識が遠のいていく。

 遠ざかる意識を手繰り寄せるように、セイレイは激しく首を横に振った。

「……信じられねえ。第一、根拠を示すことなんて出来……」

「……お姉さんとは”いつか、一緒にネット配信でもしよう”……そう、約束したよね」

「——!!」

 その言葉は、配信の中では一度も話したことのない内容だ。

 セイレイの目が大きく見開かれるのを見たディルは、こくりと頷く。

 それから、淡々と答え合わせを始めた。

「だからお姉さんの代わりに、僕が約束を果たしたんだ。コラボ配信(共同戦線)……として、ね」

「……最初から、お前はそれを分かっていた」

「千戸 誠司がセイレイ君を勇者として育て上げていた、ということは全く想定してなかったけどね……まさか、僕も千戸の意思に踊らされた一人だったなんてね……あはは」

 乾いた笑いをディルは浮かべる。その彼の姿には、以前のような狂気を感じ取ることは出来ず、空っぽの器のようにも見えた。

 ディルは己の手の感覚を確かめるように、何度も自分の手を握りしめる。

「言ったでしょ?セイレイ君は、この世でたった一つの希望の光。何物にも代えられない、特別な存在なのさ」

「だから、お前はずっと俺の為に手を貸し続けた……ということか。姉貴の意思を宿したお前が」

「そゆことー」

 そう言って、ディルは再び「くくっ」と怪しげに笑った。

 確かに、その姿はセイレイが記憶の映像の中で見た姉の姿と全く同じものだ。

 だが、anotherは割って入るようにディルへと言葉を投げかける。

「よう、ディル。まがい物同士のご対面だな」

「や、一ノ瀬君……かな」

「今は”another”の名前で通している。俺もお前に聞きたいことがあるんだ」

「なに?なんなの、あんまり突っ込んだ質問なら答えないよ?」

 ディルの返す言葉を無視して、anotherはちらりとドローンの方を見た。

 厳密に言えば、ドローンを操作する雨天の方へと。

「俺が、金色のカブトムシ。雨天含めた、四天王はドローンの姿をしている。追憶に存在を残したものは、何かしらの形を持っているが……お前に、そういうものはあるのか?」

「ないよ」

「何?」

 あっさりと返された回答に、思わずanotherは目を丸くした。

 ディルは呆れたと言わんばかりに、大きくため息を吐く。

「千戸から最後の授業で一体何を教えてもらったの?ね、セイレイ君……いや、ホズミちゃんの方が良いか」

 ご指名を受けたホズミは、不快さを隠そうともせずに眉をひそめる。

 恨めしげにディルをひと睨みしてから、答えを返す。

「様々な情報を組み込んだ人工知能を、ホログラムの実体化を介して……”無から、有を生み出す”……それが、セイレイ君のお父さん、いや、Tenmeiの最終目標だった」

「でも、それが失敗して魔災が起きたんだろ」

 追憶のホログラムで見た映像から、セイレイはそう話に割り込んだ。

 だが、ディルは首を大きく横に振る。

「いや、実験の成功例自体はあったよ」

「え?……え?」

 何が言いたいのか、ホズミは瞬時に察したのだろう。目を丸くして、ディルの方をまじまじと見つめる。

 その意図を読み取ったディルは自らの身体をひけらかすように両手を大きく広げた。

「あははっ、そう、そうさ!この僕が、”ホログラムの実体化プロジェクト”の成功例!!瀬川 沙羅の情報をベースとしてこの世に産み落とされた存在、ディルなんだよっ!!空っぽの器として生まれたまごうことなきまがい物さ!!僕が、僕が!!あははっ!!」

 唐突に、仰々しく自身の正体を語るディル。しかし、初対面であるクウリは彼のテンションについて行けないようだった。

「大丈夫?ディル君……だよね。無理してない?」

「……君はクウリ、だね。どうもー、スーパーイケメン配信者、ディル様だよ」

「あ、うん。こんにちは」

「リアクション薄いなあ~……もう少しノリ良くしてくれないとつまらないんだけど、ねえセイレイ君っ」

 面白くなさそうに口を尖らせたディルは、くるりとセイレイの方へと振り返った。

 しかし、セイレイもどこか思う所があるようで、じっとディルの立ち振る舞いを観察しているようだ。

「いや、空元気は事実だろ。お前、前よりも勢いがないぞ」

「……そう、見える?」

 ついにディルは隠し通すことも出来ず、がくりと肩を落とした。

 それから、自身の姿を撮影しているドローンへと無理に作った笑みを浮かべる。

「や、どうもー……久しぶり、ディルだよ。長らく配信してなくてごめんね」


[正直、お前も魔災の原因に噛んでるんじゃないかって思ってたが]

[一番分かりやすく扇動してたから、敵なのかと]

[千戸とはどういう関係なの]

[結局、お前は何がしたかったんだ?]

[ディルさん、ですね。あなたも作られた存在、だったんですね]


 ディルの言葉に反応するように、次から次へと流れるコメント欄。そのコメント欄に目を通したディルは、軽くドローンに向けて手招きした。

「雨天ちゃん、だね。ちょっと出ておいで」

[はへ?何でです?]

「僕は君にも興味があるんだ。いいかな」

 ドローンは反応に困ったようにホズミの方を向く。

 彼女は一瞬悩んだ様子でこめかみを押さえていたが、しばらくして踏ん切りが付いたのだろう。黙ってドローンを両手で支えた。

 その行動を許可と取った雨天は、ひょいとドローンの中から光の粒子と共に現れる。

「よっと。ディルさん、こんにちは。Sympassの運営さん側ってことは、私達に力を与えた張本人、ってことなんですかね」

「配信者としての力を与えたのは、僕も一枚噛んでるけどね。四天王に割り振ったのは、千戸だよ」

「あー!!千戸!!魔王セージ!!あの人何なんですか!!急に四天王だって言われて、訳わかんなかったですよ!!」

 雨天は相当根に持っているのだろう。ディルに対し、激しく自身が四天王に割り当てられたことに対してクレームを申し立てる。

「へったくそな字でカンペ作るくらいだもんな」

「その事は忘れて!?」

 茶化すように笑ったセイレイに対しても雨天は噛みつく。

 それから、手をぶんぶんと振り回して、ディルに懸命に自身の意見をお問い合わせしていく。

「一体何なんですか、みんな、みんなっ!!Sympassってそもそも何なんですかぁっ、どんな目的で作ったら一体こんな世界になっちゃうんですかー!!」

「耳が痛い話だね……」

「だってだって、おかしいもん!皆敵かと思ったら敵じゃ無くて、ただ舞台の上で戦わされてるだけみたいじゃないですかあー!」

 雨天としては、四天王としてセイレイ達と対峙した頃から抱いていた想いだった。

 彼女が支配していた水族館へと向かう道中で、幾度となく交わした言葉。その一つ一つに嘘偽りなんて無くて、心地よさすら感じていた。

 そんな人達と、どうして刃を交わさなければならなかったのか。

 自身の価値観を正す為にセイレイ達は懸命に戦ってくれたのだが、それでも疑問は拭いきれなかった。

「そもそも、なんでセイレイ君に皆して戦わせるんですかっ、まるでセイレイ君の成長を目的としてるみたいに!」

「そうだけど?」

「絶対おかしいです……はぇ?」

 ヒートアップして、己の主張をまくし立てていた雨天は、突然ディルが発した言葉に目を丸くした。

 ディルの言葉など聞いていなかったのだろう。目をぱちくりさせて、続くディルの言葉を待つ。

 しかし、一ノ瀬だけはどこかその言葉を理解していたようだ。

「……倒すべき相手が居る、そしてその鍵を握るのがセイレイ……だったね」

「総合病院の時に言った話だね、それは」

「うん。それって、もしかして……」

 既に一ノ瀬はある答えに辿り着いているようだ。だが、ディルは人差し指を唇に当てて『静かに』のジェスチャーを作った。

「悪いけど、今はまだ語らないでもらえるかな?とりあえず今は、全てセイレイ君の為だって言うことだけ理解していて欲しいんだ」

 思わぬ方向から、自らの見解を発するのを止められた一ノ瀬は不服そうにディルを睨む。

「……なんで、言っちゃ駄目なの」

「何事にも段階というものがあるんだ。聡明な君なら分かるでしょ」

「分かったよ……でも、必要なら言うからね」

「必要なら……ね」

 納得が行かない様子だったが、ひとまずはディルのいうことに従うことにした一ノ瀬。

 彼女はソファに座り、姿勢を整える。


 そんなやりとりを遠巻きに見ていたセイレイは、徐々に明かされる真実に呆然としていた。

「全てが……俺の……為?これまでの戦い、これまでの皆の行動全部が……?」

 想像を絶する期待を背負っていることを自覚したセイレイは、膨大な数の真実を受け止めきれずにいた。


To Be Continued……

【開放スキル一覧】

・セイレイ:

 青:五秒間跳躍力倍加

 緑:自動回復

 黄:雷纏

・ホズミ

 青:煙幕

 緑:障壁展開

 黄:身体能力強化

・noise

 青:影移動

 緑:金色の盾

 黄:光纏

・クウリ

 青:浮遊

 緑:衝風

 黄:風纏

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