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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
⑤高級住宅街ダンジョン編
164/322

【第七十九話(3)】天明(後編)

【登場人物一覧】

瀬川(せがわ) 怜輝(れいき)

配信名:セイレイ

役職:勇者

勇者としての自覚を胸に、日々困難と立ち向かう少年。

責任感が強く、皆を導く役割を担う。

前園(まえぞの) 穂澄(ほずみ)

配信名:ホズミ

役職:魔法使い

瀬川 怜輝の幼馴染。かつて瀬川に命を救われたことから、強く恋情を抱いている。

気弱だった彼女も、いつしか芯のある女性へと成長していた。

一ノ瀬 有紀(いちのせ ゆき)

配信名:noise

役職:盗賊

元男性としての過去を持つ女性。卓越した洞察力と、経験から勇者一行をサポートする。

今日も彼女は仲間の為にその刃と技術を存分に振るう。

青菜 空莉(あおな くうり)

配信名:クウリ

役職:戦士

心優しき少年。魔災以降、直近までの記憶が無く自分がどのように生き抜いてきたのかを覚えていない。

雨天 水萌(うてん みなも)

元四天王の少女。寂しがりであり、よく瀬川に引っ付いている。

・another

金色のカブトムシの中に、一ノ瀬が男性だった頃の意思を宿された少年。本来であれば、一ノ瀬は彼の姿で生きていたはずだった。

 スマートな印象を受ける、青色の曲線で構成されたパンフレットの表紙。

 そのデザインを彩るのは、『世界に、夜明けを。』と書き記された一ノ瀬の父親が務めていたTenmeiのキャッチコピーだった。

 セイレイは意を決したように、そのパンフレットの中身を開いていく。

「……正直、そこまで変なことは書いてないね」

 期待外れのように、一ノ瀬はがくりと肩を落とした。

 しかし、セイレイ、ホズミ、クウリといった、そもそも社会と関わる機会すらなかった者達にとっては真新しく感じるのだろう。目を輝かせて、パラパラとパンフレットに刻まれた文字に読みふけっていた。

「なんというか、デザインカッコいいな……ロマンがある」

「実績とかいろいろ書いてると、すごいところなんだなーって思う。かなり力のある企業だったんだね」

「従業員の声、かあ。作り話かもしれないけど、こういうの読むのは楽しいね」

 などと好き放題にパンフレットの内容について語り合っていた。

 そんな純粋無垢な彼らに、思わず一ノ瀬とanotherは顔を見合わせる。

「まあ、知的好奇心が旺盛で良いことだと思うよ?」

「俺としては視聴者をあんまり待たせるべきではないと思うがな」

 正論を言い放つanotherの言葉に一ノ瀬はハッとしたように頷いた。それから、セイレイ達を押しのけてパンフレットのページをめくっていく。

「それもそうだね、ちょっとみんな。悪いけどページめくるね」

「あ、悪い」

 しかし、ページをいくらめくれど、ホログラムや人工知能に関連した情報はほとんど出てこず、当たり障りのない文面しか出てこない。

 期待していたほど収穫が得られず、一ノ瀬の表情に疲労感がにじみ始めた。

「もう少し情報、手に入ると思ってたんだけどなー……ん?」

「あ。待って、有紀さん!ここ、ここ見て!!」

 何かに気づいたホズミは、ページをめくる彼女の手を急いで止めた。

 一ノ瀬の手を引っ張って、ホズミはパンフレットの『代表者』と書き記されたページのとある一部分を指し示す。

 その指し示した顔写真を見た、セイレイの目が大きく見開かれた。

「俺の、親父か……?」

 商店街ダンジョンで見た、追憶のホログラムに映し出された千戸と共に語っていた無精ひげを生やした中年男性。

 瀬川 怜輝を、”(セイ)(レイ)”と呼ぶように頼み込んだ、父親の姿だった。

 どこか威厳ある雰囲気を醸し出したその写真には、”瀬川 政重(まさしげ)”と記されている。

「セイレイのお父さんが、Tenmeiの社長……つまり」

 一ノ瀬の言葉に続けるように、anotherは強く頷いた。

「俺達の親父は、セイレイの親父さんの元で働いていた、ということになるか」

「……はは、つくづく縁のある……」

 まさか、千戸 誠司の教え子という共通点以外にも、このような形で接点があるとは思なかった。

 一ノ瀬はめまいがするような感覚に襲われ、こめかみを抑えて、小さく尖らせた口先から細く呼吸を繰り返す。

「……ごめん、ちょっと冷静になった。でも、”パンフレットにホログラムの事が書いてない”という情報は大きな収益かも知れないね」

「え、どういうことなの?」

 言葉の意味を読み取ることが出来ず、クウリは首を傾げた。

 元々理解されるとも思っていなかった為、一ノ瀬はパンフレットを指差しながら言葉を続ける。

「ここまで大規模……というか、世界を滅ぼす大災害になったレベルの研究だよ。そんなホログラムに関して一切触れていないってこと自体が、秘密裏に研究していた内容ってことじゃないかな」

「……暴論じゃないの、それ?」

「でも可能性の一つとしてはあり得るでしょ?」

「うーん……」

 どこか釈然としない様子でクウリは唸り声を上げた。だが、完全に否定しきることも出来ず、それ以上反論することはしなかった。


 そして、ホログラムに関して話をしているところで何かを思い出したように「そういえば」と、ちらりと一ノ瀬はanotherの方を見る。

「ねえanother。そろそろ、貴方が生まれた経緯についても教えてくれてもいいんじゃない?”男性としての一ノ瀬 有紀が世界に保存された”って、どういうこと?」

「……そう、だな」

 anotherは顎に手を当て、その様は思慮深く言葉を選んでいるようにも見えた。

 しばらくして考えが纏まったのか、軽く頭を振ってから勇者一行をぐるりと見渡す。

 最後に雨天が操作するドローンのカメラの方をじっと見て、話を続けた。

「言わば”金色のカブトムシ”そのものが、世界を書き換える存在の前駆体だったんだ……視聴者の中に、虫が苦手なやつはいるか」

 彼の話の意図が理解できない視聴者から、その質問に対する返答がコメント欄を介して流れていく。


[いや、何の話?]

[苦手と言えば苦手だけど]

[え、なに虫映るのか]

[正直魔災以降虫がどうとか言ってられなくて慣れたわw]

[まあそれよりもおっそろしいものばっかだしな]

[大丈夫、そうですねっ]


「……大丈夫そうだな」

 コメント欄を見て、anotherは最後に雨天と思われるコメントに頷いた後に自らの姿を光の粒子へと変える。

 瞬く間にanotherのシルエットはリビングから掻き消えて、気付いた時には金色のカブトムシになっていた。

「……相も変わらず、変な光景、だよな」

 恐らく視聴者は混乱しているだろうな、そうは思いながらもセイレイは肩を竦めて笑うしかなかった。

『これが、俺に割り当てられた姿だ。ドローンとは違うが、俺も追憶のホログラムと同等の姿と言って間違いないだろう……というか、一ノ瀬も言っていたな』

「……まあね」

 どこか皮肉染みた口調だったが、言ったこと自体は事実なので一ノ瀬は困ったように笑ってやり過ごす。

『この金色のカブトムシには、”前提を書き換える力”が備わっている』

「前提を書き換える……?」

 anotherの言葉を反復する一ノ瀬。

『そうだ。生命体がこの世に産み落とされた際の、最初に決定される要素である性別。染色体とか、減数分裂、とか細かいことはこの際置いておくが……俺達の性別という前提が大きく書き換えられるとしたら?』

「つまり、有紀さんがその金色のカブトムシの角を折ったことで、有紀さんは女性の姿に書き換えられた……ってことだよね。カブトムシのメスって角無いし」

 ホズミがなるべく視聴者に分かりやすいように、噛み砕いた言葉で解説する。

 すると、anotherは「そういうことだ」とホズミに言葉を返した。

『それと同時に、男性としての俺の記憶がこの金色のカブトムシにバックアップされた。その結果、不本意な形で俺が生まれたんだ』

「ちょっと気の毒な話だね」

『全くだ。一ノ瀬 有紀は世界に一人で十分だろうに……こんな思いをするくらいなら生まれなければよかった、と何度も思ったさ』

 自虐的にそう言うと共に、再びanotherは金色のカブトムシから人の姿に戻る。

 セイレイとしては”生まれなくて良かった命なんて無い”と大それたことを言いたかった。だが、anotherの抱いてきた感情を想うと、何も言うことが出来ない。

 代わりに、セイレイはanotherへと質問を投げかける。

「……なあ、another。お前は、今の有紀を見てどう思う?」

「どう、か」

「お前も、他人想いなのは分かったよ。周りを引っ張っていこうとしてきたんだよな。そんなお前は、本心で他人と向き合うことを覚えた有紀を見てどう感じたよ?」

「……そうだな」

 続く言葉を期待するように、一ノ瀬はじっとanotherを見る。

 彼女と視線を交わしたanotherは、柔らかな笑みを零した。

「正直、こういう未来もあったのかと驚いた。本質は同じだが、まるで別人だと思った。俺だけではきっと描くことの出来なかった未来だよ」

 そう言って、リビングの天井の方へ視線を仰ぐ。ホログラムによって点灯している蛍光灯がチカチカとanotherを照らした。

 一ノ瀬の姿を見て、満足げに笑みを零す。それから、改めて視線を元に戻した。

「……そうだ。俺と、似たような存在として、ディルがいる」

「……ディル」

 商店街ダンジョン以降長らく会っていない彼の名前を、セイレイは思わず復唱する。

 他人を詭弁を弄して散々振り回してきた、Dead配信を謳っていた彼だったが今は何をしているのか皆目見当もつかない。

 だが、セイレイとしてはまず確認しなければならないことがあった。

「ディルは……俺達にとって、敵なのか?倒すべき相手、なのか?」

「それは……難しい質問だな」

「……どういうこと、だ?」

 含みを持ったanotherの回答に、セイレイは懐疑的な表情を浮かべる。

「選択次第では、味方にも敵にもなり得る、ということだ。そもそも、ディルも——」


「その話は、僕の方からさせてよ」


 突如、リビング内に響きわたった声。

「……っ!?」

 一体、いつからいたのだろう。神出鬼没で、行動の予想がつかない彼は、挑発するように楽しそうな笑みを浮かべて勇者一行の後ろを取っていた。

「や、久しぶり。随分と成長したね、セイレイ君っ」

「……お前は……」

 どう言葉を掛けるのが正解なのか分からず、セイレイはじっとディルを睨むしかできなかった。

 彼の代わりに、一ノ瀬が割って入る。

「ディル。あなたは、一体何者なの。Sympassの運営、ということ以外私はあなたのことを一切知らないんだけど」

「……誰?僕そんな君みたいな女子高生と知り合いじゃないんだけどー」

 へらへらと、ディルは挑発するように一ノ瀬へと語り掛ける。

 その”女子高生”の正体についてはとっくに分かっているだろうに、意図的にディルは一ノ瀬を挑発し続けた。

 だが、一ノ瀬は挑発に乗ることなく毅然とした態度を崩さずに質問を投げかける。

「あなたのことなんだから、とっくに理解してるでしょう?」

「……君も、かなり丸くなったね。前に見た君達と、まるで別人だよ。それに比べて僕は……」

「……?」

 一瞬、ディルの表情が曇った気がした。

 しかし、それも束の間の事で気づけばいつもの態度を読むことが出来ない彼の姿に戻っていた。


「さ、セイレイ君。君は、お姉さんの名前を憶えてるかい?」

 その質問に、セイレイは一瞬躊躇(ちゅうちょ)した。

 実の姉の名前を、配信を介して発してもいいものか、という葛藤(かっとう)が過る。だが、きっと自分が言わなくてもディルが話す——そう確信していたセイレイは、言葉を返した。

「……瀬川 沙羅(さら)……だな」

「そのとーりっ」

「何で姉ちゃんの名前が出るんだよ」

 話の本質が理解できず、苛立った様子でセイレイは睨みつけた。だが、ディルは一切怯むことなく、自身が持った真相に近づくための情報を勇者一行に投げつける。


「さて、another君は一ノ瀬 有紀の情報から生まれた存在。でさ、まがい物の僕は……一体、誰の情報から生まれた存在だろうね」

 そう言って、くすくすと怪しく笑う。

 ディルの何気ないその動作に、セイレイはいつかの記憶の断片で見た、とある人物を重ね合わせる。

「……まさか」

「そう、そのまさか、だよ」

 そこで言葉を切って、ディルはセイレイの肩を叩いて真実を告げる。


「僕は、瀬川 沙羅……君のお姉さんの情報から生まれた存在さ」


To Be Continued……

Xで設定語りしてて、更新時間すっぽかしてました。

ごめんなさい。

↓以下テンプレート


【開放スキル一覧】

・セイレイ:

 青:五秒間跳躍力倍加

 緑:自動回復

 黄:雷纏

・ホズミ

 青:煙幕

 緑:障壁展開

 黄:身体能力強化

・noise

 青:影移動

 緑:金色の盾

 黄:光纏

・クウリ

 青:浮遊

 緑:衝風

 黄:風纏

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