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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
⑤高級住宅街ダンジョン編
163/322

【第七十九話(2)】天明(中編)

【登場人物一覧】

瀬川(せがわ) 怜輝(れいき)

配信名:セイレイ

役職:勇者

勇者としての自覚を胸に、日々困難と立ち向かう少年。

責任感が強く、皆を導く役割を担う。

前園(まえぞの) 穂澄(ほずみ)

配信名:ホズミ

役職:魔法使い

瀬川 怜輝の幼馴染。かつて瀬川に命を救われたことから、強く恋情を抱いている。

気弱だった彼女も、いつしか芯のある女性へと成長していた。

一ノ瀬 有紀(いちのせ ゆき)

配信名:noise

役職:盗賊

元男性としての過去を持つ女性。卓越した洞察力と、経験から勇者一行をサポートする。

今日も彼女は仲間の為にその刃と技術を存分に振るう。

青菜 空莉(あおな くうり)

配信名:クウリ

役職:戦士

心優しき少年。魔災以降、直近までの記憶が無く自分がどのように生き抜いてきたのかを覚えていない。

雨天 水萌(うてん みなも)

元四天王の少女。寂しがりであり、よく瀬川に引っ付いている。

・another

金色のカブトムシの中に、一ノ瀬が男性だった頃の意思を宿された少年。本来であれば、一ノ瀬は彼の姿で生きていたはずだった。

「anotherってさ、本当に有紀と元は同一人物だよな?」

 暖かみのある色合いで統一されたリビングの中に配置された雑誌などを確認している最中、ふとセイレイはanotherにそう問いかけた。

 anotherは開いていた収納棚をいったん閉じて、セイレイの方へと振り返る。

「何?疑っているのか?」

「別にそうじゃねーけどさ。雰囲気が違いすぎてな」

「確かに、俺とnoiseじゃ全くの別人と言っても遜色(そんしょく)ないかもな」

 引き出しの上に飾られた家族写真をanotherは手に取った。その家族写真には、かつての男性の姿——つまり、anotherの姿が映されている。

 それと比較するように、隣に立てかけられていた、女性の姿となった一ノ瀬が映る家族写真を見比べた。

「noiseから聞いたかもしれないがな、俺は強者であろうとした。何でも出来る圧倒的存在である一ノ瀬 有紀……そうなることが、俺の目的だった」

「目的って……すごい言い回しだね」

 どこか言い回しを間違えていないのか、そう思ったクウリはそう問いかけた。だが、anotherとしては本心だったようだ。

「この家を見たらわかるだろ?俺は、明らかに周りの家庭とは違う。許されないと思っていたんだよ、持たざる人間であることがな」

「another君も、セーちゃんと同じで使命感を持っていたんだね」

「そんなご大層な話じゃない」

 同情するようにそう言葉を返したが、anotherは自虐的にほくそ笑んだ。

 まるで恨み言のように、つらつらと己の後悔の言葉を重ねる。

「セイレイはほぼ強いられたようなものだが、俺はそうじゃない。noiseも言っていただろ、”カッコつけ”だと」

「……でも、another君は」

 anotherはクウリの言葉を遮るように、強い口調で吐き捨てるように語る。

「こればかりは事実だからな。俺は自分の外面ばかり優先してきた。本音で何かを語るなどカッコ悪いことだ……とな」

 セイレイはanotherの過去の話を聞いている傍ら、とあるファッション雑誌を見つけた。その表紙には、スタイリッシュな雰囲気を醸し出したanotherの写真が使われている。

「建前だけが、有紀の取り柄だったのか……」

「セイレイ、懐かしいものを見つけたな。少し見せてみろ」

「ああ、ほらよ」

 anotherはセイレイからファッション誌を受け取り、その表紙を彩る自分の姿に自嘲の笑みを零す。

「外見を認められても、俺は全く満たされることはなかった。良い成績をとっても、満たされることはなかった。いくら認められてもな、意味が無かったんだよ」

「随分とわがままだな、お前は……本当に有紀と同一人物か?」

 あまりにも傲慢な発言ばかり口にするanotherに辟易(へきえき)とした様子でセイレイはもう一度同じ質問を返す。

「全くだ。今になって思えば、そんな俺が最も意味を見出していたのが」

「船出ちゃんと、えっと……鶴山君……だよね。another君にとって身近な存在だった」

「……そうだ。あいつらは俺の本性を知った上で、それでも対等でいようとしてくれた。でも、俺は結局変われなかった、変われないまま……」

 anotherが持つ手に力が籠る。雑誌に使われているコート紙にしわが刻まれた。

 そのまま、自身の表情を隠すように雑誌の上に自分の顔をうずめる。

「……あいつらには、何も言うなよ。せめて、最後までカッコつけのままでいさせてくれ」

「別にいいけどさ、今更だろ……」

 どこか照れ隠しのように言ったanotherに対し、セイレイは呆れて肩を竦める。

「anotherはさ、どっちかっつーと背中で語るタイプだろ。俺について来い、って態度に出てる」

「初めて言われたな、それは」

「言う奴がいなかったんだろ。でも、今の有紀はさ、俺達に寄り添おうとしてくれてるんだよ。自分の建前と葛藤しながら、それでも近づこうとしてくれてる」

「……」

 セイレイの持つ答えを期待するように、anotherはじっと彼の続く言葉を待った。

 そんな熱意ある視線を感じ取ったセイレイは恥ずかしそうに後ろ頭を掻く。

「ディルの受け売りじゃねーけどさ、気付きだろ。有紀を変えた要因があるとしたら。今の女性の肉体に変わった時に、受けた言葉から得た気付きじゃねーのか」

 セイレイは、総合病院内で見た追憶のホログラムに映し出された過去の一ノ瀬の映像を思い出す。

 男性の肉体を失い、男性の力に勝つことが出来ずただ怯えていた一ノ瀬。

 そんな彼女を助けてくれた、船出の姿。

 そして、男性だった頃の一ノ瀬が行方不明になったことに対して泣き崩れる船出へと、女性の肉体となった一ノ瀬がかけた言葉を。


——だけど、道音が関わった人たち全てが、お前の人生を作り上げているんだ、という考えにはたどり着いていなかった。俺……一ノ瀬 有紀もお前の人生の一部だったんだな。すまなかった。


 脳裏に刻まれた過去の一ノ瀬の光景を思い出したセイレイは、ゆっくりと瞳を開く。

「羨ましかった、って言ったけどさ。もう少し皆に近づくべきだったんだ、お前は」

「……そうか、そうかもな……」

 セイレイの言葉を胸に刻み込んだanotherは、大きく深呼吸する。

 それから、下手な作り笑いをセイレイへと向けた。

「ありがとう、セイレイ。もう少し、お前と早く出会いたかったよ」

「お前が女性の身体になる前つったら俺はまだ六歳だろうが」

「ははっ、それもそうだな」

 話にひと段落が付いた為、セイレイは改めて部屋の中を見渡した。

「ま、雑談もこれくらいにしてさ。改めて探索を再開するぞ、ホズミも有紀も、あんま怒らせたくねーんだ」

「……あはは、やっと参加してくれる?」

 セイレイの言葉に対し、クウリは引きつったような笑いを浮かべた。

 彼だけは二人の会話を聞きながら黙々と目的の為に、探索を続けていたのだ。

 それに気づいたセイレイは申し訳なさそうに頭を下げる。

「悪い、クウリ……。途中からお前一人に任せっきりで」

「何となく話に割って入りづらかったし、別にいいけどさ……ちょっといくつか気になるもの先に纏めといたよ。見といて」

「お前結構真面目だな……」

 探索の傍らで参考になりそうな書類を、律儀に机の上に纏めていたクウリ。

 陰の功労者であるクウリへと、anotherは興味深そうな表情を浮かべる。

「配信の時も思っていたが、クウリ。目立たないが、なかなか優秀だな」

「目立たないは余計だよ」

「それは申し訳ない。ただ、まともに評価も受けることが出来ずに、損をする立場にも見えたからな」

「僕は皆を引っ張る立場には向いてないから、気にしてないけど……それよりも、どうかな。企業の名刺をファイリングしてるの見つけたんだけど」

 話を切り替えるように、クウリは机の上に置いた書類の束を軽く指で叩いた。

 ハッとしたセイレイとanotherは、そそくさとその書類の束に目を通していく。

「another、とりあえずどう振り分ければいい?」

「そうだな……企業の分類ごとに分けて行こう。製薬とか、建設、とか色々と書いているだろ?」

「ああ……にしても、こんなに関わっている会社があったんだな……」

 二階の一ノ瀬の状況など知りもしないセイレイ達は、一つ一つしらみつぶしに企業の情報を選別していく。

 そんな、一歩遅れた彼らの元へと、二階から降りてきた一ノ瀬は呆れたようにため息を吐いた。


「……あのー、もう、お父さんの働いてたとこ分かったよ?Temmei……ってところ」

「え?」「は?」

 突如頭元から降り注いだ一ノ瀬の声に、セイレイとanotherは同時に呆けたような声を上げた。

 そんなバカ二人に、ホズミは大きなため息を吐く。

「クウリ君をほったらかしにして二人で会話してるとこ聞こえたよ、目的優先はどうしたの。ね、another君?」

「……申し訳ない」

「謝るの私じゃないでしょ。セイレイ君は謝ってたけど、another君は謝ってないよね?」

 容赦することなく責め立てるホズミに、anotherは言葉を詰まらせる。

 それから、クウリへと向けて深々と頭を下げた。

「……あ、あー……その、ごめんなさい」

「僕は良いんだけどね……」

 唇をかみしめて、悔しそうにanotherは謝罪の言葉を発する。

 どこか彼のカッコつけのプライドが傷つく音が聞こえた。

 クウリはどこか優越感を感じながらも、一ノ瀬達に話しかける。

「にしても二人とも早かったね。分かりやすいところにあったの?」

 そう問いかけると、一ノ瀬はどこか得意げに胸を反らせながら言葉を返した。

「えっとね、私のお父さんの追憶のホログラムが起動しててそこで見つけましたっ」

「うわ、ズルっ」

「ズルくはないでしょ!?で、紺ちゃんの情報はあんまり無かったから降りて来たの。どう、パンフレットとかある?」

 書類の束をガサガサと粗探しして、一ノ瀬は目的のものが無いか確認する。

 そして、ついに目的のものを発見した。


「……あった。これ、これ」

 ”Tenmei”と大きく企業ロゴと共にそう刻まれたパンフレットを見つけた一ノ瀬は、嬉々としてそれを開く。

 次いで雨天のドローンを手招きするように寄せて、配信画面にそれが映り込むように促した。


To Be Continued……

【開放スキル一覧】

・セイレイ:

 青:五秒間跳躍力倍加

 緑:自動回復

 黄:雷纏

・ホズミ

 青:煙幕

 緑:障壁展開

 黄:身体能力強化

・noise

 青:影移動

 緑:金色の盾

 黄:光纏

・クウリ

 青:浮遊

 緑:衝風

 黄:風纏

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