表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
⑤高級住宅街ダンジョン編
161/322

【第七十八話(3)】全てのきっかけの場所(後編)

【登場人物一覧】

瀬川(せがわ) 怜輝(れいき)

配信名:セイレイ

役職:勇者

勇者としての自覚を胸に、日々困難と立ち向かう少年。

責任感が強く、皆を導く役割を担う。

前園(まえぞの) 穂澄(ほずみ)

配信名:ホズミ

役職:魔法使い

瀬川 怜輝の幼馴染。かつて瀬川に命を救われたことから、強く恋情を抱いている。

気弱だった彼女も、いつしか芯のある女性へと成長していた。

一ノ瀬 有紀(いちのせ ゆき)

配信名:noise

役職:盗賊

元男性としての過去を持つ女性。卓越した洞察力と、経験から勇者一行をサポートする。

今日も彼女は仲間の為にその刃と技術を存分に振るう。

青菜 空莉(あおな くうり)

配信名:クウリ

役職:戦士

心優しき少年。魔災以降、直近までの記憶が無く自分がどのように生き抜いてきたのかを覚えていない。

雨天 水萌(うてん みなも)

元四天王の少女。寂しがりであり、よく瀬川に引っ付いている。

・another

金色のカブトムシの中に、一ノ瀬が男性だった頃の意思を宿された少年。本来であれば、一ノ瀬は彼の姿で生きていたはずだった。

 玄関の扉を開けた先。

「……なんだ、これは……?」

 あり得ない世界が広がっていることに、anotherは目の前に広がる光景に思わず目を丸くする。

 魔災の前と何一つ変わっていない光景が広がっていた。

 数多の人々の命を奪った大災害の前と、何一つ変わらないかつての姿。

「……これは、追憶のホログラム……?」

 ——そう、かつての一ノ瀬の家庭の光景が、ホログラムを介して映し出されていたのだ。


『有紀、忘れ物はない?』

『大丈夫だよ。じゃあ、真水を迎えに行ってくるよ』

『気をつけて行ってらっしゃい、晩ご飯作って待ってるからね』

『ありがとう、お袋』

 男性の頃の一ノ瀬が、母親と思われる人物に話しかけられる光景が映し出される。


『なあ有紀。最近鶴山君とはどう?また改めて挨拶するから連れてきてくれないかな』

『や、やめてよお父さん……真水とはまだそんなんじゃないって……』

『彼になら任せられるからな―、逃がすなよー?』

『も、もうっ!行ってきます!!』

 女性の姿に変わった一ノ瀬に、父親と思われる人物に話しかけられる光景が映し出される。

 男性と、女性の姿の両方の一ノ瀬の姿が、まるでループ再生のように幾度も繰り返し、繰り返しホログラムによって映し出されていた。

 しかし、その映像には大きくラグが刻まれ、音声も雑音が入り混じり不鮮明だ。

「……っ、お父さん、お母さん……っ……う、うっ……」

 だが、たとえそんな不鮮明な映像だとしても、二度と会うことの出来ない両親の姿。生前の両親の姿を見た一ノ瀬は、思わず感極まって(うずくま)った。

 そんな彼女の肩をあやすように叩きながら、anotherはぐるりと家の中を見渡す。

「追憶のホログラムが起動しているのか、ここから先は手分けして探そうか」

 豪邸から離れた、一ノ瀬の生活拠点であった二階建ての民家。確かにそこは豪邸ではないと言えども、一般の民家と比べるとそれなりの敷地面積を持っていた。

 団体行動をとるよりも手分けして情報収集する方が早いとanotherは判断し、そう提案する。

 彼の提案に、セイレイは頷いた。

「分かった。でも結構広い家だし、俺らも勝手が分かんねえんだけどさ」

「好きに探索してくれて構わないが……」

 勇者一行の倫理観を信用しているanotherはそう言葉を返したが、セイレイが言いたいことはそうじゃなかったらしい。

 セイレイは首を横に振り、自らの意見を主張する。

「や、手分けするんだったらさ。男性陣と、女性陣で分けようぜ。性別は違うけどさ、有紀が二人いるんだし」

「……なるほど。それはいい考えだな、わかった。セイレイの提案に従おう」

「柔軟な返しで助かるよ」

 anotherの返しに思わず苦笑を漏らしたセイレイ。そして、涙に頬を赤く濡らした一ノ瀬に向けて、改めて確認を取る。

「有紀、男性陣と女性陣で手分けする、それでいいな?」

「……うん。大丈夫、じゃあセイレイ達に一階をお願いするよ。ほら、ホズミちゃん、雨天ちゃん行くよ」

 方向性が決まり、一ノ瀬はドローンを抱きかかえたホズミと雨天へと声を掛ける。

 ホズミは「分かった」と小走りで一ノ瀬の元へと近寄った。

 だが、雨天はじっと一ノ瀬の方を見つめたまま、動かない。

「……あの」

「どうしたの?雨天ちゃん」

 雨天の様子に違和感を感じた一ノ瀬は首を傾げて、彼女へと近づく。だが、肝心の雨天はぷるぷると首を横に振り、セイレイの方に引っ付いた。

 と、言うよりはまともに立つことが出来ずセイレイを支えにしているようだ。

「疲れました……、二階へ上がる体力無いです、ドローンに戻させてくださいっ……」

「ええー……」

「頑張った方なので許してくださいぃ……」

 ついに体力の限界を迎え、弱音を吐いてしまった雨天。一ノ瀬は困った様子でホズミの方をちらりと見た後、苦笑してホズミから白のドローンを預かった。

 そして、ドローンを雨天へと近づける。

「ごめんね、雨天ちゃん。頑張ってくれたもんね」

「すみません~……」

 ドローンが雨天の肩にコツリと当たると共に、彼女の全身が光の粒子となり、大気中に溶けて消えた。

 操縦権を得た雨天の操作に伴い、ドローンがふわりと浮かび上がる。

[ふう、やっぱりまだこっちの方がしっくり来ます]

「今回は良いけど、また私とランニング、頑張ろうね」

 浮かび上がったドローンに向けて、ホズミは圧の(こも)った笑みを浮かべる。

[うげぇー……]

 彼女の言葉に、雨天の露骨に嫌そうな表情が垣間見えるコメントが流れた。それと共に、ドローンのカメラはホズミから目を背けるようにくるりとそっぽを向いた。

 茶番染みたやり取りを見届けたanotherは呆れたようにため息を零す。

「何やってんだお前ら……まあいい、ガラス片とか散らばっていたら危ないからな。土足で上がってこい」

「いいの?」

 クウリは遠慮がちに問いかけるが、anotherは気にした様子もなくフンと鼻を鳴らした。

「お前らがケガをする方が困るからな。じゃあ、手分けしていくぞ」

「another君も冷たく振る舞ってるように見えてなんだかんだ言って心配性だよね。有紀姉に色々口出ししたりとか」

「別に、そういう訳ではないんだが……行くぞ」

 どこかばつが悪そうに、anotherは一人で先にリビングの奥へと進んでいく。

 彼の姿を見送った一ノ瀬は、申し訳なさそうに目の前で手刀を切るような動きで謝罪のジェスチャーをした。

「本心を隠すのは昔からなんだ……ほんとごめんっ」

「おい!良いから来い!」

 一ノ瀬の言葉が聞こえたのだろう。anotherの怒号が響いた。

 しかし、どこかその声には恥じらいがこもっているようにも見える。

「……行っておいで。私の部屋もお父さんの部屋も二階だから、何かあったら呼ぶよ」

「ああ。頼んだ」

 こうして、勇者一行は分断して行動することになった。


[information

勇者 セイレイが 配信メンバーを離脱しました。情報は一時保存されます。]

[information

戦士 クウリが 配信メンバーを離脱しました。情報は一時保存されます。]


★★★☆


[実際、noiseさんのお父さんってどんな感じだったの?]

[一ノ瀬の家系として~~みたいな感じ?]

[庶民とは違うのだ、みたいな?]

[noise自身も生真面目だから厳しい教育でもされたの?]

[確かに、そこは気になりますね]

 配信画面を介して流れるコメント欄。やや偏見交じりの情報が流れてきたことに一ノ瀬は思わず苦笑を零した。

「いや、だからさ。皆お金持ちに偏見持ちすぎ。私だって皆とそう大差ないって」

「有紀さんは今まで何回も私達の常識を壊してきたから信用無いよ」

「えー……そんなめちゃくちゃしたかなあ?」

 一ノ瀬は懸命に自身の潔白をアピールするが、ホズミはじろりと冷ややかな瞳で睨んだ。

「よく言うよ、最初の配信から滅茶苦茶してたじゃん」

「でもカッコよかったでしょ?」

「……自分で言う?」

「あははっ」

 完全に垢抜けた一ノ瀬は、あっけらかんとした様子で楽しそうに笑った。

 ひとしきり笑った後、真面目な表情を作って階段先にある部屋のドアに手を掛ける。

「実はね、私もお父さんの部屋をあんまり覗いたことないの」

「私だってパパの部屋を覗こうと思わないよ……怒られそうだし」

「それもそっか。だから何があるのか分からないけど……えいっ」

 一ノ瀬は覚悟を決めたように、思いっきり飛び入るようにドアをこじ開けた。

 その部屋の中には、やはりというか追憶のホログラムが起動しており一ノ瀬の父親がモニターとにらみ合っている光景が映し出される。


『ホログラムの実体化は……確かに、有用な技術なんだけどなあ……そのリスクについてもう少し議論の余地がある……』

『技術の発展……発展と言えばそうだが……』

 40代ほどの威厳のある雰囲気の男性がデスクに座っている。ホログラムに映し出された彼は爪をかじり、真剣にブツブツと呟いているようだった。

 恐らく休日だというのに真摯に仕事と向き合う父親の姿に、一ノ瀬は思わず苦笑を漏らす。

「そう言えば、確かに部屋に籠って出てこないことあるとは思ってたけど……お父さんずっと仕事のこと考えてたんだ……」

「完全に血筋だね」

「否定できないなあ……」

 ホズミの指摘に言葉を返すことが出来ず、苦虫を噛み殺した表情を浮かべる一ノ瀬。彼女はちらりと自身の父親がにらめっこをしているモニターをのぞき込んだ。

 ホログラムの映像であり、実際にこの場に存在するわけではない。

「お父さん、ちょーっとごめんね……」

 しかし、ほとんど条件反射とでも言うのだろか。一ノ瀬はどこか遠慮がちにモニターをのぞき込んだ。

 そこには、幾何学的模様で構成された図形や、様々な参考文献を表示した画面が広がっていた。

 一ノ瀬は興味津々と言った様子で、そのモニターに映し出された映像の一つ一つに目を通し始める。

 元々勉強熱心だった一ノ瀬としては、専門外と言えども自分の知らない領域の学問には興味があるのだろう。配信中という事も忘れ、参考文献の文章に目を通し始めた彼女にホズミは声を掛ける。


「……anotherさん」

「……っ!?」

 その一言に反射的に肩をびくりと振るわせ、引きつった笑みをホズミと雨天が操作するドローンへと向ける。

[なんで一ノ瀬さんもanotherさんに怯えてるんですか……]

 至極真っ当な意見の雨天のコメントが流れるが、一ノ瀬は引きつった顔のまま自らの言い分を返した。

「昔の私、あんな怖くないもん」

「一番最初に出会った頃の有紀さんも結構ドライだったよ?」

「……そんなことないもん」

「良いから、良いから。また怒られるよ」

「はぁい……」

 本来の目的を達成するようにホズミに(そそのか)され、一ノ瀬は不貞腐れながらも自身の父親のデスク周り注意を向ける。

「……あ、名刺!」

 そして、一ノ瀬はモニターにセロハンテープで固定された名刺を発見した。

 『一ノ瀬 和義(かずよし)』と書かれた名刺に、自らのメールアドレスと社用携帯の番号が記載されている。

 どこかスタイリッシュなデザインと共に、名刺の右上にははっきりと企業名が刻まれていた。

 一ノ瀬は、その会社名を読み上げる。


「……会社名は、えっと、Tenmei(テンメイ)……天明?」


To Be Continued……

【開放スキル一覧】

・セイレイ:

 青:五秒間跳躍力倍加

 緑:自動回復

 黄:雷纏

・ホズミ

 青:煙幕

 緑:障壁展開

 黄:身体能力強化

・noise

 青:影移動

 緑:金色の盾

 黄:光纏

・クウリ

 青:浮遊

 緑:衝風

 黄:風纏

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ