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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
⑤高級住宅街ダンジョン編
159/322

【第七十八話(1)】全てのきっかけの場所(前編)

【登場人物一覧】

瀬川(せがわ) 怜輝(れいき)

配信名:セイレイ

役職:勇者

勇者としての自覚を胸に、日々困難と立ち向かう少年。

責任感が強く、皆を導く役割を担う。

前園(まえぞの) 穂澄(ほずみ)

配信名:ホズミ

役職:魔法使い

瀬川 怜輝の幼馴染。かつて瀬川に命を救われたことから、強く恋情を抱いている。

気弱だった彼女も、いつしか芯のある女性へと成長していた。

一ノ瀬 有紀(いちのせ ゆき)

配信名:noise

役職:盗賊

元男性としての過去を持つ女性。卓越した洞察力と、経験から勇者一行をサポートする。

今日も彼女は仲間の為にその刃と技術を存分に振るう。

青菜 空莉(あおな くうり)

配信名:クウリ

役職:戦士

心優しき少年。魔災以降、直近までの記憶が無く自分がどのように生き抜いてきたのかを覚えていない。

雨天 水萌(うてん みなも)

元四天王の少女。寂しがりであり、よく瀬川に引っ付いている。

「俺が先行する。ここに帰ってくるのは久しいがな」

 anotherが、かつて一ノ瀬が住んでいた家の門を開けた。広大な敷地の中にある家の、荘厳な扉を開けた先に広がる景色に勇者一行は感嘆とする。


「……これが、ゆ……noiseの家か……」

「もう有紀でいいよ」

 セイレイが漏らした言葉に、一ノ瀬は苦笑を零す。

 だが、そんな彼女の声はもはやセイレイの耳には入っていなかった。

 呆けた顔を配信画面に映し出しながら、彼はぽつりと呟く。

「まるで、ダンジョンみたいだな……」

「大げさだよ……」

「私もセイレイ君の意見と同じですっ」

 雨天がひょこっと顔を覗かせてセイレイの言葉に同意する。

 現在も配信中なのは変わらない。

 だが今は、ドローンをホズミに預け、雨天はドローン操作役から離れている。その結果として、自由に行動することを許可されている状態だ。

 その結果どうなったかというと。

「あっ、雨天ちゃん勝手に走り回らないでね」

「わあ。すごいです、すごいですー!こんだけ広々と走り回ることが出来る家ってあるんですねっ」

 一ノ瀬の注意の言葉も聞かず、雨天はぱたぱたとはしゃぎ回っていた。

 それもそのはず、一ノ瀬がかつて住んでいたという家の内装は、絵に描いたような豪邸だった。

 魔災の中で管理する者が消えて風化してしまってはいる。

 それでも、一面ガラス張りの廊下を彩るきらびやかな装飾。きめ細やかな細工が成された工芸品が飾られた室内はもはや美術館を彷彿とさせる。

 ホズミは煌びやかなものに目が無いのか、目を爛々と輝かせて一つ一つの工芸品をまじまじと見ていた。

「すごい……本当に、すごいなあ……こんな家に住みたかった……」

「ホズミちゃんは本当にロマンチストだね」

 一ノ瀬の言葉に、ホズミは目をキラキラと輝かせて食って掛かる。

「だって、だって!!こういうところに住むってなんだか、お姫様みたい!!一ノ瀬さんずっとこんなところで育ったなんてずるい!!ずるい!!」

「いや、基本ここは来客用で、私は違う所で生活してたよ」

「えっ」

 現実的な言葉を発する一ノ瀬に、ホズミの表情が固まった。

 ホズミの抱いたロマンが現実に打ちひしがれる瞬間を理解しながらも、一ノ瀬は更に追い打ちをかける。

「だって、明らかに生活するには不便でしょこんなところ」

「こんなところ……」

「私が生活してたのはあっち」

 そう言って、一ノ瀬が指差したのはガラス窓から微かに姿の見える、二階建ての民家だった。

 一ノ瀬の指差した先を見たホズミの表情が、明らかに引きつっていく。

「え、あ、あれ?あれ?」

「あれ」

「そんな……ここじゃないの?」

「だから生活するには向いてないんだって。動線が悪すぎるでしょ」

 ばっさりと切り捨てられ、ついにホズミはがっくりと項垂れた。

 それから、ぐるりと抱えていたドローンを掲げて恨み言のように視聴者へと解説する。

「みなさーん……ここが、見せかけだけの有紀さんの豪邸でーす……こんなところでも見せかけなんて……」

「逆恨みのように言わないでよ……あと失礼だよ」

「うぅ……」

 肩を落としたホズミをよそに、セイレイ達は辺りを見渡しながら豪邸の中を進む。

 風化し、ひび割れたガラスが廊下に散乱していた。

 ガラスで傷つけないように気を付けながら、勇者一行は何か有益な情報が無いか探っていく。

 しかし、セイレイ達はまだ十六歳だった。


「なあクウリ、この絵を見てくれるか!多角的に描かれたこの絵……すげぇ、持っていきてぇ……」

「構図がすごいよね。何が絵の中心として描かれているのか分かりやすいって言うかさ……」

「だよな!?なんて言うかさ、力強さがあるんだよ。俺の絵なんて、こういうのからしたらまだまだ未熟なんだな……ちょっとスケッチしていくよ」

「まあ、セーちゃんのお好きに……」

 セイレイは嬉々としてスケッチブックを取り出し、絵画の模写を始めた。

 しかし、クウリもクウリで精巧な細工の成された工芸品が気になるのかまじまじとそれを見つめている。

「わあ。すごいやこれ……じっちゃんに見せたら喜ぶかな……」

「……ちょっと、そこの男二人。他にやるべきことがあるでしょ……」


 そして、一ノ瀬を悩ませるのは男性陣だけではなかった。

「わ、見て、見てくださいホズミちゃん!!食堂滅茶苦茶広いですっ」

「ほんとだ、ここで優雅にティーブレイクとか……座ってみようかな」

「私ドローン持ってますねっ」

 ホズミは嬉々として食堂に配置された、重厚感のある色合いの椅子に座ってカメラの方を見る。

 元々美少女とも言うべき見た目の彼女が座る姿は、まるで写真集の一枚のようだった。

 その姿に、雨天は楽しそうに笑う。

「すごい、ホズミちゃんサマになってますよ!?」

「ほんと?えへへ、なんだかお金持ちになった気分」

「……ねえ、目的忘れてないよね?」


「ねえええええ……何とかしてよ、男の私……」

 一ノ瀬はやりたい放題の仲間達に辟易と、anotherの肩を掴むようにして項垂れた。

 そんな彼女に向けて、anotherは同情の視線を送る。

「苦労してるのは、変わらないんだな……」

「分かってくれる……?皆好奇心旺盛なのはわかるけどさ……」

 純粋であることは、勇者一行がスパチャブーストを開花する上で必要不可欠の条件である。

 そのこと自体は、世界を救う為に大切な力であるのは間違いない。

 間違いないのだが。

「……配信中なんだからさあああ……ほら、行くよ、ねええ……」

 ”光纏”の効力が続き、十七歳の頃の姿を維持し続ける一ノ瀬の言葉では覇気が足りないのだろう。

 彼女の力なく零れる声は、誰の耳に入ることもなく虚空へと溶けて消えた。

 さすがに哀れに感じたのか、anotherは勇者一行に聞こえるように大きく両手を叩く。

「おい!お前ら、本来の目的を忘れるなよ!!」

 はきはきと通る声に、勇者一行は一同にanotherの方を向く。

 anotherはセイレイの方を見ながら問いかけた。

「セイレイ、今回の目的はなんだ?デッサンもセイレイにとっては必要かもしれないが、目的はそこじゃないだろ?」

「あっ、あー……」

 その指摘にぎくりとしたように表情を硬直させるセイレイ。しどろもどろと視線を左右させた後、申し訳なさそうに頭を下げた。

「……悪い。魔災に関係するかもしれない、有紀の親父さんが務めていた企業を調べること、だよな」

「正解だ。絵画のデッサンなら配信の後でも出来るだろ?優先順位を間違えるなよ」

「すまん、anotherの言うとおりだよ。先にそっちを優先しよう」

 鶴の一声とも言うべきanotherの言葉。改めてハッとさせられたセイレイ達は、各々反省の表情を浮かべながらanotherの後に続いた。

 一ノ瀬はどこか驚いた様子でanotherの横顔を見る。

「……私、こんなに発言力あったんだ」

「お前は忘れすぎだ。仮にも文化委員の仕切り役だったんだろ、しっかりしろよ」

「うぐ」

 まさか過去の自分に説教をかまされるとは思わず、一ノ瀬は申し訳なさそうに項垂れる。

 anotherは改めて、勇者一行へと振り返って方向性を再確認することにした。

「まずは俺の親父に関する情報から探る。次に、俺、そしてnoise……つまり、一ノ瀬の部屋から秋城 紺に関係した情報を確認する。いいな?」

 瞬く間に場を取り仕切ってしまった一ノ瀬に、勇者一行は返す言葉もなく頷いた。


[勇者よりもリーダーしてる]

[noiseさんが男の人のままだったら、リーダーは今頃noiseさんだったかもね]

[セイレイにはセイレイなりの良さがあるから……]

[それは言えてるけど]

[豪邸に心躍るのは分かるから、何とも言えない]

[皆子供……と言いたいけど雨天ちゃんは24才だろ!一番はしゃいでたじゃねえか]

[↑可愛いからセーフ]

[セーフかなあ……?]


 世界の核心に迫る情報が近づきつつあるにも関わらず、コメント欄には呑気な話が流れていた。


To Be Continued……

総支援額:24000円

[スパチャブースト消費額]

 青:500円

 緑:3000円

 黄:20000円

【ダンジョン配信メンバー一覧】

①セイレイ

 青:五秒間跳躍力倍加

 両脚に淡く、青い光を纏い高く跳躍する。一度に距離を縮めることに活用する他、蹴り技に転用することも可能。

 緑:自動回復

 全身を緑色の光が覆う。死亡状態からの復活が可能である他、その手に触れたものにも同様の効果を付与する。

 黄:雷纏

 全身を青白い雷が纏う。攻撃力・移動速度が大幅に向上する他、攻撃に雷属性を付与する。

②クウリ

 青:浮遊

 特定のアイテム等を空中に留めることができる。人間は対象外。

 緑:衝風

クウリを中心に、大きく風を舞い上げる。相手を吹き飛ばしたり、浮遊と合わせて広範囲攻撃に転用することも出来る。

 黄:風纏

クウリの全身を吹き荒ぶ風が纏う。そのまま敵を攻撃すると、大きく吹き飛ばすことが可能。

③ホズミ

 青:煙幕

 ホズミを中心に、灰色の煙幕を張る。相手の視界を奪うことが出来るが、味方の視界をも奪うというデメリットを持つ。

 緑:障壁展開

 ホズミを中心に、緑色の障壁を張る。強固なバリアであるが、近くに味方がいる時にしか恩恵にあやかることが出来ない為、使用には注意が必要。

 黄:身体能力強化

 一時的にホズミの身体能力が強化される。攻撃力・移動能力・防御力が大幅に上昇する他、魔法も変化する。

魔法

 :炎弾

 ホズミの持つ両手杖から鋭い矢の如き炎を打ち出す。

 一度の炎弾で3000円と魔石一つを使用する。火力は高いが、無駄遣いは出来ない。

 :マグマの杖(身体能力強化時のみ使用可)

 地面に突き立てた杖から、マグマの奔流が襲いかかる。ホズミの意思で操作可能。

 一度の使用で10000円と魔石一つを使用する。高火力であるが、スパチャブーストの使用が前提であり、コストが高い。

 :氷弾

 青色の杖に持ち替えた際に使用可能。氷の礫を射出し、直撃した部分から相手を凍らせることが出来る。

 炎弾と同様に、3000円と魔石一つを使用。

 :氷壁

 氷塊を射出し、直撃した部分に巨大な氷の壁を生み出す。死角を作り出す効果がある他、地面を凍らせることにより足場を奪うことも出来る。

 魔石(大)一つと、10000円を消費する。

④noise

 青:影移動

 影に潜り込み、敵の背後に回り込むことが出来る。また、地中に隠れた敵への攻撃も可能。

 (”光纏”を使用中のみ)

  :光速

 自身を光の螺旋へと姿を変え、素早く敵の元へと駆け抜ける。

 緑:金色の盾

 左手に金色の盾を生み出す。その盾で直接攻撃を受け止めた際、光の蔦が相手をすかさず拘束する。

 黄:光纏

 noiseの全身を光の粒子が纏う。それと同時に、彼女の姿が魔災前の女子高生の姿へと変わる。

 受けるダメージを、光の粒子が肩代わりする。

ドローン操作:雨天 水萌

[サポートスキル一覧]

・なし

[アカウント権限貸与]

・消費額20000円

・純水の障壁

・クラーケンによる触手攻撃

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