【第七十七話(2)】追憶との闘い(中編)
【登場人物一覧】
・瀬川 怜輝
配信名:セイレイ
役職:勇者
勇者としての自覚を胸に、日々困難と立ち向かう少年。
責任感が強く、皆を導く役割を担う。
・前園 穂澄
配信名:ホズミ
役職:魔法使い
瀬川 怜輝の幼馴染。かつて瀬川に命を救われたことから、強く恋情を抱いている。
気弱だった彼女も、いつしか芯のある女性へと成長していた。
・一ノ瀬 有紀
配信名:noise
役職:盗賊
元男性としての過去を持つ女性。卓越した洞察力と、経験から勇者一行をサポートする。
どこか他人に対して負い目を感じることが多いのか、よく他人と距離を取ろうとする。
・青菜 空莉
配信名:クウリ
役職:戦士
心優しき少年。魔災以降、直近までの記憶が無く自分がどのように生き抜いてきたのかを覚えていない。
・雨天 水萌
元四天王の少女。寂しがりであり、よく瀬川に引っ付いている。
「私は、私であり続けるのっ!!」
金色の光を纏った一ノ瀬が振るう刃。その軌跡は、かつての一ノ瀬 有紀であったanotherの胴を捉えた。
しかし、anotherは右手に構えたデュランダルを自身の身体を庇うように構え直す。その刀身に、anotherの全身が容易に隠れた。
「分からないか。どれだけ洗練された技術であろうと、圧倒的な力の前には意味をなさないことが」
一ノ瀬が放つ横薙ぎの一撃は、容易くそのデュランダルに受け止められる。
繰り広げられる鍔迫り合いの中、一ノ瀬は内に秘めた光をさらに強く放出させた。
想いの力に伴って、彼女の輝きが世界をより一層強く照らす。
「分からないっ、分かりたくないっ!」
anotherの構えたデュランダルを一ノ瀬は蹴り上げ、大きく後退。着地した彼女は短剣を構え直して宣告する。
「スパチャブースト”青”っ!!」
その宣告に伴い、本来であれば”影移動”を発現するはずだった。
だが、光を取り戻した一ノ瀬へ、影を与えることを世界は許さない。
影の代わりに、彼女の宣告に伴って新たなスキルが発現する。
[noise:光速]
そのシステムメッセージが、配信を介して世界に届けられる。
次の瞬間、一ノ瀬の姿は光の螺旋へと姿を変えた。
「影移動じゃねえのか!?」
セイレイは一ノ瀬に発現したスキルに驚愕の声を上げる。
彼の言葉は、正しく配信を観ている者達の意見を代表した声だった。
「皆が希望を与えてくれるんだ、皆がスパチャを与えてくれるんだ!!コソコソなんて、してられるもんかっ!!」
「——っ」
迸る光の螺旋と共に、一ノ瀬が決意の言葉を発する。
闇夜に紛れ、ただ他人と関わることを避け続けた一ノ瀬。そんなかつての彼女の姿は、もうどこにもいない。
anotherは苦悶の表情を浮かべながら、ほぼ反射的にデュランダルを振るう。
「どれだけ希望を抱こうがっ!求められるのは圧倒的な力なんだ!なぜそれが理解できない、なぜそれを求めようとしない!俺がっ、お前の代わりに存在すればっ、より世界を救う活路を見出すことが出来るのにっ!!」
感情的に叫ぶ声が響く。anotherは、怒りに身を任せて大振りの一撃を何度も繰り出す。
だが、その隙間を縫って一ノ瀬は光の螺旋の中から現れる。構えた短剣から、anotherの脇腹へと鋭い突きを放った。
「っぐ……!」
「それが、あなたが私の身体を奪おうとする理由?他人想いなのね、あなたも」
anotherは一ノ瀬の攻撃を躱すことが出来ず、脇腹への一撃を許してしまう。
深々と突き刺さった短剣を介して、anotherの皮膚からホログラムの残滓が零れ落ちる。
「でも。所詮……あなたは偽物だよ。あなたも、追憶のホログラムと同等の存在に過ぎない」
血液の代わりに零れ落ちたホログラムの残滓に視線を送る。それから、ひらりと身をひるがえして距離をとった一ノ瀬は憐れんだ表情を浮かべた。
anotherは、一ノ瀬 有紀の情報を切り取った、作られた存在に過ぎなかった。
「黙れっ、黙れ黙れ黙れ黙れ!!作り物はお前の方だろうっ!お前も、本来は男性だっただろうが!」
「……でも、変化は受け入れないといけない、と言ったはずだけど?」
「認めるものか、こんな非現実的な変化!認めるものか!!」
anotherの激昂は止まる所を知らない。もはや、そこに理性を見出すことは出来ず、anotherは内に抑えた感情を激しく放出させながら叫ぶ。
剥き出しとなった怒りを、自らと同じ意思から生まれた全くの他人へとぶつける。
anotherの怒りの奔流に連なって、やがてその全身に纏う光が黒く、くすんでいく。
「偽物で何が悪い、俺も、ディルも、偽物でありながら本物であろうとしただけだ!!」
「え、なに?ディルが偽物?」
一ノ瀬はとっさに漏らしたanotherの言葉を聞き返す。だが、彼にはもはや彼女の言葉など聞こえていないようだった。
漆黒の闇が、anotherを覆い隠す。
「お前の方が後から生まれたくせに!元は俺が存在するはずだった世界なんだ!まがい物なんかに、まがい物なんかに……!!」
「……もう、有紀さんの痕跡すら、ないね……」
ホズミはanotherを憐れむようにぽつりと言葉を漏らす。
醜い嫉妬と、居場所を奪われたことに対する怒りがanotherを蝕んでいく。
——もしかすると、自分もこうなっていたのかもしれない。今の自分は仲間に恵まれているだけだ。
これまでのままで仲間に恵まれずに一人ぼっちだったなら。anotherのように、醜い闇に飲まれていたのかもしれない。
[another:闇纏]
一ノ瀬は表示されたシステムメッセージと、目の前に立つ過去の自分自身にそう思わずには居られなかった。
漆黒の闇に蝕まれたanotherが構えるデュランダルが、闇を取り込んで歪んでいく。
輝いていたはずの想いが、醜い負の感情に蝕まれていく。
それでも、一ノ瀬を纏う光は掻き消えはしない。
「もしかしたら。私もこうなっていたのかもね。希望を見失って、居場所も得られなかったら……あなたは、起こりえた未来の私でもあるんだ」
「偽物が、道化が……俺を憐れむんじゃねえ!!!!本物は俺だ!この世界に真っ先に生まれたのは、俺なんだ!!」
その言葉をと共に、notherの身体は漆黒の闇となり地中へと溶けていく。
灰色のアスファルトの中に漆黒の影が生まれ、徐々に一ノ瀬に迫る。
「もう、何度も使ったよ。その技は」
anotherの”影移動”に伴って生まれた影から距離を取るように、一ノ瀬は大きく後退する。
だが、anotherの放つ影移動は一ノ瀬のそれとは大きく違っていた。
「……っ!?」
突如として、遠くにいたはずのanotherの影が一ノ瀬の足元へと瞬時に移動する。
そこから伸びるデュランダルの一撃を、一ノ瀬は躱すことは出来ない。
「見せてやる、これがお前にはできなかった力だ!!」
「くっ!!」
漆黒の闇を纏ったanotherの振り上げるデュランダルの一撃が、一ノ瀬を捉える。
剣の軌跡が、一ノ瀬の全身を捉え、大きく斬り裂いた。
「有紀姉!!」
「——っ、大丈夫だよ……!」
大きく仰け反った一ノ瀬の身体から、出血の代わりに光の欠片が大きく舞い散る。
クウリはちらりとドローンのホログラムが映す配信画面に目をやるが、一ノ瀬の体力はこれっぽちも削れていなかった。
「……光が、有紀姉のダメージを肩代わりしてくれてる?」
「そう、みたいっ。皆が与えてくれた光が私を守ってくれてるんだ」
自らを守ってくれた光に触れるように、一ノ瀬は手を伸ばす。手のひらに被さった光をつかみ取るように、強く手を握る。
そんな彼女の様子を見たanotherはより一層強く怒りを滲ませた。
「くそっ!なぜ、俺ばかり失わなければならないっ!くそっ、くそっ、くそっ!!」
「……あなたばかりじゃ、ないでしょ」
一ノ瀬は身体についた埃を払いのける。それに伴って、プリーツスカートが大きく揺れた。
短剣を構え直した彼女は、鋭い眼光でanotherを見据える。
「自分ばっかりが失ったと思わないでよ。魔災で皆、何もかも失ったの。過去の私は、本当に自分の事しか見えていなかったのね……」
そう言って、憐れみのため息を零す。
戦いの中で幾度となく現れる自らの醜態に、一ノ瀬は複雑な胸中を抱かずにはいられなかった。
だが、anotherはそんな一ノ瀬の胸中など知る由もなく、漆黒の色に書き換わったデュランダルの切っ先を彼女へと向ける。
徐々に、anotherの全身により一層強い闇が渦巻く。
「黙れっ!!こうするのが正しいはずなんだ!!嘘の権化如きが偉そうに……!!見せてやろう、執着の力を!!」
どこからともなく、anotherは魔石を取り出した。それを、迷うことなく自分の口の中へと運ぶ。
まるで飴玉でも噛み砕くかのように、硬い咀嚼音を配信内に響かせる。
「……哀れね」
そう言って、一ノ瀬は隙のない構えを取った。それと共に、ちらりと周囲に視線を送る。
「……皆、来て。これから戦うのは、ただの魔物だ。執着に囚われた、成れの果て、だよ」
「ああ……分かった」
彼女の言葉に、セイレイ達が一ノ瀬の元へと集う。
各々に武器を顕現させ、漆黒の闇に飲まれていくanotherの姿を見据える。
『俺だって……伝えるんだ、俺の存在を、居場所を……っ、才能ある人間、一ノ瀬 有紀はここにいるんだ……!!!!』
彼の声に、大きくノイズが入り込む。乱れては戻り、幾度も歪み。
そんなanotherと対峙するのは、幾度となく人生の歪みを経験してきたnoiseだった。
「才能なんてないくせに。ただ知識を、技術を磨いて良く見せようとしていただけのことは私自身が一番分かってるの」
『それがっ、どうしたっ……!!それが、それが、それが……』
正常な思考すら保つことが出来ないのか、anotherの声が徐々に不鮮明になっていく。
もはや、そこには毅然とした立ち振る舞いのanotherは何処にもいない。
いるのは、みっともなく己の居場所に執着し続ける魔物だ。
そんな漆黒の闇に飲まれたanotherに、セイレイは同情の声を掛ける。
「まあ。勝手に自分の人生を捻じ曲げられてさ。苦しいのは分かるよ……でも、それで有紀を憎むのは筋違いもいいところだろ」
「……セイレイ」
ちらりと、弟のように思っていたセイレイへと一ノ瀬は視線を向ける。
だが、セイレイはそんな彼女の視線など気にすることもなく言葉を続けた。
「俺達の仲間。俺にとっての姉ちゃんは有紀だよ。だから、今の有紀は、俺達のもんだ」
「もうちょっと言い方なかった……?」
大胆な発言に、一ノ瀬は思わず顔を赤らめてセイレイから顔を逸らす。
だが、状況が状況なだけに思考を切り替えるように、一ノ瀬は首を横に振って前へと向き直った。
「苦労も何も知らないあなたに、世界を救えると思わないでっ!!何もかもを失う絶望も知らないくせに希望を語れると思うなっ!!」
灰色のブレザーを身に纏った一ノ瀬は決意の言葉と共に、より一層輝きを放つ。
To Be Continued……
おまけ
天明のシンパシーの表紙イラストをうごメモで作成してみました。
https://www.nicovideo.jp/watch/sm44502317?rf=nvpc&rp=watch&ra=share&rd=x
↑小説の更新が遅れた理由の一つです。免罪符代わりに、楽しんで閲覧していただければと思います。
特にDSi時代のうごくメモ帳を経験した方にとっては懐かしい雰囲気を感じさせる作品になっています。
すいませんでした。
↓以下テンプレート
総支援額:21500円
[スパチャブースト消費額]
青:500円
緑:3000円
黄:20000円
【ダンジョン配信メンバー一覧】
①セイレイ
青:五秒間跳躍力倍加
両脚に淡く、青い光を纏い高く跳躍する。一度に距離を縮めることに活用する他、蹴り技に転用することも可能。
緑:自動回復
全身を緑色の光が覆う。死亡状態からの復活が可能である他、その手に触れたものにも同様の効果を付与する。
黄:雷纏
全身を青白い雷が纏う。攻撃力・移動速度が大幅に向上する他、攻撃に雷属性を付与する。
②クウリ
青:浮遊
特定のアイテム等を空中に留めることができる。人間は対象外。
緑:衝風
クウリを中心に、大きく風を舞い上げる。相手を吹き飛ばしたり、浮遊と合わせて広範囲攻撃に転用することも出来る。
黄:風纏
クウリの全身を吹き荒ぶ風が纏う。そのまま敵を攻撃すると、大きく吹き飛ばすことが可能。
③ホズミ
青:煙幕
ホズミを中心に、灰色の煙幕を張る。相手の視界を奪うことが出来るが、味方の視界をも奪うというデメリットを持つ。
緑:障壁展開
ホズミを中心に、緑色の障壁を張る。強固なバリアであるが、近くに味方がいる時にしか恩恵にあやかることが出来ない為、使用には注意が必要。
黄:身体能力強化
一時的にホズミの身体能力が強化される。攻撃力・移動能力・防御力が大幅に上昇する他、魔法も変化する。
魔法
:炎弾
ホズミの持つ両手杖から鋭い矢の如き炎を打ち出す。
一度の炎弾で3000円と魔石一つを使用する。火力は高いが、無駄遣いは出来ない。
:マグマの杖(身体能力強化時のみ使用可)
地面に突き立てた杖から、マグマの奔流が襲いかかる。ホズミの意思で操作可能。
一度の使用で10000円と魔石一つを使用する。高火力であるが、スパチャブーストの使用が前提であり、コストが高い。
:氷弾
青色の杖に持ち替えた際に使用可能。氷の礫を射出し、直撃した部分から相手を凍らせることが出来る。
炎弾と同様に、3000円と魔石一つを使用。
:氷壁
氷塊を射出し、直撃した部分に巨大な氷の壁を生み出す。死角を作り出す効果がある他、地面を凍らせることにより足場を奪うことも出来る。
魔石(大)一つと、10000円を消費する。
④noise
青:影移動
影に潜り込み、敵の背後に回り込むことが出来る。また、地中に隠れた敵への攻撃も可能。
(”光纏”を使用中のみ)
:光速
自身を光の螺旋へと姿を変え、素早く敵の元へと駆け抜ける。
緑:金色の盾
左手に金色の盾を生み出す。その盾で直接攻撃を受け止めた際、光の蔦が相手をすかさず拘束する。
黄:光纏
noiseの全身を光の粒子が纏う。それと同時に、彼女の姿が魔災前の女子高生の姿へと変わる。
受けるダメージを、光の粒子が肩代わりする。
ドローン操作:雨天 水萌
[サポートスキル一覧]
・なし
[アカウント権限貸与]
・消費額20000円
・純水の障壁
・クラーケンによる触手攻撃




