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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
⑤高級住宅街ダンジョン編
156/322

【第七十七話(1)】追憶との闘い(前編)

【登場人物一覧】

瀬川(せがわ) 怜輝(れいき)

配信名:セイレイ

役職:勇者

勇者としての自覚を胸に、日々困難と立ち向かう少年。

責任感が強く、皆を導く役割を担う。

前園(まえぞの) 穂澄(ほずみ)

配信名:ホズミ

役職:魔法使い

瀬川 怜輝の幼馴染。かつて瀬川に命を救われたことから、強く恋情を抱いている。

気弱だった彼女も、いつしか芯のある女性へと成長していた。

一ノ瀬 有紀(いちのせ ゆき)

配信名:noise

役職:盗賊

元男性としての過去を持つ女性。卓越した洞察力と、経験から勇者一行をサポートする。

大切な仲間の為に、今日も彼女は刃を振るう。

青菜 空莉(あおな くうり)

配信名:クウリ

役職:戦士

心優しき少年。魔災以降、直近までの記憶が無く自分がどのように生き抜いてきたのかを覚えていない。

雨天 水萌(うてん みなも)

元四天王の少女。寂しがりであり、よく瀬川に引っ付いている。

「あれが、noiseさんの魔災前の姿、だったんだね」

 思い出すのは、学生服を身に纏ったおさげの少女の姿だ。

 ホズミは思い立ったようにnoiseにそう確認する。

 だが、肝心のnoiseはどこか照れくさそうに俯きながら、言葉を返した。

「や、あははっ。そう、そうだよ。何だか改めて言われると照れくさいけど……」

「何でそこで恥ずかしそうにするの、可愛かった。うん、すごく可愛かった」

「やめて欲しいなあー……」

 何度も褒めちぎるホズミから逃れるように、noiseはセイレイの影に隠れた。

「noise、どうしたんだよ。らしくねえぞ」

「言われ慣れてないからさ、ちょっと……やばい。恥ずかしすぎる」

「そ、そうか……。にしてもさ、真面目だったんだろうなーって感じの姿だったな」

 セイレイから発せられた感想に、noiseはひょっこりと顔だけを覗かせる。

 しかし、どこかその表情は虚無を彷彿とさせた。

「……よく、堅物、融通が利かない、って言われてました」

「今と同じか」

「うるさいっ」

 noiseは恥ずかしそうにセイレイの背中を小突いた。思わずバランスを崩してよろけたセイレイを不貞腐(ふてくさ)れた表情でnoiseは見下ろす。

「だって、私が取り仕切らないと皆まとまらないし。仕方なかったんだよ」

「昔から苦労してたんだな……」

「あはは、何回もストレスから来る腹痛に悩まされたよ」

 そう言いながら笑いを浮かべるnoise。だが、彼女の瞳は全く笑っていなかった。

[ごめんなさい、私も協調性ない側でした]

 雨天と思われるコメントがぽつりと流れる。


[俺のクラスにもそういう奴いたけどさ。正直口うるさいなー、くらいにしか思ってなかったわ]

[↑noiseさんに怒られるぞ]

[正直noiseさんになら怒られたい]

[おい]

[てか、高校生の姿普通に可愛かった。また発動して欲しい]

[私だって見たいですけど―……さすがに必要にならないと無理ですね……]


 和気あいあいと話し込んでいるコメント欄にちらりと視線を送ったnoise。

 彼女は注目を集めるように咳払いをした。

「……こほん。まあ、私の家ももうすぐ見えてくると思うから、そろそろ切り替えよう」

 そう意識を切り返すように促した後、暖色系統のタイルで彩られた道のりを彼らは進んでいく。

 やがて、塀で覆われた家の方へと視線を向けながらnoiseは語る。

「あの家を右に曲がった先にね、私の家があるの。改めて見れば他の家よりも大きいかな?って思うけど……」

「有紀姉の家、かあ」

「……あんまり期待しないでね。そんな、大したものじゃないから」

 期待に心躍った様子のクウリに向けて、noiseはそう語り掛けた。

「……そういうこと言う人ほど、大したことあるんだけどな―……」

 noiseの言葉に、納得がいかないクウリはそうぼやいた。

 どこか緊張感の抜けた会話を続ける勇者一行の前に、ついに彼は立ちはだかる。


 周りとは一線を画して明らかな存在感を放つ、洋風な雰囲気を醸し出した巨大な屋敷の前。

 その巨大な門の前に、anotherは立っていた。

「……よう」

 灰色のブレザーを身に纏った、すらりと伸びた背筋の少年。彼は、気さくに右手を上げて勇者一行を歓迎した。

 まるで友人と待ち合わせていたかのように、敵意を感じないその立ち振る舞い。思わず、セイレイはanother——かつての一ノ瀬に対し自然体で語り掛ける。

「待たせたな、another」

「大丈夫だ。こうして誰かを待つ時間も悪くないと思っていたところだ」

「……そっか。そういう気遣いの仕方さ、noiseと同じだよ」

 しかし、anotherはそれ以上セイレイに言葉を返すことはなく、noiseへと視線を向ける。

 呆れたように大きくため息を吐き、それから静かに告げた。

「だが。一ノ瀬……死んでしまうとは何事だ。情けない」

「ゲームのセリフかな……それに関しては何も言い返せないけどさ」

「お前が死んでしまったら元も子もないからな」

 anotherは値踏みするように、悠然と歩き回る。端正な容姿で動き回るその様は、まるでドラマのワンシーンのようだ。


[これが、noiseさんの男時代の姿か……イケメン過ぎて羨ましい]

[さぞモテたんだろうなあ]

[男のnoiseさんも映えるな]

[でもでもでも。私は今の一ノ瀬さんの方が好きですっ]

[それは、まあそうだね]


「……配信前にも言ったが。俺が、お前らを倒した時。俺はその姿を奪う予定なんだ、むざむざ死なれては困る」

 anotherはドローンのカメラをじっと見ながら、そうはっきりと告げた。

 だが、noiseにはどうしても、anotherの言動が解せない。

「ねえ。過去の私。どうして、あなたは今になって現れたの?何か、魔災と関係しているの?」

 その問いかけに対し、anotherは物思いに耽るように顎に手を当てた。

「……そうだな、少しだけ考察の材料を提供しようか」

「随分と鼻につく言い方ね」

「かつてのお前はそういう人間だった、ということだ」

「……」

 図星を突かれてnoiseは黙りこくる。

 口を閉ざしたnoiseの姿に、anotherはやれやれと言わんばかりにため息を吐く。それから、話の続きを語り始めた。

「お前らにとって、魔物とは何だ。ダンジョンとは、何だ」

「一気に二つも質問しないでよ……」

「だが。お前達は戦いの中で、ある程度推測がついているだろう」

「……まあね」

 noiseはそこで言葉を切り、大きく深呼吸した。

 ちらりと雨天が操作するドローンに視線を向けて、それから言葉を続ける。

「ダンジョンとは、人々の”執着”が生み出した存在。依存して、縋り続ける。その存在が、魔物となって、私達の敵となる……ってとこかな」

「そうだ。”ここに居たい”、”変わりたくない”という想いが、誰も彼もを魔物にする。魔災に奪われた十年間……もう、とっくに進まなければならないのに。変化を拒み続けた人達を、お前達は見てきたはずだ」

「……そう、だね。私だってそうだよ。自分の行動で何か変わることを恐れてきた」

 ”変化を拒み続けた人達”。その言葉に、noiseは雨天と船出の事を思い出す。

 魔災に飲み込まれた十年間、ただひたすらに変化を拒み。ドローンの姿として、変わらない世界を望み続けた四天王を。

 noiseはドローンの方に視線を送りながら、言葉を続ける。

「でも、変化はいつか受け入れないといけない。私達がどれだけ目を逸らし続けても、世界は私達の都合なんて無視して変わっていくんだから」

 noiseの言葉に続くように、ドローンから映し出されるホログラムを介して雨天のコメントが流れる。

[はいはいっ。皆の言葉があって、私も進まないとって思えたんですっ]

 それから、白のドローンはnoiseに並ぶようにふわりと空を浮かぶ。そのカメラが映し出すのは、悠然と立っているanotherだ。

 noiseに並ぶように、セイレイ達も歩みを進めた。

 セイレイが、仲間達を代表して問いかける。

「なあ、anotherさんよ。お前自身は一体何なんだ?何故、有紀と同じ意思を持ったお前がここに存在するんだ?」

「……そうだな、戦う前に一つだけ答えようか」

 anotherは、そう言って右手を前に突き出した。

 光の粒子が、彼の右手に集まっていく。セイレイ達が配信を介して、幾度も見てきたその現象。

 集う光が、やがて巨大な剣のシルエットを生み出していく。その最中、anotherは語り続けた。


「金色のカブトムシの角が折られた時から、俺は生まれたんだ。かつての一ノ瀬 有紀。男性としての、一ノ瀬 有紀が、世界に保存された」

 やがて、光の粒子が掻き消えた先に存在したのは肉厚の剣——デュランダルだった。

 金色に輝く刀身の切っ先を、勇者一行へと向ける。

 そんな中、noiseはちらりとセイレイ達を見渡した後、申し訳なさそうに苦笑を漏らす。

「……ごめん。予定通り、最初は私だけで戦わせてほしい……これは、文字通り過去の自分との戦いなんだ」

「分かってるとは思うけど、無理は禁物……だからね?」

 ホズミはじっとnoiseの目を見て、そう釘を刺す。そんな彼女の言葉に、思わず笑みが零れた。

「うん。いつでも動けるように皆は準備しておいてほしい」

「分かった」

 そんなやり取りを続ける彼らの中にanotherが割って入る。


「お前一人で戦うとは殊勝だな。……ただ、俺だけがかつての姿と言うのも不平等だろう。これでどうだ」

 anotherが空いた左手で指を鳴らす。

 すると、突如としてnoiseの全身にまばゆい金色の光が纏い始めた。

「わっ!?」

「有紀!?」

 セイレイが動転した声を上げたのも束の間。


「……”黄”を使ってないのに……!?」

 気づけば、noiseの姿は再び灰色のブレザーに身を包んだ、栗色のおさげを揺らしたかつての一ノ瀬の姿に変わっていた。

[information

noise:光纏 が常時発動されます]

 更新されたシステムメッセージに視線を送る。それを確認した一ノ瀬は、anotherに語り掛けた。

「ずいぶんと、大盤振る舞いなのね」

「今回は特別配信なんだ。これくらいの演出はあってもいいだろう」

「まあ、私もそういうの好きだけどね」

 一ノ瀬は思わず苦笑いを零す。それから、腰に携えた短剣を引き抜いた。

 彼女の動きに連なって、灰色のブレザーの中に着込んだ紺のスカートが揺れた。あどけなさの残った一ノ瀬の顔に、決意が宿る。

 そんな彼女の姿を見ながら、anotherはデュランダルを両手で構えた。

「道を間違えまいと生きてきたはずのお前が、今や盗賊だ。人生、どう転ぶか分からないものだな」

「ほんとにね。頭のお堅いあなたには出来ない生き方だと思うけど」

「頑固なのは今も変わらないだろ?さて、そろそろ始めようか」

「……そうね」


 灰色のブレザーを身に纏った、学生服の男女が対峙する。

 セイレイ達は、いつでも一ノ瀬をバックアップできるように散開。そんな彼らを見やった一ノ瀬はクスリと笑った。

「本当に、皆と出会えてよかったよ……ありがとうね。本当に、皆のことが大好き」

 淡い金色の光を纏った一ノ瀬。彼女は、短剣を逆手に持ち、隙のない構えを取った。

 彼女の動きに応えるように、anotherも前傾姿勢を取る。

「いいか?」「うん、いいよ」

 一ノ瀬 有紀は言葉を交わす。

 次の瞬間。


「やあああああっ!!」

「はあああああっ!!」

 二つの金色の光はより一層強く輝きを放ち、ついにぶつかり合った。


To Be Continued……

総支援額:22000円

[スパチャブースト消費額]

 青:500円

 緑:3000円

 黄:20000円

【ダンジョン配信メンバー一覧】

①セイレイ

 青:五秒間跳躍力倍加

 両脚に淡く、青い光を纏い高く跳躍する。一度に距離を縮めることに活用する他、蹴り技に転用することも可能。

 緑:自動回復

 全身を緑色の光が覆う。死亡状態からの復活が可能である他、その手に触れたものにも同様の効果を付与する。

 黄:雷纏

 全身を青白い雷が纏う。攻撃力・移動速度が大幅に向上する他、攻撃に雷属性を付与する。

②クウリ

 青:浮遊

 特定のアイテム等を空中に留めることができる。人間は対象外。

 緑:衝風

クウリを中心に、大きく風を舞い上げる。相手を吹き飛ばしたり、浮遊と合わせて広範囲攻撃に転用することも出来る。

 黄:風纏

クウリの全身を吹き荒ぶ風が纏う。そのまま敵を攻撃すると、大きく吹き飛ばすことが可能。

③ホズミ

 青:煙幕

 ホズミを中心に、灰色の煙幕を張る。相手の視界を奪うことが出来るが、味方の視界をも奪うというデメリットを持つ。

 緑:障壁展開

 ホズミを中心に、緑色の障壁を張る。強固なバリアであるが、近くに味方がいる時にしか恩恵にあやかることが出来ない為、使用には注意が必要。

 黄:身体能力強化

 一時的にホズミの身体能力が強化される。攻撃力・移動能力・防御力が大幅に上昇する他、魔法も変化する。

魔法

 :炎弾

 ホズミの持つ両手杖から鋭い矢の如き炎を打ち出す。

 一度の炎弾で3000円と魔石一つを使用する。火力は高いが、無駄遣いは出来ない。

 :マグマの杖(身体能力強化時のみ使用可)

 地面に突き立てた杖から、マグマの奔流が襲いかかる。ホズミの意思で操作可能。

 一度の使用で10000円と魔石一つを使用する。高火力であるが、スパチャブーストの使用が前提であり、コストが高い。

 :氷弾

 青色の杖に持ち替えた際に使用可能。氷の礫を射出し、直撃した部分から相手を凍らせることが出来る。

 炎弾と同様に、3000円と魔石一つを使用。

 :氷壁

 氷塊を射出し、直撃した部分に巨大な氷の壁を生み出す。死角を作り出す効果がある他、地面を凍らせることにより足場を奪うことも出来る。

 魔石(大)一つと、10000円を消費する。

④noise

 青:影移動

 影に潜り込み、敵の背後に回り込むことが出来る。また、地中に隠れた敵への攻撃も可能。

 緑:金色の盾

 左手に金色の盾を生み出す。その盾で直接攻撃を受け止めた際、光の蔦が相手をすかさず拘束する。

 黄:光纏

 noiseの全身を光の粒子が纏う。それと同時に、彼女の姿が魔災前の女子高生の姿へと変わる。


ドローン操作:雨天 水萌

[サポートスキル一覧]

・なし

[アカウント権限貸与]

・消費額20000円

・純水の障壁

・クラーケンによる触手攻撃

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