【第七十六話】一致団結
新年あけましておめでとうございます。
引き続きよろしくお願いいたします。
もしかすると、モチベ維持の為に今後も定期的に休載をとる可能性がございますので、悪しからず。
【登場人物一覧】
・瀬川 怜輝
配信名:セイレイ
役職:勇者
勇者としての自覚を胸に、日々困難と立ち向かう少年。
責任感が強く、皆を導く役割を担う。
・前園 穂澄
配信名:ホズミ
役職:魔法使い
瀬川 怜輝の幼馴染。かつて瀬川に命を救われたことから、強く恋情を抱いている。
気弱だった彼女も、いつしか芯のある女性へと成長していた。
・一ノ瀬 有紀
配信名:noise
役職:盗賊
元男性としての過去を持つ女性。卓越した洞察力と、経験から勇者一行をサポートする。
どこか他人に対して負い目を感じることが多いのか、よく他人と距離を取ろうとする。
・青菜 空莉
配信名:クウリ
役職:戦士
心優しき少年。魔災以降、直近までの記憶が無く自分がどのように生き抜いてきたのかを覚えていない。
・雨天 水萌
元四天王の少女。寂しがりであり、よく瀬川に引っ付いている。
noiseは使用した魔素吸入薬を”ふくろ”へと戻し、それからくるりと仲間たちの方へと振り返る。
「……本当に、ありがとう。信じてたよ、皆なら”自動回復”の隠された効果に気づく——ッ!?」
彼女の話を最後まで聞くことなく、突然セイレイはnoiseへと飛びつく。咄嗟の事だったため、バランスを維持することが出来ずにnoiseは尻餅をついた。
「ちょ、ちょっとセイレイ!さっき生き返ったばかりなんだからもう少し優しく……」
思わずセイレイの行動を咎めようとしたが、セイレイが肩を震わせていることに気付く。
代わりに、noiseは優しくあやすように彼の肩を叩いた。
「……ごめんね。これしかないと思った」
「やだ……有紀が居なくなると思った……もう、誰も失いたくないよ……やだ……」
「……いつものガサツな口調はどこいったんだか」
「ずっと、俺の……俺達の恩人なんだ。ずっと、ずっと、ずっと……」
それ以上は、言葉にならなかった。
セイレイは声を震わせて、ただ嗚咽を漏らし続ける。
そんな彼の姿を見たホズミは、困ったように苦笑を浮かべながらドローンのカメラへと視線を向けた。
「……ごめん。でも、もうしばらくこのままで居させてあげて欲しい」
[私は大丈夫です。なんなら私も飛びつきたいくらいですが……]
[ちゃんと待つよ。むしろ、セイレイはいつも気を張り詰めすぎるから]
[分かる。たまには感情をちゃんと出さないとね]
[やっぱさ、大切な人が居なくなるって辛いよ。それは俺達だってそうだ]
[例外がいないですよね]
温かいコメント欄を見たクウリとホズミ。二人は、お互いに視線を交わして頷いた。
自らも涙に潤む瞼を擦りながら、クウリは呟く。
「……しばらくは、僕達も待とっか。セーちゃんは、苦しみを抱え込みすぎなんだよ……」
「多分全員に言われてるんじゃないかな」
「僕も最初に言ったからね……ところでさ。ちょっと気になったこと聞いていい?」
「どうしたの?」
クウリは切り替えるように話を切り出したものの、「うーん」と言うべきか躊躇する様子を見せる。
しかし、しばらくして踏ん切りがついたのだろう。一回強く頷き、ホズミの方へと向き直る。
そんなクウリの視線は、何故か彼女の手の方へと向いていた。
「確か、魔災はホログラムの実体化と、ゲームとかの情報を取り込んだ人工知能の暴走が生み出したもの……だったよね」
「うん」
「……で、多分それの対抗手段として生み出されたのが、僕達が使ってるSympass……ってことで良いんだよね」
「うん……えっと、何が言いたいの?」
話の本質を掴むことが出来ず、もどかしく感じたホズミは強い口調でそう促した。
その言葉にクウリはぎくりと硬直するが、深呼吸してから言葉を続ける。
「ホズちゃんは、炎の魔法と、氷の魔法が使える」
「杖の力、だけどね」
「この際どっちでもいいよ。高熱と、氷点下……対となる二つの魔法……その二つの魔法を、もし、だよ。もしゲームや漫画のように、合わせることが出来たら……」
[それ以上はダメですっ]
「ぎゃあっ!?」
雨天が操作するドローンが、話を遮るように体当たりを行う。突然の攻撃にクウリは大きく仰け反った。
背中をさすりながら、クウリは涙目でドローンに視線を向ける。
「何も体当たりしなくて良いじゃん……出来るかもしれないんだよ?極大消m……」
[やめなさいって言ってるでしょうがぁ!?]
「危なっ!」
クウリの話を遮るように、ドローンは再び体当たりを仕掛ける。
間一髪でクウリは身体を大きく捩らせてそれを回避。
「私抜きで話しないでよ……何?一体何の話?」
話について行くことの出来ないホズミは、不機嫌そうに二人に話の続きを促す。
だが、雨天はコメントを流すことなく、ドローンのカメラをクウリへと向けた。
”黙れ”と無言のジェスチャーを受けとったクウリはコクコクと頷く。
「ごめん。何でもない」
「絶対何でもないわけないでしょ。私達の力のヒントになるなら、何でも言うべきじゃないの?」
[これは別問題ですー……使えたらいろいろまずいです]
「……?」
一人だけ話のついて行けないホズミは、不服そうに首を傾げた。
[(このコメントは投稿者によって削除されました)]
[こらっ、ダメだって言ってるでしょ!?]
[使えたらロマンはあるけどね]
[絶対馬鹿みたいにお金使うだろうな]
[いつか使ってくれないかなあ 3000円]
[使えるって分かってないと厳しくない……?でもそれはそれで無駄遣いになるしなあ]
[お金が絡むと、どうしてもその辺り慎重になるよね]
[ほんとになー]
「随分賑やかそうだね」
ようやく落ち着いたセイレイを連れて、noiseは彼らの元へと集った。
「あ。noiseさんおかえり、どう?体調は大丈夫?」
ホズミはくすりと柔らかに微笑む。
「うん、大丈夫。あ、でも走馬灯って言うのかな。そこでちょっと魔災前の記憶を思い出したよ」
「へえ、どんなの?」
興味深そうにホズミは喰いつくが、noiseは苦笑を漏らしながら首を横に振った。
「その話は、anotherとの決着の後で良いかな。今はこっちに専念しようよ」
「確かにそうだね、わかった」
ホズミは納得したように頷き、それからじっと訝しげにnoiseを睨む。
「……でも、セイレイ君も、noiseさんも、本当に無茶が好きだね……自動回復の効果に気づいてなかったらどうしてたの」
「その時は、お馬鹿な勇者一行について行った私が愚かだっただけだよ」
noiseはそう言って肩を竦めた。
しかし、彼女の態度に対し、徐々にホズミの表情に陰りが生まれていく。
そして。
「……ちょっと、だけ」
ホズミは黙ってnoiseに抱き着いた。
彼女が被った迷彩柄の帽子にしわが生まれる。
だが、そんなこともホズミは気にせずに強くnoiseにしがみついた。
「……ばか。本当に、ばか……」
「うん……心配かけた。クウリもおいで」
noiseはそう言って、肩を震わせて泣きじゃくるホズミの流れるような艶やかな黒髪を撫でた。それから、ちらりとクウリを手招きする。
だが、肝心のクウリはおろおろと辺りを見渡した後に「僕?」と自分を指差した。
「えっ、どうしてっ」
「一人だけほったらかしは不平等だからね?女性に免疫無いのは分かってるけど。ほら、私を男だと思って」
「えー……ハードル高いなあ……」
そう言いながらも、遠慮がちにクウリはnoiseに近づく。
「わっ」
すると、noiseは一気にクウリをホズミごと抱き寄せた。
仲間達の温もりを感じながら、noiseは幸せそうに微笑む。
「うん。やっぱり、皆がいるから、私もここにいるって思えるんだよ。大丈夫、一ノ瀬 有紀は生きてる」
「……有紀姉が倒れて動かなくなった時、正直心が壊れるかと思った。誰かが死ぬって、本当に怖い」
クウリも肌の温もりを確かめるように、強く、強く抱きしめる。
「……っ」
クウリの抱擁に、noiseは何故か引きつったような、作った笑いを浮かべる。
そして、そんな傍らで共に抱き着かれていたホズミがバシバシとクウリの肩を叩き出した。
「ちょっと、クウリ君、痛い。痛い。忘れてない?自分がヘアピン付け替えてないの」
「あ、あ、ごめん!!有紀姉も大丈夫?」
ホズミの指摘に慌ててクウリは抱擁を解除し、後ろずさる。
そんな動転した彼の姿に、noiseは思わず苦笑を漏らす。
「……もう一回、”自動回復”のお世話になる所だったよ……」
「ごめん……」
さらりと発せられた皮肉に、申し訳なさそうにクウリは項垂れた。
反省の意思が見えるクウリの肩をポンと叩き、noiseは続く住宅街に視線を向ける。
「とりあえず。改めて一致団結したことだし……先に進もうかな」
noiseの隣に、セイレイが歩み寄る。
彼はnoiseと、先に続く住宅街を交互に見やった後、不思議そうに首を傾げた。
「なあ、noise。あのさ、anotherって一体何なんだ?追憶のホログラム、という訳でもないよな」
「うーん……ゴブリンロードみたいな魔物、と考えるのが妥当だけど。でも、ダンジョン外でも普通に存在してたよね」
「次から次に分からないことが出てくるな」
「そうだね……さて、anotherはどこまで話してくれるかな」
勇者一行は、激戦に伴って無残にも穿たれたアスファルトの道のりを再び歩み始めた。
To Be Continued……
【開放スキル一覧】
・セイレイ:
青:五秒間跳躍力倍加
緑:自動回復
黄:雷纏
・ホズミ
青:煙幕
緑:障壁展開
黄:身体能力強化
・noise
青:影移動
緑:金色の盾
黄:光纏
・クウリ
青:浮遊
緑:衝風
黄:風纏




