【第七十五話(2)】盗賊:一ノ瀬 有紀(後編)
【登場人物一覧】
・瀬川 怜輝
配信名:セイレイ
役職:勇者
勇者としての自覚を胸に、日々困難と立ち向かう少年。
責任感が強く、皆を導く役割を担う。
・前園 穂澄
配信名:ホズミ
役職:魔法使い
瀬川 怜輝の幼馴染。かつて瀬川に命を救われたことから、強く恋情を抱いている。
気弱だった彼女も、いつしか芯のある女性へと成長していた。
・一ノ瀬 有紀
配信名:noise
役職:盗賊
元男性としての過去を持つ女性。卓越した洞察力と、経験から勇者一行をサポートする。
どこか他人に対して負い目を感じることが多いのか、よく他人と距離を取ろうとする。
・青菜 空莉
配信名:クウリ
役職:戦士
心優しき少年。魔災以降、直近までの記憶が無く自分がどのように生き抜いてきたのかを覚えていない。
・雨天 水萌
元四天王の少女。寂しがりであり、よく瀬川に引っ付いている。
その剣を振るうは、己の為か。
己が生きる為だけに、振るう力だったのか。
違う。
私が得た技術。得た知識。
それは、
自分を大切にしてくれる、皆の為に振るうものだ。
クウリが降り抜く一閃に伴い、対峙していた細身のガードマンの身体が上下に分かれた。
切断された肉体は、傷口から徐々に闇の残滓となり虚空へと溶けていく。
「セーちゃん!あとはそいつだけ!!合流するっ」
「頼んだ……っ!くそ、油断も隙もねえな」
『迎撃態勢に、移行』
再び、筋骨隆々のガードマンが右腕を大きく振り上げる。
その動作を見たホズミはすかさず叫ぶ。
「クウリ君っ!!”青”だ!!瓦礫を浮かせて攻撃を止めてっ!」
「——っ、やれるかわからないけどっ」
その指示を受け取ったクウリは不安を抱きながらも、ガードマンの動きに警戒する。
ガードマンはクウリの方へと身体を向けながら、ついにその巨大な腕を振り下ろした。
「今だっ!!」
「スパチャブースト”青”!!」
[クウリ:浮遊]
クウリ目掛けて弾丸の如く襲い掛かる、砕かれたアスファルトの弾丸。それに対し、クウリは横っ飛びに回避しながらすかさず宣告した。
彼の横を衝撃波が掠める。
だが、読み通りだった。
彼目掛けて襲い掛かっていたアスファルトの弾丸はクウリに直撃する寸前で空中に停滞する。
「っ、攻略した……!?」
「まだだっ、こいつを倒さねえと終わらない!」
「分かった……解除」
セイレイの言葉にクウリは頷きながら、小さく言葉を発する。すると、瞬く間に空中に停滞していた瓦礫は余すことなく地面に叩きつけられた。
舞い上がる土煙にちらりと視線を送りながら、クウリはセイレイと共にガードマンへと斬りかかる。
「たああああっ!!」
「ぜああああっ!!」
セイレイとクウリの連撃が、流れる流星の如くガードマンを切り裂いていく。
ホズミはその隙を縫うようにして、次に赤色の宝玉が飾られた杖の先をガードマンへと向けた。
彼女の宣告する、甲高い声が響く。
「——放てっ!!」
[ホズミ:炎弾]
その宣告と共に、鋭い矢の如き炎の弾がガードマンを穿つ。
だが、それでも決定打には至らない。
「ダメか……っ、やっぱり”黄”が無いと厳しい……っ」
[使って!! 3000円]
[まだ終わらせない 3000円]
[頑張って、こいつを倒したら終わりなんだ 3000円]
[もう少し送ることが出来たら……くそっ]
[今で19000円]
[noiseさん……戻って来て……っ]
コメント欄に流れ続ける応援の言葉と、届き続ける想いの欠片。
くじけそうになる度、何度もその人々の応援の力に立ち上がってきた。
そして、今日もまた。
彼女は、立ち上がる。
『——迎撃態勢に、移行』
「くっそ、またかよ!!」
再び右腕を大きく振り上げたのを見て、セイレイは悪態をつく。
もう何度繰り出された攻撃だろか。
だが、現にnoiseの体力を一気に削った一撃であり、対処せざるを得ない。
クウリはすかさず身構えながら、大きく息を吸う。
「僕が引き留めるっ。二人は継続して攻撃を——」
「……大丈夫だよ、皆」
「……え?」
ガードマンと対峙する、勇者一行の耳に入ったのは凛として、透き通るような女性の声だった。
もう何度も聞いてきた彼女の声にセイレイ達の動きは思わず止まる。
だが、そんな彼らを他所に、ガードマンはその右腕を再びアスファルトへと叩きつけるべく振り下ろす。
そんな中、彼女は颯爽と躍り出た。
「スパチャブースト”緑”!!」
[noise:金色の盾]
すかさずガードマンの右腕の下に入り込んだ、noiseはすかさず宣告した。
彼女の左腕に顕現する金色の盾が、その攻撃を受け止める。
『っ、侵入者、敵、敵、敵……』
「皆が私の為に時間を使ってくれたんだ!!だから私も皆の為に、時間を盗むっ!!」
noiseの覚悟の言葉が発せられる。
それと同時に、金色の盾から伸びた光の蔓が瞬く間にガードマンを縛り上げていく。
しかし、驚いたのはそれだけではない。
——立ち上がったnoiseの全身が、金色に光輝いている。
「……有紀……?」
「有紀さん……?」
「有紀姉、その姿は……」
セイレイ達は、noiseの姿に困惑を隠せない。
その間にも彼女の誓いは続く。
「皆が与えてくれたんだ、私に力を!!私に希望を!!もう二度と失わない、失わせない!!私は、皆との時間を取り戻すって誓ったんだ!!!!」
――ついに、彼女は本心を取り戻していた。
[information
noise:スパチャブースト”黄”を獲得しました
黄:光纏 ※初回のみ無料で使用することが出来ます]
noiseが短剣を振るうのに連なって、光の粒子が彼女へと集まっていく。
纏う光の粒子は、やがて完全に彼女を包み込んだ。
「もう、二度と、今度こそ!!私は本当の自分を見失わない!!スパチャブースト”黄”!!」
[noise:光纏]
その宣告に連なり、noiseの全身を纏っていた光の粒子は彼女から離れていく。
しかし、そこにはnoiseはいなかった。
白のカッターシャツ、紺のジーンズに身を包んだ彼女の姿はそこにはいなかった。
代わりに居たのは。
[え、誰]
[うそ、どういうこと]
[まさか、noiseさん?]
[ありえない、うそだろ]
[え、は、え?どういうこと、です?]
「……まさか、有紀……なのか?」
灰色のブレザーを身に纏った学生服の、栗色のおさげを揺らした少女が、そこには立っていた。
見るからに、優等生と言った様相の、真面目そうな少女がガードマンと対峙する。
彼女の周りを、ほんのりと淡い光の欠片が舞い上がっていた。
「……うん、そっか。これが、本当の私……」
まじまじと、自分の手のひらを、全身を見渡す学生服の少女。
彼女はちらりと、セイレイの方へと視線を向けた。
「……ありがとう、勇者セイレイ。君のおかげで、私は本当の自分を取り戻すことが出来たんだ」
「……そうか」
たったそれだけをnoise——一ノ瀬は告げて、右手に携えた短剣を構え直す。
短剣の先に、瞬く間に光が集い始める。
金色の光に照らされた彼女が、想いのままに鋭い突きを繰り出した。
「これがっ、私の力だあああああっ!!」
一ノ瀬が放つ一撃が、身動きの取れないガードマンの身体を貫く。
光の波動が、その貫いた箇所から全身へと伝播していく。
『侵入者……侵入者?……違う、違う、違う……おかえりなさい……』
その言葉を残すと共に、筋骨隆々のガードマンの姿は虚空へと溶けて消えた。
一ノ瀬を纏っていた光が、徐々に空へと溶けていく。
光の欠片が剥がれるにつれて、学生服を身に纏っていた彼女の姿が、いつもの見慣れたnoiseの姿へと戻っていく。
「うん、ただいま」
noiseは、それだけをぽつりと呟いた。
To Be Continued……
総支援額:19000円
[スパチャブースト消費額]
青:500円
緑:3000円
黄:20000円
【ダンジョン配信メンバー一覧】
①セイレイ
青:五秒間跳躍力倍加
両脚に淡く、青い光を纏い高く跳躍する。一度に距離を縮めることに活用する他、蹴り技に転用することも可能。
緑:自動回復
全身を緑色の光が覆う。死亡状態からの復活が可能である他、その手に触れたものにも同様の効果を付与する。
黄:雷纏
全身を青白い雷が纏う。攻撃力・移動速度が大幅に向上する他、攻撃に雷属性を付与する。
②クウリ
青:浮遊
特定のアイテム等を空中に留めることができる。人間は対象外。
緑:衝風
クウリを中心に、大きく風を舞い上げる。相手を吹き飛ばしたり、浮遊と合わせて広範囲攻撃に転用することも出来る。
黄:風纏
クウリの全身を吹き荒ぶ風が纏う。そのまま敵を攻撃すると、大きく吹き飛ばすことが可能。
③ホズミ
青:煙幕
ホズミを中心に、灰色の煙幕を張る。相手の視界を奪うことが出来るが、味方の視界をも奪うというデメリットを持つ。
緑:障壁展開
ホズミを中心に、緑色の障壁を張る。強固なバリアであるが、近くに味方がいる時にしか恩恵にあやかることが出来ない為、使用には注意が必要。
黄:身体能力強化
一時的にホズミの身体能力が強化される。攻撃力・移動能力・防御力が大幅に上昇する他、魔法も変化する。
魔法
:炎弾
ホズミの持つ両手杖から鋭い矢の如き炎を打ち出す。
一度の炎弾で3000円と魔石一つを使用する。火力は高いが、無駄遣いは出来ない。
:マグマの杖(身体能力強化時のみ使用可)
地面に突き立てた杖から、マグマの奔流が襲いかかる。ホズミの意思で操作可能。
一度の使用で10000円と魔石一つを使用する。高火力であるが、スパチャブーストの使用が前提であり、コストが高い。
:氷弾
青色の杖に持ち替えた際に使用可能。氷の礫を射出し、直撃した部分から相手を凍らせることが出来る。
炎弾と同様に、3000円と魔石一つを使用。
:氷壁
氷塊を射出し、直撃した部分に巨大な氷の壁を生み出す。死角を作り出す効果がある他、地面を凍らせることにより足場を奪うことも出来る。
魔石(大)一つと、10000円を消費する。
④noise
青:影移動
影に潜り込み、敵の背後に回り込むことが出来る。また、地中に隠れた敵への攻撃も可能。
緑:金色の盾
左手に金色の盾を生み出す。その盾で直接攻撃を受け止めた際、光の蔦が相手をすかさず拘束する。
黄:光纏
noiseの全身を光の粒子が纏う。それと同時に、彼女の姿が魔災前の女子高生の姿へと変わる。
ドローン操作:雨天 水萌
[サポートスキル一覧]
・なし
[アカウント権限貸与]
・消費額20000円
・純水の障壁
・クラーケンによる触手攻撃