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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
⑤高級住宅街ダンジョン編
153/322

【第七十五話(1)】盗賊:一ノ瀬 有紀(前編)

【登場人物一覧】

瀬川(せがわ) 怜輝(れいき)

配信名:セイレイ

役職:勇者

勇者としての自覚を胸に、日々困難と立ち向かう少年。

責任感が強く、皆を導く役割を担う。

前園(まえぞの) 穂澄(ほずみ)

配信名:ホズミ

役職:魔法使い

瀬川 怜輝の幼馴染。かつて瀬川に命を救われたことから、強く恋情を抱いている。

気弱だった彼女も、いつしか芯のある女性へと成長していた。

一ノ瀬 有紀(いちのせ ゆき)

配信名:noise

役職:盗賊

〈現在この配信者に関する情報は閲覧することが出来ません。〉

青菜 空莉(あおな くうり)

配信名:クウリ

役職:戦士

心優しき少年。魔災以降、直近までの記憶が無く自分がどのように生き抜いてきたのかを覚えていない。

雨天 水萌(うてん みなも)

元四天王の少女。寂しがりであり、よく瀬川に引っ付いている。

 七色のイルミネーションが私達を照らしていた。辺りを見渡せば、色鮮やかに飾られたイルミネーションに心奪われた人々が幸せそうにしている姿が目に映る。

 突き刺すような寒さが肌を撫で、吐く息は白く空に溶けていく。

 私はまるで亀のように、首に巻いたマフラーの中に顔をうずめた。

「クリスマスまで、あと一週間ちょっとだね」

「だね。本当に、今年は色々なことがあったなあ……」

 隣では、杖を突いた幼馴染の鶴山 真水が感慨深そうにイルミネーションを眺めている。彼の目線に釣られるように、私もネオンに彩られた街並みに視線を送った。

 イルミネーションが彩る光景は、忙しなく次から次へとグラデーションを変化させる。まるで、虹のカーテンとでも言うべき美しい光景が、一年の終わりを思い起こさせた。

 傍から見れば、私と、真水が並んでその光景を眺める姿はカップルにでも見えるのだろう。

 ただ。私達にはどれほど近くても、届かない一歩があった。

「……ねえ、真水」

 鮮やかに彩られた景色を見つめながら、私は大切な幼馴染の名前を呼んだ。

「どうしたのさ、有紀」

 真水が温かく、柔らかな笑みを向ける。

 いつだって、傍にいてくれた。いつだって、私の助けになってくれた。

 そんな彼の姿が愛おしくて、心苦しくて。

 もしかしたら、これを言ってしまえば全てが壊れてしまうかもしれない。もう二度と、戻れなくなってしまうかもしれない。

 言葉が持つ重さはそれほどに大きいことは、とっくに分かってた。

 でも、それでも。

「私さ、真水の事……好きだよ。ずっと、一緒に居たい」

 この想いを、誤魔化したくはなかった。

 例え、それが女性の身体に変化したことによる作られた想いから始まったものだったとしても。

 今、この心が感じている想いだけは、間違いのないものだと信じていたから。

「ふっ、あの有紀が……ねえ。本当に人って変わるもんなんだね」

 だけど、真水は私の告白にはまともに取り合おうとはしなかった。苦笑を漏らしながら、彼はその言葉だけを発する。

 

 分かっていた。

 真水は、そういう男だ。

 だから、私もそれ以上は想いを伝えようとは思わなかった。

「……今年も、終わるね」

「うん、もうすぐクリスマスかー……何しよっか?」

「あ。みーちゃんと、紺ちゃんとカラオケ行くって話してるけど……真水もどう?」

「わ、気まず。女の花園に野郎が行って大丈夫?」

「大丈夫だよ、私を男ってカウントしたらいいんじゃないかな」

「無茶言うねー……てか、有紀も歌うの?」

 クリスマスの予定について話すと、真水は引きつった笑みと共に私を見ていた。

「……え、何?何が言いたいの」

「有紀音痴じゃん」

「あー……大丈夫、紺ちゃんとデュエットするから!紺ちゃん歌上手いし」

「うっわ先輩の無茶振りに付き合わされる紺ちゃんが可哀想」

 魔災の前日、私は真水とそんな話を交わしたのを覚えている。

 きっと、今日も明日も。こんな、変わらない毎日が来ると分かってた。私達は、変わらない毎日があるって分かっていたんだ。

 分かってなかったのは、世界の方だった。


----


 思考にノイズが走る。

 これは、走馬灯というものか。

 ……何回、何百回も繰り返した夢だろうか。

 朝起きて、皆と楽しく遊んで、夜遅くまで皆と電話して、寝落ちして。

 そんな、ありきたりで、代わり映えのない毎日。

 いつ、誰が。

 そんな当たり前が崩れ去るなんて予想できるのだろう。

 私、一ノ瀬 有紀の記憶のカレンダーは今も12月17日で止まったままだ。


 あの日からの私は現実にいるにもかかわらず、どこか夢の中に留まったままのような感覚を抱いていた。

 縋るものも無くて、それでも死にきれなくて。

 師匠に拾われてから、そんな日々はより一層加速した。


『誰が休んでいいって言った。立て。女であることを捨てろ。機械になれ。お前はただの戦闘マシーンだ』

「……はい」

 何度も、私は私であることを捨てるように言われた。


『戦いの役に立つことが出来ないのなら、そうだな。お前は俺の欲望のはけ口にでもなればいい。死ぬよりはマシだろう?』

「……嫌、です」

『そうか。ならば剣を握れ、敵を殺せ。お前にはその二択しかない』

 私の尊厳すら無視され。ただ道具として生きることを提案されたこともあった。

 私とは一体何だろう。一ノ瀬 有紀には自分を捨てることしか許されないのか。

 最後に思い出す師匠の姿は、まるで獣のように私に覆いかぶさってくる姿だ。

「いやっ!!やだっ!!やめてっ!!!!」

 それが私自身の喉から漏れた懸命の抵抗と自覚しないまま、私は死に物狂いで抵抗した。

 現実とは、こんなに残酷なのか。どうして、現実は私一人にここまで厳しくするのだろう。

 

「っあああああああああああっ!!!!」

 だから、師匠を殺したあの日。

 一ノ瀬 有紀はとっくに死んだと思っていた。


 ——勇者セイレイと、出会う日までは。


★★★☆


『侵入者、排除——排除——』

 青白い雷を纏ったセイレイが放つ斬撃に、筋骨隆々のガードマンは狂ったように同じ言葉を繰り返しながらついに倒れ伏した。

 ちらりとセイレイは緑色の光を纏ったまま、未だ蘇らないnoiseへと視線を送る。

「……あと、強化個体は一体。頼むぞ、有紀」

 そうぽつりと呟くと共に、セイレイと対峙していたガードマンはアスファルトの地面にその身体を溶かしていく。

 セイレイがファルシオンを振るう間にも、コメントは忙しなく流れていく。


[アスファルトを飛ばして攻撃するなら、クウリの浮遊が使えるんじゃないか]

[残り12体。強化個体1体]

[まだ負けちゃいない。頑張って 3000円]

[分かってると思うが総支援額23500円。黄1、緑1、青1が使える]

[ホズミ、氷弾は敵に直接当てるよりも地面に撃つべきだ。相手の足場を奪う方が優位に戦える]

[衝撃波は直線攻撃。横っ飛びに回避するんだ]

 次から次に流れていく、視聴者の意見を介したヒント。

 ホズミはそのコメントを確認しながら、適宜仲間達に指示を送る。

「セイレイ君っ、強化個体と戦う時は横移動を意識してっ」

「了解!」

 ホズミの指示に従い、セイレイは強化個体のガードマンに対し回り込むように駆け回る。常に背後を取り、隙を狙っては鋭い斬撃を浴びせていく。

「俺達皆で、乗り越えるんだっ!!こんな訳の分かんねえところで終わってたまるかよ!!」

 稲妻を纏ったまま、セイレイは何度も、何度も。決意の言葉と共に連撃を浴びせる。


 その傍らで、風纏の使用時間が超過したクウリの全身から、風が大気へと溶けていく。

「——っ、時間切れ……!?」

 瞬時に再度スキル使用するべきか躊躇している最中、クウリへと襲い掛かる細身のガードマン。

 だが、ホズミはそのガードマンの攻撃を咎める。

「物は試し……っ!!」

 青色の宝玉が飾られた杖のくぼみの中に、ホブゴブリンを倒した時に手に入れた巨大な魔石をセットする。明らかにオーバーサイズであるにもかかわらず、その魔石は杖の中に溶け込むように嵌った。

 その杖先の照準を、クウリへと襲い掛かるガードマンの足元へと向け、彼女は叫ぶ。

「放てえええええっ!!!!」

[ホズミ:氷壁]

 彼女の言葉と共に、杖先から巨大な氷塊が射出された。それは、クウリへと襲い掛かるガードマンへと着弾。瞬く間に、クウリを庇う盾の如く、巨大な氷で作られた壁が生み出される。

 地面からせりあがった氷壁に、瞬く間にクウリに襲い掛かっていたガードマンは弾き飛ばされる。

 地面に叩きつけられたガードマンの姿が闇となり、アスファルトに溶けていく。

[ホズミちゃん!魔石”大”での魔法で10000円使用!残り13500円!!]

「分かった、ありがとう」

 雨天のコメントに、ホズミは感謝の言葉を告げる。

 ホズミが放った”氷壁”に伴い、クウリに安全圏が生み出された。

 器用にクウリは氷の壁の間を縫い、隙を見てはガードマンに大鎌の斬撃を浴びせる。

「ホズちゃんが生み出した魔法。無駄にはしないっ!!」

 躱し、斬撃を叩きつけ、また躱し。

 忙しなくクウリは動き回る。器用に大鎌の顕現と解除を活用し、縦横無尽に駆け回っていく。

『侵入者、排除』

「もうそれは聞き飽きたよっ!!」

 クウリは対峙するガードマンに鋭い蹴りを食らわせる。強化アイテムであるヘアピンにより威力補正が加わったその一撃に、ガードマンは大きく吹き飛び氷の上に身体を滑らせた。

 その氷上からまるで身動きが取れなくなったのを確認したクウリ。一旦はそのガードマンを無視し、セイレイへと視線を向ける。

「セーちゃん、そっちは大丈夫!?」

「今は何とか凌げてる……っ!!くそ、こっちも時間切れだ!」

 セイレイの”雷纏”も遂に使用時間が終了し、彼の全身から放たれていた雷が大気中に溶けて消えていく。

 着実に、対峙するガードマンの数を減らせてはいる。

 しかし、それでも一向に全滅をさせるには至らない。

「二人とも、残り6体!ここを乗り越えたら、勝利だっ!!」

「分かった!!」

「有紀姉の為にも、乗り越えよう……!!」

 三人は固い決意と共に、再び己を奮い立たせる。


 そんな中。

 ガードマンの一撃に命を奪われたはずの、noiseの指先がぴくりと動いた。


To Be Continued……

総支援額:13500円

[スパチャブースト消費額]

 青:500円

 緑:3000円

 黄:20000円

【ダンジョン配信メンバー一覧】

①セイレイ

 青:五秒間跳躍力倍加

 両脚に淡く、青い光を纏い高く跳躍する。一度に距離を縮めることに活用する他、蹴り技に転用することも可能。

 緑:自動回復

 全身を緑色の光が覆う。死亡状態からの復活が可能である他、その手に触れたものにも同様の効果を付与する。

 黄:雷纏

 全身を青白い雷が纏う。攻撃力・移動速度が大幅に向上する他、攻撃に雷属性を付与する。

②クウリ

 青:浮遊

 特定のアイテム等を空中に留めることができる。人間は対象外。

 緑:衝風

クウリを中心に、大きく風を舞い上げる。相手を吹き飛ばしたり、浮遊と合わせて広範囲攻撃に転用することも出来る。

 黄:風纏

クウリの全身を吹き荒ぶ風が纏う。そのまま敵を攻撃すると、大きく吹き飛ばすことが可能。

③ホズミ

 青:煙幕

 ホズミを中心に、灰色の煙幕を張る。相手の視界を奪うことが出来るが、味方の視界をも奪うというデメリットを持つ。

 緑:障壁展開

 ホズミを中心に、緑色の障壁を張る。強固なバリアであるが、近くに味方がいる時にしか恩恵にあやかることが出来ない為、使用には注意が必要。

 黄:身体能力強化

 一時的にホズミの身体能力が強化される。攻撃力・移動能力・防御力が大幅に上昇する他、魔法も変化する。

魔法

 :炎弾

 ホズミの持つ両手杖から鋭い矢の如き炎を打ち出す。

 一度の炎弾で3000円と魔石一つを使用する。火力は高いが、無駄遣いは出来ない。

 :マグマの杖(身体能力強化時のみ使用可)

 地面に突き立てた杖から、マグマの奔流が襲いかかる。ホズミの意思で操作可能。

 一度の使用で10000円と魔石一つを使用する。高火力であるが、スパチャブーストの使用が前提であり、コストが高い。

 :氷弾

 青色の杖に持ち替えた際に使用可能。氷の礫を射出し、直撃した部分から相手を凍らせることが出来る。

 炎弾と同様に、3000円と魔石一つを使用。

 :氷壁

 氷塊を射出し、直撃した部分に巨大な氷の壁を生み出す。死角を作り出す効果がある他、地面を凍らせることにより足場を奪うことも出来る。

 魔石(大)一つと、10000円を消費する。

④noise

-no data-


ドローン操作:雨天 水萌

[サポートスキル一覧]

・なし

[アカウント権限貸与]

・消費額20000円

・純水の障壁

・クラーケンによる触手攻撃

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