【第七十四話(2)】覚悟の光から始まるLive配信(中編)
【登場人物一覧】
・瀬川 怜輝
配信名:セイレイ
役職:勇者
勇者としての自覚を胸に、日々困難と立ち向かう少年。
責任感が強く、皆を導く役割を担う。
・前園 穂澄
配信名:ホズミ
役職:魔法使い
瀬川 怜輝の幼馴染。かつて瀬川に命を救われたことから、強く恋情を抱いている。
気弱だった彼女も、いつしか芯のある女性へと成長していた。
・一ノ瀬 有紀
配信名:noise
役職:盗賊
元男性としての過去を持つ女性。卓越した洞察力と、経験から勇者一行をサポートする。
どこか他人に対して負い目を感じることが多いのか、よく他人と距離を取ろうとする。
・青菜 空莉
配信名:クウリ
役職:戦士
心優しき少年。魔災以降、直近までの記憶が無く自分がどのように生き抜いてきたのかを覚えていない。
・雨天 水萌
元四天王の少女。寂しがりであり、よく瀬川に引っ付いている。
「思ったよりも、近くまで戻って来てたんだね。懐かしいな……」
noiseはきょろきょろと忙しなく、舗装された通路を見回す。
辺り一面にはベージュ色のレンガで丁寧に舗装された、整った道が延々と広がっている。
そこは住宅街と言うには、あまりにも広大な通路だった。対向車がやってきたとしても、問題なく回避できるほどの幅広さ。
今でこそ桜の樹根に蝕まれているが、並ぶ住宅の一つ一つに広大なガレージが割り当てられていた。玄関に視線を送れば、警備会社と提携していることを示すステッカーが貼られている。
[なんだか、一つ一つの家のスケールが違いますね……]
[noiseさんの家って金持ちだって聞いたけど]
[ここに来てnoiseさんの昔話が聞けるとはね]
[てことは令嬢?あれか。ジャンクフードなんて庶民の食べ物なんて食べられるわけないでしょ、おーほっほっほ、みたいな]
[↑偏見が過ぎる]
経済力のある家柄への解像度が高くないコメント欄に、noiseはちらりと視線を送る。ある程度のコメントを読み終えたnoiseは思わず苦笑を漏らした。
「さすがに私もハンバーガーとかはよく食べたよ。むしろ好きな分類かな」
[あ、その辺りの感覚は私達と同じなんですね。良かったです。てっきり高級フレンチとかばっかり食べてるのかと]
「だって、フレンチとかさ、雰囲気硬くて苦手でさ……皆でワイワイできる方が楽しいし、どっちかというとジャンクフード店の方が好きだったな―」
[……ん?]
noiseの発言に、コメント欄が一瞬ぴたりと止まった。
雨天が代表して、noiseの発言の真意を確かめる。
[えっと。参考までに、安いとか高いとか、値段とか気にしてました?]
「……え、あ、あー……ごめん。値段見たことなかった」
途端に歯切れの悪くなったnoise。その言葉に、賑やかだったコメント欄の流れが止まった。
しばらくしてから、反応に困った人々のコメントが再び流れていく。
[ちょっと、次元の違う話だった]
[ジャンクフードと同格に扱われる高級料理店が可哀想すぎる]
[え、あ、はい。ありがとうございます……はい]
微妙になった空気感を正すように、noiseは慌てて咳ばらいをする。
「……んんっ、私の話はこれくらいにしとこっか。通路自体は一直線だから、迷うことはないと思うけど……」
「有紀の話、正直俺らついていけねーんだよ」
セイレイは困ったように話に割って入る。事実、セイレイ、クウリ、ホズミは魔災に巻き込まれた時は6歳であった為その辺りの事情は理解できないのだ。
noiseは困ったように空笑いした。
「あはは、ごめんごめん。というか配信中はその呼び名止めよう……?」
「あ、それもそうか。悪いなnoise」
noiseの指摘に、慌ててセイレイは彼女への呼び名を正す。
「まあいいけどさ……雨天ちゃん以来だね、ボスが最初から分かってるのって」
[私は四天王だったですもん]
少し得意げな口調のコメントと共に、ドローンは勇者一行の前にふわりと躍り出た。
「戦う前からグダグダだったけどね」
[う、うるさいですね……]
クウリが思わずそう呟くと、雨天はむくれたようなコメントを流す。それから、そそくさと再び勇者一行の後ろに戻った。
しばらく勇者一行はそんな雑談を交わしつつも、慎重に進む。
そんな中、noiseはセイレイ達に目配せして突然身構えた。
「……気を付けて。殺気を感じる」
「分かった……俺とクウリが前に出る、ホズミは後ろで待機」
「うんっ」
「任せて」
セイレイの指示に素早くクウリとホズミは陣形を入れ替える。
クウリは大鎌を、ホズミは青色の宝玉を飾り付けた両手杖を顕現させた。
徐々に、アスファルトの地面が溶けだすように、波打ち始めた。
それは漆黒の闇のように影を生み出す。
「——来る!!」
noiseはより一層深く身構える。
漆黒の闇から、徐々に人のシルエットのような姿が生み出された。身体に闇を纏ったシルエットから、徐々にその衣が剥がれていく。
やがて顕現した姿を見たセイレイは、目を丸くした。
「……何だ、こいつ……?」
漆黒の警備服を身に纏った、まるで表情の読むことが出来ない、警棒を構えたガードマンが何体も地面より生み出されていく。
大抵は細身の体格をしているが、中にはホブゴブリンを思い起こさせるような筋肉隆々の大柄な者も存在した。
「僕達を侵入者って捉えたのかな……」
身構えながらそう呟くクウリに、ホズミは同調する。
「だろうね。さすが元一ノ瀬さん、センスが安直」
「ねえちょっと。なんでさらっと私をディスってるの」
「ほら、来るよ。前見て前」
「……後で覚えといてね」
noiseはそう恨み言をぼやきながら、腰に携えた短剣を引き抜く。
その動作を待っていたかのよぅに、細身のガードマンは低く警棒を構えて駆け出した。
『——侵入者、排除』
「随分なお出迎え、どうもっ!!」
ガードマンが突き出す一撃を、noiseは紙一重でひらりと躱した。すかさず逆手に持ち替えた刃をガードマンの首元に深々と突き刺す。
瞬く間にその場に崩れ落ちるガードマン。やがて、その漆黒の身体は再び闇夜に溶けるように、その場から消え去った。
「敵数23体、うち強化個体は2体。総支援額46500円っ!!」
配信画面に流れるコメント欄から読み取った情報を、ホズミは的確に伝えていく。
その報告にnoiseは「ありがとう!」と言葉を返し敵陣へと駆け抜けていった。
noiseに続くようにして、セイレイとクウリも駆け出す。
「スパチャブースト”青”!!」
[セイレイ:五秒間跳躍力倍加]
すかさず宣告したセイレイの両脚に、淡く青い光が纏い始めた。それと同時にセイレイは低く敵陣へと跳躍。一気に距離を縮めた彼は、瞬く間にガードマンへと斬りかかる。
「ぜあああああっ!!」
その姿は鬼神の如く。noiseと共に、運動神経に任せ、ファルシオンの素早い一撃を幾度となくガードマンに叩き込む。
もちろん、クウリも負けてはいない。
「皆には、傷一つ付けさせはしないっ」
クウリが振るう大鎌が生み出す一閃と共に、次から次にガードマンが吹き飛ばされた。次から次に零れていく闇の欠片が、セイレイ達を中心に舞い上がる。
『侵入者。直ちに排除すべきと判断。迎撃モード、起動』
セイレイ達が幾度となく斬り飛ばすガードマン。そんな中、筋肉隆々の強化個体であるガードマンはゆっくりと動き始めた。
ゆったりとした動作で、その巨大な腕を振り上げる。
嫌な予感を感じ取ったホズミは青色の杖に魔石をセットし、すかさずその杖先をガードマンの腕へと向けた。
「——っ、放てぇっ!」
[ホズミ:氷弾]
[ホズミちゃん。氷弾で3000円消費っ!!]
瞬く間に、ホズミの杖先から鋭い弾丸の如く氷の礫が射出される。
それは、強化個体のガードマンの両手に直撃し、瞬く間にその部分を中心として腕が凍り付き始めた。
——だが、それでも止まりはしない。
そのガードマンの視線の先に居るのは、セイレイ。
「セイレイ君っ!!」
「ホズミ、どうした——っ!?」
すかさずホズミはセイレイに警戒を呼び掛けるが、間に合わなかった。
ガードマンが凍り付いた腕ごとアスファルトに叩きつけた一撃。そのインパクトは、瞬く間に衝撃波を生み出してセイレイへと襲い掛かる。
激しく舞い上がる礫と、衝撃波が瞬く間にセイレイを飲み込んでいく——。
To Be Continued……
総支援額:43000円
[スパチャブースト消費額]
青:500円
緑:3000円
黄:20000円
【ダンジョン配信メンバー一覧】
①セイレイ
青:五秒間跳躍力倍加
両脚に淡く、青い光を纏い高く跳躍する。一度に距離を縮めることに活用する他、蹴り技に転用することも可能。
緑:自動回復
全身を緑色の光が覆う。死亡状態からの復活が可能である他、その手に触れたものにも同様の効果を付与する。
黄:雷纏
全身を青白い雷が纏う。攻撃力・移動速度が大幅に向上する他、攻撃に雷属性を付与する。
②クウリ
青:浮遊
特定のアイテム等を空中に留めることができる。人間は対象外。
緑:衝風
クウリを中心に、大きく風を舞い上げる。相手を吹き飛ばしたり、浮遊と合わせて広範囲攻撃に転用することも出来る。
黄:風纏
クウリの全身を吹き荒ぶ風が纏う。そのまま敵を攻撃すると、大きく吹き飛ばすことが可能。
③ホズミ
青:煙幕
ホズミを中心に、灰色の煙幕を張る。相手の視界を奪うことが出来るが、味方の視界をも奪うというデメリットを持つ。
緑:障壁展開
ホズミを中心に、緑色の障壁を張る。強固なバリアであるが、近くに味方がいる時にしか恩恵にあやかることが出来ない為、使用には注意が必要。
黄:身体能力強化
一時的にホズミの身体能力が強化される。攻撃力・移動能力・防御力が大幅に上昇する他、魔法も変化する。
魔法
:炎弾
ホズミの持つ両手杖から鋭い矢の如き炎を打ち出す。
一度の炎弾で3000円と魔石一つを使用する。火力は高いが、無駄遣いは出来ない。
:マグマの杖(身体能力強化時のみ使用可)
地面に突き立てた杖から、マグマの奔流が襲いかかる。ホズミの意思で操作可能。
一度の使用で10000円と魔石一つを使用する。高火力であるが、スパチャブーストの使用が前提であり、コストが高い。
:氷弾
青色の杖に持ち替えた際に使用可能。氷の礫を射出し、直撃した部分から相手を凍らせることが出来る。
炎弾と同様に、3000円と魔石一つを使用。
④noise
青:影移動
影に潜り込み、敵の背後に回り込むことが出来る。また、地中に隠れた敵への攻撃も可能。
緑:金色の盾
左手に金色の盾を生み出す。その盾で直接攻撃を受け止めた際、光の蔦が相手をすかさず拘束する。
ドローン操作:雨天 水萌
[サポートスキル一覧]
・なし
[アカウント権限貸与]
・消費額20000円
・純水の障壁
・クラーケンによる触手攻撃




