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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
⑤高級住宅街ダンジョン編
150/322

【第七十四話(1)】覚悟の光から始まるLive配信(前編)

【登場人物一覧】

瀬川(せがわ) 怜輝(れいき)

配信名:セイレイ

役職:勇者

勇者としての自覚を胸に、日々困難と立ち向かう少年。

責任感が強く、皆を導く役割を担う。

前園(まえぞの) 穂澄(ほずみ)

配信名:ホズミ

役職:魔法使い

瀬川 怜輝の幼馴染。かつて瀬川に命を救われたことから、強く恋情を抱いている。

気弱だった彼女も、いつしか芯のある女性へと成長していた。

一ノ瀬 有紀(いちのせ ゆき)

配信名:noise

役職:盗賊

元男性としての過去を持つ女性。卓越した洞察力と、経験から勇者一行をサポートする。

どこか他人に対して負い目を感じることが多いのか、よく他人と距離を取ろうとする。

青菜 空莉(あおな くうり)

配信名:クウリ

役職:戦士

心優しき少年。魔災以降、直近までの記憶が無く自分がどのように生き抜いてきたのかを覚えていない。

雨天 水萌(うてん みなも)

元四天王の少女。寂しがりであり、よく瀬川に引っ付いている。

「有紀姉ってさ、男の人だった時ってどうだったの?」

 一ノ瀬の実家へと向かう最中、ふと青菜はそんな言葉を発した。

 しかし、そう思っていたのは青菜だけではなかったのだろう。仲間達は一ノ瀬の返す言葉を期待するように、一同に視線を向ける。

「……そうだね。どうせ、昔の自分とは向き合わなきゃダメなんだよね。皆前に進んでるのに、私だけ過去に縋り続けるわけには行かない、か」

 躊躇いを見せつつも、覚悟を決めたように一ノ瀬は頷いた。

「分かった。私さ、昔から、かな。自分自身に価値が無いって思ってたの」

「自分に価値が無い?」

 青菜の鸚鵡返(おうむがえ)しに対し、一ノ瀬は「そう」と返事する。

「今になって考えれば家柄もあったのかなって思うけど。ずっと、”強者で居なきゃ自分に存在意義はない”って思っててさ。皆に気づかれないように陰で勉強して、傍から見たら”才能ある一ノ瀬”に見えるように頑張ってた」

「それが、魔災が起きてから……俺達と出会った時もそうだったんだな」

「セイレイの言うとおりだよ。”冷酷で、自分の事しか考えていない外道”としての私を演じようとしたんだ。まさかあんなにあっさりボロが出るとは思わなかったけどね」

 そう言って、一ノ瀬は自嘲の笑みを零す。

 ぐるりと周りを見渡せば、桜の樹根が家屋を著しく破壊しつくした世界が広がっている。

 どこに誰が住んでいたのか。元の部屋は何だったのか。そうした一つ一つの要素が、何もかも分からないほどのひび割れた世界が広がっていた。

 崩壊しつくされた景色を見渡しながら、一ノ瀬は寂しそうに呟く。

「誰にも近づきたくなかったんだ。ただ嫌われて、離れてしまいたかった。何かを失ってしまうくらいなら、これ以上誰とも……関わりたくなかった」

 胸の奥が締め付けられるような感覚を一ノ瀬は覚える。

 その言葉を発する彼女の声音は震えていた。それは、後悔によるものだったのか、込み上げる感情に伴ってのものか、一ノ瀬自身にさえ分からなかった。

「分かってたよ」

 前園は一ノ瀬の独白に、苦笑を漏らす。

「穂澄ちゃんは、最初から見透かしてたもんね」

「うん。本当に他人と関わりたくないって言うのなら、あのままセイレイ君を見殺しにしてたはずでしょ。でも、一ノ瀬さんは放っておかなかった」

「……」

「正直さ、嬉しかった。さっき有紀さんが自分の感情を曝け出してくれて。だから私も、感情を抑え込まずにぶつけようって思えたの」

 それから、前園は一ノ瀬の両手をぎゅっと掴む。ほんのりと温かい前園の手が、冷え切った一ノ瀬の手を、心を温めていく。

「私……ううん、私達はちゃんと有紀さんの良さを分かってる。いつも他人の為に一生懸命で、ちょっとやりすぎちゃうくらい頑張り屋さんな有紀さんの事を」

「……穂澄ちゃん」

「目に見える部分だけじゃない。私達は、有紀さんの色んな一面を分かってるよ。だから、今まで一緒に歩んでこれたの」

 温かい想いが、一ノ瀬に伝わっていく。

 氷のように冷え切っていた、忘れていた感情が一ノ瀬に本心を呼び覚まさせる。

 気づけば、一ノ瀬の頬を涙が伝っていた。

「……っ。私……ほんとは、皆と、このまま一緒に居たい……っ。大好きなんだ、皆の事が。こんな私に居場所を作ってくれた、皆の事が……」

「うん。何度だって聞く。何度だって話そうよ。何度だって、私達で、皆の抱えた世界を救うんだ」

「ありがと……本当に、ありがと……」

 何度も、一ノ瀬は感謝の言葉を零す。

 何度も、何度も。伝えきれないほどの感謝が一ノ瀬から溢れていく。


「……」

 その時、前園は感じ取っていた。

 一ノ瀬の中に生まれた微かな希望の光。それが、徐々に大きく広がっていくのを。

「……大丈夫だよ、有紀さん。置いて行かないよ、絶対に」

 前園はあえて、彼女に言葉の真意が伝わらないようにそう言った。


★★★☆


 一ノ瀬の家へと続く住宅街の一角。

 そこに作られた公園内には、退屈そうに待っているブレザーを来た少年がいた。

 彼はちらりと勇者一行に視線を送る。

「思ったよりも早かったな」

 男性だった頃の一ノ瀬 有紀——改め、anotherはブロック塀の壁にもたれかかりながらそう答えた。

 彼は一ノ瀬の顔を見て、関心深そうに目を見開く。

「一ノ瀬。良い顔をしているな……そうだ、覚悟に満ちた顔をしている」

「もう、私は見失わない。大切なことを教えてくれたから。そして、そんな皆が受け入れてくれたのは、間違いなく女性の私なんだ」

「……つまり、お前は女性として生きるというんだな」

「うん。本当に、ごめん」

「謝ることはない……さて、俺も支度するか」

 そう言って、anotherはブロック塀を蹴って姿勢を正す。

 じっと一ノ瀬の家へと続く住宅街を見据えながら、言葉を続けた。

「この先は、”ダンジョン”と同じように魔物が現れるように俺が設計した。俺だって、消えるわけには行かないんだ」

「……いいよ。分かった」

「俺がお前らに勝った時……一ノ瀬。お前のその姿を奪い取ってやる。覚悟しておけよ」

 anotherはその言葉を最後に、再び金色のカブトムシの姿となって空へと消え去った。


 遠くへと消えゆくその姿を見送ってから、一ノ瀬は仲間達へと振り返る。

「ありがとうね、私のわがままに付き合ってくれて」

「まあ、俺らにもメリットのあることだからな」

 瀬川はどこか照れくさそうに頬を掻く。

「実際、有紀の家に行けば、有紀の親父さんが働いていた会社名が分かるかもしれねえんだ。そうすれば、より魔災の原因に近づくことが出来る」

「……そうでなくても、みーちゃんや紺ちゃん……白のドローンの中身である女の子に近づくことが出来るから?」

 確認を取るように一ノ瀬がそう尋ねると、瀬川はコクリと頷いた。

「ああ。どれも、世界を救うことに直結した情報だからな」

「まさか、自分自身が世界のキーパーソンだったなんてね……」

「ま、知らぬは亭主ばかりなり、ってな」

「私、女なんだけどなあ」

「ははっ、言葉の綾だよ」

 不服そうに口を尖らせる一ノ瀬に対し、瀬川はあっけらかんと笑った。

 そんな彼らの傍らで、雨天は大切そうに白のドローンを抱きかかえている。

「穂澄ちゃんが、コミュニティに告知してくれてますっ。配信までに、準備するなら今のうちですよっ」

 雨天の言葉に、勇者一行のリーダーである瀬川は顎に手を当てる。

「そうだな。少しだけanotherとの決戦について考えるか……有紀。お前はどうしたい?」

 瀬川の言葉に、一ノ瀬は強く頷く。

「私は、自分の想いをぶつけたい。最初は、私一人で戦わせて。どうしても厳しそうだったら、手伝って欲しい」

「素直でよろしい」

「茶化さないで欲しいなあ」

 困ったようにぼやく一ノ瀬。そんな傍らで、青菜は首を傾げていた。

「そう言えば、有紀兄……anotherは、住宅街そのものがダンジョンになってるって言ってたよね。問題は、魔物の強さ、だけど……」

「ん?住宅街ならそれほど需要は少ないんじゃないか?だとしたら手ごわい魔物はいないはずだろ」

「だよね、僕もそう思う……有紀姉。どうかな」

 青菜はそう言って一ノ瀬に視線を向けた。だが、一ノ瀬は複雑な表情で首を横に振る。

「案外、そうはいかないかもしれない。ちょっと前に行ったように、ここは高級住宅街なんだ」

「……つまり、どういうこと、ですか?」

 雨天は意味が分からないようで首を傾げた。

「私のお父さんみたいな、大企業の重役。弁護士、医者のような、社会的価値が高い職種の人達が住んでたんだよ。私がその考えに辿り着くんだ、元は私自身のanotherも分かってるはず」

「なんだか、お金が集まるかどうかでダンジョンの難しさが決まってるみたいでちょっと嫌ですね……」

 一ノ瀬の考察に、雨天はげんなりしたように項垂れる。

 しかし、雨天の考えは否定できないようで一ノ瀬は苦笑いを零す。

「実際、そうかもね。スパチャが力を与える世界だもん」

「うぇー……なんだか、複雑な心境です……」

「まあ意識するに越したことはないだろうね」


 彼らがダンジョン攻略に関して己の見解をぶつけ合っている中、前園はパソコンを抱えてやってきた。

「告知終えたよ。これから戦う相手が男だった頃の有紀さんだってことも伝えた」

「ありがとう、穂澄ちゃん。根回しが早くて助かるよ」

「予め伝えといた方がスムーズだからね。さて、後は私達の準備だけ。皆は支度できてる?」

「私達は大丈夫。穂澄ちゃんは?」

 一ノ瀬の問いかけに、前園は苦笑を漏らしながら答えた。

「うん。私も大丈夫だよ。じゃあ、始める?」

「そうしよっか。お願いできる?」

 その言葉に、前園はパソコンをベンチの上に置いて操作を始める。

「わっ」

 次の瞬間には、雨天が驚いた声を漏らすと共に、光の粒子と掻き消えた。瞬く間に、その光の粒子はドローンへと吸い込まれていく。

 ふわりとひとりでに浮かび上がったドローンが描くホログラムから、雨天が送るコメントが流れる。

[もー、唐突に始めないでくださいよぅ。びっくりしたじゃないですかっ]

「あははっ、ごめん」

[ま。いいですけど……じゃあ、今回は一ノ瀬さんが主役なので、いつもの掛け声お願いしますっ]

 ドローンのカメラは、続いて一ノ瀬の方へと向けられる。

 雨天含めた視聴者の期待に応えるように、一ノ瀬は真っすぐな目をして住宅街へと視線を向けた。


「うん。始めるよ。私達の"Live配信"を」


To Be Continued……

【開放スキル一覧】

・セイレイ:

 青:五秒間跳躍力倍加

 緑:自動回復

 黄:雷纏

・ホズミ

 青:煙幕

 緑:障壁展開

 黄:身体能力強化

・noise

 青:影移動

 緑:金色の盾

・クウリ

 青:浮遊

 緑:衝風

 黄:風纏

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