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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
⑤高級住宅街ダンジョン編
148/322

【第七十二話(2)】ずるい大人(後編)

【登場人物一覧】

瀬川(せがわ) 怜輝(れいき)

配信名:セイレイ

役職:勇者

勇者としての自覚を胸に、日々困難と立ち向かう少年。

責任感が強く、皆を導く役割を担う。

前園(まえぞの) 穂澄(ほずみ)

配信名:ホズミ

役職:魔法使い

瀬川 怜輝の幼馴染。かつて瀬川に命を救われたことから、強く恋情を抱いている。

気弱だった彼女も、いつしか芯のある女性へと成長していた。

一ノ瀬 有紀(いちのせ ゆき)

配信名:noise

役職:盗賊

元男性としての過去を持つ女性。卓越した洞察力と、経験から勇者一行をサポートする。

どこか他人に対して負い目を感じることが多いのか、よく他人と距離を取ろうとする。

青菜 空莉(あおな くうり)

配信名:クウリ

役職:戦士

心優しき少年。魔災以降、直近までの記憶が無く自分がどのように生き抜いてきたのかを覚えていない。

雨天 水萌(うてん みなも)

元四天王の少女。寂しがりであり、よく瀬川に引っ付いている。

「有紀姉さ、君が僕に教えてくれたことなんだよ」

 青菜はぽつりと、目を伏せて寂しげにつぶやく。

 一ノ瀬は、前園の頭を撫でたまま彼に視線を向けた。

「……青菜君」

「有紀姉を始めとした皆の言葉で、僕は現状に縋らずに前に進もうって思えたんだよ……。そんな大切なことを教えてくれた有紀姉が現実から逃げてどうするのさ」

「……それは」

 青菜は自身のズボンの裾を強く握り、感情を押し殺しながら言葉を続ける。

「一人じゃ無理だから。皆で悩んで、考えて。お互いに支え合うからこそ、僕達は勇者パーティじゃないの?」

「……こんな、惨めな感情を抱えた私なのに。それでも仲間だって本当に言えるの?」

「言えるよ。ちゃんと、僕の言葉を聞いてくれる。不安な想いも、何もかも否定せずに受け止めてくれる。そんな当たり前で、簡単なことが、どれだけ難しいか。どれだけそんな人が貴重なのか。水萌ちゃんの過去を見て、何も思わない有紀姉じゃないでしょ」

 一ノ瀬はちらりと雨天へと視線を送る。

 雨天は、青菜の言葉に泣きそうな表情を浮かべていた。涙に濡れた瞳を誤魔化すように、何度も目元を拭って青菜から言葉のバトンを受け取る。

「……あの私の過去を見た上、での話ですよね。辛いこと、苦しいことから目を逸らさない、というのは私一人では無理でした。沢山、逃げようとしました。でも。皆の言葉で気づいたんです。私も、ただ私の話を聞いてくれる人が欲しかっただけでした……一ノ瀬さんならもう、分かってるんじゃないですか?」

「……うん。そう。私は、自分の言葉を聞いてくれる、皆に構って欲しかっただけだよ。いい歳した大人が、カッコ悪いでしょ?」

 自嘲の笑みを浮かべながら、一ノ瀬は本心を曝け出した。

 彼女の言葉を聞いた瀬川はどこかばつが悪そうに、頭を掻く。

「あー……話が聞こえてたっつう穂澄から聞いたんだがよ……。姉ちゃん、一番最初に俺を助けてくれた時さ、剣を渡してくれただろ」

「……うん」

「センセー……魔王セージからそのことについて、”一緒に戦ってくれる仲間が欲しかったんだろ”って指摘されたそうだな」

「……っ」

 再びその指摘をされるとは思わなかったのだろう。一ノ瀬は固唾を飲んで、瀬川の言葉の続きを待つ。

「俺さ、姉ちゃんの事を確かに姉のようには感じてるよ。でも、実の姉貴と同等だとは思ってない。それは変わんねぇ」

「だよね、それは分かってる。だから、結局私は何者にもなれないんだ……だから、noiseなんだよ……」

「いや、なんでそう言う方向に話が行くんだよ」

 瀬川は思わず苦笑を漏らした。それから、何か葛藤するように逡巡した様子を見せる。

「……まあ、これは俺の問題でもある、か……なんだ、あー……」

「……?」

 一体何に葛藤することがあるというのだろう。

 一ノ瀬は彼の胸中を理解できず、続く言葉を待つ。


「……だからさ、もう少し自分自身に価値があるんだって理解しろって話だよ……()()

「っ……!!」

 その呼び名に、一ノ瀬だけでなく全員が瀬川の方向を振り向いた。

 気づけば、瀬川は照れくさそうにはにかんで、仲間達から目を逸らす。

「や、やっぱ照れくさいなこれ。ずっと姉ちゃんって呼んでたから、違和感ある」

「……セイレイ」

「変に距離感ある呼び名だったから、あー……有紀も、距離を作っちまったんだろ。これはリーダーとしての俺の責任だ、すまん」

 瀬川は申し訳なさそうに、深々と一ノ瀬に頭を下げた。

「……ふふっ」

 そんな健気な瀬川の姿に、思わず一ノ瀬は笑みを零す。

「……なんだよ。せっかく人が恥ずかしいの我慢してるのに」

「いや、本当にセイレイはすごいなってさ」

「あー、もう、聞こえねーっ!ほら、調子戻ったなら行くぞ有紀っ」

 半ばやけくそに、瀬川はそっぽを向いてずかずかと一人先に進む。

 呆気に取られた一ノ瀬は、それから微笑みを零した。

「……本当に、セイレイは勇者だよ。まぎれもない、皆に希望をもたらす勇者だよ」

 ふと、そんな時。

 一ノ瀬はじっと前園が表情の読めない目で見ていることに気づいた。

「……穂澄ちゃん?」

「ライバル……?」

「違うから。違うから」

「冗談だよ」

 前園は一ノ瀬の身体から離れ、すくりと立ち上がる。

 それから、座り込んだままの一ノ瀬を見下ろしながら語り掛けた。

「とりあえず。全部話してもらうよ、一ノ瀬さん……いや、有紀さんの抱えてるもの全部」

「穂澄ちゃんまで……」

「居場所を作るのが私の役割だからね。魔災に関係することが分かるし、なおかつ有紀さんの持つ力が開花するかもしれないんだから……一石二鳥でしょ?ねっ」

 前園はにこりと、いたずら染みた笑みを浮かべた。

 一ノ瀬はゆっくりと立ち上がり、彼女と肩を並べる。

「いつの間にか、穂澄ちゃんも大人になったね。置いてかれちゃった」

「私もちゃんとしなきゃ、セイレイ君と対等でいられないでしょ?」

「本当に大好きなんだね、セイレイのことが」

「当たり前でしょっ」

「……でも、穂澄ちゃん人の事ペラペラ喋りすぎ。私達だから良いけどさ」

「……それはごめん」


 青菜と雨天は、どこか置いてけぼりを食らったとばかりにぽつんと立っていた。

 お互いに顔を見合わせて、互いに苦笑いを零す。

「結局セーちゃんが全部持って行っちゃったね」

「さすがセイレイ君……」

「僕達の役割って何だと思う……?」

「賑やかし担当、ですね……」

「あはは」

「えへへ」

 互いに作ったような笑いを交わした後、青菜は途端に真面目な顔を作った。

「ま。そんな冗談は置いといて。金色のカブトムシって何?」

 その問いかけに、雨天はきょとんと首を傾げながら言葉を返す。

「今さっき、一ノ瀬さんのところを飛んでいきましたよ」

「……見逃したなあ。ちょっと興味あるから、後でゆっくりと教えてよ」

「承知しましたっ」

 雨天は小柄な体で可愛らしく敬礼のポーズを作った後、先へと進む瀬川達に続いた。


To Be Continued……

【開放スキル一覧】

・セイレイ:

 青:五秒間跳躍力倍加

 緑:自動回復

 黄:雷纏

・ホズミ

 青:煙幕

 緑:障壁展開

 黄:身体能力強化

・noise

 青:影移動

 緑:金色の盾

・クウリ

 青:浮遊

 緑:衝風

 黄:風纏

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