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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
⑤高級住宅街ダンジョン編
145/322

【第七十一話(1)】姉として(前編)

【登場人物一覧】

瀬川(せがわ) 怜輝(れいき)

配信名:セイレイ

役職:勇者

勇者としての自覚を胸に、日々困難と立ち向かう少年。

責任感が強く、皆を導く役割を担う。

前園(まえぞの) 穂澄(ほずみ)

配信名:ホズミ

役職:魔法使い

瀬川 怜輝の幼馴染。かつて瀬川に命を救われたことから、強く恋情を抱いている。

気弱だった彼女も、いつしか芯のある女性へと成長していた。

一ノ瀬 有紀(いちのせ ゆき)

配信名:noise

役職:盗賊

元男性としての過去を持つ女性。卓越した洞察力と、経験から勇者一行をサポートする。

どこか他人に対して負い目を感じることが多いのか、よく他人と距離を取ろうとする。

青菜 空莉(あおな くうり)

配信名:クウリ

役職:戦士

心優しき少年。魔災以降、直近までの記憶が無く自分がどのように生き抜いてきたのかを覚えていない。

雨天 水萌(うてん みなも)

元四天王の少女。寂しがりであり、よく瀬川に引っ付いている。

「そういや、塔出高校、か?それってどこにあるんだ?」

 瀬川はふと思い立ったように一ノ瀬に問いかける。

 一ノ瀬はぐるりと周囲を見渡した後、視線の先を前園に向けた。

「穂澄ちゃん。ドローンで周辺見てもらってもいい?」

「うん、いいよ」

 こくりと頷いた前園。続いて瓦礫の上にぺたりと座り込み、背負ったリュックサックから白のドローンとパソコンを取り出す。彼女の流れるようなタイピングに伴って、ゆっくりとドローンは浮かび上がった。

 そのドローンは瓦礫の中を器用に通り抜け、やがて空高く浮上。勇者一行は揃って、前園が操作するドローンを介した映像を覗き込む。

「一ノ瀬さん、どうかな」

「……少し見覚えのある建物が見えてきたかな……多分方向的には、そっちの方向……うん、そうそう」

「分かった。見覚えのある建物があったら教えて……ん?」

 画面の中に映り込んだものに、前園は眉をひそめた。

「ねえ。これ、何だと思う?」

「どうしたのホズちゃん……なにこれ。バグ?」

「いや、それは無いと思うけど……」

 前園が指差した、ドローンが映し出す景色。住宅街の中に、明らかに大きく歪んだ物体が映し出される。

 正確には、ある一つの住宅のシルエットのみが大きく乱れていた。

 時々元の家の姿に戻っては、再びノイズが走り、そのシルエットを崩していく。

「何だ、これ……」

 明確な異質に、瀬川含めた面々は動揺を隠すことが出来ない。

 しかし、一ノ瀬はその住宅に見覚えがあるようだった。目を見開き、ぽつりと呟く。

「……私の、家の方向だ……」

「え?」

 瀬川は思わず彼女の呟きを聞き返す。

 一ノ瀬は冷静さを保つ為、大きく深呼吸を行った後にもう一度言葉を発した。


「その大きく乱れたシルエットの家。多分、私の過ごしていた住宅街……いや、確実に私の家かな」

「——っ」

 一ノ瀬が発した言葉に、瀬川は思わず息を呑んだ。

 だが、その言葉を聞いた雨天はきょとんとした様子で一ノ瀬に尋ねる。

「ん、一ノ瀬さんの家の周り。なんか大きな家多くないですっ?」

 雨天の質問に、一ノ瀬は歯切れ悪く答えた。

「あ、えーっと……お金持ちが多いから、かな。高級住宅街だったんだ、あの辺りは」

「……もしかして、一ノ瀬さんも、お金持ち、ですか?」

「……っ」

 おずおずと尋ねた雨天に対し、一ノ瀬は静かに頷いた。

「あ。そうだったん、ですねっ」

 彼女が語った新たな一面。だが、前園はどこか納得したように頷く。

「まあ。あの毅然とした立ち振る舞いは、一般の家庭で育っていたらそう身に付くものではないよね」

「別に隠すつもりはなかったんだけどね。あんまり話すことでもないしと思って……」

「ちなみに、お父さんが働いていたところはどんな企業だったのかは聞いてる?」

 言い訳がましく口ごもる一ノ瀬の言葉を遮り、前園は質問を繰り出す。

 一ノ瀬は記憶をたどるように空を仰いだ後、ちらりと瀬川の方を見ながら答えた。

「確か、IT企業だったと思う。詳しくは私も聞いてないけど、人工知能を研究してる、と言う話は聞いたかな……」

「……人工知能」

 瀬川は、一ノ瀬の言葉を飲み込むように反芻した。

 全世界の前提を大きく変えてしまった魔災を引き起こした原因の一環である、人工知能の暴走。そして、人工知能を研究していた企業に勤めていた父を持つ、一ノ瀬の女性化。

 ホログラムが大きく関与する世界の中で、それらが全くの無関係とは考えられなかった。

 同じ推測に一ノ瀬も辿り着いたのだろう。自身が発した言葉にハッとしたように、目を丸くする。

「……そっか。もしかしたら、魔災の更なる真相に近づけるかもしれないんだ……」

「ああ。もし、俺の親父とさ、姉ちゃんの親父さんがいた企業が同じなら。無関係とは言えない」

「……でも。それは……」

 一ノ瀬はそうぽつりと呟いた後、言葉を続けることなく力なく俯いた。

 その彼女の胸中を悟った瀬川は、気遣うように彼女の肩を優しく叩く。

「……気を悪くさせた。ごめん。自分の父親が、こんな世界を生み出した原因の一人かもしれないって言われて、嫌だよな」

「私のお父さん、割と大事なポジションに居たから……もっと、魔災に関わってるかもしれないって思うとさ……」

「……そう……っ!?」

 その瞬間だった。


「——っ、ぐ!?」

 突如として、瀬川は眩暈がしたかのように頭を押さえ始めた。

「セイレイっ!?」

「セイレイ君っ!」

「セーちゃんっ、大丈夫!?」

 仲間達が瀬川を気遣い、懸命に寄り添う。

 前園はドローン回収の為、パソコンから手を離すことが出来ない。もどかしそうに何度も瀬川の方向を見ながら問いかける。

「セイレイ君っ、大丈夫?」

「何っだ、これ……っ映像が……!!」

 その言葉と共に、瀬川の意識はブラックアウトした。


----


 俺の脳裏に、支配されたような、ジャミングされた思考が走る。

 遠くから、誰かの声が聞こえる。慌ただしく、様々な人々の声が錯綜しているのがどこか遠くから響くようだ。


『まだ、————は試験段階。何が起こるか分からないんですよ!?』

 白衣を身に纏った研究員と思われる男が叫んでいる声が聞こえる。

『今この————ないと、————は死んでしまう!命を救うことが出来るのなら、俺はやる』

『でも……!!』

『——は、”希望の種”なんだ。もし————。その為にも——』


 ——希望の種。

 この声は、追憶のホログラムで見た親父の声と同じだろうか。確かに、今。そう言った。

 モニターの音が響く。アラームの音が鳴り止まない。

 ワゴンを忙しなく動かす音が何度も響く。

 音の一つ一つに、総合病院ダンジョンで見た追憶のホログラムの景色が思いだされた。

『怜輝。死ぬな!!』

 親父と思われる声が、懸命に俺を呼びかけている。

 そんな中、一人の足音が存在感を放ちながら鳴り響いた。


『——私が、手を貸そう』

 現れたのは、ブカブカの白衣を身にまとった十もいかぬような幼い少女だった。だが、年齢とは裏腹に大人びた風貌を醸し出している。

『沙羅。お前、一体いつから……』

 親父の茫然とした声が聞こえる。対して、沙羅と呼ばれた女性は『くくっ』と怪しげに笑った。

『なに。可愛い弟が死ぬかもしれないんだ。お姉ちゃんとして、命を助けるのは当然の事だろう?』


 ……姉貴?


----


「……レイ……セイレイっ!!」

 瀬川が目を開けると、眼前には心配そうにのぞき込む一ノ瀬の姿があった。

 ぱちくりと目を開けた瀬川。彼の無事を確認した一ノ瀬は思わず強く抱きしめる。

「良かった……急に意識を失ったんだよ……!?」

「……姉ちゃん……姉貴……」

 一ノ瀬に強く抱き締められながら、瀬川は記憶の中に描かれた映像を思い出す。

 それから、一ノ瀬の肩をポンと優しく叩いた。

「なあ、姉ちゃん。ちょっとスケッチブックを出してくれないか?」

「……セイレイ?どうしたの?」

「ちょっと、記憶が残っている内に描き留めておきたいんだ」

 彼の意図は理解できないまま、一ノ瀬は腰に巻いた”ふくろ”からスケッチブックと鉛筆を取り出した。

 「ありがとう」と瀬川は答え、すぐさま受け取ったスケッチブックに鉛筆を走らせ始める。

「……セイレイ君、何か思い出したの?」

 ドローンの回収を終えた前園は首を傾げ、瀬川に問いかけた。

 瀬川は記憶を頼りに懸命にデッサンを続けながら答える。

「ああ。どんな巡り合わせなのかは分からない。ただ、俺の実の姉貴……瀬川 沙羅(せがわ さら)もこの世界に関係しているかもしれないんだ……」

 ちらりと一ノ瀬に視線を送った後、瀬川は再びスケッチブックに視線を落とす。

 かつて、”将来ネット配信をしよう”と誓い合った記憶のある姉。

 かつて、業火の中に命を落としたはずの姉。


「どんな巡り合わせなんだよ……くそっ。くそっ……なんで、このタイミングで思い出すんだよ……!」


To Be Continued……

【開放スキル一覧】

・セイレイ:

 青:五秒間跳躍力倍加

 緑:自動回復

 黄:雷纏

・ホズミ

 青:煙幕

 緑:障壁展開

 黄:身体能力強化

・noise

 青:影移動

 緑:金色の盾

・クウリ

 青:浮遊

 緑:衝風

 黄:風纏

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