表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
⑤高級住宅街ダンジョン編
144/322

【第七十話】金色のカブトムシ

【登場人物一覧】

瀬川(せがわ) 怜輝(れいき)

配信名:セイレイ

役職:勇者

勇者としての自覚を胸に、日々困難と立ち向かう少年。

責任感が強く、皆を導く役割を担う。

前園(まえぞの) 穂澄(ほずみ)

配信名:ホズミ

役職:魔法使い

瀬川 怜輝の幼馴染。かつて瀬川に命を救われたことから、強く恋情を抱いている。

気弱だった彼女も、いつしか芯のある女性へと成長していた。

一ノ瀬 有紀(いちのせ ゆき)

配信名:noise

役職:盗賊

元男性としての過去を持つ女性。卓越した洞察力と、経験から勇者一行をサポートする。

どこか他人に対して負い目を感じることが多いのか、よく他人と距離を取ろうとする。

青菜 空莉(あおな くうり)

配信名:クウリ

役職:戦士

心優しき少年。魔災以降、直近までの記憶が無く自分がどのように生き抜いてきたのかを覚えていない。

雨天 水萌(うてん みなも)

元四天王の少女。寂しがりであり、よく瀬川に引っ付いている。

 一ノ瀬は、真剣に自身の話に耳を傾ける彼らに向けて問いかけた。

「ねえ。”金色のカブトムシ”の記事って見たことある?」

「……なんだそれ?初耳だ」

 その問いかけに、お互いに顔を見合わせる。しかし、彼女の質問を理解できないのか、皆して首を傾げた。

 しかし、そんな中雨天だけが手を上げて答える。

「はいはいっ。確か、街中で金色のカブトムシの目撃情報があった、って話ですよねっ」

「さすが雨天ちゃん、良く知ってるね」

「曲がりなりにもそう言う話は良く調べてたのでっ」

 一ノ瀬に褒められた雨天は、満足げに胸を反らした。

 得意げな彼女の様子に思わず笑みを零しながら、一ノ瀬は言葉を続ける。

「うん。ちょうどさ、それが私の住んでいる地域で見つかったって言うから。幼馴染の彼に提案されて出かけたんだよね」

「へえ、そんな話から切り出すってことは」

 勘の鋭い瀬川はその時点で話の方向性を察したらしい。

 瀬川の言葉に一ノ瀬は頷いた。

「そ、見つけたの。金色のカブトムシ……でも。そのタイミングで土砂崩れに巻き込まれてね。何かに掴まらないと、って懸命に腕を伸ばしたんだ。そしたら……」

「そしたら……?」

 瀬川は生唾を飲み込んで彼女の話の続きを見守る。

 しかし、一ノ瀬はふっと遠い目をした後にその言葉を発した。

「その勢いでさ……折っちゃったんだ。カブトムシの角」

「折っちゃったんですか」

「折っちゃった」

「ええ……」

 雨天は衝撃の結末に困惑を隠せないらしい。呆然とした表情を浮かべた後、がっくりと項垂れた。

「ロマンの塊が、折れちゃったなんて……」

 一先ずは、一ノ瀬はテンションの下がってしまった雨天を無視することにした。

「……話を続けるけどね。それがきっかけなのかは分からない。けど、その瞬間から私は今の身体になってた」

「……何で?」

「分かってたら苦労しないよ」

 前園は因果関係の分からない話に首を傾げる。しかし、当本人である一ノ瀬でさえも分からないのだから追及のしようが無かった。

「まあ。Sympassに登録してから、現実離れした現象ばかりだし。もしかしたらこの現象も解明できるんじゃないか、って思うけど」

「その話よりも、幼馴染君との話、話っ」

 調子の戻った雨天は、せっつくように話を促す。

 「はいはい」と一ノ瀬は雨天を宥めるように苦笑を漏らし、それから自身の幼馴染の話にシフトする。

「私がこの女性の身体になってから、周りの誰も私の事を認識してくれないし。総合病院のさ、追憶のホログラムでも見たでしょ?みーちゃんも私の事分からなかったの」

 一ノ瀬は、そう言って自身の胸元をポンと叩いた。

 瀬川も、彼女の言葉に納得して頷く。

「あー……そう言えばそうだったな」

「で。私が大変だったように、幼馴染の彼も大変だったんだ。あ、鶴山 真水(つるやま まみず)って言うんだけどね」

 ふと名前を言っていないことを思い出し、一ノ瀬は改めて自身の幼馴染の名前を発した。

「真水はね、事故の後遺症で脊髄をやってしまったらしくて、歩けなくなってたの」

「……そう、なんだ」

 突如語られる重い話に、青菜は困惑しながらも相槌を打つ。

 心配そうな瞳でじっと見つめる青菜に、一ノ瀬は思わず笑みを零した。

「青菜君、気にかけてくれてありがとう。で、そのことを負い目に感じたんだろうね。真水は私を遠ざけようとした。『僕は君の生きる道の障害になりたくない』ってさ」

「……友達想い、だったんだね」

「うん。今の皆と同じだよ……で、ここで問題。私は一体何をしようとしたでしょうかっ」

 しんみりした空気を切り替えるように、一ノ瀬はパンと両手を叩いた。

 瀬川達はお互いに顔を見合わせた後、困惑した様子で首を横に振る。

「まあ。姉ちゃんの親友としての熱意を伝えようとした……って訳じゃないよな」

「うん」

「あっ。諦めずにその鶴山君?のリハビリに寄り添った!とか」

「結果的にはそうだけど……」

 瀬川と青菜は各々回答するが、一ノ瀬は苦笑を漏らしながら両手で×の字を作った。


 そんな中、前園はどこか冷え切った目を向ける。

「セイレイ君。空莉君。考えてみてよ、いつも突拍子もない行動をする一ノ瀬さんだよ?そんな普通の行動をする訳ないじゃん」

「失礼だよホズちゃん……」

「大体憶測は付くよ。”女性に変わった自身の姿を手段として用いた”ってとこかな?頭の回る一ノ瀬さんが、その方法を思いつかないはずがない」

 前園の回答に、一ノ瀬は目を丸くした。

 自身の唇に手を当てながら、大きく深呼吸する。

「……穂澄ちゃん、正解」

「だよね。無理やりにでも心を繋ぎ止めようとしたんでしょ?私ならそうする」

「さすがだね。そう、私は真水にキスをしようとしたんだ」

 一ノ瀬がぽつりと語った回答を聞いた雨天は、思わず両手を口に当てた。

「わ、わ。一ノ瀬さん。大胆ですねっ。あわわっ」

「ま、止められたし怒られたけどね」

 どこか自嘲の混じった笑みを零す一ノ瀬。それから、大きく息を吐いた。

「あの時は咄嗟の行動だったけど。何だかさ、脳も女性に変わったのかな……その日から段々とさ、離れたくないって想いが強くなっていったんだよね」

 照れ笑いの混じった表情で一ノ瀬はそう語る。

 恥ずかしそうに彼らから目線を逸らす一ノ瀬の姿は、乙女そのものだった。

「もう、二度と会えないとしても。私の想い人はずっと変わらないと思う」

 徐々に一ノ瀬の瞳に涙が潤み始めた。それを誤魔化すように、彼女は空を仰ぐ。

「……会いたいな。夢の中で良いからさ、もう一回その姿を見たいよ……」

「いや、手段ならあるだろ」

「え?」

 一ノ瀬の言葉に、なんてことのないように瀬川は答えた。

「追憶のホログラムだよ。どうせ姉ちゃんの存在自体がこの世界に関係してるのならさ、遅かれ早かれ心当たりのある所に行くべきだと思う」

「でも。私のわがままに付き合わせることになるよ?四天王の事も、魔王の事もあるのに……」

「船出も四天王の一人だからな。無関係ではないだろ」

「……う」

 反論の余地を見失った一ノ瀬は思わず口ごもる。

「姉ちゃんはわがままを抑え込みすぎなんだよ。”金色の盾”を発動した時さ、姉ちゃんなんて言ったよ」

「……それは」

「”俺達の時間を盗ませてほしい”だろ?存分に俺達の時間を使わせてやるからさ、行こうぜ。姉ちゃんの思い出の場所に……皆もそれでいいか?」

 勇者一行のリーダーとして、瀬川は改めて仲間に確認する。

 彼の意見に、前園も、青菜も、雨天も強く頷いた。

「実際、船出さんの事を知るヒントになるかもしれないからね。四天王との決戦を前に、と言う意味でも賛成」

「うん。秋城 紺ちゃんの事もあるし、それらが一本線で繋がっているのなら無視できないよ」

「私、見たいですっ。一ノ瀬さんの想い人がどんな人だったのかっ」


「……雨天ちゃんだけ、なんか違う気もするけど……ありがとうね。皆」

 自らのわがままを許してくれることに、一ノ瀬は嬉しそうに頷いた。

 それから、意を決したように口を開く。


「じゃあさ。寄り道していいかな。私が通っていた思い出の高校……”塔出高校”にさ」


To Be Continued……

【開放スキル一覧】

・セイレイ:

 青:五秒間跳躍力倍加

 緑:自動回復

 黄:雷纏

・ホズミ

 青:煙幕

 緑:障壁展開

 黄:身体能力強化

・noise

 青:影移動

 緑:金色の盾

・クウリ

 青:浮遊

 緑:衝風

 黄:風纏

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ