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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
⑤高級住宅街ダンジョン編
143/322

【第六十九話(2)】こんな毎日のままで(後編)

【登場人物一覧】

瀬川(せがわ) 怜輝(れいき)

配信名:セイレイ

役職:勇者

勇者としての自覚を胸に、日々困難と立ち向かう少年。

責任感が強く、皆を導く役割を担う。

前園(まえぞの) 穂澄(ほずみ)

配信名:ホズミ

役職:魔法使い

瀬川 怜輝の幼馴染。かつて瀬川に命を救われたことから、強く恋情を抱いている。

気弱だった彼女も、いつしか芯のある女性へと成長していた。

一ノ瀬 有紀(いちのせ ゆき)

配信名:noise

役職:盗賊

元男性としての過去を持つ女性。卓越した洞察力と、経験から勇者一行をサポートする。

どこか他人に対して負い目を感じることが多いのか、よく他人と距離を取ろうとする。

青菜 空莉(あおな くうり)

配信名:クウリ

役職:戦士

心優しき少年。魔災以降、直近までの記憶が無く自分がどのように生き抜いてきたのかを覚えていない。

雨天 水萌(うてん みなも)

元四天王の少女。寂しがりであり、よく瀬川に引っ付いている。

 ダンジョン配信を終えた勇者一行。彼らは、入り口でパソコンを片付けていた前園の元へと駆け寄った。

「はい、穂澄ちゃんどうぞっ」

「一ノ瀬さんありがとうっ」

 一ノ瀬から差し出された、青色の宝玉に飾られた両手杖を前園は受け取った。

 その持ち手の感覚を確かめるように、前園は何度も強く握っては緩め、を繰り返す。

「ちょっとセイレイ君、一回手を放してみるね」

「あ?あー、分かった」

 前園は杖を手放すと宣告する。瀬川は最初こそ、その意図を理解できなかったが瞬時に理解したようだ。

 すぐに両手杖の下に手を差し伸ばし、受け止める準備をした。

「落としまーす……よっと」

「おっ、消えた」

 前園が手放すのと連動して、両手杖はそのシルエットを光の粒子へと変えていく。やがて、光の粒子は大気に溶け込むように、その世界から存在を消した。

 瀬川は感心したように頷く。

「なるほどな、”同時持ち”も出来るのか……」

「そうかも、と思ってね。自由に杖の切り替えが出来るのなら戦術の幅がもっと広がるね」

 少し得意げに胸を反らす前園。それから、右手に力を籠めると光の粒子が逆再生のように集まり始めた。

 あっという間に光の粒子は両手杖の形を作り出し、今度は赤色の宝玉に飾られた杖を顕現させる。

 雨天はその光景に目を輝かせて食いついた。

「すごいですっ。穂澄ちゃん!火属性だけじゃなくて、氷属性まで使えるようになったんですねっ」

 だが、前園は困ったような苦笑いを浮かべる。

「私自身の能力じゃなくて、杖の能力だけどね……」

「でもでもでも。杖を扱えるのは穂澄ちゃんだけなのでっ。間違いなく穂澄ちゃんの能力ですよっ」

「そ、そうかな……?えへへ」

 褒められて悪い気はしないらしい。複雑そうだった前園の顔色が、あっという間に破顔する。


「ね、セーちゃん。スケッチブック見せてっ」

 そんな和やかな雰囲気を見せる女性陣の傍らで、青菜は瀬川にスケッチブックをせびった。

「ああ、ほらよ」

「ありがとうっ。わー……相変わらず、セーちゃんの描いた時の感情がにじみ出てるね」

 青菜は瀬川から受け取ったスケッチブックを早々に開き、そのような感想を漏らした。

 再び杖を虚空へとかき消した前園は、同様に青菜が開くスケッチブックをのぞき込む。

「わ、穂澄ちゃん近いよ」

「なーにっ、これくらい普通でしょ?」

 ぎょっとした顔で青菜は前園から距離を取るように仰け反る。

 そんな彼の態度が気に食わないのか、前園はむっとした表情を浮かべた。

「第一、空莉君はどこか距離感を感じるのよね?」

「そ、そんなことないと思うけど……」

 図星を突かれたと言わんばかりに、青菜は引きつった笑いを零す。

「いーやそんなことあるっ。確かに皆よりも加入時期遅いし、気まずいかもしれないけど、もっとぐいぐい来ても良いんだよ?雨天ちゃんを見習ってよー」

「ふぁい?」

 突然名指しされた雨天は、もそもそとスナック菓子を食べながら振り向いた。

 相変わらず小動物のような振る舞いをしている雨天へと前園は近づく。

「わっ、何、何っ」

 前園は迷わず雨天の脇に腕を差し入れ、抱きかかえた。

 困惑しながらも、持ち上げられた雨天はちらりと前園へ視線を向ける。

「ほらー、雨天ちゃんを見て?こーんな愛くるしい小動物みたいな振る舞いでさー……」

「元四天王に対して失礼じゃないですかっ」

「大丈夫、皆雨天ちゃんが四天王ってこと忘れてるよ」

「そんなことないと思いますけど……」

 不貞腐れたように、雨天は頬を膨らませる。

 その様子があまりにもおかしかったのか、青菜は思わず噴き出した。

「ふっ、ははっ!確かにそうだね、雨天ちゃんを見てると和やかになるもん」

「それ誉め言葉ですかぁ……?」

「癒し枠だからね」

「一応、年上ですよぅ……?」

「……24歳」

「うぐっ」

 自ら墓穴を掘った雨天は言葉を詰まらせる。それから、前園に抱きかかえられながらげんなりと項垂れた。

 その様子があまりにも面白かったのか、青菜は雨天の頬を触る。

「な、何ですかー」

「君を見てるとさ、僕も見習わないとな―って」

「そう思うならむにむにするのをやめてくださいっ。ぷくー」

「……えいっ」

 わざとらしく頬を膨らました雨天。そんな彼女に対し、青菜は思いっきり両頬を押し込んだ。

 ぷすっ、という音と共に雨天の口から息が漏れる。

 瞬く間に、雨天の耳元が赤くなっていく。

「……何するんですかぁー!!」

「あはっ、あははっ!面白いね水萌ちゃんっ」

「怒りました、もう怒りましたっ。穂澄ちゃん、降ろしてくださいっ。むーっ!!」

 雨天は前園に抱きかかえられながら、じたばたと暴れる。

 だが、前園も前園で雨天を強く抱き寄せた。

「やっぱり雨天ちゃんは可愛いねー……からかいがいがあるよ」

「もーっ、皆してっ。皆してっ!」

 散々青菜と前園にからかわれて、わざとらしく怒ったように不貞腐れる雨天。だが、時折零れる笑みが、彼女もその状況を楽しんでいるのだと伝えていた。


「青菜君も大概子供みたいなとこあるよねー……」

 一ノ瀬は呆れたようにため息を吐いた。

 瀬川は楽しそうにけらけらと笑いながら、一ノ瀬に同意する。

「ははっ、賑やかでいいじゃん。ま、あいつも配信者らしくなってきたんじゃないか?」

「らしいのかなぁ……」

 瀬川の言っていることが理解できるようで、理解できない一ノ瀬は首を傾げた。

 しばらくして、一ノ瀬から笑いの混じったと息が零れる。

「でも、こんな毎日のままで過ごせたらいいなあ、とは思うかな」

「だな」

 瀬川は強く頷き、それから空を仰いだ。

「もう、二度と失わない為にもな」

「うん。もう、二度と私が見る世界を壊させはしない為にも、ね」

 瀬川の言葉に同調するように、一ノ瀬も頷いた。

 だが、瀬川はどこか一ノ瀬の口ぶりに違和感を覚えたのだろう。仰いだ姿から一ノ瀬へと視線をシフトさせて問いかける。

「そういやさ、姉ちゃんって魔災前はどんな感じで過ごしてたんだ?」

「……どんな感じ、って?」

 きょとんとした顔で言葉を返す一ノ瀬。瀬川は「あー……」と逡巡する様子を見せた後、言葉を返す。

「今でこそ敵対してるけどさ。船出と、その……秋城か?と、昔は仲良くしてたんだろ?」

「ん?う、うん……」

 一ノ瀬はその瀬川の切り出しに、どきりとしたように表情を強張らせる。

 それから、力なく項垂れた。

「もっと言えば、もう一人……私の幼馴染がいたけどね」

「……ん?あ、あー……そういやそんな話していたか。確か、崩落事故に一緒に巻き込まれたって言う……」

 一ノ瀬の言葉に、瀬川は総合病院ダンジョンの攻略を終えて追憶のホログラムを起動した時に繰り広げた会話を思い出す。

 

——私の幼馴染の男だったよ。彼も、崩落事故に巻き込まれて重傷を負ったんだ。

——彼女だったら、良かったんだがな。


「姉ちゃんは、その人の事が好きだったのか?」

「随分とストレートに聞くね!?」

 言葉を飾ることも誤魔化すこともせず、真っすぐにそう尋ねた瀬川。その彼の言葉に、一ノ瀬はぎょっとした様子で後ろずさりした。

 彼らの会話が耳に入ったのだろう。前園と雨天は興味津々に一ノ瀬に食って掛かる。

「え、何!?一ノ瀬さんの恋バナ!?」

「はいはいっ、聞きたい。私聞きたいですっ」

 どうやら、女性陣にとってこの手の話は聞き逃せないらしい。

 瀬川の視界の傍らで、ぽつんと突然置いてけぼりを食らった青菜がきょとんと眼を丸くして立ち尽くしているのが映った。

 一ノ瀬も困惑を隠せないのか、慌てた様子できょろきょろと前園と雨天を交互に見る。

「は、話す!話すからっ。二人とも落ち着いて……!!」

「一体、皆してどうしたのさ……」

 突然騒がしくなった彼らの様子に困惑しながらも、青菜も皆の元へと集った。

 全員集まったことを確認した一ノ瀬は、一度咳払いをする。

「……そんな、大した話じゃないよ?ちょっとした、ある日から女子高生になってしまっただけの私のお話だし」

「いいからっ、いいからっ」

「う、うん」

 鼻息荒く前園は話を急かす。そんな彼女の様子に困惑しながらも、一ノ瀬は懐かしむように辺りをぐるりと見渡した。

 瓦礫と桜の樹根が埋め尽くす世界。もはや、元の光景などイメージすることすら出来そうもない、灰色と桃色に染まった世界を。


「……どこから話そうかな。私が彼と、共に崩落事故に巻き込まれた時の話からでいい?追憶のホログラムで見た部分もあるかもだけど……」

 その言葉と共に、一ノ瀬は過去の世界に思いを馳せる。


To Be Continued……

X上で「いいねした人のアイコンの絵を描いてみる」という企画やったら、10人からいいね来て悲鳴上げながら書き終えました。

でも楽しかったのでまたやると思います。

↓以外テンプレート


【開放スキル一覧】

・セイレイ:

 青:五秒間跳躍力倍加

 緑:自動回復

 黄:雷纏

・ホズミ

 青:煙幕

 緑:障壁展開

 黄:身体能力強化

・noise

 青:影移動

 緑:金色の盾

・クウリ

 青:浮遊

 緑:衝風

 黄:風纏

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