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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
④水族館ダンジョン編
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【第四章】終幕

高く摩天楼の如く聳え立つ高層ビル。

魔災の中で大きく破壊されつくした施設の中。

日本が誇る耐震性能の中で崩壊することなく、その建物は存在感を放っていた。

全身を漆黒のパワードスーツに包んだストーは、背中に背負った扁平状のジェットエンジンから蒸気を噴出しながら、そのビルの屋上へと降り立つ。

彼を中心として舞い上がる砂煙。そんな中、ストーは静かに空を仰いだ。

『久々のゆきっちとの再会、どうだった?』

彼の肩に乗った漆黒のドローンである、船出がそう問いかける。

まるで表情の見えない紫色のアイシールドをより一層強く光らせながら、ストーは頷いた。

「……悪ク、無カッタ」

『そう。それなら良かったよ』

そう言って、船出はストーの肩から離れる。

やがて漆黒のドローンに大きくラグが走ったかと思うと、瞬く間に彼女の姿は漆黒のワンピースに身を包んだ少女へと姿を変えた。

どこか艶やかな印象を受ける船出は、クスリと嬉しそうに笑う。

「”ゆきっち好き好き同盟”だからね。私達は」

「ネーミングセンスガ、壊滅的……ダナ」

「うるさいなー」

不貞腐れたように船出は頬を膨らませ、それからビルの屋上の柵に手を掛ける。

「私は、男だった頃のゆきっちが好き。ストーは、今の女性としてのゆきっちが好き。そこに性別という差はあれど、好きになったのは同一人物だからね」

「ソレモ、ソウダナ」

「強い女の人を好きになるのは、武闘家の(さが)……なのかな?」

「ソウイウ、オ前ハ何故一ノ瀬ヲ好キニナッタ?」

ストーの問いかけに、船出はどこか懐かしそうに微笑みながら答える。

「昔さ、男性の頃のゆきっちにストーカー被害から助けてもらったんだ。もしかしたら危ない目に遭っていたかもしれないのに。見返りもなしに助けようとするゆきっちのことさ、すごくカッコいいなって思ったの」

「……ソウカ」

そこで言葉を切ってから、ストーは思い出を懐かしむ船出の横顔に視線を向ける。

「オ前ハ今ノ、一ノ瀬ヲ、ドウ思ウ」

船出は困ったような笑みと共に、首を横に振った。

「正直さ。もう危険なことをして欲しくないよ。もしかしたら死んじゃうかもしれない。その為には、勇者パーティを無くすしかなかった、なかったのに……」

船出の瞳に涙が潤み始める。堪えきれない感情と共に、船出は嗚咽を遂に漏らし始めた。

「……っ、ぐ……紺ちゃんを殺してしまった時。自分がやったことなのに……もう会えないんだ、会える可能性すらないんだ、って気づいた時。心が苦しかった……っ。そんな想い、もう嫌なのに……」

「ソウイエバ秋城ハ、オ前ノ持ツ能力ヲ、分ケ与エテSympass上デ存在出来ルヨウニ、シタノダッタナ」

ストーは空を仰ぎ、ぽつりと呟いた。

船出は嗚咽を漏らしながら、後悔の言葉を語り続ける。

「うん、うん……っ。それが、せめてもの償いだった……ホログラムだけの存在になったとしても、そこに居てほしかったから……。でも、ゆきっちは、一度死んでしまったらお終いなんだよ。本当に、追憶だけの存在になっちゃう……」

「大切ナ人ヲ失イタクナイ。ソノ気持チハ理解出来ル」

「……ストーも、大切な弟を失ったんだよね」

船出の言葉に、ストーは俯いた。表情の見えないフルフェイスだが、どこかその様相には愁いが映し出される。

「アア。生キテイルダケデ、良カッタ。ソコニ居テクレルダケデ、希望ダッタ」

「……私が言うのもなんだけどさ、本当に、付いてきて良かったの?セイレイさ、君の弟が生きていたら同い年だったんでしょ?」

「……」

その言葉に、ストーに逡巡が生まれる。

だが、迷いを振り切るように、強く言い放った。

「……コレガ、世界ニトッテノ、最善ダ」

「それも、そうだね。全ての死が、セイレイたった一人に繋がっているのなら。私達が、勇者の敵なのは変わらない」

「アア……因果ヲ終ワラセルノモ、俺達ノ役目ダカラナ」

ストーの言葉に、船出は強く頷いた。

それから、改めて屋上から見える景色を見渡す。アスファルトだらけの灰色の瓦礫が世界を覆いつくし、もはや元の形など見る影もなくくすんでしまった世界の色。

更に崩壊した世界を歪に覆いつくす、桃色の桜の木々を。

「うん。もう一度私達が生きる為に。過程がどれだけめちゃくちゃでもいい……私達の願う世界の為にはね」

「ダカラコソ、Relive配信……イヤ、Re:Live配信……カ」

「そうそう。ただ、紺ちゃんを取り戻す頼みの綱がセイレイってのは皮肉なものだけどね……」

「……」

「都合のいい事ばっかり言ってる自覚はある。でも、もう曲げるわけには行かない」

船出は、強く屋上の手すりを掴む。決意の籠った瞳で、はっきりと言葉を告げた。

「勇者が関わる限り、死が付いて回るから。いつか、世界の為に私達は勇者を打ち倒さなければならない」

その言葉と共に、船出の流れるような黒髪と、漆黒のワンピースが風に揺れる。

スカートが激しく揺れるのも気にせず、彼女はじっと外の景色を眺めていた。


……だが、ストーはそんな彼女から顔を逸らしながら忠告する。

「……船出。スカートハ、セメテ抑エルンダ……」

その言葉に、船出は慌ててスカートを抑える。耳元を赤くして、涙に潤んだ瞳でストーを睨んだ。

「……変態。せっかく人がカッコつけたのに」

「ハ!?心配シテヤッテイルト言ウノニ」

「別にそんな心配要らない。それよりも、今度さ、勇者一行と戦うのなら気を付けてね」

話を切り替えるように、船出はストーの目をじっと見る。

アイシールドに覆われており、彼の表情こそ分からない。

それでも船出は構わずに言葉を続けた。

「セイレイ達。すごく成長してるからさ。どのタイミングで戦うかは君の判断に任せるけど、それだけは言っておくよ」

「……分カッタ」

話を切り替えるように、船出は大きく腕を伸ばして欠伸した。

「にしても、今日はいい天気だね~……ふぁ……」

「アア、悪クナイ天気ダ」

「……魔災が無ければ、ここに皆いたんだろうね」

「ソウダナ」

「……止めるよ、ストー。これ以上、勇者一行の好きにはさせない」

その言葉と同時に、船出の姿に再びラグが走り始めた。気づいた時には、再び船出は漆黒のドローンへと姿を変える。

漆黒のドローンはストーの肩にぴたりと引っ付いた。

『さて、そろそろ休憩時間も終わりにして……行こっか』

「振リ落トサレルナヨ。スパチャブースト”青”」

ストーがそう宣告(コール)するとともに、背中から扁平状のジェットエンジンが再び姿を現した。

そこから伸びる噴出孔のエンジンが激しく唸り声を上げる。


瞬く間に、流星の如く。

ストーと船出は、高層ビルの屋上から姿を消した。


To Be Continued……


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