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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
④水族館ダンジョン編
136/322

【第六十六話(2)】吹き飛ばした中で(後編)

【登場人物一覧】

瀬川(せがわ) 怜輝(れいき)

配信名:セイレイ

役職:勇者

勇者としての自覚を胸に、日々困難と立ち向かう少年。

責任感が強く、皆を導く役割を担う。

前園(まえぞの) 穂澄(ほずみ)

配信名:ホズミ

役職:魔法使い

瀬川 怜輝の幼馴染。かつて瀬川に命を救われたことから、強く恋情を抱いている。

気弱だった彼女も、いつしか芯のある女性へと成長していた。

一ノ瀬 有紀(いちのせ ゆき)

配信名:noise

役職:盗賊

元男性であり、魔災以降は孤独に生きてきた過去を持つことから色々と拗らせた性格をしている。本音を取り繕うとすることが多く、その度にトラブルを引き起こしている。

青菜 空莉(あおな くうり)

配信名:クウリ

役職:戦士

心優しき少年。魔災以降、直近までの記憶が無く自分がどのように生き抜いてきたのかを覚えていない。

雨天 水萌(うてん みなも)

元四天王の少女。寂しがりであり、よく瀬川に引っ付いている。

セイレイは、出会った頃のnoiseがかつて、語っていたことを思い出す。


――一回、ダンジョンに居る魔物を捕まえて、ダンジョンの外に引きずり出してみたんだ。

結果としては、魔物はダンジョンの外では身体を保つことができない。身体が灰になって消えちゃったんだ。


彼女はそう言っていたが、実際にその現象を目の当たりにしたことは無かった。

魔物自身がその事を理解しているのに、わざわざ外に出ることも無いから。

だから、目の前で起きている現象は想定外も良い所である。

「ガグァ……ア、アア……アアアアアア……!!」

ひび割れたアスファルトの上でのたうち回りながら、ホブゴブリンがその全身から灰燼をまき散らす。

必死に、元いたダンジョンに戻ろうと身体を捩らせながら、ホームセンターへと近づく。

だが、ホズミはそれを許さない。

「させるもんかっ!放て!!」

[ホズミ:炎弾]

そのシステムメッセージが流れると共に、鋭い矢の如き炎の弾がダンジョン外にいるホブゴブリンを貫く。

「ガアアアアアッ……」

断末魔の悲鳴を上げながら、焼け焦げた身体でホブゴブリンはそのまま地面に倒れ伏した。それから、その姿を完全に灰燼へと変える。

ようやく見えた活路。セイレイは希望を見出すきっかけを与えたクウリへと視線を送った。

だが、クウリはいたずらにウィンクを交わすのみで、今は余計な言葉をしゃべる気は無いらしい。

「ほら、行くよっ」

それから、クウリは一足先に残ったホブゴブリンの元へと駆け出した。

蹴り上げた地面が、まるで杭で貫かれたように大きな孔を生み出す。瞬く間にホブゴブリンとの距離を縮めたクウリは、空中で身体を捻り鋭い蹴りを放つ。

「てやっ!!」

「ガッ……!!」

クウリが放つ蹴りに連なり、衝撃波の如き風が吹き荒れる。一点に収束する大気は、やがて大きくホブゴブリンを吹き飛ばした。

「スパチャブースト”青”っ!!」

[セイレイ:五秒間跳躍力倍加]

セイレイはすかさず宣告(コール)し、クウリが吹き飛ばしたホブゴブリンの元へと跳躍。

大きく跳躍した姿勢から、ファルシオンを深々とホブゴブリンの胸元へと突き刺す。

「ぜああっ!!」

その掛け声とともに、深々とファルシオンが豪強なホブゴブリンの筋肉を貫く。セイレイが剣を引き抜くと、灰燼が大きく舞い上がった。


まだホブゴブリンは完全に絶命してはいない。

しかし、それでもセイレイはクウリに向けて叫んだ。

「俺がこいつを止める!クウリは姉ちゃんと合流してくれ!」

「——うんっ!!任せるよっ」

「華を持たせるのも勇者の役割、ってなっ!!」

セイレイはそう指示し、ホブゴブリンと距離を取る。それからファルシオンを正面に構え、その切っ先をホブゴブリンのシルエットに重ねた。

「さて、反撃の時間だな」

希望は、ついに花開く。


----


「何が、何が起きているんだ!?」

ゴブリンロードは突如として崩れた優位に困惑の声を漏らす。

対峙するnoiseは、短剣を持ち直しにやりと笑った。

「おいおい、動きが大きく乱れてるぞ?随分と情緒不安定なんだな」

「ほざけ……っ!!」

noiseの挑発にまんまと引っかかったゴブリンロード。それがnoiseが仕掛けた罠とは知らず、感情のままにゴブリンロードは白銀の鎧に身を包んだ身体で殴り掛かる。


その時、ゴブリンロードは気づいてしまった。

純粋な、楽しげな笑みを浮かべたnoiseがそこにいることに。

「……スパチャブースト”緑”」

[noise:金色の盾]

手を差し伸べるように、突き出した左手。noiseが放つ宣告(コール)と共に光の粒子はやがて金色の盾を生み出した。

その盾で、ゴブリンロードの右ストレートを容易く受け止める。

「待ってたよ。感情に流されやすいのは、お互い様だな」

「くっ、くそっ……!!」

ゴブリンロードは慌てて盾から腕を引き抜こうとする。だが、noiseの持つ金色の盾はゴブリンロードをしっかりと受け止め、掴んだ手を離そうとはしない。

それから、noiseはちらりと大鎌を構えて歩みを進めるクウリへと視線を送った。

「クウリ。お前も自分の限界を超えたんだな……羨ましいよ」

「大丈夫、有紀姉も自分のペースで進めばいいんだよ。一足先に、行ってるからさ」

二人は決着を前に、そんな会話を交わす。

noiseは続いてゴブリンロードへと向き直り、決別の言葉を掛ける。

「私達は勇者一行である以上、進まなきゃいけないからな。これは、その過程の一つなんだよ」

「ふざけるなっ、こんな、こんな終幕など……!!」

「さ、クウリ。今日が、お前の旅立ちの日だ」

noiseがそう語った瞬間に、突如として金色の盾から伸びる光の蔦。

それは瞬く間にゴブリンロードの全身を包み込み、白銀の鎧ごと縛り上げる。


身動き一つとることの出来なくなったゴブリンロードに向けて、クウリは大鎌を振りかぶった。

吹き荒ぶ風が、大鎌を中心に生み出される。

そのまま、クウリは空を泳ぐドローンへと視線を向けた。

「ありがとうね。皆。水萌ちゃんも、手伝ってくれてありがとう」

[はー……ようやく落ち着いた……。皆で力を合わせなきゃ、乗り越えられなかったです]

ドローンから映し出されるホログラムが表示する雨天のコメントに、クウリはしっかりと頷いた。

「そうだね。僕達が描きたい世界は似てるから。だから、これが初めの……第一歩っ!!」

その言葉と共に、クウリは大鎌を振り抜く。

大気を貫くが如く、大鎌はゴブリンロードの白銀の鎧を穿つ。

「ぐっ、ぐああああっ!!!!」

巻き起こる強風が、クウリを中心として弾けた。

舞い上がる土煙が、世界を包み込む。吹き飛ばされたゴブリンロードが弾丸となり、ホームセンターの外壁に衝突。

轟音が、鳴り響いた。吹き荒ぶ風が、商品棚に残った商品群を吹き飛ばす。

クウリはかつて生活の為に縋り続けたダンジョンと、ついにその一撃と共に、別れを告げた——。


----


ダンジョンの外に吹き飛ばされ、灰燼をまき散らしながらゴブリンロードはボロボロの身体で叫ぶ。

「見事だ、勇者達よ。だが、これで終わりだと思うなよ」

「えっと、負け惜しみ……なのかな?」

クウリはきょとんとした顔でゴブリンロードの言葉に首を傾げる。

だが、そんな彼を他所にゴブリンロードは言葉を続けた。

「お前達は力があるから、未来を描くことが出来るだけだ。皆が皆、そうではないことをゆめゆめ忘れるな」

「んなこと、お前に言われなくてもとっくに分かってるよ」

セイレイは、ファルシオンをくるくると振り回しながら、ダンジョン外のゴブリンロードに語り掛ける。

彼の後ろに映し出されるのは、絶命しその姿を灰燼と変えたホブゴブリン。

自らがとどめを刺したホブゴブリンの方を振り返ってから、セイレイは話を続けた。

「それでも俺らが前を向くことを止めちまったら、誰が前を向けんだよ。俺らは世界に影響を与えるインフルエンサーとして、進むしかねーんだ」

「くく、殊勝な心掛けだな」

ゴブリンロードは肩を上下させて、楽しげに笑う。

大きくヒビが入ったナイトヘルメットから、ゴブリンロードの切れ長の目が微かに覗かせた。

鋭い眼光で勇者一行を睨みながら、ゴブリンロードはそのまま語り続ける。

「お前達にとっての障害は、一体何になるんだろうな。我らと同じ魔物か?人間か?それとも……」

「それとも……なんだよ」

セイレイは怪訝な目つきでゴブリンロードを睨む。だが、ゴブリンロードはそれ以上話を続ける気はないようだった。

徐々にその身体が、崩れ去っていく。

姿が完全に塵となる前に、ゴブリンロードは最後の言葉を発する。

「我らも、居場所が欲しかっただけだ。奪おうとして何が悪い。居場所を作ろうとして、何が悪い——」


そう呟くと共に、完全にゴブリンロードは灰燼となり世界から掻き消えた。


★★★☆


セイレイは、七色に光る結晶体、追憶のホログラムの前に立った。

それから、ちらりとドローンへと視線を向ける。

「なあ。皆。久々にさ、追憶のホログラムを起動しても良いか?」

セイレイの問いかけに、配信を介してコメントが流れ始めた。


[たまには、良いかもな]

[ちょうど見たいって思ってたんだ。俺は賛成するぜ]

[あ。私もみたいです。そう言えば私も目の当たりにしたことないですし]

[前に進むって散々勇者達が言ってるもんな。少しでも、俺らも変わらないと]

[正直言うと、まだ割り切れてないけどさ。否定する理由もないな……]


ホログラムが映し出すコメント欄に、セイレイはこくりと頷いた。

視聴者の意見を同意と受け取り、セイレイはそれから追憶のホログラムへと手を伸ばす。

「じゃあさ、起動するぜ」

セイレイが追憶のホログラムに手を触れた途端。その七色の結晶体が放つ輝きがより一層強くなる。

地面を走るプログラミング言語が、瞬く間に世界を書き換えていく。

かつての世界を、描き始めた——。


To Be Continued……



【告知】

再び棒人間バトルを作成中です。次作は、小説内のキャラクターは一切関係ありませんが、楽しんで見ていただけるように鋭意作成しておりますので何卒よろしくお願いします!

https://x.com/saishi_art/status/1866828542358757650?t=HtK8iJv_j5KiSrrPpm5r4A&s=19

↑進捗ポストです。

また、今章の終わりにキャラクターデザインを纏めたものを“おまけ”として投稿する予定です。何とか間に合わせますので、よろしくお願いします。


【以下テンプレート】

総支援額:10000円

[スパチャブースト消費額]

 青:500円

 緑:3000円

 黄:20000円

【ダンジョン配信メンバー一覧】

①セイレイ

 青:五秒間跳躍力倍加

 両脚に淡く、青い光を纏い高く跳躍する。一度に距離を縮めることに活用する他、蹴り技に転用することも可能。

 緑:自動回復

 全身を緑色の光が覆う。死亡状態からの復活が可能である他、その手に触れたものにも同様の効果を付与する。

 黄:雷纏

 全身を青白い雷が纏う。攻撃力・移動速度が大幅に向上する他、攻撃に雷属性を付与する。

②クウリ

 青:浮遊

 特定のアイテム等を空中に留めることができる。人間は対象外。

 緑:衝風

クウリを中心に、大きく風を舞い上げる。相手を吹き飛ばしたり、浮遊と合わせて広範囲攻撃に転用することも出来る。

 黄:風纏

クウリの全身を吹き荒ぶ風が纏う。そのまま敵を攻撃すると、大きく吹き飛ばすことが可能。

③ホズミ

 青:煙幕

 ホズミを中心に、灰色の煙幕を張る。相手の視界を奪うことが出来るが、味方の視界をも奪うというデメリットを持つ。

 緑:障壁展開

 ホズミを中心に、緑色の障壁を張る。強固なバリアであるが、近くに味方がいる時にしか恩恵にあやかることが出来ない為、使用には注意が必要。

 黄:身体能力強化

 一時的にホズミの身体能力が強化される。攻撃力・移動能力・防御力が大幅に上昇する他、魔法も変化する。

魔法

 :炎弾

 ホズミの持つ両手杖から鋭い矢の如き炎を打ち出す。

 一度の炎弾で3000円と魔石一つを使用する。火力は高いが、無駄遣いは出来ない。

 :マグマの杖(身体能力強化時のみ使用可)

 地面に突き立てた杖から、マグマの奔流が襲いかかる。ホズミの意思で操作可能。

 一度の使用で10000円と魔石一つを使用する。高火力であるが、スパチャブーストの使用が前提であり、コストが高い。

④noise

 青:影移動

 影に潜り込み、敵の背後に回り込むことが出来る。また、地中に隠れた敵への攻撃も可能。

 緑:金色の盾

 左手に金色の盾を生み出す。その盾で直接攻撃を受け止めた際、光の蔦が相手をすかさず拘束する。


ドローン操作:雨天 水萌

[サポートスキル一覧]

・なし

[アカウント権限貸与]

・消費額20000円

・純水の障壁

・クラーケンによる触手攻撃

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