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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
④水族館ダンジョン編
135/322

【第六十六話(1)】吹き飛ばした中で(前編)

【登場人物一覧】

瀬川(せがわ) 怜輝(れいき)

配信名:セイレイ

役職:勇者

勇者としての自覚を胸に、日々困難と立ち向かう少年。

責任感が強く、皆を導く役割を担う。

前園(まえぞの) 穂澄(ほずみ)

配信名:ホズミ

役職:魔法使い

瀬川 怜輝の幼馴染。かつて瀬川に命を救われたことから、強く恋情を抱いている。

気弱だった彼女も、いつしか芯のある女性へと成長していた。

一ノ瀬 有紀(いちのせ ゆき)

配信名:noise

役職:盗賊

元男性であり、魔災以降は孤独に生きてきた過去を持つことから色々と拗らせた性格をしている。本音を取り繕うとすることが多く、その度にトラブルを引き起こしている。

青菜 空莉(あおな くうり)

配信名:クウリ

役職:戦士

心優しき少年。魔災以降、直近までの記憶が無く自分がどのように生き抜いてきたのかを覚えていない。

雨天 水萌(うてん みなも)

元四天王の少女。寂しがりであり、よく瀬川に引っ付いている。

セイレイは幾度となく攻撃の隙間を掻い潜り、ホブゴブリンから抜け出そうとする。

しかし、セイレイの意図を察知しているのか、その巨大な体躯で回り込み続けた。

「クウリ!!……っ、どけよ!!くそっ!!」

ホブゴブリンの棍棒の一撃をもろに喰らい、意識を失ったクウリの元へとセイレイは駆け寄ろうとする。しかし、ホブゴブリンがセイレイの前に立ちはだかりそれを許さない。


逃げることを許されず、セイレイの心の内は焦燥感から生まれる苛立ちに満たされる。

「何でだよ……何でッ!!助けに行かせてくれねぇんだよクソがっ!!」

冷静さを失いつつあるセイレイ。感情に任せてファルシオンを大振りに薙ぐが、その一撃は容易くホブゴブリンの棍棒に受け止められる。

刹那の隙が生まれた。

「——っ」

「グガッ」

勝利を確信し、ニヤリと歪な笑みを浮かべたホブゴブリン。そのまま、セイレイの隙だらけの脇腹に勢いのままにボディブローを喰らわせる。

「っぐ……っ!!」

防御することすら敵わず、セイレイは大きくその一撃に吹き飛ばされた。

地面に転がっている古錆びたネジが、セイレイの皮膚を傷つける。

全身傷だらけになりながら、セイレイはか細い声で宣告(コール)した。

「ごぷ……っ、スパチャブース……、ト……”緑”っ……」

[セイレイ:自動回復]

システムメッセージが表示されると共に、うつ伏せに倒れ込んだセイレイの全身を緑色の光が纏い始めた。


そんな度重なる仲間のピンチに、雨天は状況の処理が追い付かない。

[セイレイ君っ、体力が……5割、えと、えっと……!!]

[雨天ちゃん、落ち着いてください!]

[セイレイは回復スキルを使ったから対処の優先度は低い!今はクウリの方を!!]

[えっ、あっ、はいっ]

声を発することが出来ない雨天は、バタバタと情報整理のコメントを流し続ける。

しかし、明らかに冷静さを欠いている雨天の様相がそこには映し出されていた。


「……っ、くそっ……」

仲間のピンチを知りながらも、目の前のゴブリンロードから目を離すことが出来ないnoise。

彼女の焦燥感を感じ取ったゴブリンロードはにやりと愉しげに笑う。

「剣筋が乱れてきたな?どうだ、辛いだろう。怖いだろう」

「はっ、そんなに分かりやすいか?ずっと前にも千戸先生に指摘された……っ!!」

動揺を隠すように、noiseは引きつった笑いを浮かべながら応戦する。

だが、劣勢の状況は変わらない。


ふと、noiseに最悪の考えが脳裏を過ぎる。

(クウリを見捨てるという手しかないのか……?でも……)

そんな手段を取るなんて、出来ない。

少しでも、仲間を切り捨てる考えが過る自分自身が嫌になる。自己嫌悪の中で、noiseはただひたすらに短剣を振り続けた。

微かに残った記憶の残滓が、かつてのnoiseが恋した男性を映し出す。

(こんな時、お前ならどうしていた——?)


----

noiseと共に崩落事故に巻き込まれた後遺症で、まともに歩くことが出来なくなり杖歩行を余儀なくされた幼馴染の少年。

どこか抜けているように見えて根は真っすぐで。常にnoiseのことを案じ続けた彼。

魔災に巻き込まれ、二度と会えなくなった想い人。彼なら、何を言っていただろうか——。


——信じてあげたら、どうかな。有紀はなんでも自分が解決するんだって気負いすぎなんだよ。

記憶の残滓に残る彼が、そう答えた気がした。

----


「……信じるぞ、クウリ……!!戻ってこいっ!!」

noiseは湧き出る不安を堪え、短剣を握り直す。瞳に再び希望を宿し、彼女はゴブリンロードの繰り出す打撃を捌くことに専念することにした。

「——くっ、怖くないのか!?仲間の死が!!絶望が!!」

「怖くない訳が無いだろ!!でも、仲間を信じられなくなることの方がもっと怖いんだっ!!」

感情のままに叫びながら、noiseは短剣を振るい続ける。


----

……有紀姉の声が残響して聞こえる。

僕は……死んじゃったのかな?

ぼんやりとそんなことを考えている最中、どこか暖かな日差しが差し込んでいることに気づいた。


思わず僕は、日差しの中で目を開ける。

視界いっぱいに映し出されるのは、広大な草原だ。涼しげな風が僕の頬を撫でる。空を見上げれば、朧雲にくすむ太陽を映し出していた。

ふと、違和感を覚えるのは、その場は桜の木々が蝕む世界ではない純粋な草原であること。

(いつの間にか、桜の木々があることが当たり前だと思ってたんだな)

知らず知らずのうちにそんなことを感じていた自分に、思わず苦笑が漏れる。


突如として、その草原の中に突風が吹き荒れた。

なんとなく風元に目を向けないといけない気がして、僕はその風の先に視線を向ける。

その先に居たのは、ラグに包まれた人影だ。一目見ただけでは誰だか区別がつかないはずなのだが、僕にはなぜかそれが”僕自身”だと理解することが出来た。

「……僕、だよね?ここは何?天国?」

——違うよ。ここは、君の心の内の世界さ。君がかつて、望んだ世界だよ。

「ここが……?」

改めてぐるりと周囲を見渡すと、辺り一面自然に包まれた穏やかな景色が流れていた。

高層ビルや、アスファルトに包まれた公道など、何一つ人工物の見つからない広大な自然がそこには広がっている。

——ねえ。青菜 空莉。君は、記憶を取り戻したいって、本当に思うの?

「取り戻したいよ。魔災の後、僕がどんな考えを持って行動していたのか、知らないと」

——記憶を失うことが、かつての君が望んだことだとしても?

「どういうこと?」

今の記憶を失った状態は、かつての僕が望んだことだって?

理解できない。記憶を失う手段と言うのもそうだけど、記憶を捨てたいと願ったなんて。

それでも。

「……うん。セーちゃんや、皆がさ。散々”現実と向き合え”って言うもんだから……僕だけ現実逃避するわけには行かないでしょ」

——そっか。それなら、もう止めないよ。僕は忠告したからね。

すると、徐々に僕の前に立つシルエットを包むラグが大きくなる。

——いつか、君は■い現実と■き合う。本当■その覚悟があると■うのな■、見せ■よ。Li■e配信の青菜 空■。

やがて、僕の前からその人影は完全にホログラムと共に掻き消えた。

拳を強く握り、それを自らの胸元へと押し付ける。

より一層吹き荒ぶ風が、僕の衣服を、髪をはためかせた。包み込む風が、いつからか自分の内から生み出されたものだと気づく。

「……僕も現実に、立ち向かうんだ」


----


[information

クウリ:スパチャブースト”黄”を獲得しました

黄:風纏 ※初回のみ無料で使用することが出来ます]

[え、なんですかこれ?]

雨天と思われる、困惑した様子のコメントが流れる。それとほぼ同時に、クウリを中心として風が大きく吹き荒れ始めた。

「——ホズちゃん。大丈夫」

「クウリ君!?」

目を覚ましたクウリは、ボロボロの身体でゆっくりと立ち上がる。それから、幾度となくホズミが展開した障壁を打ち破ろうと棍棒を振るい続けるホブゴブリンに視線を向けた。

徐々に障壁にひびが入り、破壊されるのも時間の問題だろう。

「もう一回、障壁を展開するっ。スパ——」

「いや、大丈夫。そう言えば水族館の時も守ってくれたね。本当にありがとう」

「今はそんな話どうだっていいっ!!クウリ君は下がってて……!!」

ホズミは懸命にクウリを引き留めようと裾を引っ張ろうとした。だが、クウリは手のひらを彼女へと向けてそれを制止する。

「ごめん、ホズちゃん。今の僕、多分力加減下手っぴだからさ……ちょっとどいててもらってもいいかな?」

クウリの言葉に、ホズミははっとして、それから気づく。

彼を中心として、大きく風が吹き荒れていることに。彼を中心として渦巻く風が、ホズミの流れるような櫛通りの良い黒髪を、身に纏うスカートをはためかせる。

髪とスカートを抑えながら、ホズミは慌ててクウリから距離を取った。

「……信じるよ。クウリ君」

信じる。その言葉が、クウリに力を与える。

藍色の髪を留めるヘアピンの存在を確かめるように触ってから、クウリは大鎌を両手で構えた。

「うんっ。皆が信じてくれるから、僕だって誓うんだっ!もう現実から目を逸らしはしないんだっ。どれだけ大変な現実が立ち向かおうと、吹き飛ばしてやるっ!!スパチャブースト”黄”!!」

[クウリ:風纏]

そのクウリの宣告(コール)とほぼ同タイミングだった。遂にホブゴブリンが障壁を打ち破ったのは。

にやりと不敵な笑みを浮かべながら、再び棍棒を振るうホブゴブリンに向けて、クウリは叫ぶ。

「こんなところで、立ち止まっちゃいられないっ!!」

その言葉と共に振るう大鎌。クウリの体を介して、纏った風の一撃を受けたホブゴブリン。

「ガッ——」

瞬く間に、ホブゴブリンは大きく吹き飛ばされ。

……ホームセンターの外壁を突き破り、ダンジョン内から姿を消した。


「……えっ?」

ホズミは、目の前で起きた現象に呆然と目を丸くする。

大きく穿った大穴。ダンジョン外の駐車場のアスファルトの上で仰向けに倒れたホブゴブリンが、そこにはいた。

「……セーちゃんっ、大丈夫!?」

だが、クウリはそんなホズミもホブゴブリンをもほったらかしにして、すぐさまセイレイに合流。

ホブゴブリンの一撃を受けて体力が削られていたセイレイは、苦悶の表情を浮かべながらもクウリに問いかける。

「……お前、その能力……」

「話は後!!こいつらぶっ飛ばすっ!!」

「……ああ。頼むっ!!」

再びクウリは大鎌を構え、残ったホブゴブリンと対峙する。


To Be Continued……

総支援額:16500円

[スパチャブースト消費額]

 青:500円

 緑:3000円

 黄:20000円

【ダンジョン配信メンバー一覧】

①セイレイ

 青:五秒間跳躍力倍加

 両脚に淡く、青い光を纏い高く跳躍する。一度に距離を縮めることに活用する他、蹴り技に転用することも可能。

 緑:自動回復

 全身を緑色の光が覆う。死亡状態からの復活が可能である他、その手に触れたものにも同様の効果を付与する。

 黄:雷纏

 全身を青白い雷が纏う。攻撃力・移動速度が大幅に向上する他、攻撃に雷属性を付与する。

②クウリ

 青:浮遊

 特定のアイテム等を空中に留めることができる。人間は対象外。

 緑:衝風

クウリを中心に、大きく風を舞い上げる。相手を吹き飛ばしたり、浮遊と合わせて広範囲攻撃に転用することも出来る。

 黄:風纏

クウリの全身を吹き荒ぶ風が纏う。そのまま敵を攻撃すると、大きく吹き飛ばすことが可能。

③ホズミ

 青:煙幕

 ホズミを中心に、灰色の煙幕を張る。相手の視界を奪うことが出来るが、味方の視界をも奪うというデメリットを持つ。

 緑:障壁展開

 ホズミを中心に、緑色の障壁を張る。強固なバリアであるが、近くに味方がいる時にしか恩恵にあやかることが出来ない為、使用には注意が必要。

 黄:身体能力強化

 一時的にホズミの身体能力が強化される。攻撃力・移動能力・防御力が大幅に上昇する他、魔法も変化する。

魔法

 :炎弾

 ホズミの持つ両手杖から鋭い矢の如き炎を打ち出す。

 一度の炎弾で3000円と魔石一つを使用する。火力は高いが、無駄遣いは出来ない。

 :マグマの杖(身体能力強化時のみ使用可)

 地面に突き立てた杖から、マグマの奔流が襲いかかる。ホズミの意思で操作可能。

 一度の使用で10000円と魔石一つを使用する。高火力であるが、スパチャブーストの使用が前提であり、コストが高い。

④noise

 青:影移動

 影に潜り込み、敵の背後に回り込むことが出来る。また、地中に隠れた敵への攻撃も可能。

 緑:金色の盾

 左手に金色の盾を生み出す。その盾で直接攻撃を受け止めた際、光の蔦が相手をすかさず拘束する。


ドローン操作:雨天 水萌

[サポートスキル一覧]

・なし

[アカウント権限貸与]

・消費額20000円

・純水の障壁

・クラーケンによる触手攻撃

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