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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
④水族館ダンジョン編
134/322

【第六十五話(2)】ゴブリンロード(後編)

【登場人物一覧】

瀬川(せがわ) 怜輝(れいき)

配信名:セイレイ

役職:勇者

勇者としての自覚を胸に、日々困難と立ち向かう少年。

責任感が強く、皆を導く役割を担う。

前園(まえぞの) 穂澄(ほずみ)

配信名:ホズミ

役職:魔法使い

瀬川 怜輝の幼馴染。かつて瀬川に命を救われたことから、強く恋情を抱いている。

気弱だった彼女も、いつしか芯のある女性へと成長していた。

一ノ瀬 有紀(いちのせ ゆき)

配信名:noise

役職:盗賊

元男性であり、魔災以降は孤独に生きてきた過去を持つことから色々と拗らせた性格をしている。本音を取り繕うとすることが多く、その度にトラブルを引き起こしている。

青菜 空莉(あおな くうり)

配信名:クウリ

役職:戦士

心優しき少年。魔災以降、直近までの記憶が無く自分がどのように生き抜いてきたのかを覚えていない。

雨天 水萌(うてん みなも)

元四天王の少女。寂しがりであり、よく瀬川に引っ付いている。

「お前の相手は私だ」

noiseは飄々とした立ち振る舞いで、ホブゴブリンがその身の丈ほどはあろうかという棍棒の一撃を紙一重で躱し続ける。その一撃ごとに生み出す衝撃波が、彼女のまとめ上げた栗色の髪を大きくはためかせる。

一発でも直撃をもらえば瞬く間に死に至らしめる可能性の高い攻撃。だが、noiseは臆せずに躱し続けた。

隙を見ては逆手に構えた短剣で鋭く突きを繰り出し、ダメージを与える。しかし、その豪強な筋肉に阻まれ、思うように刃は刺さらない。

「……ちっ」

noiseは苛立ったように舌打ちしながらも、ホブゴブリンの陽動を担い続けた。

それから、ちらりとセイレイとクウリの方向へと視線を送る。


彼の役割は、二体のホブゴブリンの距離を大きく突き放すことだ。

「吹き飛べっ!!スパチャブースト”緑”!!」

[クウリ:衝風]

クウリの宣告(コール)に伴い、彼と対峙したホブゴブリンは大きく吹き飛ぶ。

「グガァッ!!」

ホブゴブリンは苦悶の声を上げながら、棍棒を盾にするように構えつつ大きく後退する。

それを確認したクウリは、すかさずセイレイの方を向いた。

「セーちゃん、今だっ!!」

「任せろ!!」

彼の声に応えるように、既に”五秒間跳躍力倍加”を発動しているセイレイは吹き飛んだホブゴブリンに向けて飛び掛かる。防御姿勢の解除できていないホブゴブリンの死角へと回り込み、背後目掛けて斬りかかった。

「ぜああっ!!」

掛け声とともに、大きくファルシオンを薙ぐ。その振るう一閃は、ホブゴブリンの脇腹にクリーンヒットする。

「ガァッ!」

「るせぇよっ!!まだ終わってねえっ!!」

振り抜いた姿勢から、ホブゴブリンに態勢を正される前に、幾度となく流星の如き連撃を浴びせる。その一撃を浴びせる度、ホブゴブリンの皮膚から灰燼が舞い上がっていく。

だが、ホブゴブリンもやられっぱなしではない。ダメージを受けながらも、セイレイの脳天をかち割ろうと大きく棍棒を振り上げた。

「勇者っ!!上だっ!!」

ホズミは大声で警戒を呼び掛ける。

その声にセイレイはすかさず反応し、左へとサイドステップ。次の瞬間には、彼がいた空間に激しく土煙が舞い上がった。

「助かった、ホズミ!」

「どういたしまして!」

ホズミは続いて、悠然と立っているゴブリンロードに視線を向けた。追憶の守護者は、低く構えた姿勢のまま何故か身動き一つとらない。

ロングソードのリーチを考えると、セイレイ達には届かないはずだ。

「……さて。そろそろ邪魔者には消えてもらおうか」

だが、ゴブリンロードはそれでも構わずに突如として剣を大きく振りかぶった。やつの視線に居るのは、noiseだ。

ホズミは直感的に危険を察知し、迷わず両手杖の先をゴブリンロードへと向けて叫ぶ。

「放てっ!!」

[ホズミ:炎弾]

システムメッセージが雨天が操作するドローンが映すホログラムに表示されると共に、鋭い矢の如き炎が瞬く間にゴブリンロードへと襲い掛かる。

「くっ!?随分と舐めた真似を!!」

咄嗟の攻撃にゴブリンロードは対処することが出来ず、炎弾の直撃をもろに受ける。

焼け焦げた煤の中、大きく身を捩らせたゴブリンロードは激昂。それからターゲットをホズミへと変更した。

再び剣を構えたゴブリンロードは、すぐさま大きくロングソードを振るった。

ロングソードの攻撃では、明らかに当たらないはずの距離。ホズミは行動の意味を理解できずに身構えたまま動くことが出来ない。

だが。

[ホズミちゃん!ダメ、避けて!!]

「えっ?」

雨天の呼びかけがコメント欄として流れる。

次の瞬間だった。ゴブリンロードが振りかぶったロングソードを構成している鱗のようなパーツが大きく分裂する。

刀身に内蔵されていたワイヤーがしなる鞭のように伸び、勢いよくホズミへと襲い掛かった。

気付いた時には、ホズミの胴元目掛けて襲い掛かっていた一撃。

もはや宣告(コール)する猶予もなく、咄嗟に両手杖でその一撃を受け止めるより他なかった。

「うあっ……!」

喉元から漏れた苦悶の声と共に、ホズミは大きく弾き飛ばされた。

彼女の小柄な体躯は、瞬く間に瓦礫の中に弾き飛ばされる。

「穂澄ッ!!」

それに気づいたセイレイは、すかさずホズミの元へ視線を向けた。

「っ、セーちゃん!行ってあげてっ」

クウリの後押しの言葉を受け、セイレイは身を翻して幼馴染の元へと走り抜ける。

雨天が操縦するドローンは続いてセイレイの方へと空を泳ぐように移動し、コメント欄を介して情報を伝達。

[ホズミちゃん、体力が八割減少!急いで回復してあげて!!]

「分かったっ!!スパチャブースト”緑”!!」

[セイレイ:自動回復]

セイレイがそう宣告(コール)すると共に、彼の全身を緑色の光が纏い始めた。

ホズミは、瓦礫の中で倒れ伏している。時々指先がピクリと動いているが、起き上がる力はないようだ。


「か、はっ……!!」

ホズミの全身に焼けるような痛みが迸った。続いて熱いのか、寒いのか、よく分からない感覚が襲い掛かる。

呼吸するので精一杯で、立ち上がることなんてまるでできそうもない。

それでも、立たないと、という想いだけがホズミの中で湧き上がっていた。

「穂澄ッ!!大丈夫か!?」

遠くから、ホズミに駆け寄るセイレイの声が残響のように響く。

「……っ、あ……っ」

なんとか、ホズミは返事をしようとするが、口の中に血がたまったようで思う様に声を出すことが出来ない。


そんな中、ホズミの肩にポンとセイレイの掌の暖かい感触が伝わる。瞬く間に暖かな想いは全身へと巡っていき、やがて彼女の全身を緑色の光が纏った。


「……ぁ、っぷ……」

ホズミは遂に堪えきれず、蹲ったまま口の中に溜まった血液を瓦礫の上へと吐き出す。

「ホズミ、大丈夫か?」

「……醜態(しゅうたい)を曝した、という意味では大丈夫じゃないね……」

口元に残った血を拭い取りながら、ホズミは苦笑いを零しつつも皮肉を返した。

体力が回復し、ホズミはゆっくりと身体を起こす。

続いて、セイレイとホズミはドローンが映し出すコメント欄に視線を送る。


[無理するな 3000円]

[どうやら、あのゴブリンロードが持つ剣はガリアンソードっていう奴らしい]

[何それ]

蛇腹剣(じゃばらけん)とも言うな。剣と鞭が一体化した剣のことだ]

[何でもありかよ……遠距離攻撃が可能なんて、厄介だな 3000円]

[ホズミちゃんが無事でよかったです。皆は分からないかもですけど、一ノ瀬さんのスキルが役に立つかもしれません]

[とりあえず、雨天ちゃんの指示に従ってみたらどうだろう。打開の一手に繋がるのなら試す価値はある]


コメント欄の提案に、セイレイはしっかりと頷いた。

noiseは心配そうにセイレイに問いかける。

「セイレイ!!ホズミは大丈夫か!?」

「ああ、大丈夫だ!!それよりも姉ちゃん。プラン変更だ!!」

「何!?」

「姉ちゃんはゴブリンロードの相手を頼む!!攻撃の隙を見て金色の盾で防御してくれ!!」

セイレイの指示に、noiseは頷きながら言葉を返す。

「分かった!っと、油断も隙もねえな」

ひょいとホブゴブリンの一撃を躱しながら、noiseはターゲットを切り替えゴブリンロードの元へと移動する。

それを確認したセイレイは、続いてフリーになったホブゴブリンの元へと駆け出した。

「姉ちゃんの代わりは、俺が担うっ!!」

ファルシオンを構え、ホブゴブリンと対峙するセイレイ。


だが、明らかに防戦一方だった。

「くそっ!埒が明かねぇっ」

セイレイは悪態をつきながら、ホブゴブリンに隙を見て一撃を与え続ける。だが、総支援額もじり貧であり思う様にスパチャブーストを使うことが出来ない。

スパチャブーストを使用した後の補填は受けたとはいえ、”黄”一回で状況を打開できるとは思えなかった。

「まずは、一人」

大きく距離を取ったゴブリンロードは、noise目掛けて蛇腹剣を振り下ろす。

だが、それを見越していたnoiseは左腕を正面に構えながら宣告(コール)した。

「今だっ、スパチャブースト”緑”!!」

[noise:金色の盾]

すると、瞬く間にnoiseの左腕に光の粒子が纏い始めた。徐々にそれは盾の形を作り出し、やがて金色の盾をnoiseの左腕に顕現させる。

「そんな盾で防げると思っているのか。愚かな」

「防げるか、じゃない。防ぐんだよ」

noiseは不敵に笑い、襲い掛かる蛇腹剣のしなる鞭のような一撃を盾で受ける。

火花と光の粒子をまき散らしながら、noiseが顕現させた金色の盾は蛇腹剣の一撃を容易く受け止めた。

「何ッ!?」

「お前の時間を盗ませてもらおう!」

noiseがそう叫ぶと共に、光の蔦が瞬く間に蛇腹剣を拘束していく。輝く光の蔦は、ワイヤーを伝って、ゴブリンロードにまで襲い掛かる。

「くっ、小癪な」

だが、ゴブリンロードは蛇腹剣から手を離し、襲い掛かる拘束を回避。

それを確認したnoiseは”金色の盾”を解除する。すると、蛇腹剣はアスファルトに叩きつけられ、鈍い音を立てながら転がった。

「随分と身軽になったな?なあ」

「小賢しい女だ。剣を失ったとしても、別に構わんのだがな」

「はっ、焦りが目に見えてんだよ。正直になったらどうだ?怖いです、助けてくださいってさ」

鼻でせせら笑いながら、noiseは挑発の言葉を繰り返す。だが、ゴブリンロードは表情を崩すことなく続いて徒手の構えを取り直した。

先ほどと大きく異なるのは、どうやらゴブリンロードの視線はnoiseの左手に向いているという事だ。

それに気づいたnoiseはにやりと口を歪ませる。

「随分とビビってんじゃねえか。迂闊に攻撃なんか出せないよ……なっ!!」

すぐさまnoiseは大地を蹴り上げ、ゴブリンロードに接近戦を仕掛けた。

「くそっ」

ゴブリンロードの表情から余裕が抜け落ち、悪態をつきながらもそれに応戦。

形勢こそ有利だったが、noiseはそれとは別に焦燥感に駆られていた。


——白銀の鎧を貫くほどの攻撃力は私には無い。何か、決定打を与えることが出来れば……!


幾度となく繰り返される攻防の中、noiseは幾度となく思考を加速させる。

現状で打開が可能なスキルを持つのは、セイレイの”雷纏”か、ホズミの”身体能力強化”の二つ。

しかし、それを使用すると支援額が一気に消費される為、状況的には博打も良いところだ。

(何か、想定外の奇跡が起きてくれれば……っ)

noiseは心の内でそう願った。


だが、奇跡は容易く起こるものでは無い。

拮抗する戦況は、突如として大きく崩れ去る。


「がふっ……!!??」

クウリはホブゴブリンの攻撃を回避しきることが出来ず、振り上げた棍棒の直撃をもらった。

勢いよく弾き飛ばされた彼は、瞬く間に天井に直撃し、それから地面に叩きつけられる。

そのダメージに気絶してしまったのか、クウリはピクリとも動かない。

[やばいやばい、クウリ君体力が7割減った。対応して欲しい……!!]

雨天は懸命のメッセージをホズミに送る。

「クウリ君っ!!」

ちらりと雨天のコメントに視線を送りつつ、慌ててホズミはクウリの元へと駆け出す。

現状”ふくろ”はゴブリンロードと対峙しているnoiseが持っており、ホズミ自身はスナック菓子しか持っていない。

「ねえ!起きて、戦いはまだ終わってない!!」

ホズミは、倒れ伏したままクウリの体を何度も揺さぶる。

そんな二人に悠然と近づくのは、先ほどまでクウリと対峙していたホブゴブリン。

「ガァ……」

大きく棍棒を持ち上げ、二人を叩き潰さんと勝利を確認した笑みと共に見下ろす。

「させない!スパチャブースト”緑”!!」

[ホズミ:障壁展開]

ホズミはすかさず宣告(コール)し、彼女を中心として緑色の光に覆われたドーム状の障壁を形成。

それはホブゴブリンの一撃を受け止め、大きくはじき返す。


だが、それもその場しのぎに過ぎない。

「クウリ君、起きて!起きてよっ!」

懸命にホズミはクウリに呼びかける。だが、クウリはぴくりとも動かない。

拮抗した状況であったが故に、メンバー一人の欠落が瞬く間に危機を招いていた。


もう、猶予なんてない。

「——っ!!ごめん、スパチャブースト”黄”!!」

窮地を脱する為、ホズミは咄嗟に宣告(コール)する。

しかし。

[information

支援額が不足しています]

「なっ……!?」

最悪のタイミングで、そのシステムメッセージが表示された。

不幸にも、先ほどホズミが放った”障壁展開”により総支援額が20000円を切ったのだ。


[スパチャ送れる奴!!]

[俺も送ってしまいました]

[やばい、やばい]


幾度となく流れるコメント欄。だが、現状居る視聴者は既にスパチャを送り終えた者達のみであり、現状を打開する術を彼らは持たない。

「……だ、め……」

クウリはぽつりとか細い声と共に、何やら呟いた。

しかし、その声は懸命にクウリを護ろうとするホズミにも。

誰にも届かなかった。


To Be Continued……


総支援額:19500円

[スパチャブースト消費額]

 青:500円

 緑:3000円

 黄:20000円

【ダンジョン配信メンバー一覧】

①セイレイ

 青:五秒間跳躍力倍加

 両脚に淡く、青い光を纏い高く跳躍する。一度に距離を縮めることに活用する他、蹴り技に転用することも可能。

 緑:自動回復

 全身を緑色の光が覆う。死亡状態からの復活が可能である他、その手に触れたものにも同様の効果を付与する。

 黄:雷纏

 全身を青白い雷が纏う。攻撃力・移動速度が大幅に向上する他、攻撃に雷属性を付与する。

②クウリ

 青:浮遊

 特定のアイテム等を空中に留めることができる。人間は対象外。

 緑:衝風

クウリを中心に、大きく風を舞い上げる。相手を吹き飛ばしたり、浮遊と合わせて広範囲攻撃に転用することも出来る。

③ホズミ

 青:煙幕

 ホズミを中心に、灰色の煙幕を張る。相手の視界を奪うことが出来るが、味方の視界をも奪うというデメリットを持つ。

 緑:障壁展開

 ホズミを中心に、緑色の障壁を張る。強固なバリアであるが、近くに味方がいる時にしか恩恵にあやかることが出来ない為、使用には注意が必要。

 黄:身体能力強化

 一時的にホズミの身体能力が強化される。攻撃力・移動能力・防御力が大幅に上昇する他、魔法も変化する。

魔法

 :炎弾

 ホズミの持つ両手杖から鋭い矢の如き炎を打ち出す。

 一度の炎弾で3000円と魔石一つを使用する。火力は高いが、無駄遣いは出来ない。

 :マグマの杖(身体能力強化時のみ使用可)

 地面に突き立てた杖から、マグマの奔流が襲いかかる。ホズミの意思で操作可能。

 一度の使用で10000円と魔石一つを使用する。高火力であるが、スパチャブーストの使用が前提であり、コストが高い。

④noise

 青:影移動

 影に潜り込み、敵の背後に回り込むことが出来る。また、地中に隠れた敵への攻撃も可能。

 緑:金色の盾

 左手に金色の盾を生み出す。その盾で直接攻撃を受け止めた際、光の蔦が相手をすかさず拘束する。


ドローン操作:雨天 水萌

[サポートスキル一覧]

・なし

[アカウント権限貸与]

・消費額20000円

・純水の障壁

・クラーケンによる触手攻撃

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