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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
④水族館ダンジョン編
133/322

【第六十五話(1)】ゴブリンロード(前編)

【登場人物一覧】

瀬川(せがわ) 怜輝(れいき)

配信名:セイレイ

役職:勇者

勇者としての自覚を胸に、日々困難と立ち向かう少年。

責任感が強く、皆を導く役割を担う。

前園(まえぞの) 穂澄(ほずみ)

配信名:ホズミ

役職:魔法使い

瀬川 怜輝の幼馴染。かつて瀬川に命を救われたことから、強く恋情を抱いている。

気弱だった彼女も、いつしか芯のある女性へと成長していた。

一ノ瀬 有紀(いちのせ ゆき)

配信名:noise

役職:盗賊

元男性であり、魔災以降は孤独に生きてきた過去を持つことから色々と拗らせた性格をしている。本音を取り繕うとすることが多く、その度にトラブルを引き起こしている。

青菜 空莉(あおな くうり)

配信名:クウリ

役職:戦士

心優しき少年。魔災以降、直近までの記憶が無く自分がどのように生き抜いてきたのかを覚えていない。

雨天 水萌(うてん みなも)

元四天王の少女。寂しがりであり、よく瀬川に引っ付いている。

「……いない?」

慎重に索敵しつつ進む中、セイレイはダンジョン内の様子に違和感を覚える。

あまりにも順調に進むダンジョンの中、かえって不安に思ったセイレイはちらりとドローンに視線を向けた。しかし、ドローンは申し訳なさそうな態度でカメラを下へと降ろす。

[魔物が、見つからないです。このままダンジョン攻略できるのでしょうか]

「……いや、それはないだろ」

雨天と思われるコメントが流れるが、セイレイは眉を顰めながら首を横に振った。

「セーちゃん。すごく、嫌な予感がする……ホブゴブリン、前は居たのに……」

「恐れをなした、なーんてことがあったらいいんだがな、なっ?」

クウリも不安を隠すことが出来ず、セイレイに話しかける。それに対してセイレイは、おどけたような表情でその空気を取り繕った。

noiseも緊張が解けないのか、慎重に瓦礫の隙間から周辺の様子を探っている。

「今まで、こんなことは無かった。ダンジョン攻略をせずとも、魔物の姿が見えなくなる、なんて……」

[居ないに越したことはないだろ]

[ダンジョン攻略お疲れ様、か]

[よくやったよ。でも思いのほか呆気なかったな]

しかし、ダンジョン攻略を実際に経験しているわけではないコメント欄は、そんな彼らの様子に相反して楽観的だ。

セイレイは悩ましげにコメント欄に視線を送ったあと、瓦礫を次から次に飛び越えて先行して様子を探る。

それから、ぽつりと呟く。

「——追憶のホログラムを見つけた」

「えっ。本当?」

彼の報告に、クウリの目が大きく見開かれた。

「ああ。ただ、大きなダンジョンなのに、ボスがいないのはどういうことだ……?」

「……やっぱり、居ないの?」

「……」

クウリの問いかけに、セイレイは改めて念入りに周辺を探る。しかし、どこまで探そうとも魔物の姿を見つけることは出来なかった。

彼と並ぶように、ドローンが浮上する。

[セイレイ君。私も探します]

「頼んだ」

雨天のコメントが表示されると共に、そのドローンは空を泳ぎ、偵察に動く。

それから、しばらく静寂の時間が流れた。


[……居ない、ですね。今のうちに追憶のホログラムを回収しちゃいましょう]

戻ってきた雨天が操縦するドローンから、そのような報告が返ってきた。

不安な様相を隠すことが出来ないが、攻略できるのならそれでいいのだろう。

勇者一行は互いに目を見合わせ、それから頷き合った。

「そう、だな。行こう」

勇者一行は、追憶のホログラムを回収する為、瓦礫道を乗り越え先へと進む。

崩れ落ちた工具が、タイルを埋め尽くしている。風化し、元の字など読むことが出来なくなったポップが床に散乱している。そんな道のりを、勇者一行は警戒しつつも進む。

そしてようやく、ダンジョンの核である追憶のホログラムが見えてきた、その時だった。


「我がゴブリンの巣窟を荒らす者よ……」

「……っ!?」

重く、響くような声が、突如として彼らの耳に入る。誰も居なかったはずの、追憶のホログラムの前にゆらりと影が生み出された。

地面から這いずる影と共に、現れたのは全身を銀色の鎧で覆った鎧騎士。

その隙間から覗く皮膚は、緑色に覆われている。

[追憶の守護者:ゴブリンロード]

ドローンのホログラムが表示するコメントログに、システムメッセージが表示される。

「やっぱり、ホブゴブリンの上ときたら、ゴブリンロード……だよね」

ホズミは引きつったような笑いを浮かべながら、追憶のホログラムを前に立ちはだかるゴブリンロードを改めて観察する。

すらりと伸びた身体を覆う、西洋風の白銀の鎧。noiseのように隙の無い立ち姿をしており、腰にはロングソードを携えていた。

そのロングソードはまるでムカデの外殻の如く、いくつも鱗のようなものが連なったデザインをしている。

だが、最も警戒するべきはその点ではない。

「喋れる……のか?」

セイレイが恐る恐ると言った様子で問いかける。すると、ゴブリンロードは静かに口を開く。

「我は、ゴブリンの長にして、ダンジョンを護る者。悪しき人間共よ、お前達は何故我が住処を荒らす?」

「お前達の住処じゃないからだ!出て行けよ、俺達の場所から!」

目を吊り上げてセイレイが叫ぶと、ゴブリンロードは呆れたようにため息を吐いた。

「かつてはお前達の場所でも、今は我らの場。部外者は黙っていて欲しいものだ」

「——っ!!」

暴論を吐くゴブリンロードに、セイレイから怒りに満ちた気配を纏わせる。ホズミは慌てて、セイレイに呼びかけた。

「セイレイ君、落ち着いて!まだ敵の情報も分かってない……」

「——スパチャブースト”青”!!」

[セイレイ:五秒間跳躍力倍加]

だが、ホズミの制止の声も虚しく、セイレイは宣告(コール)を放ち高く跳躍。ゴブリンロードの頭上から、一気に振り下ろし攻撃を仕掛ける。

「っざけんなよ!んな屁理屈が通ると思ってんのか!?」

「やれやれ」

ゴブリンロードが呆れたように首を横に振る。それから、一歩後ろへと下がり、指を鳴らした。

「来い。我がしもべよ」

その声と共に、ゴブリンロードを挟むように地面から再び影が伸びていく。そこから現れたのは——。

「っ……!?」


二匹の豪強な肉体を持つホブゴブリンが、セイレイに立ちはだかるようにその場に現れる。

既に空中から襲い掛かるセイレイにターゲットを絞っていたホブゴブリンは、すかさず手に持った巨大な棍棒を振りかぶった。

「セーちゃんっ!!」

「くそっ!!」

セイレイはすかさずファルシオンを両手で構え、防御態勢を取る。

次の瞬間。

大きな金属音と、飛び散る火花の中。

セイレイはファルシオンごと大きく吹き飛ばされた。

「がっ——!!」

瞬く間に、石膏とコンクリートがむき出しとなった支柱へとセイレイは叩きつけられる。

舞い上がる土煙の中。崩落した瓦礫が、セイレイを覆うように崩れていく。

「セイレイっ!!」

noiseは腰に巻いた”ふくろ”から魔素吸入薬を取り出し、すかさずセイレイが叩きつけられた方向へと駆け出す。早く応急処置をしなければ、セイレイの命が危うい——。

そう思っていたが、すぐに瓦礫の中から頭から血を流したセイレイが立ち上がった。

「……ってぇな、何だよっ、あれ……!?」

「セイレイ、喋るな!!傷は大丈夫なのか!?」

noiseの指摘に、セイレイは額に手を当てる。それから手に付着した血を見て、ようやく自身が出血していることに気づいた。

「……あ?あー、血が……」

突如として起きた一連の現象に呆然としていたホズミだったが、ハッとしたようにドローンが映すホログラムの配信画面へと視線を送る。

それから、すかさずホズミは大声でnoiseへと情報を伝えた。

「盗賊!勇者の体力4割減少!魔素吸入薬を使うほどじゃないと思う!!」

「え、大丈夫、なのか」

ホズミの報告に、noiseは困惑した表情を浮かべる。しかし、セイレイはなんてことの無いように血を拭いながら話す。

「昔にライト先生が言ってたろ。戦い続ければ魔素が細胞を強化する、防御力が上がる、ってさ。こんぐらい、なんてことねえよ」

そう言いながら、noiseが代わりに差し出した体力回復アイテムであるスナック菓子を口へと運ぶ。

徐々に頭部からの出血が治まったセイレイは、再びファルシオンを構えた。

「ただ、それでも。ホブゴブリン二体相手は厳しいな……クウリ」

「僕?」

セイレイはクウリに視線を向ける。

「お前の衝風でホブゴブリンを分断できないか?各個撃破を狙おう」

「……分かった」


[ホブゴブリン2体はやばい 3000円]

[まだスパチャ送る権利の残ってるやつは頼む!]

[これで良いか!? 3000円]

[皆さん、お願いしますっ!セイレイ君達の力になってあげてくださいっ!!]

[ただ、これどうするんだ。常に隙のない戦いになるぞ 3000円]

[総支援額28500円]


セイレイはコメント欄に視線を送り、それからぐるぐると思考を巡らせる。

ホブゴブリン二体に対し、どう立ち回るのが正解か。最適なスキルは、noiseの”金色の盾”だろう。

だが、その間にゴブリンロードの攻撃を受ければ?ホズミの魔法は?——いや、前にホブゴブリンと戦った時は大きなダメージを受けた様子はなかった。

最初の時だって、俺の五秒間跳躍力倍加とディルの補助があって勝ったんだ。

恐らく、物理攻撃の方が通ると考えるべきか。俺達が最も己の力を発揮できる戦い方は——。


「姉ちゃん、ホブゴブリン1体を完全に引き付けることは出来るか?」

セイレイは、noiseにそう語りかけた。彼の意図を理解できないnoiseは、きょとんと眼を丸くして問いかける。

「セイレイ?何か考えがあるのか?」

「……俺と、クウリでホブゴブリン1体を倒す。姉ちゃんは、その間、単騎でホブゴブリンを引き付けてほしい。一対一の時にこそ、姉ちゃんの力は最も輝く。俺はそう考えている」

「なるほど」

その提案に、noiseは納得したように顎に手を当てながら頷いた。

元々洗練された戦闘技術の持つnoiseの動きについてくることの出来る者は居ない。混戦状態ではnoiseの力を存分に発揮できないどころか、かえって全員の行動の噛み合いが悪くなると考えたのだ。

「と、言う事は僕はセーちゃんと一緒に一体倒しに向かうんだね」

クウリがセイレイにそう確認すると、彼は強く頷いた。

「ああ……で、ホズミは後方で待機。適宜コメント欄で情報収集をしつつ、ゴブリンロードの行動に警戒しろ」

続いてセイレイはホズミに言葉を掛ける。彼女はちらりと白銀の鎧をまとって飄々としているホブゴブリンへと視線を向けた。

「私一人に……荷が重くないかな」

「いざとなれば”黄”を使ってもいい。ゴブリンロードの持つ剣に、違和感があるからな……変な動きが見られれば、魔法で邪魔してくれ」

「……分かった」

最後に、セイレイはドローンへと視線を向ける。

「雨天。今回はアカウント権限の貸与はダメだ、スキルが使えなくなるリスクの方が大きい。下手すりゃ全滅もあり得る」

[……分かりました。私はコメントがホズミちゃんに見えるように動きます]

「頼んだぜ」


「……死に方は決まったか?」

話が纏まったと判断したゴブリンロードは、挑発的な言葉を勇者一行に投げかける。

その全身から迸る覇気が風圧となり、セイレイ達に襲い掛かった。衣服や髪を激しくはためかせ、大気がビリビリと震える。

どす黒い殺意を正面に受けながら、セイレイは冷や汗を垂らしながら皮肉を返す。

「はっ!決まったよ、てめぇらの散り様がな」

「それは何よりだ」

ゴブリンロードは白銀のナイトヘルメットの隙間から覗く口元を歪ませる。それから低い姿勢でロングソードを構えた。

セイレイもその動作に応えるように、ファルシオンを正面に向けて辺りを取る。

勇者一行と追憶の守護者の視線が交錯し、緊張感が高まっていく。


「……僕が、しっかりしないと。このままじゃ、成長できないから……」

クウリは大鎌を両手に構え、吹き荒ぶ風の中でぽつりと言葉を漏らす。瞳の奥に、渦巻く風を感じ取りながらクウリはしっかりと大鎌の柄を握る。


「……いざ、尋常に」

「勝負、だなっ!!スパチャブースト”青”!!」

[セイレイ:五秒間跳躍力倍加]

セイレイの宣告(コール)に伴い、彼の両脚に青く、淡い光が纏い始めた。

それと同時に、セイレイは勢い良く大地を蹴り上げ、瞬く間にゴブリンロードを取り巻くホブゴブリンの元へと駆け出していく——。


To Be Continued……

【告知】

勇者セイレイvs僧侶ディルの棒人間アニメーションの投稿が完了しましたので、URLを後書きに添付しておきます!セイレイの”雷纏”やディルの”浄化の光”を、自分なりの表現でアニメーション化してみました。

1分間で気軽に閲覧できますので、興味があればぜひ……!!

※作品の結末は小説の方には一切関係ないです!!!!


https://www.nicovideo.jp/watch/sm44408541


↓以下テンプレートです。


総支援額:28500円

[スパチャブースト消費額]

 青:500円

 緑:3000円

 黄:20000円

【ダンジョン配信メンバー一覧】

①セイレイ

 青:五秒間跳躍力倍加

 両脚に淡く、青い光を纏い高く跳躍する。一度に距離を縮めることに活用する他、蹴り技に転用することも可能。

 緑:自動回復

 全身を緑色の光が覆う。死亡状態からの復活が可能である他、その手に触れたものにも同様の効果を付与する。

 黄:雷纏

 全身を青白い雷が纏う。攻撃力・移動速度が大幅に向上する他、攻撃に雷属性を付与する。

②クウリ

 青:浮遊

 特定のアイテム等を空中に留めることができる。人間は対象外。

 緑:衝風

クウリを中心に、大きく風を舞い上げる。相手を吹き飛ばしたり、浮遊と合わせて広範囲攻撃に転用することも出来る。

③ホズミ

 青:煙幕

 ホズミを中心に、灰色の煙幕を張る。相手の視界を奪うことが出来るが、味方の視界をも奪うというデメリットを持つ。

 緑:障壁展開

 ホズミを中心に、緑色の障壁を張る。強固なバリアであるが、近くに味方がいる時にしか恩恵にあやかることが出来ない為、使用には注意が必要。

 黄:身体能力強化

 一時的にホズミの身体能力が強化される。攻撃力・移動能力・防御力が大幅に上昇する他、魔法も変化する。

魔法

 :炎弾

 ホズミの持つ両手杖から鋭い矢の如き炎を打ち出す。

 一度の炎弾で3000円と魔石一つを使用する。火力は高いが、無駄遣いは出来ない。

 :マグマの杖(身体能力強化時のみ使用可)

 地面に突き立てた杖から、マグマの奔流が襲いかかる。ホズミの意思で操作可能。

 一度の使用で10000円と魔石一つを使用する。高火力であるが、スパチャブーストの使用が前提であり、コストが高い。

④noise

 青:影移動

 影に潜り込み、敵の背後に回り込むことが出来る。また、地中に隠れた敵への攻撃も可能。

 緑:金色の盾

 左手に金色の盾を生み出す。その盾で直接攻撃を受け止めた際、光の蔦が相手をすかさず拘束する。


ドローン操作:雨天 水萌

[サポートスキル一覧]

・なし

[アカウント権限貸与]

・消費額20000円

・純水の障壁

・クラーケンによる触手攻撃

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